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自由に気ままに異世界大陸指名犯 ー空賊ライフー  作者: クラ108
エピソード0 まだ最初の時
69/82

第49話 こういう時こそSF技術でシュっと用意出来ない?

 前回のお話。空船建造が遂に動きだす!



「・・これよりかいぎを始める」


 厳粛に静まる部屋の中。

 これから何かの会議が始まろうとしていた。


「その前にしょうかいしたいやつがいる。入れ」


 そう言うと部屋の扉が開き、場の雰囲気を物ともせずに陽気に周りにあいさつをかましてきた。

 

『んちゃ!』


 手を上げてあいさつする仕草、しかもご丁寧に片手にピンクのとぐろを巻いた何かが付いている棒を持っての登場である。

 しかしその正体に1人が声を荒立げた。


「って!こいつ、あいつじゃないっ!」


 あいつと言うのはもう分かっていると思うがゴーレムである。

 それにゴーレムを呼んだ者は「あ~あ」とため息を吐く。


「雰囲気考えろよ。せっかく新しい部屋でカーテン閉めてそれっぽいことやってるんだからさ」

「そんな必要ないのよっ!そもそもなんでこれ呼んだのよっ!?」

「いや、これは改造されなかった方の奴だから大丈夫だ、問題ない」

「さっきメルダーと僕がいるところに仲間になりたそうにガン見してきたから、いいかなぁって」


 最初の雰囲気とはガラリと変わり、この会話で分かる通り、ここにいるのは教会の子ども達で、ゴーレムを呼んだのはメルダーとクロエらしい。


「だからって呼んでどうするのよっ!部屋のそうじさせてたでしょっ!」

『私の心が先延ばしにしても良いよね?と訴えかけて・・くっ!やむなく・・・』

「くっ!っじゃないのよ!!」


 そこに「まあまあ」となだめる声が掛かる。


「掃除と言っても荷物が多いですからね。整理してもらうだけでも有り難いですよ」


 チチッチ。チィ~~、チッチ。


 子ども達以外にミルティアもその場にいた。そして与吉もいるが暇を持て余して参加である。


「お~い、もうはじめるぞ。クラが何かしでかすのか止めるのと、クラが戻ってきても最近構ってくれなくてイラつくミヤちゃんをなだめる会議ぃ~~」

「・・イラつていない」


 そして不定期に行なわれるクラリオンと時々ミヤちゃんの対策と対応を話し合うこの会議。

 自分の名前が挙げられ、今まで沈黙していたミヤちゃんは若干不服に呟くもメルダーは気にせず続ける。


「まぁ今回クラについてタレコミがあったんだ」


 タレコミと言うのは勿論ゴーレムから。

 ゴーレムに再度注目がいくとゴーレムは事の事情を話し始めた。


『ここ最近マスターが工房に篭りがちになっているのは皆さんご承知だと思います。それに比べ私は掃除と荷物の整理。不公平だと思ってサボって、話のネタでもないか聞き耳を立てていたんです。そしたら聞き耳に成功しまして、ええ、俗に言うスペシャルです』


 サボってた言葉にマルリの眉毛が動く。


『そしたら聞こえてしまったんです。マスターは国際連盟を脱退を決意し、第二次ロンドン会議からも脱退して、③計画を実行するとっ!!』


 力強い説明だが誰一人理解できなかった。


「なんか最初聞いてた話しと違くないか?」

「うん・・」


 どうもメルダーとクロエが最初に聞いてた話しと違ったらしい。


『っと言いましても今さっき頭に閃いた言葉ですから、私自身何言っているかさっぱり分かりませんが』


「「「「・・・・・・・・」」」」


「こいつ!!鐘の素材に変えても異議ないわよねっ!!」


 ついにプツリとマルリはキレた。

 まあ唯一合ってるとすれば③計画ぐらいだろうか。ともかく改めて説明し直すとまた彼が大掛かりなことをやろうとしている趣旨は皆に伝わった。



「はあ。クラリオン君・・。磔台の次は何になるか分かりませんよ・・」


 そんでもってため息を漏らすミルティア。実際本当に空船を作るつもりなのか分からないが、毎回行動がアグレッシブ過ぎて止められない自分に嘆くもそんな彼を止められる存在に目を向ける。


「・・・・・」


 終始無言だったが大振りに動く尻尾。そんな様子から感情が高まっているのが見てとれた。

 まあ私が言うよりミヤちゃんに任せた方がいいんでしょうけど、その後2人をどうフォローも大変なんですよね・・。



 一方、彼は・・・。



『教会を出て大丈夫なのですか?本日のミヤさんと迷宮に行く約束があったと思いますが』

「大丈夫。それまでには戻るし、駄目だったらミシャロ商会の爆発にあったと言えば、世の中大抵納得するから」

『それはどういう意味ですか?』


 現在、彼は以前人類未踏の地に建てた倉庫、オヴェスト・トレンボの北にある大山脈のような絶壁を越えた先に建てたところにボードに乗って飛んでいた。


「まあ深く考えずに。んでさ、倉庫には金属資材とか希少物もあって、近くに鉄塊の山もあって資源地帯としても悪くはないんよ。だからそこで船の建造とか色々始めようと思っているのよ」


