第50話 はい。記念すべき最初の一品をミヤちゃんにっ!!
前回のお話。空船建造に向けてまずは建造用3Dプリンター装置の建設を始めた彼。道中、流れ星に成りかけたり、ミヤちゃんの監視強化される中も秘密裏に建設に勤しむのであった。
3Dプリンターの建設に着手してから1ヶ月半・・・。
努力の甲斐あって3Dプリンターの建設は早期で終わっていた。
感覚的にはプラモの組み立てに近く、プリンターの造形がSF的であったりと彼のロマンを刺激し、モチベーションを常に高く維持できたのが早期に終わらせることができたのである。
そう言った余裕もあってか雨風防ぐ3Dプリンターを覆う建物もしたり、人類未踏の地にポツリと工場が建つなど悠々自適な1ヶ月半でもあった。
しかし・・・。
「せめてその紙一枚に記号式まとまらない?うちの魔力でも足りなくなるのはきつい」
『改良と改善は施しています』
「いや、分かるけどさ」
肝心のプリンターは稼動できていなかった。と言うのも動かす為のプログラムである記号式に問題が起こったのである。
『そもそもプログラムを記号式で再現する以上、それなりの記号数は使いますし、私には魔力の認識ができないので、確認作業も一つ一つ非常に時間が掛かるのです。無茶言わないでください』
記号式の魔力消費は記号の数で決まる。アイに記号式を組んでもらってるが、それが縦横5mの22枚の紙を繋げて使う程の大きさで部屋に広がりきらない特大なものだった。
しかも記号がみっちり描かれているから、彼の魔力量でも足りない程の魔力喰らい。なので魔力コスト削減に記号数を減らしている最中なのである。
そんなわけで削減に1ヶ月掛けて・・・。
『20枚に納めました』
「おお、凄い・・けど」
努力はするも根本的な解決には至らず仕舞い。
『これでもかなり改善した方ですよ』
「分かるよ。コンパクトにはなったと思うよ。けど・・魔力が」
勿論、記号削減以外の方法も模索はした。が・・・。
「何だっけ?ゴーレムのコアに使われてる金属生命体の素材のやつ。いちよミシャロ商会とかパレス工房にも聞いて周ったけど手掛かりすら無しだし」
『用意出来ればと思いましたが、簡単にはいきませんね』
あれなら省エネで魔力を動かすこともできると思ったが、そんなモンスターの存在の有無すら分からず。
「工国に行ければ、何かありそうだけど」
また行こうとすればミヤちゃんが心臓をもぎ取ってでも止めそうだし、結局出来ることは記号の削減しか無かったのだ。
『そう言えば新しくミヤちゃんさんがスキルを習得したらしいですね』
「それな~。もっと普通のスキル覚えないもんかね」
そしてミヤちゃんはここ最近スキルを習得したようで、その名も『吸血』。
習得条件は不明だが、血を飲んでいればで習得出来そうなのは分かる。
「最近噛まれる回数増えたからな~~。と言うかやっぱ血吸われていたんか・・」
『レベルが上がるとドレインも覚えるらしいですよ』
因みに『吸血』のレベル1はスキル無しで血を飲むよりは安全に飲める程度のものらしい。
そして噂をすれば何とやら・・・。
ドンッ。ガラーーンッッ!!
