第3話 神様は祈ればちゃんと声は届くものだろうか
前回の話し。やっと自由を手にした彼。そして彼の生活が一週間で激変したとあったが・・・。
とある一周間後。
「・・・1オウカ・・になります」
「ウム。大変愉悦である。90ハクと残りはバレルで」
「・・はい」
彼はギルド換金所にて本日の品を換金中である。
「あ~金が増えるっていいよね。初めの苦労が嘘のようだ」
とても晴れやかな彼。この一週間でお金の硬貨基準についてある程度分かってきた様子。少なくともこの世界はバレル、ハク、オウカの3種類の硬貨で貨幣が成り立っているのが分かった。比較するとこんな感じになっている。
100バレル=1ハク。100ハク=1オウカ。
との具合。つまりバレル、ハク、オウカと右から順に貨幣の価値が高くなる。
そうすると換金所で貰った1オウカがそれなりの額であるというのは分かるのだろう。
「今、人生を謳歌してるなぁ~」
しかし何故こんな急激な展開になったのか。この一週間何かあったのか。その答えは簡単に言って・・・魔法である。よくあるテンプレ無双だと思って頂ければ分かりやすいだろうが、それではあまりの簡単すぎるので一体何があったのかは一応は説明しておこう。
彼はあれからと言うとあの数のモンスターと対抗するには、とにかく魔法を大量生産するしかないと考えた(というかそれしか手段がない)。
しかしそうは思っても作れた魔法はそこまで戦闘で使えるものではないものばかり。それでも「現代人の知識をだな」と奮起し、時には「泥だんご作れても意味ねぇよ。せめてホウ酸ダンゴぐらいは」と悪戦苦闘しながら考えを練った。
そして『来て、見て、狩った』の必勝パターンまたはハメ技を見出すことに成功。
「ん~次作る魔法にデメリットも有りにしよう。余力もあるし」
余裕が出てきた彼は普通に戦闘に使える魔法も作れるようにもなっていった(ただし直接攻撃になるような魔法はまだ作れていない)。
しかし使える魔法が増えただけでオウカ程稼げるようになった訳じゃない。あんなに多くモンスターを倒しても得れる魔石は9バレル程度。しかも重くて運ぶのが辛い。そこで改めて気づいたのが『万物追及』であった。
「魔石という物質があるなら・・こう集められるんじゃね?」
周りの土を操るように魔石だけを意識した。結果、効率よく簡単に集まった。魔石拾いの行動の短縮にも成功。それでもって集まった魔石を一つの大きな魔石にしたら換金所での買取価格が大幅増額。
「あらやだ1ハク・・1ハクってなんぞ?」
さらにまた・・・。
「ん~・・。魔石には中核みたいのがあるよな・・・。残りは不純物か?」
生活にも余裕が出来て魔石を調べ始める。『万物追及』で魔石を精密に操り、実験半分遊び半分で中核のみの魔石の塊(タケリタケの形)を作って売った。ギルド職員も「なんだ!?この魔石は!?」と驚きを隠せない様子で買取価格は1オウカ以上にも跳ね上がった。
「オウカ?金貨とかそんなん・・・?へぇ~お高いの。やったね!」
以上。これで彼は短期間で莫大な資産を手にしたのだ。
「じゃ、さっそく・・新しいパンツ買いに行きますかっ!」
そして今日まで初期の服装装備でずっと戦ってきていたのだ。しかしそれよりもまずは防具から買うべきでは?と誰もが思うかもしれないが、突っ込む人がいなかったので防具を用意するのは結構後になってからである。
そうそう言うの忘れていたけど大金を手にするようになってから部屋変えしたんだ!バルコニー無しの1LDKサイズと風呂付き(ただし水道がないので桶のみ置かれてる)。ちょっと物が多いけど、もう独身生活の繁栄期真っ最中よっ!
