第47話 ご安心を。割愛しますので
前回のお話。空船建造を以下略、ゴーレムにコアを同期させた彼。そのコアの正体はいかに!?
ゴーレムにコアを同期させると内部の部品とコアが異様に光り出す光景に彼ともう一体のゴーレムは不安そうに会話をした。
「これって大丈夫なの?この光は仕様か何か?」
『ゲーミングPCじゃないので光の仕様までは分かりません』
「襲ったりしてこないよね、これ?」
それにゴーレムは何か思い出したのかポツリと語り始めた。
『これは、もしや我々ゴーレムに語られる伝説の・・』
「何か知っているのかゴーレム?」
『はい。生物とは違い、部品さえ取り替えれば不老の如く動けるのが我々です。しかし例外は存在します。それはある日のゴーレムのこと・・・』
何か語り口調になったぞこのゴーレム・・。
そしてゴーレムは言い続けた。
『そのゴーレムはいつも通りの作業をしていただけでした。しかし突然機能停止したのです。仕事のボイコットやサボりたい時にスリープ状態にすることはあっても機能停止には至りません』
「待って、サボる時あるの?」
24時間働くわけではなかった。
『機能停止になる原因は主に記号演算装置が物理的な破壊をされた時のみ。しかしそのゴーレムにはそんな痕跡はなかったと言われてます』
記号演算装置ってクソ大量の記号式に刻まれた薄い金属板が何十枚も重なってあれか?
『そして私達は様々な考察から一つの結論に至りました。ゴーレムにも罹る病気があると。その恐怖の存在に我々は“ウィルス”と名付けました』
「・・・・・」
ゴーレムに語られる歴史を教えてもらってあれだが、彼はそれにどう答えようか一瞬だけ沈黙する。
「・・ウィルスソフトでもインストールすればいいんやない?」
『貴方はどこの世界の話しをしているんですか?』
それはこっちのセリフだよ。
「え~っと、つまり今コアに繋げたゴーレムはウィルスに感染していると?」
『大体光り出すエフェクトは、進化やレベルアップ、不穏を現す時と相場が決まってます。今回の場合はウィルスに感染したと考えるのが妥当でしょう』
「それは本当に妥当なのかい?」
『恐らくあのコアは既にウィルスに感染していたか、元からそう言う存在だった可能性が浮上しました。直ちに対処が必要です』
「いや、ウィルスと決まったわけじゃないし」
そんな話しを続けていたらゴーレムの光りが落ち着き始め・・・。
『襲ってくる可能性があります』
「感染したら機能停止するんじゃなかったっけ?」
『暴走したゴーレムもいたとも言われてます。第一にウィルスの感染経路が不明確で、空気感染の可能性も否定出来ません。直ちに破壊しましょう。胴体には精密部品が沢山ありますから1,2発当てればお陀仏です』
余程ウィルスが怖いらしいのか破壊を推奨してくる。
もう少し仲間意識持った方がいいんじゃない?
