第43話 これは前座!壮絶な前座の始まりであるっ!!
前回のお話。空船建造を以下略、地下迷宮と称される新宿駅モドキでゴーレムをやっと買い取ることが出来た彼ことクラリオン。しかしまだ工国での買物が終わっただけで済むわけではないのだ・・・。
「いや~しかし本当に歩くのも走るのもスムーズだな、このゴーレムは」
チッチチ、チチチ・・。
今の彼はご満悦。何故なら遂にゴーレムを手に入れたからだ。そんでもって新宿駅モドキを出て外にいるのだが、ゴーレムを連れて歩く姿は大変目立っていた。
「なんだあれは・・」
「また変なの連れてる奴がいるな~」
「しかも蜘蛛も連れていやがる」
「随分とまあ、見慣れないかぶき者がいたもんだ」
しかしそんな周りの声に気にせず彼はゴーレムを連れまわす。
「見た目に反してほぼ人と同じ歩き動作、こんな芸当は魔法なのかセンサーとかジャイロとでもあるのか・・ふ~む、やっぱり気なる」
新宿駅モドキの中でもゴーレムの性能や動きを試しながら見ていたのだが、やはり色々と気になる様子。
ふ~む・・。見た目は○SIMO。P2モデル似。しかしその外見とは裏腹に性能は、人並の歩行速度、重量100㎏の物でも持ちながら歩行可能と優秀。走行速度はまだ不明だけど。で、エネルギーは魔力。記憶領域はゴーレムいわく16兆ビット(不明)?ホントかは知らんが。
「まあこれも魔導石で動いているだろ・・。うちの魔導石に変えれば性能上がるかな・・?」
どんどんと彼はゴーレムの興味が湧いていく。
チィー-チ。
「・・はいはい分かってますよ。やることあるし、その後で色々試すから」
熱中すると行き詰まるまで実験やら研究を続けるので、それを与吉が釘を刺しておく。
エヴァン君達もそろそろミヤちゃん達のお土産を用意出来ている頃だろうしね。
そう。忘れてならないのが工国に行く際に約束したミヤちゃん達へのお土産だ。メルダーに武器、クロエは魔道具、ミルティアは聖書『門』記4~6巻、マルリは何でもよく、ミヤちゃんは2tの重さがあるお土産である。
そのお土産をエヴァンに任せているのだが・・・。
「ゴーレムの取引準備で一旦外には出たけど、結局買い物と観光で潰しちゃったしな~」
前回のゴーレムの取引準備で駅の外に出て会う機会はあったのだが、結局は会っていなかったのだ。なのでこちらの目的が終わったから空船の方に顔を見せようと空船港に向かうことにした。
ミンガム国際空船港。
「皆~、お久しぶりー。どう?元気?」
「クラリオンさん!?今までどこに行っていたんですかっ!?こっちめっちゃ探していたんですよ!」
久しぶりに見覚えがある船員に挨拶を掛けるも凄く心配される。まあ音信不通にしていたから無理もない。
「え?普通に観光と買い物。あ。これ皆にお土産」
しかしそんな思いを意に介さず彼はゴーレムに指示を出すと、何段も重ねた箱を持ったゴーレムが・・・。
『どうぞ』
『工国名産、鉄分豊富の鉄粉混じりのパンドーロです』
「・・金粉、金粉っ」
小さなめ声で彼はちょっと間違えを指摘してあげる。
『失礼いたしました。金粉混じりのパンドーロです』
「あ~これはどうもって・・!じゃないですよっ!ただでさえあんた有名人だから問題起こせば国交問題にも発展してもおかしくないんですから、ちゃんと連絡して下さい!」
「・・は~い善処しま~す」
そして毎度の如く彼は善処の言葉で片付ける。
「それでエヴァン君は?お土産の件とかもどうなってる感じ?」
「もうとっくに用意してありますよ。あとは貴方の連絡が無かったので捜索隊組んで探してたところです。夕方前には帰ってくるのでそれまでの間勝手にどこかに行かないでくださいねっ?」
と強めに言われる。
「はーい。でもまだ買った物が宿屋に置いてあるのあるから取ってきていいよね?」
「・・お~い、誰か~手が空いてる奴いるか~~?」
信用が無いようで保護者同伴でなければ駄目であった。
そんなこんなで夕方・・・。
「あーーー!!もう本当に・・。あ~もう、お兄ちゃん・・。今までホントに、はぁ、ホントどこにいたのさ~。あーーもう本当に・・」
戻って来たエヴァンは彼が帰って来てくれて一安心。それはもう迷子になった子どもをやっと見つけた親のような様だった。
まあ彼がどれだけフェレストリア国に影響してるのか考えれば、懸命に捜索するだろう。突然いなくなったと報告する訳にもいかないのだ。
「ごめんごめん。いや~しっかり観光満喫しちゃってさ。でも見てよ、この通りゴーレムを手に入れたんだよ!重い物も持って運べるし、結構走れるぽいっし、申し分ない性能なんだよ!」