次の日。
「さてお次は・・本だな」
お金に困る必要もなく、迷宮にも潜る必要がなくなったのでしばらくはこの異世界について本格的に情報収集に費やすことにした。
「は~~。魔石って発掘とかもできるのか・・。今度それで集めてみるのも面白そうだな」
そして知識になりそうな本を買い、読んでいくなか次の本に彼は目を向ける。
「で、今回の主役ともいえるこの・・・『パスタメン』」
小説なのだが表紙がパスタを茹でてる男がどこかのクモ男の映画みたいな立ち絵になっており、その奇抜からつい衝動買いしてしまったものだ。それを試しに読んでみると・・・。
「ふむ・・・」
話しは記憶喪失の人が故郷のパスタを作りあげる人生譚。読み進んでいくと彼と同じ元の世界の人間だと示唆する内容がいくつも出てくる。
「自分以外にもいるということか・・・」
まあこの世界に来て右も左も分からないのに頑張って祖国のパスタを作り上げていく情熱は分かった。
苦労で挫折の毎日で、女性に出会い恋愛になっていくのも分かる。どこの小説だろうとこういう話しはよくあるよ。けどさ・・・。
「人妻に手を出しちゃダメだろ!」
途中不倫物語になっていた。
そんな感じでしばらく買ってきた本を読み続け、所々であるがこの世界については少しずつ理解を深めていく。
数日後。
「飽きた・・・」
唐突に本を読むのを飽きたご様子。ずっと読むのもな~。情報の一環で読むのは良いけど、本の虫ってわけじゃないしな~。とのことである。しかしかと言って次に何かやりたいこともすることも思いつかない。
「ん~。どうしよ。まだ知っておくことは多いんだけど・・・」
気力が湧かん。何か面白いものとかないかな~・・・。
それで・・・。
「あれ?クラ君お出かけ?最近部屋でのんびりしてたけど」
フロントにいたアスラが宿を出る彼に声を掛けた。
「少しは外で子どもらしく遊ぼうかな~っと」
しばらく町の散策をすることに決めたらしい。
「え?暇なの?だったらお姉ちゃんと・・・」
何か言い終わる前に颯爽と宿屋から出た。
だって関わると面倒だし。
「ん~。どこに行くか」
どこに行くかはまだ決めてなかった彼は、その場に落ちてた棒で倒れた方向で決め始めた。
「・・西大通り辺りの・・ちょい南よりか~」
西大通りってあんま店とかないんだよな~。
期待してない場所に「ん~」とどうしようか迷うもとりあえずは行ってみることに。
「うむ。やっぱ何もないな!」
が、やはり来ても特に何もなかった。しかしこの際来たんだから見てないところも回るかと考え直す。
「そう言えば、ちょい南よりだったよな」
思い出したかのように小道に彼は進んで行く。そしたら広場に出たと思ったら、屋根の上に十字架がある建物を見つけた。
「教会か」
思い出すのはあの最初に出会ったあのお爺さん。
「思えば初め散々だったなぁ~・・・」
初期装備はただの服のみ。人里離れた大草原。命掛けの迷宮。
「今はそんな苦労はないけど、ささやかな目標ぐらいは達成はしておきたいな」
意外にも根に持つタイプのようで、殴りたい気持ちは忘れてないようである。ということで急遽教会の扉を開く。
「よいしょっと」
バターーンッ。
「えっ!?」
突然強く扉が開かれて、奥にいたシスターが驚きの声を上げた
「シスターよ。神様は祈ればちゃんと声は届くものだろうか」
ズカズカと入って来た彼はシスターに突然聞いてきた。
「え?ええ、神様はいつ如何なる時も私達の声をちゃんと聞いてくれますよ?」
驚きながらもシスターはちゃんと彼の質問に答えてくれた。少し疑問形であったが。
「返事もくれるかな?」
「返事?そ、そうね、一生懸命お祈りしたらきっと・・多分・・・」
多分かい。
「あの~。それで君は一体・・・」
今度はシスターも彼に質問するが。
「一生懸命か~。スパム的お祈りだったら純粋な気持ちで3時間ほど粘ってみせる自信はあるな」
「えっ~と。その前に君は誰なのかな~?」
子どもを諭すように優しく聞くが本人は人の話を聞かないでそれらしい祈りのポーズをはじめている。
「あ、あの~・・・」
シスターとしては祈りの最中に止めるのは良くないので仕方なく長椅子に座って待つことにした。
そして彼の今日まで思っていたことをここで吐く。
ウズラ卵。お前ふざけんなよ。この世界来たと思ったら大草原でポツン。魔法も全っっ然作れない。迷宮で死にかけるっ!!黄身でも腐っているんじゃねえの!?と結構言いまくる。
「あの~声が・・・」
どんだけ使えない魔法を迷宮の戦闘で使えるようにしたと思う?巨大土ダンゴのピタゴラ装置作って、どんだけ白熱した戦いになったか分かる?自分も巻き込まれそうになってモンスターと一緒に逃げた日もあったわっ!!