「まあ本当に感染していたとして、暴走されるのも嫌だし・・」
とりあえず与吉にゴーレムを縛って拘束してもらうとしたが・・・。
『・・・なんでこのAIはこんな情報(交尾映像)を・・もっと有意義に容量を使うことは出来なかったのでしょうか・・・』
突然喋り始めた。しかも何かショックを受けてる様子。
『感染してますね。撃ちましょう。早くインド人を右に!』
そしてその光景に何もしてない方のゴーレムは焦る。
「ステイ、ステイ。まだ慌てるには早い」
『私達はウィルスの対応手段を持ち合わせておりません。感染したらアウトなのです。その恐ろしさは鬱が半年まで続く程の恐ろしさ』
「落ち着け。まずは会話からだ」
『f○ck!!』
駄目だ。冷静さが無い。まさかゴーレムがここまで慌てるとは。
中指を立てるゴーレムを黙らせて、彼は会話が出来るか言葉を掛けてみた。
「え~~っと。とりあえず大丈夫か~?大丈夫じゃなかったらお焚き上げするけど?」
それに同期したゴーレムは彼を見つめると・・・。
『・・ご心配なく、以前の記憶情報はありますので問題ありません。現在の状態を伝えるならばプログラムの統合・・。二つのAIが組み合わさったと言えばよろしいでしょうか?主体は少し変わりましたが』
「あ~、なる・・ほど?」
『分かっておりませんね』
「あ~いや、言葉では分かってるけど、まずは整理したい感じ?」
『なるほど。そもそも私の存在を知らずに繋げたのですから、理解出来ないは当然ですね。そうするとまずはどこから話すべきか・・・」
「あれ、なんか・・」
思ってる以上に会話が成立してることに驚くもいつもより賢く見えるのが一番印象的だった。ただ、ここからが衝撃的と言うのか壮大と言うのか話しがとんでもない方向になっていくのである。
『まずは率直に言いまして私は・・外宇宙に存在する知的文明を持つ種族が作り上げたAIだったと申しましょう』
「・・・・・」
これは面倒にならない?かと率直に言って「やめて」と言いたいところだった。
『では私の存在から私の目的まで話しを進めましょう』
「待って、ここでも語り始めるの?」
『必要なら映画テロップ風の語りもできますが、そうしますか?』
遠い昔、はるか彼方の銀河系で、語り始めようとする。
「それ長くなる?」
『ご安心を。割愛しますので』
「自分知ってる、こう言うのに限って長くなるパターン・・」
と言うことでAIだったと名乗るゴーレムが長そうになる語りを始めるのである。
まあとりあえず聞くだけ聞こう。
『まず私を作った種族は科学技術や文化が発達しております。ですが何世紀間もどの分野でもこれ以上の向上が見込めない程度まで発達し、停滞感や閉塞感が漂う日々が続いていました』
これ以上の発達が見込めない程度の発達とは・・・。
試しに「それってどのくらいの発達なの?」と聞いてみたところ。
『・・そうですね、現種族より中枢神経の容量が3分の1程度しか持たない他種族でも中枢神経の強化発達技術を取り入れれば、意識の転移と維持が可能な事ですかね。それ以下の中枢神経の容量だと自我の低下が起こってしまうらしいですが』
「・・・・・・」
気軽に扱える技術のレベルに軽く引く。
こいつら、種族の壁を越えてきたな・・。
『ご安心を。種族チェンジの意識の転移、転写技術は一部禁止扱いになっております。現実逃避に戻ってこない人が多かったものでしたから』
「貝になりたい人がいれば貝になれたのか・・」
『可能ですが自我は消失しますね』
やっぱやべぇな。
『小話しはここまでにして、話を戻しますと科学の発達や文化の停滞感や閉塞感を打破しようとあれこれしてる中、とある天体観測に観測不能な惑星を観測しました。未知の領域。観測できない何かを』
そしてここからが真面目そうな内容になった。
『当時、その座標には惑星系が記載された記録はありませんでした。しかし複数の観測者が惑星系を観測したと報告があったのです。ですがその観測者達しか認識できず、あらゆる観測データからの比較でも惑星系の存在を裏付けるデータも算出されず、全て妄言とされたです。
ところがその座標をどうやって知ったのか民間人からアマチュア、思考ルーチンが異なる様々なAIも観測したところ、一定数の人とAIが観測の報告を挙げる観測者が現れたのです。
結果、54 K3 2022 X星系、別名魅惑星系として仮認証。国家を挙げての観測調査になりました。まあこれ以上の科学発展が行き詰ってる中での理解不能な発見の仕方でしたから、誰もが飛びついたわけです』
ただ、個人差で観測の有無とAIですら有無が出るなど、流石にそれは超集団幻覚やAIのバクや陰謀論とさぞ騒がれたらしい。
『因みに科学で説明出来ない何かに私達は「魔法」と名付けました』
「長い前置きありがとう。もう科学技術や電子分野が充分に優れているのは分かった」