 彼の空船建造の為に倉庫付近の周りをどうするか決める為にアイも連れてやって来たのである。



 そして倉庫に到着すると改めてアイに周囲の説明をした。


「これが自分が作った倉庫。んでお隣さんが鉄塊の山。鉄分豊富」

『随分頑丈な作りをしてますね。しかし鉄塊の山と言うのは鉱脈を指しているのかと思っていましたが、本当に鉄塊の山とは・・』

「推測だけどモンスター関係だと思う。ここ人類未踏の地だし」

『なるほど。あり得ますね。しかしこの倉庫・・傾いてませんか?』

「・・仕様です」

『・・なるほど』


 見て分かる程の傾きだが、お互いにそれ以上は何も言わない。


「まあ、浮遊石置いてあるから倉庫そのものを重くしたり杭打ったりしないとと浮くのよこれが。以前ラピュかけたから」


 そして倉庫の扉に手を掛けて開くとアイは非常に興味深そうに関心した。


『あれが浮遊石。初めて実物を見ましたが・・これはヤバい状況ってやつでは?』


 関心してると言っても倉庫の中が、何の拍子か浮遊石の重力によって色々な物が宙に浮いていたり壁に刺さっていたり、はたまた重力が強すぎて空間すら歪んで見える始末に物理法則ねじ曲がっているなと言う関心だったが。


「まぁ~・・浮いてないだけいいか」


 彼もこんな状況に慣れたのかその程度では取り乱さない。

 床に描いてた記号式と浮遊石との位置がずれていることに気づき、自身の魔力を過剰に記号式に流して強引に重力制御の範囲を広めて沈静化させた。


『しかしあんな少量の質量で重力がねじれるなど、物理法則どうなっているんですか?』

「君達がそれを言うかね?」


 とりあえずまずは倉庫の中を片付けることから始まった。



 それから・・・。



「よし、片付いたな。んで、倉庫の金属資材で空船用意出来る?資材が足りなければ鉄塊の山からも採掘できるけど」

『空船の建造と言うより造船所の構築からですね。空船に使う資材は、今後用意するとして・・・』


 資材や場所も悪くない。だがやはり基礎設備や技術ってものがゼロから始めるものだから、アイも軽く頭を悩ませる。


『こういう時こそ魔法でシュっと何か用意出来たり出来ないのですか?』

「そんな便利な魔法があれば自分も使いたい。けど機械が魔法に頼るというのは、若干如何なものかと」


 魔法と言う意味ではスキル『万物追及』で資材そのものから艦の形を作ることは出来る。しかし感覚での操作は精密さや均一な物も複数用意するのも難しい。


 何よりまず彼が作りたいのは吹雪型駆逐艦をモデルにした空船。感覚だけの操作で作れる物ではない。なので精密に均一に仕上げる為にも機械を駆使して建造したいと思っているのだ。


「あと図面や設計図を見てもその通りに作れる自信も無いから、それも含めて機械でどうにかしたいとも思っています」


 自信が無いことを自信満々に言い、ほぼ全てにアイに頼るというのは信頼なのか丸投げなのか。彼を見て『ため息を吐きたくなるのはこういう事を言うんですね』とアイは呟いた。


『私がいなかったらノヴゴロドな船でも作るつもりでしたか?』

「それはない。作り直しは簡単に出来るし、失敗しても使える部分は使って新しく作り直すさ。ズビアンみたいに」


 ちょっとしたネタを挟み合うもさてどうしたものかとアイは悩む。


 ビクノリックス転写装置の製作は技術不足で不可能...。

 ブライタル加点式現像機の製作も不可能...。


 アイが知り得る一般製作装置をいくつかリストアップするも科学技術が未発達なこの星では製作装置の製作も不可能と結論が出る。

 どれも今は無理ですね・・。ゼロからの生産体制、今からでもできる技術再現、未解明ながら魔法技術も取り入れて活用するなら・・・。

 


『原始的な3Dプリントなら出来ますかね』


 この発言が今後の彼らの生産方法が決まった瞬間であった。

 そして幸い今ある資材を加工すれば組み立ては出来る(可能なら潤滑油は欲しい)のこと。



「3Dプリンターって原始的なのか」


 また彼の元いた世界では最先端技術を担う分野だが、原始的と言われてちょっとショックを受ける。


『安心してください。単原子から多原子分子単位まで操作が可能な3Dプリンターです。樹脂を混ぜるような子ども向けのものではありませんのでご心配なく』

「すいませんね。まだ子どもで」

『あくまで例えですので。しかし3Dプリンター技術は資材や製作物によって専用の出力機や大型設備が必要、製造時間が長時間と非効率な生産です。ですが現状求める機械生産はこれぐらいしかできないでしょう』