「ですから・・」
彼の恨みの言葉はまだ晴れていないご様子。そしてさっきからシスターが心配そうに声を掛けてきている。
「うぅ、すみませ~ん」
「・・っと。はい。何でしょうか?」
ここでやっと彼はシスターの声が聞こえてきた。
「あの~さっきから祈り?というか所々声に出ていまして~」
しかしそんな最中に奇跡が起こる。
『色々と酷いことを言うな。相変わらずのようじゃの』
彼の頭に突然響く声。その声の正体に聞き覚えがあった。
「マジできた!?純情の思いは通じるのか。お前、ホントふざけるなよっ!」
『まず人の、いや神の言葉をちゃんと聞かないからじゃ。転生中にも色々話しただろうに。何故お主はこの世界に来た時から連絡を無視をするんじゃ・・』
「ん?そんなのしてないわ!今まで無視してたのはお前だろ!」
『なに?そのようなことは・・・。ああそうか。なるほどここでも設定か。ならば仕方なしか・・・』
一人で納得し始める神様。
「どうした?ウズラ卵?認知症か?そっちの不備なら願い事を増やすか、最初の魔法の隠した制約全部解除で詫びを入れるとかしたらどうだ?」
『ようそこまで神に対して言葉が言えるのう~』
神様は慣れた様子で怒ることなく彼をいなす。
『しかしなそれは儂のせいではないぞ・・・そうじゃな。それは自分自身のせいじゃな』
自分自身?
「嘘とかボケとかじゃないよな?」
『嘘なんかついておらんわ。嘘つく理由がないからのう。本来なら転生直後でも連絡できるように設定はしておいたのじゃぞ』
これも儂の干渉を防ぐためかのう~。
「そんな連絡らしいの来てないんだけど?」
『それは神様なりの諸事情が入ったしまったようじゃ。お主に儂との会話の記憶の一部が飛んだようじゃのう』
つまりは不手際か。
「だったら何で今になって会話してきたんだ?こんなことできるんであれば早くすればいいのに」
『だって儂この世界の神じゃないからのう。干渉が難しいんじゃよ」
「えっ!?この世界の神様じゃないの!?」
思いのほかの重大発表があった。
『お主がいた世界で言えば・・携帯電話の電波塔をジャックしてこの教会で話せるようにしたのじゃよ』
「それクソ干渉してない?」
『バックドアなんて言えるかもしれのう』
「モロ干渉し放題じゃんかっ!」
『それはそうと出来なかったチュートリアルを始めるぞ。記憶が無くて出来なかったようだしのう』
「今さら!?」
ちょっと待って!さっきから突っ込みが追い付かないっ!?
『雑種もそろそろ気付く頃かもしれないから手短に言っておくぞい』
「全く必要ないけど」
『まず先のメッセージじゃが・・』
「あ。やるの・・」
『この世界の設定だと心にステータスと言うと目の前にゲーム画面みたく自分のステータスが見えるぞ』
「マジかよ!!?」
早速チュートリアルに食いついた。
「うわ!?出た!世界の心理!!」
そしてテンションが高くなる。先程までの恨みは何処にいったのやら。
『そっちに儂が作ったメッセージ欄が記載されておる。お主宛てに送ったメッセージが未読で10通ぐらいあるから出来ればみてほしいのう』
「分かった見ておく」
『頼むぞ。未読スルーは心痛めるからのう』
思ったけど現代文明に染まってないこの神様?