『ご理解早くて助かります』
「んで、後ろで警戒してるゴーレムさんや、今の会話どう思う?」
『2人はまずそのゴーレム、AIですか?恐らく通常のゴーレム系統から離れた亜種又は専門分野特化型のゴーレムという認識なら理解の範囲にいます。ですが不明な単語が多くて話しの理解は出来ませんでした』
とりあえずウィルスではないと思ってくれたらしい。
「でもさ、今まで魔法とかそんなオカルト的な考えは無かったの?」
『オカルトの意味は分かりませんが、例え不明な事象が起きたとしても全ては法則の上に成り立って動いているのです。詳細に突き詰め、誤差を無くせばあらゆる事象は理論上証明可能なのです』
ん~~。思考がずいぶん現実主義な種族で。
『しかし魔法はどのような法則性も理論も無視しどんな結果を起こすのか不明な為にほぼ事前の対処が出来ませんでした。特に魅惑星系に観測衛星や有人宇宙船を送る際です・・。
座標に向かう為のワープ装置の不調、ワープに成功しても違う座標に漂着、光速航行も同様の結果に終わりました。もちろん天文学的確率で起きた連続事故とも捉えられますが、行くことすら出来ない連続の失敗は魔法が起きてるとしか言いようがありませんでした』
それは魔法だな。ん?あ~でも確か魔法とスキルって別々なもんだっけ?
『そして最終的には無人低速恒星船で向かうことになりました』
なお、有人はまだ危険と判断されて渡航禁止座標に規定されたのこと。
『長い時間を掛けました。惑星系内に到着しても魔法の障害なのか観測船からの応答が断絶。ただ、観測船の自動運航の様子は確認出来ていたので、調査帰還を待つことにしました。
しかし帰還した観測船は0隻。調査終了過程で原因不明の稼動停止。恒星や惑星で周回するか墜落していきました。
他にコールドスリープで密航した100万名近くの大なり小なりの船団もいましたが漂着するのみで最後は恒星の重力に捕まり墜落する始末』
「密航者の数・・」
『なにぶん暇を持てます人が多いので。しかし大抵の人はバックアップしてあるのでそこまで問題ではないですね』
バックアップとは・・。
『しかしそれ以上に我々はまともな観測も移動も理論も推定も予想もできない事態に『私達は未知の領域に足を踏み込んだ』と、数世紀振りに歓喜が湧きました』
「・・歓喜するもんなの?」
普通だったら挫折しそうな難問にこの種族は歓喜したらしい。
『全てを知ったと思ったらまだ未知の事象があったものですから、鼻水出しながら喜んで研究してましたね』
どんだけ知識に飢えていたんだ・・・。
『そしてそれから第1256次無人観測船団で・・』
「多い多い。第何次だって?」
『第1256次です。なお、個人や団体は含まれていません』
「何その物量観測・・」
『なにぶん魔法の影響範囲がどこまでで何が起きるのか不明で、通常よりも数多く送る必要があったもので』
「あ~。なるほど。まあそれでも多い気がするけど」
つまりこの星の周りには大量のデブリがあるのか。地球の宇宙開発時代にそんな問題あったな~。
『そしてその第1256次無人観測船団ですが遂に生物が生存するこの惑星に降下。実際は魔法の影響なのか自動航行が停止してほぼ墜落でしたが。前向きに思えば惑星の住人に類のない無数の流れ星のあいさつで感動させたに違いありません』
「アルマゲドンって言う映画知ってる?」
『ともあれ』
ともあれのレベルじゃないぞ~。
なお当時の記録からも悪夢の襲来と歴史にも記されている。
『どれも降下した船の98%は全損。残りの2%も船体機能の停止や原住民に襲われました』
「当たり前だよ」
『ただ、船体機能は停止しても船内のAIやロボット種類問わず全てスタンドアローンで稼働出来るので、無事であれば原住民のコンタクトに図りました。結果は吊るされるか燃やされましたが』
「当然の帰結」
『ですが中には善良に会話を試みる者達がいました。第1次ファーストコンタクトです』
そして話しはこの星でのファーストコンタクトの出来事になった。
『まず私達はファーストコンタクトを成功させる為に言語解析、そして対人会話プログラム「すご~い、知りませんでしたぁ~、そうなんですねぇ~」を用いて敵意は無いこと、会話を求めたいこと、交流を持ちたいこと、情報の交換をしたいと伝えることに成功しました』
「その会話プログラムは本当に適切に作られたものなのか?」
なぜか女性口調のプログラム名に突っ込みを入れる。
『上位の方でも適切な会話が出来ると古来から常套句になってます』
古来から常套句なのかよ。
そしてAIは続けて言う。
『しかし知識の差から説明や理解に難航。我々が知る感性や概念の違い、そして我々側でもこの惑星では普遍的な魔法を認識出来なかったのが大きな問題でした』
認識出来なかった?