鈍い音と共に工房室の扉が吹き飛んだ。しかも扉と言っても以前ミヤちゃんに突破されて、防犯を建前に更に金庫扉並みに分厚くして新たに防爆扉を設置したばかり。そう簡単に吹き飛ぶものではない、と彼は思っていたが見通しが甘かった。
「・・扉を頑丈にするより工房を地下まで増築して、一階部分はバイオなレーザートラップでも設置しようと思っているんだけど、どう思う?」
『その前にミヤちゃんさんにサイコロステーキにされるのがオチでは?』
「そう言われると『吸血』って血抜きにも使えそうだよな」
そして吹き飛んだ扉の先からご登場したのはやはりミヤちゃん。
「ひま」
「・・左様で」
しかも暇を持て余しての突撃。いちよ本日の迷宮探索は終わっているのだが消化不良だと時々こんな行動を起こることがある。つまり彼らによくある日常だ。
「んで、何したいの?」
「なんかやって」
「無茶振りはやめて」
扉を直しつつ、リクエストを聞くも特に何かあるわけでもない。
記号式の作業は一旦停止か・・。
アイもしばらく作業が出来なさそうと記号式の紙をいそいそと片付けた。
「ん~~、なにする?短剣一号と二号のメンテとかアプデ?アイがいるし大型アプデも出来ると思うけど」
短剣に何か新しい機能でも入れようか考えるが、ミヤちゃんはある物に目線が向く。
「・・・・」
アイがいそいそと片付けている記号式の紙である。
沈黙したミヤちゃんに嫌な雰囲気に彼もその方向を見ると、すでにミヤちゃんがスタスタと向かう姿が・・・。
「ミヤちゃんそれはランチョンマットの模様の考案で、待って!ステイッ!分かった!待って!触るのは待って!お願いしますっ!!」
躊躇なく記号式の紙を掴もうとするミヤちゃんに彼は必死に止める。
「あ!しわも付く握りもやめっ、あーーっ!引っ張るのもっ!引っ張るのもお止めにぃぃーーーっ!!!」
アイも抵抗を試みるが無暗に動いて紙が破けるのも嫌なので強く抵抗できない。
それから何とかミヤちゃんから紙を引き離して、改めてちゃんと説明すると・・・。
「つまりですね、これは3D・・道具を動かす為の記号式で、丁寧に扱わんといけんですよ」
「ふーーん・・・」
が、特に関心は無い様子。どちらかと言うと彼の慌てぶりから最近何かしてるやつだと、内容次第ではどう落とし前つけようか考えていた。
火刑・・。
「きめた」
「何を?」
彼からすれば何の事かさっぱりである。
「ともかく記号式が描かれてるやつは触れないで頂くと有り難いです」
「・・見せて」
「何を?」
「これ使うやつ」
そしてミヤちゃんはまずその記号式を使う道具とはどんな物か見ておくことにした。
それに「ん~」と彼は悩む。
「試作用だったらあるけど、それでいい?」
「ん」
動作確認の一環で小型モデルのプリンターも作っており、当然ながら動くことはない。それを見てミヤちゃんがどんな反応するのかが少し不安だった。
「うごかない・・」
「いや、あのですね・・・」
最初から理解していないミヤちゃんに改めて一から説明し直すと微妙な反応ながらもミヤちゃんなりに解釈していくと・・・。
「・・これがたくさんあって、うごかない」
「そうです・・。今、枚数削減と言うか記号削減に悩んでいるんです」
「なるほど」
とりあえず動かないことは分かってくれた。しかし・・・。
大丈夫かな・・。
再度ミヤちゃんが沈黙して、どんな行動に出るか不安視するも意外な言葉がきっかけとなり、唐突に記号式解決の糸口が垂れ下がったのだ。
「1枚ずつ使うのは?」
「1枚ずつ?」
「ん」
「ん~~・・」
意味が分からず唸っていると・・・。
『・・ッ!それですっ!!!』
彼らの会話を聞いていたアイが突然声を上げた。
「うわっ!びっくりしたぁ~~。え?なに?」
アイがいきなり叫んでびっくりするもアイは興奮したかのように喋る。
『分割です。1つの記号式にまとめるのではなく、記号式を分割して順々に起動させる仕組みであれば、一度に消費する魔力を大幅に抑えられます!』
「ん?ん~~あっ、なるほど」
そう言われると彼も頭の中で整理して考えた。
「確かに・・順々に起動させれば一度の魔力消費は少ない・・・。確かにそうだ・・」
『盲点でした。プログラムを物理的に分けて使うなど・・』
いちよファイル分割やモジュール分割と言ったものもあるが、それを物理的に分けて使う発想が2人には浮かばなかった。
あとはどのように記号式を分けるか、魔力をどのように流すか、話しが盛り上がっていく2人だが、この問題解決に貢献したミヤちゃんはと言うと・・・。
「・・・・・・・」
呆れ半分と哀れみ半分の眼差しで見つめていた。
以前、彼のもう一体のゴーレムから、彼らが何かやろうしているのは聞いている。
しかしこれくらいの考えを思いつけない彼らが本当に何かしてるのか、していても出来るかどうかも怪しいと、真面目に捉えるのが少しバカらしくなったのだった。