『ステータスの内容も色々と言いたいところじゃが時間的に無理じゃ。お主で試しながら理解してくれ』
「そこはバッサリ投げたな」
『では最後じゃ』
「早いチュートリアルだな」
『もうこのような会話はあるかも分からん。今回みたいなことはそう何度もできることではない』
やっぱ難しいか。
「いや待て!色々聞きたいこと増えたんだが!」
『神様頼りじゃダメということじゃな。まあこれで一つ仕事は終わりじゃ。次の仕事もしないといけないのう』
「え、本当にこれで終わり?」
『うむ。今儂忙しいからのう~。ネトゲの戦車ゲームで野良のトッププレイヤーにならんといけんし大変なのじゃよ。お。インスト終わったか。ではなノシ』
プツン。
「だからまだ待てって!おいっ!」
神様との繋がりを感じていたのが切れた。
「・・・・・・」
いきなりであったが、さらにここで謎が増えた。そして今度は肩にチョンチョンと感触が伝わってくる。
「ん?」
後ろ振り向くと怯えた様子でシスターがいた。
「あっ」
どうやら自分が普通に声出して喋っていたことに気づいたようで・・・。
「あ~あれです。なんか神様に祈ったら邪神?みたいなのが語りかけてきたので、いけないことはやめましょうと討論大会になって、いやあ大声出してすんません。んじゃ・・・」
無かったことにしようとそそくさとシスターの横を通って帰ろうとするが。
バターン。
本日二度目の強く扉が開く音。
「・・・・・」
そこには一人の人影がこちらを見ていた。そして何も喋らずにこちらを窺っていると思ったら、突然尋常じゃない速さで彼の懐まで近寄られた。
「なっ!」
あまりの速さに防御の姿勢もままならない彼は目をつぶる。
「ん゛ふっ!?」
しかし体にきたのは日常における許容範囲内の収まる衝撃。ただ何故か体は動かせない。恐る恐る目を見開いてみれば状況が分かった。どうやら彼と同じくらい身長の子がタックルの態勢で、彼の腕ごと強く抱きしめていたのだ。
誰だこの子・・?あと耳?
見える限りの情報は髪の毛が白いのと頭部の上に猫耳らしいのがあることぐらい。
「ミヤちゃん?」
後ろからシスターが声を掛けている。どうやら知り合いのようだ。
「ミ、ミヤちゃんどうしたの?」
「・・・悪いやつ」
「「・・・・・・」」
何を言っているのか意味が分からないのでシスターに目線を送ってみる。
「あのねミヤちゃん別にお姉ちゃんこの子にいじめられてるわけじゃないのよ?」
「でも泣いてた」
「泣いてないわよ!?」
そして抱きしめる手の力をグッと上げ始める。
「とりあえずこの子なに?」
あまり埒があきそうにないので、一体何者なのか聞くと。
「えっとこの子はここのうちのシルル教会で預かっている子なんだけど・・」
「なんだけど?」
「その・・悪い人から私を守ろうと庇っているのよ。も、もちろん君が悪いことしてないのは私知っているからね?ミヤちゃんが間違っているだけで・・・」
シスターが怯えていた様子があって、そこに自分がいたとなれば・・まあ襲われる理由も分からなくはない。
シスターもこの状況では怯えるよりも苦笑いしかでないようだ。
「経緯は分かった。だがそろそろ放す手伝いをして欲しい。さっきから腕ごと挟まれているのになんかもう腹が・・って子どもだせる筋力じゃないぞこれ!?」
予想以上の怪力に悲鳴を上げ始める彼の身体。
「ミ、ミヤちゃ~ん。お姉ちゃんもう大丈夫だから、そろそろ放してあげたらどうかな~?」
しかしミヤちゃんシスターの顔を見ると。
「や」
「え~」
「シスター早くっ!なんか力上げてきた!?」
「ミ、ミヤちゃ~んおねが~い」
頭を下げるが。
「お菓子」
「え~ミヤちゃんそれは」
「みんなの分も」
「なんか色々立場変わってきてるぞ!?あと死ぬっ!シスター!はやーーくっ!!」
限界を伝えるとシスターは頑張ってあれこれ言うが変化の兆しが見えない。
「・・もうギブに近い。実力行使を・・・」
「ダメですよ!?暴力で解決してもいいことではありません!」
「今自分が理不尽な暴力受けているんですがっ!?」
「暴力は駄目ですっ!」
シスターは「もう少し我慢して下さい」と根気よく説得を続けるらしい。しかしそれでは本当に遅いことになりそうなのでシスターは仕方なく最終手段を移す。
「仕方ありません。えいっ・・・!!」
「ッ!?」
そしてシスターはミヤちゃんの弱点なのか耳を揉み始める。