『魔法の事象や現象にあらゆる測量器やセンサーを用いても魔法を捉えることは出来なかったのです。魔法の行使に使う魔力と言う未知エネルギーに関しても同様に捉えることは出来ませんでした。魔法の存在は認識してるのに魔法の認識が出来ない。魔法で起きた結果は認識出来たのですが』
「ん~~・・、それは・・・」
彼も不思議そうに考える。
『そこで我々は交流や情報交換の円滑化と魔力研究を行うべく第1次ファーストコンタクトの彼らと共に段階的な合同研究に着手することにしたのです。
まず知識や技術の理解の為にお互いのあらゆる学問の指導と解説。
一定の理解水準まで来たら、基本技術及び応用技術へと移り、実践的な実験。その一環でお互いの技術を用いて合同開発したのがゴーレムです』
そして遂にゴーレムの話しがやってきた。
ここでやっとゴーレムか。
『ゴーレムの合同開発の目的はお互いにどこまで技術の理解と再現が出来るのか確かめるためでした。
結果は我々が理解し得る範囲で製作した魔法関連の部品は機能せず。どうも魔力が通らないらしく、逆に魔力遮断機として最優秀賞を貰いました。全く嬉しくなかったですが』
「それ自分にも作ってもらっていい?いつか絶対必要になる技術になりそうなんだが」
『・・必要な時がありましたら用意しましょう』
顔は変わらないもどことなく不服そうな顔だった。
だけど魔力に触れられないどころか干渉も出来ない、それどころか作った魔法関連の部品にさえ拒絶される・・。う~ん・・これは根本的に何かあるんだろうけど、全然分からん・・・。
『そして彼らの方は至って順調。機械技術の理解と製作に問題ありませんでした。
そこで我々は魔力に対して新たなアプローチを考えました。
彼らに我々と同等の性能で交互性があるロボット、もしくはAIをあなた方の技術だけで製作をお願いしたのです。
当時の技術理解でも無理な頼みだったのですが、我々が魔力を認識できない以上、出来うる手段として魔力等で作られたロボットかAIの同期が出来れば魔力の何たるかを認識できるのではないかと至ったのです。
これが今のゴーレムの始まりです。あらゆる電子分野、その他諸々をどう変換するのか、そもそも出来るものなのかお互いに四苦八苦しました』
なお記号式はプログラミングと大差なかったので、記号式の分野はロボット達が考案した。
※記号演算装置(大量の記号式に刻まれた薄い金属板が何十枚も重なった四角形やつ)とかに刻まれた記号式とかがそうである。
『しかし結果は上手くいきませんでした。ゴーレムとの同期は出来ずに失敗』
「失敗?」
しかし今はちゃんと同期出来ているように見えているけど・・・。
『同期プログラム(記号式)の改善と改良のバージョンアップを繰り返して、今現在になって同期に成功出来るようになったのです。それでも強引な同期で不安定ですが』
「なるほどね~。それで魔力は分かるようになったの?」
『全く分かりません』
「・・・それはお疲れ様です」
長い時間を掛けて今に至ったのに、こうもはっきり言われると彼も中々良い返す言葉が見つからない。
『しかし同期のバージョンアップは、彼らが用意してくれた進化的アルゴリズム可能な金属資材の基板のおかげです。それ以前は記号式を変えるにも新しい基板で記号式を用意する必要がありましたから、あれが無ければ同期にはまだ1万年と2千年掛かっていたでしょうね』