そしてその後の彼とアイの行動は速い。問題解決の道筋さえ分かれば荒削りながら数時間で試作から製作も可能とする彼らである。ものの数十分で記号式と読み取り装置を完成させ、小型3Dプリンターで試運転までこぎ着けて、あっという間に記号式の基礎を完成させたのだ。
「動いた?動いたっ!?動いたぞーーーッッ!!!おっしゃぁぁぁああああーーー!!久しぶりの快挙じゃあああああーーーーっっっ!!!!」
あとは空船用の大型プリンターに反映させるだけ。空船建造は間近となった。
因みに一番最初に製作した物はお箸。簡単、手短、実用がある、だからだそうな。
「はい。記念すべき最初の一品をミヤちゃんにっ!!」
「・・・・・」
ボキッ。
「・・・・・」
そして功労者であるミヤちゃんに贈呈するも、ミヤちゃんからすれば棒切れを渡されただけである。
フェレストリア王国。王都・・・。
「ん~~、んんっ・・。これで今日の仕事は終わったわね~。そろそろオヴェストに戻れるかしら~?」
王城の一室から窓の外を眺める女性。ギルド職員のフレアであった。久しぶりの登場でもある。
以前、彼とフェレストリア王国が起こした魔導石を巡った世界大戦規模の問題になり掛けたのをギルドが介入して何とか沈静化したが、未だ後始末が多い。
「けどオヴェストの方も大変そうなのよね~」
オヴェスト・トレンボでは彼ことクラリオンが帰ってきた事に各国の諜報機関が接触しようと動いたことで、お互いに牽制したり、出し抜こうとしたり、影でスパイ大戦争を繰り広げて憲兵やギルドが大変だと連絡がよく届いてくる。
「あとクラリオン君の動向も気になるところなのね~~、はぁ」
彼は彼で何やら変な動きをしているとも報告もあった。
どうも頻繫に町の外に出入りしてはオヴェスト・トレンボの北にある大絶壁を越えて人類未踏の方角に飛んでは行き来してるらしい。後を追いたいが彼の飛ぶ速度に追尾出来ず者がおらず、人員を回す余裕すら無くて、何をしてるか分からず仕舞いと書かれていた。
「魔導石には釘は刺しているから大丈夫と思うけど、不安よね~~」
他にも教会の改築での動きも逐一報告されていた。
当然だがシルル教会も彼の活動拠点の一つとして諜報機関にマークされている。しかしギルドや憲兵が以前から厳重に周辺警備と監視をしており、今まで接触は防げていた。
しかし最近の大量の物資(お土産)や改築の動きは、各国の諜報機関からすれば何かしらの偽装工作にしか見えず、どっかがアクションを起こしたと深読みに嵌まって、危険な行動があったらしい。またそれがスパイ大戦争の要因でもあった。
「やってること全て怪しいことしかしないから困ったものよね。はぁ・・」
とっ詰めたいところだが、こっちから接触すると周りを刺激するから余程の事でも接触は控えているのだ。だから本当に彼の行動次第で、どうなるか分からないから肝が冷える日々であるのだ。
「けど今問題なのは・・・」
フレアは紙を一枚手にして書かれた文面を見つめる。
それはフェレストリア王国周辺の国家の空船の入港情報だった。フェレストリア王国では空船を用いた貿易にシフトしているから、当然周辺国家の空路を通る空船の数も多くなる。だが、商船と称した空船が何百隻と行方を暗ましているとあった。
「密航、空賊・・あり得なくもない。だけどその数、そしてどれも中型、大型船・・・」
嫌な予感しかしないわよのね~。
「私達、別にこの国の役人でも無いのにどうしてここまで面倒見ないといけなくなったのかしらね~。別枠で給料貰えないかしら?」
?????
「ヨルム艦隊、ハイネ艦隊の編成完了したようですよ。仮装7号、8号、9号艦隊の編成はまだ時間が掛かるらしいです」
「急ごしらえで用意してくださったありがた迷惑な艦隊だからな。当然と言えば当然か」
「艦隊を分散して配置、さらにまた数を増やすとなると指揮はどうするつもでしょうかね?数を揃えればいいものではないのに」
「上の指示だから仕方ないだろさ、司令官も大変だろうに」
「この作戦成功しますかね?ど素人でも無謀としか言いようがない作戦だと思いますよ?」
それを聞くと少し間を置いて、今の状況を冷静に見ながら語った。
「・・作戦は・・成功はするだろうな。こんな辺境の最果てに新型と改修も済ませた精鋭2艦隊を集結させ、他艦隊も合わせれば300隻を越える大艦隊だ。辺境相手に過剰過ぎる数だな。しかも今もバレずにまだ集まってる最中ときている。
しかしいくら何でもこの規模と計画は相当な手回しと時間が必要だ。
それを多少無理してるが許容範囲で計画遂行出来ているところかなり総力上げているのが見てとれる。と言っても中央国家の連中も絡んで協力してるから出来るもんだが・・。
何よりこの作戦は・・例え失敗しても失敗にはならない。布石なんだよ。今後の国家の、大陸国家の中の位置付けが大きく変わる転換期の為のな」
何とかタイトルに近づいております。
2023.05.20 誤字脱字の修正。一部文の修正。
2023.05.25 一部文の修正。