「んっ・・!んっ・・んん!あっ・・・ん!」
今しばらくシスターの攻めを受けるも中々離さない。
「ん~なかなか外してくれませんね~」
「・・ん・・やっ・・あっ、あっ・・ああ」
耳元で、喘ぐその声、沁み響く。あ、この五七五いいな。
しかし拘束は弱まってるようで彼にも余裕が出てきた。
「・・・そこ・・は・・んっ!」
そして最後にミヤちゃんはビクンと体を震わせたのを最後に体の力が抜けて、ぐったりと息を切らした。
「ふぅ~やっと放してくれましたか」
とりあえず自由の身になれた。
しかし異常な締め付けだと思っていたけど・・・。
「耳と尻尾。なるほど獣人か・・・」
遂に人間以外の種族に会った彼。その光景を痛みを忘れて観察する。
幼女で猫耳猫尻尾。髪は白に瞳はグレー・・・。
「ひどい」
「ごめんねミヤちゃん。あとでおやつあげるから」
「ダメ」
「ええ~~」
そんな観察をしていると。
ジロリ。
「お前・・何者・・」
まだ警戒心を解かずに立ち上がるとシスターの後ろに隠れて、顔と尻尾を出しながら聞いてくる。
「クラリオン。いちよ冒険者してる?ちょっと教会が見えたからお祈りしてた」
「・・・ミヤ」
何故か自己紹介する流れになった。
「あ~そうだ。さっきから色々騒いですいませんでした。すぐに帰りますので」
迷惑を掛けたので、ここはちゃんと頭を下げて真面目に彼はあやまる。
「あっ。別に私怒ってたんじゃないのよ。いきなり声をあげて大丈夫かなって思っただけで・・・。それで私はミルティアって言うんだけど・・。さっき冒険者って・・」
「まだピチピチの新人だけど」
「本当なの?誰からここを聞いたとかじゃなくて?」
「いえ、偶然立ち寄っただけですので・・」
「あ。待って君」
これ以上迷惑掛けないように帰ろうとするもミルティアは彼を止めようとする。それからミルティアは色々と彼に話し始めた。
説明するどうやらここはシルル教会と呼ばれており、迷宮の町と言うことあって両親が冒険者で迷宮に潜っている間子どもを預かっているそうだ。
だからミルティアは彼は両親に連れられてここに来たと思っていたようだ。
「ないない。そんなんじゃないから。散歩がてらに教会を発見しただけであって」
「そんな嘘をつかなくてもいいのよ。お母さんとかお父さんとかに言われて来たんでしょ?」
「だからね。自分冒険者だから。そんな保育の場は今必要としてないから。子どもだけど」
このシスター・・諦め悪いな。
どうやら彼が冒険者であるとは思ってもいないようだ。
「なんでここの女性はこんな面倒くさいんだ・・・」
「えーっとクラリオン君・・だっけ?聞いてますか?」
寄付金とか渡せば穏便に済ませてくれるかな。
「だから冒険者って言ってるだろ。レベルアップした3バレルアタックから10連弾ハクブレイカーでも見せてやろうか」
ずっしりした財布袋に手を突っ込み、適当に何枚か取ろうとしたが。
ジャラーン。
「あっ」
散らばるバレル、ハク、オウカ。そんなミルティアの足元に一枚転がって拾ってあげると、それを見て手をワナワナと震え始める。そしてミヤちゃんは転がっていく硬貨を猫パンチで止める。
「も、もも、も・・もしかしてこれオウカじゃないですかーーーーーー!!!?」
「うるさい・・」
近くにいたミヤちゃんが苦情が入る。
「どど、ど、どうしてそんなお金もっているんですかーー!?クラリオン君どうしてそんなお金を!?」
ヒートアップするシスターに。
「普通に迷宮で稼いだから」
「ハッ!分かりました!ダメですよ!!人からお金盗んじゃ!いくら大変でも・・って、アイターー!!」
シスターの妄言に指で銃のマネしてシスターの額に『空砲』というデコピン並みの威力に調節した空気の弾を撃つ。
「うっ・・痛いです・・・」
「神の言葉にはこんなのがある。相手が言葉の暴力をするならば殴っても罪は無いと」
「うぅ~そんな神の教えはありませんよ~」
いきなり決めつけで泥棒呼ばわりは黙ってはおくわけにはいかないのだよ。ふっ。悔い改めよ。
少しお遊びが入ったが後からちゃんと話しを続ける。
「もう一度言うがちゃんと迷宮で稼いだお金だからな?」
「・・信じられないです」
「最近の若者は否定から入りやがって・・・」
このあと説得には大変時間が掛かりました。あとお金は無事全部回収されました。
「まだ本当か分かりませんけど・・分かりました。クラリオン君を信じてみることにします」