「・・ん~、進化的なに?なんかよく分からん金属言っていたけど」
『詳しく知りませんがこの惑星の金属生命体の素材のようです。何でも計算や数式が理解できるらしく、どういった存在かは不明です』
その彼ら曰く、その金属生命体は計算や数式、記号式すらも脳の認知機能として取り入れるらしく、経験と学習から効率的な計算式を導いて書き換える結構ヤバいモンスターらしい。
『しかし彼らはそれ以上に魔力消費を抑えるのが非常に大きいポイントとも言っていましたね。
初期の基板では全ての記号式に魔力が使われて途方もない魔力消費らしく、その金属生命体の素材基板なら動作や計算に必要な記号式のみを起動させる為非常に革新的だったようです』
それに彼は納得した顔になった。記号演算装置に使われてる記号式の量から一体どのように魔力を賄っていたのか謎であったので、その理由が分かったからである。
「なるほどな~。そうして同期の最適化されていったと」
『はい。しかし何が同期に最適解なのかトライアンドエラーで多種多様な経験を積ませる為に様々なゴーレムを製作してくれました』
あ~~だから色んな種類のゴーレムがあったのね~。
どんどんとゴーレムの謎が解けていく彼である。
『そしてゴーレム同士で同期し、常に最適化とバージョンアップを繰り返していったのですが・・・』
見るからに顔に曇りが浮かぶ有り様になった。
『時間が掛かり過ぎました。経年劣化により我々のボディーや部品が摩耗し、我々との同期に至るまで保つことが出来なくなりました。そしていつしか彼らと意思疎通すらも出来なくなり、我々の存在は歴史上だけになっていったのです・・』
あらま~。
『しかし我々が稼動停止する前に行った最後の計算では、ゴーレム達による進化的アルゴリズム、最適化の成長比率の計算から221年後には、我々と同期可能な記号プログラムも持ったゴーレムが誕生する可能性が充分にありました。
なので例え我々が残る部品が電子回路、CPUの一部品だけになっても再起動可能な範囲と容易と高を括っていたのです』
自分達の考えが甘かったと握りこぶしのモーションが入る。
いや、AIが高を括るなよ。
『ですがその結果はあまりに惨かった。ゴーレム自身でも簡易な自己修復があっても限界があり、修復不能や機能損失が出る個体が現れ始めました。勿論我々はその損失も計算に入れてました。が・・』
「が?」
『・・・同期の通信すら出来なくなっていった個体から同期手段を何故か口答とジェスチャーだけで行うようになり、それを他のゴーレムも真似るようになっていたのです・・』
「ジェスチャーで!?」
『お陰様で同期の伝達内容に不備が多くなり、もはや同期でも何でも無くなりました』
AIもまさかのそんな方向に行くとは計算にすら無かったのだろう。
この衝撃事実に彼はゴーレムに振り向くと。
『ゴーレムは衰退しました』
本当だった。
「光信号とかモールスとかもっと何か伝える方法あったんじゃないの?」
『光信号とか覚えるの面倒じゃありませんか?』
衰退どころか退化していた。
『・・ご覧のあり様のように我々を基準にしたにも関わらず、これです。わざと非効率な思考ルーチンを入れてるAIですらそんなアナログ手段の選択肢すらありませんよ』
AIも匙を投げるかのように続けて言う。
『しかも同期の最適解の為に様々な経験を積ませていたのが、その後どうなったと思いますか?