 ただ記号式も応用すれば、精密機械や大型設備も簡略化できるとのこと。

 だが「う~~ん」と彼は歯切れが悪い。


「こういう時こそSF技術でシュっと用意出来ない?」


 実言うともっとSF的な製造を期待していた。

 だって見たいやん?目の前にSF技術が詰まってる存在がいるんだからさ。


『無理ですね。基礎設備や総合的な科学技術もこの星にはありませんし、一般製造装置の製作すら不可能です』

「う~ん、分かるよ。分かるけどさ。見てみたいじゃん」

『レトロな艦を作りたいのに最新の技術が見たいなど矛盾してるようにも思いますが』

「ふっ。ロマンと知識欲は別物だよ。SFが見たい→知識欲が高まる→満足する→しかし身体はロマンも求める→鉄臭さが欲しくなる→じゃあ戦艦作ろう→と言う具合で、ループすらあり得る」

『なんですかその精神病は・・』



 その後は造船所と平行して他の施設についても検討していった。

 ただ施設に関しては今のところ必要となる泊地、メンテナンス設備ドック、保管施設についてを話し合った。

 特にドックについてはアイは思うことがあった。



「ドックは3Dプリンターと併用して補修や改装とか出来ないの?」


 そんな彼の言葉にアイは『可能だがリスクがある』と忠告する。


『残念ながらここでは精密に動かす為の電子部品がありませんし、用意も難しいです。ですので代用として記号式で補うことになります』


 記号式がプログラムとして代用が出来ることをアイ自身が証明しているが・・・。



『しかし記号式も魔法同様に謎が多くあります。不肖ですがブラックボックスだと知って扱うわけです。そんな不明確要素を残して、さらに多機能化の為に記号式を複雑化させるより、リスク回避も含めた単一分野ごとに作業させる3Dプリンターをにした方が安全かつ対処もしやすいのです』



 不明確要素を残したまま精密作業をさせるのはアイからすれば憂慮すべき点であった。なので3Dプリンターは造船やパーツ製作のみやらせて、ドックと併用しないのがアイの考えである。


「ん~~。まあそこはアイがそう言うなら仕方ないか」


 そんな意見に彼は素直に聞き入れる。アイの考えは間違ってもないし、リスクを考えるのであれば仕方がないと彼も思ったからだ。


「よし。じゃあ今からプリンターの部品でも作りますか」

『必要な部品の素材や設計図も用意しておきますね』


 そんなわけで本格的な空船建造に向けて準備に取り掛かる。が。


『しかし時間は大丈夫ですか?ミヤさんとの迷宮探索があるはずですが」

「う~~ん、久しぶりに来たし、ギリギリまでやって『ビーーッ!!ビーーッ!!ビーーッ!!』・・・」


 突然彼の腰に掛けてた袋入れの中からけたたましい音が鳴った。

 不穏な雰囲気に一瞬沈黙するも・・・。


『何のアラームですか?』

「教会の工房室の扉が・・。行く前に防爆扉並みに分厚く増設したんだけど、あれを破るか・・」

『ああ、ミヤさんですか』


 何が起きたか想像がつくと言わんばかりにミヤちゃんの顔が浮かぶ。しかもそれは間違いなく迷宮探索のお呼び出しであり、それ以上に勝手にいなくなったと知れば前回の磔だけでは済まないだろう。


「ガチのマッハで帰宅すっぞ。多少の怪我は仕方ない」

『多少では済まないのでは?』


 覚悟を決めて帰宅するのだった。


 そして・・・。


 オヴェスト・トレンボ近郊でこの日、流れ星が落ちたとその噂で持ち切りになった。

 彼は言葉通りマッハで帰る為にボードを弾丸型に変形させてミサイルの如く飛んだのこと。改善点は飛行中でも周囲の視認が出来ることと急でも止まれるようにすることらしいが、改善案は今も出てこないらしい・・・。



「クラリオン君!?ゴーレムさん!?一体どうしたんですかっ!?」


 そして教会前では戦場帰りのような服装と怪我で気絶した彼を黒焦げ姿になったアイが引きずりながら立っていたのだった。

 そんな2人を見つけたミルティアは驚き、途中から来たミヤちゃんはジト目で睨む。


「どこ行ってた・・」

『・・・・』


 返答次第でどうなるか分からない。なのでアイは・・・。


『必要な買い物しにミシャロ商会に行きましたら爆発しました』

「・・なるほど」

『本当に納得するとは』


 まさか納得するとは思ってもなかったがそこはミシャロ商会クオリティ。あり得る範囲だから怖いところ。

  だがそれでも勝手に出かけたので当然彼は制裁は受けるし、しばらく厳しい監視が付いたのは言うまでもない。


 さて、それから彼らは数ヶ月に渡り、厳しくなってもミヤちゃんの監視を掻い潜り、睡眠時間も削って3Dプリンターの完成に勤しむのであった。


2023,02,09 一部文を修正。

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