「あ~門番とのやり取り以来だ。この長会話・・」
まさかの長期戦にちょい疲労気味の彼。
「まあいいや。色々知り得たし・・。確かめたいし、そろそろ帰る」
「そうですか。でも本当に大丈夫ですか?やっぱり泊まっていっても・・・」
「だから~。宿屋に泊まってるって言ったよね~?」
「わ、分かってますよ。でも困ったことがあったらいつでも来て下さいね。他の子ども達も喜びますから」
「はいはい。暇な時に来ますよ」
「はい。さようなら。ほらミヤちゃんも」
「・・・・・」
ミヤちゃんはまたシスターの後ろに隠れて、彼が帰っていくのを見つめるだけだった。
「行っちゃいましたね。ミヤちゃん次来た時は友達になれますか?」
「来たら倒す」
「ミヤちゃん・・・」
ミヤちゃんはぶれない。
「ステータスか~・・」
異世界生活始まって以来の新要素だな。それと獣人の幼女。早く宿屋に戻ってじっくり確認しないと。
彼は足早にバーバリエ宿屋に帰ると・・・。
「ステータス」
早速と言わんばかりに自分の部屋のベッドに仰向けになりながら、ステータスをいじり始めた。
「しかしこんな後付け設定みたく出されても本当に今更感あるよな~」
ステータスと言われる画面には、本当にゲームキャラに出てくるステータス画面そのもの。
いくつか表記がある中で大きく表示されている身体能力の数値が最初確認した時から目に入る。
「体力、魔力、知力、運・・・あっメッセージ欄見っけ」
割とあっさりしたステータス表示だな。
「おっ。画面に触れられる」
画面を触ってみたら触れられることに気づき、いろんな箇所を触っていくと。
「ん~よくあるステータスとはちょっと違うのか?」
体力、魔力の箇所を触ったら、さらに詳細な数値が出てきた。
体力には功、防、速。魔力には功魔、防魔とあり、数値が示される。
よく分からん数値だな。にしても・・・。
「各数値は20~30辺り。知力は100超え・・ただし魔力が」
20,000超。正確には2万と3587。功魔は3万5762、防魔9612・・・。間違いなく子どもの数値ではないな。
「あっ、だから魔法バンバン使っても疲れないわけだ。納得」
今まで魔法を使っても魔力切れや体が疲れるといったことが無かった理由がここにあった。しかし他の能力が高ければ低いのもあり・・。
「それでいて運が1って・・・」
まあそれは後にして。次。
大方のステータスを確認したら、その下にある保有スキル欄と書かれたところに目が行く。
「『スキル開発』『コォーラ』『万物追及』』『サーモアイ』『空砲』・・・・・」
ん?スキル開発?魔法作成じゃなくて?
若干表記内容が気になるが。
へぇ~これも触れると・・説明にレベル表示。て言うかレベル制かよ。初耳だぞ。しかもこのスキル欄フォルダー分けに新規作成フォルダーができるって・・なんだこの地味に嬉しい設定は。
そんでもって先ほど見つけたメッセージ箇所に触れて中身を確認する。
「メッセージは・・。確かに10通。しかも未読マーク付き・・・」
所々地味に良い機能があるなこのステータス。
「では1通目」
ポチ。
『さてこれを読んでいるということはちゃんと転生できたということじゃな』
いえ全く。
『はじめ見たステータスの数値で魔力とかの数値が異常に高かったと思うじゃろうが、あれは特典おけるものではないぞ』
ほう。
『各数値は魂の基準のから算出されたものじゃ。その結果がそれじゃ。しかしだからと言って魔力が高いのはお主が特別だからではないぞ。日本人特有に見られるものなのじゃ』
ん?つまり日本人は魔法使いになれる要素高いの?と彼は疑った。30歳で魔法使いになれるのは割と信憑性あるのではと考える。
『魔力は創造、発想の影響で数値が決まる。それでいてアニメ漫画にHENTAI文化と発想力が人並み・・いや神並みに超えているのが日本人には多いのじゃよ。他の神々も日本人の発想力には負けると絶賛されとる。それほどの発想力が魔力に影響されるのじゃ』
流石日本人。発想というより妄想が凄いだろうけど流石日本人。
「神にまで言わせる妄想力。きっと類を見ない存在であったんだな・・・日本人に
生まれてきて良かった」
『だからのそういう知識がある者だと普通に1万以上5万未満の魔力数値になるのが多いのじゃ。ちなみに30歳で魔法使いだったものは10万はイケると他の神が言っておった』
それ流石過ぎない?