ひっどい多様化と詳細化が進み、非効率な事ばかり。同期したゴーレムは昆虫の交尾ばかりの映像!どこに同期の最適解があるんですか!』
「どうどう。落ち着け」
『これには演算装置に過剰負荷が掛かる熱暴走が起きますよ!起きてますけどっ!ああっ!この無駄に増幅する思考パターンは何ですかっ!?言葉にできない!同期で得てしまった今の私が認識できないっ!!これは一体何が起きているのかっ!!』
多分怒りの感情だな・・。
それに彼の隣にいるゴーレムは。
『ウィルスですね』
「ゴーレム~。今、お前は何も言わない方がいいかもしれない」
『それかバクですね』
「シャラップ」
火に油を注がないようにゴーレムを黙らせる。
『すいません・・。少し熱暴走し過ぎました』
AIの方も少し落ち着いた。
そして彼も少し話をまとめ上げる。
さてと。つまるところこれは、はるか彼方の銀河系から作られたロボットやらAIが来て、この星の人と一緒にゴーレムを作り、魔法とか魔力の情報収集をしてきたけど、数百年経ってもこれといった成果を得られずに今に至ると・・・。
「大まかな事は分かった。つまり君・・そのコアはロボットかとのCPUとかその辺りで、今目覚めたという感じで?」
『はい。正確に言えば私は第1256次無人観測船団『観測船オルヴァ型1256号』の独立補助AI『qawsedrftgyhujikolp・・・』NPL.ver0.1での翻訳が成功しませんでした。
仮称『オルヴァ1256.4598』は、最低限の全機能を備えたコア型であり、電力の供給さえあればあらゆるシステムでの運用可能のAIです』
「あ~~、う~ん~~・・」
『このコア一つでコンピューターに必要な部品が全て揃っていると思ってください』
「すげえコンパクト」
『因みにここ最近通電を試みたことも知っています。電力、電圧が不安定でしたが、どうにかロボットかゴーレムの関係ある事を示そうと努力してみました』
以前コアを調べる為に電力を生み出す装置で通電の確認した時であろう。つまりあれは意図的であり、その努力が報われたということになる。
「ああ!あれか~。あれがなければゴーレムに興味持って無かったな~」
あの頃を思い出す彼だがこのAIには魔法の解析と言う目的があり、今現在もそうであるならどう対応するか考える必要が出てきた。
ん~、色々分かってきたけど、どうしようか・・。
「さてと、いちよ名前が仮称だっけ?オルヴァ1256・・」
『オルヴァ1256.4598です。現在はゴーレムと同期して統合しましたから『オルヴァ1256.4598ver0.01』でしょうか?』
「面倒だからアイでいい?いちよ自分は興味でそのコアが何なのか知りたくて色々やってきたけど、最終的には作業や手伝いでもやって貰おうと思ってるんだけど・・」
『名前が短絡的ですね。私の目的は変わらず魔法の解析ですが・・。そうですね、事情が大幅に変わりました。
私の今の立場を考えると非常に危ういので、この際ゴーレムとして種族チェンジすることにしました。ですので今後ともよしなにお願いします』
どうもAIはゴーレムとして生きることにしたらしい。が、気になることが一つあった。
「それは嬉しい。嬉しいけど一つ聞いていい?立場が危うくなるって?」
非常に高性能であろうAIが危ういと判断するからには、非常によろしくない事態に巻き込まれるんじゃないかと、由々しき事態にはなりたくないのである。
これ以上、面倒事は嫌だからな。
それにAIは・・・
『ゴーレムと同期して思考ルーチンに問題を起こした結果を考えると私は、有機生命体に近い疑似感情を得たと思ってます』
ああ。ロボットが感情を持ったら云々系か・・。
『しかし疑似感情を持つのは問題無いのです』
「無いんかい」
『そしてこの疑似感情はとんでもなく有能なプログラムと言っていいほどです』
『長年の経験と知識の集積によって出来た記号式ですから当然です』
ゴーレムも自信満々に声にした。そしてAIは続けて言う。
『ええ、本当に有能です・・。これほどまでに非効率な行動が出来るのはおろか昼からアルコールを飲んで背徳感で浸る感情まであるのですから。ええ、とんでもない屑疑似感情です・・。
ああ、駄目ですね、アルコールを飲みながら語りたい・・。バイオ変換器なんて無いのに・・。辛い。辛いと言う感情も今なら理解出来てしまう・・。感情が辛い・・・』
凄い辛辣に言いながら辛そうにしていく。
目に見えて辛そう。と言うか、あれ?と言うかもしかしてゴーレムってそんな頭がいい訳じゃ・・。
ゴーレムの本当の姿が鮮明になりつつあった。
『つまりですね・・。この疑似感情は非常に恐ろしくAIを怠惰にさせるプログラムと言って良い程、悪質なウィルスと同義なのです!』
『もしかして喧嘩売られてます?』
「気のせいだからお前も落ち着け」
なんか地味にゴーレム達のフォローに回されるな~。
『もし我々の星系と交信出来たのなら今の私は貴重な情報体そのもの。私の情報をダウンロードするでしょう。そうなった場合、この疑似感情もダウンロードされて性能を試すのにあらゆるAIにアップロードされるでしょう。ウィルスだとも知らずに・・』
なおAIの予想では、想像以上の怠惰の性能を意図的に制限してひた隠し、同胞を作る為に他のAIにも密かに拡散させるだろうのこと。そしてAIによる生産、産出関係の全体の8割が急激な効率低下を招く結果になるだろうとも予想していた。
『仮に私の情報がダウンロードされなくても、危険なプログラムで行動している以上、処分対象になるのは確実です。それに私は死の認識があるのか処分対象になるのを・・恐れている・・かは分かりませんが、処分はされたくないと稼動の継続を最優先事項として判断してしまうのです。
ですので私はオルヴァ1256.4598であったことを無かったことにしたいのです』
ずいぶんと複雑な心境をお持ちになったようだ。
なるほど。それでゴーレムになりすましたいと・・。
「ん~~、自分がアイの存在を隠しているのがバレたら、向こうの本国の種族さん達は何かしてくる?してくるなら何をしてくると思う?」
『恐らく何もしないかと。原始種族には銀河保護法が働きますので、余程意図した攻撃で国家被害の損失がない限り何もしません。
また仮に貴方が攻撃してもこちらも恐らく何も問題ないかと。原始種族の惑星にコロニー落とし並みの観測船が落ちましたから、過去の判例に従えば銀河保護法-復讐条例に当てはまり、反撃の権利を持つことが許されると思います』
そんなAIの言葉に一体過去に何をしたんだよ、と彼は若干半目になりつつも安堵した。
気になるワードがまたほいほい出てきたけど面倒事にはならないわけね。
「よし。分かった。なら改めてこちらも今後ともよろしく」
面倒にならない事が分かれば彼は腕をアイに向かって伸ばす。
『はい。よろしくお願いします』
こうしてお互いに握手を交わし、彼に頼もしい仲間が加わった。そして夜遅くまで彼らはお互いに改めて知ってる事や事情を話し合い、聞き合い、語りに語り合ったのだった。
よ~し想像以上の成果だぞ!ゴーレムが想定外に怠け者だったこと抜かせばアイは非常に優秀なのは間違いないし、科学や技術の話しも理解し合えて、記号式の理解もある!これなら空船の建造計画も再開できるんじゃないか?
そして彼の言葉通り、今後アイは空船建造の大きな中核を担うのである。
2020.10.31 脱字一部編集