「よし2通目」
ポチ。
『1日経ってもメッセージを見てらんとは・・・忘れてるのではないか?こっちはお主の様子が見えんし、これしかお互いのやり取りができんのじゃが・・・。それとなステータスがあるからと言ってこの世界がゲームみたいなあり方とは違うから気をつけるんじゃぞ』
あれ?違うの?レベルとかあったけどモンスター倒したら経験値溜まるとか無いのか?
『言わばこの世界のステータスはな。お前さんの世界で言えば健康手帳みたいなもんじゃな。身体の状況をある程度リアルタイムで数値化したものじゃ。つまり経験値とかそんなシステムは無いぞ』
「ふむ・・・」
『それとスキルについてなんじゃが・・すまん。始めに魔法と言っていたんじゃがあれ間違いじゃった。めんごめんご。なんかスキルと言うらしいな。まあ、さほど変わらないから問題なかろう。ただそっちの世界だとなんかスキルと魔法の2種類の統計に分かれているらしいから、いちよ気をつけておけよ?詳しいこと儂も分からんから』
「は?」
また初耳要素が入ってくる。
『あとスキルを覚えても忘れたら意味ないからの。英語の勉強しても数年勉強してないと忘れるのと同じような原理じゃから』
「あ~~また面倒な・・」
『お主よ・・・3日じゃ!3日!!無視はいくない(ーー;)それにのこのメッセージだってずっと出来るわけじゃないのじゃぞ!(♯`∧´)』
今度は顔文字も・・。次。
『あのな・・・ホントな・・クエストとか出してお金とかアイテムとかな・・用意してたん(._.)始められへん・・・・』
「・・・・・・・」
そして残りのメッセージをまとめて読むと。
『l』
『l・)』
『lω・)』
『l(・ω・。≡。・ω・)キョロキョロ』
『(´・ω・`)』
『かゆうま』
順番に読んだらこうだった。
「こんなの後になって見せられて、どう反応したらいいんだよ・・・・」
そんなことをしている間にある場所のある部屋で・・・。
「さて今回集まってもらったのは皆分かると思うが」
「資金が無い。ということですか?」
「でもまだ回せる金はあるぜ。今のところな」
「だけど遠からず破産間違いなさそうですけどね」
現状に置かれる問題に対してあちらこちらで声が上がる。
「最近うちらの資金4分の1は持ってかれたからね~」
「今すぐ在庫を売ったらどうだ?今から直送で行けば今月は間に合うと思うが」
「それだと目先の問題は解決できても今後の打開策にはなり得ない。根本から考えるべきだ」
「だが貨幣で減っているのは最近はオウカだけだ。あれは本来貯蔵目的。まだ他の貨幣で回せられるのでは?」
「それは流石に限界がありますよ。始め辺りバレルとハクがごっそり取って行かれたんですから」
「本部から予備資金枠で流してもらうのはどうだ?」
話しからしてどこかの会社が経営難のようで、重役達がどう対処するべきか意見をしているようだ。
「しかし今後ともあのペースで資金が流れると・・・」
「1日で1オウカから10オウカ。加えて何とも言い難い形の魔導石で売りよって」
「30日ぐらいで底つきそうだよね~」
話しの中で時より聞こえるオウカという貨幣・・・。どこか彼の影が見え隠れする。
「初めは1オウカぐらいは稀にあるよねと思っていたけど、こう毎日続くとは」
「その元凶が子どもだというのだから驚きだ」
子ども。オウカ。もう彼しかいない。クラリオンなのである。
「そう。その子どもをどうにかしなければならない」
重役達の中で一番奥。そこに一人の男性が重い口を開いた。
とりあえず書けたはいいけど、ちょいちょい修正するかもしれない。
2019/9/30 本文一部微編集。
2019/10/16 一部誤字の編集