ジャーン!っとエヴァンにもゴーレムを見せびらかす。
「ああ、うん・・それがゴーレムなんだね・・」
「テンション低いね?」
「そりゃもう疲れているから」
しかしそんなお疲れでもエヴァンはすぐに船員達に指示を出す。
「クラリオン君が戻ってきたので出港の手続きを、他に必要なことは?」
「何も無いです。いつでも出港準備は整ってます」
「では管制に出港手続きお願いします」
「了解です」
そんな訳でやっと彼を捕まえることが出来たので、すぐに空船は出港に向けて船員達が動き出す。
「そんな急に出なくてもいいのに」
「あのね~お兄ちゃん、今多分と言うか絶対そうなんだけど、うちらの国結構危ない状況なんだよ。だからすぐにでも戻っておかないと駄目なんだよ」
「そうなの?前に王城に行った時そんな騒ぎにはなっていなかったと思うんだけど?」
「お兄ちゃんが魔導石をギルド経由で渡してしまったからね~。うちの国がどんな状況なのか流石に気づかれたと言うか、まあ遅かれ早かれだったかもしれないけど、小突かれているだろうな~~・・・」
彼がフェレストリア王国の王との魔導石の取引で、彼がギルド経由で魔導石を渡すことにしてしまった為にギルドが国営に介入する問題があった。いや、介入せざるを得ないことになってるだろう。それらを思うとエヴァンは頭を痛そうに抱えるのだ。
「んん~、そんなに嫌ならまだ工国でいない?」
「そういう訳にもいかないんだよお兄ちゃん。大人の事情は複雑だからね~。はぁ・・」
まあそんな訳で急いで空船は出港するのであった。
そして夜中。彼とエヴァンは甲板で夜風に当たりながら会話をしていた。
「ねえねえエヴァン君。自分もね、今更ながら思ったことがあったんだよ。聞いてくれるかい?」
「その口調からあまり良い話しに聞こえないんだよね~」
「いや~ね?工国で色々楽しんでいたから忘れていただけどさ。うちらさ、工国に行く前にオヴェストに魔導石取りに行った時さ、町で色々やったよね?」
「ああ。やったね。こっちも魔導石必要だから協力したけどさ」
工国に行く前にオヴェスト・トレンボでミヤちゃんに会うと面倒だから部隊を先導して動かしたことだ。それを彼は思い出す。
「俺、帰ったら殺されるんと思うんだ」
ミヤちゃん達に色々やったことを考えると首を嚙まれるだけではすまないだろう。
それに契約記号紙には他の約束事に90日まで帰って来る約束もあった。が、半年近く経っている。まあ『予定』帰還と書いたのであくまで目安で期限なんて無いから厳密にしなくていいのを分かって今まで悠々としていたわけだが。
彼の真意に気付いた時、ミヤちゃんは大変ご立腹したに違いない。帰って来たら首360度回転するだけでは済まないかもしれない恐怖に今更怖気づいたのだ。自業自得だが。
それにエヴァンもまた遠い目で言う。
「自分もね、本音で言えば戻りたくはないんだよ」
「なら工国に長居しても良かったんじゃない?今からでも遅くないよ?」
お互いに戻りたくないがだからといって戻らないわけにはいかない。
「お兄ちゃん。分かるでしょ?遅くなればなるほど酷くなる有様って。そういう経験してるでしょ?」
「・・・分かるけどさ。人はこう言う時こそ現実逃避したくなるのよ。怒られるのが分かってルンルン気分で向かえる奴なんているわけないじゃん」
「それでも行かないといけないんだよ。それが社会なんだから」
「自分まだ子どもだから社会知らないんだけどね・・」
「「はぁ~~」」
改めて今後の事に2人はため息を吐くのであった。
こうして夜が過ぎていき、フェレストリアまでの帰り間までは余生言わんばかりに休日を過ごすのであった。
それから数十日。エヴァンはフェレストリア国に着くと王城に向かう為、途中で下船。
「お兄ちゃん。騒ぎになることはやめてね」
「自分もそうならないこと願っているよ。じゃあお元気で」
「じゃあねお兄ちゃん」
その後彼を乗せた空船はオヴェスト・トレンボまで向かうも、その方向には暗雲が立ち込めていた。
「あかん。見える・・自分の存在を察しているミヤちゃんの霊圧が・・」
水平線の先は何も見えていないが、スキルでも魔法でもない純粋な本能が警告してくるらしい。
チチィ・・。
そんでもって与吉も肌で感じていた。あ。これ、あぶねえ、と。一緒にいたら巻き添えくらうなと。だから町に着いたら何処に一旦避難しようかと冷静に彼を見捨てようとする。
一方のミヤちゃんも・・・。
「来た」
やはり捉えていたご様子。
「どうやらクラを見つけたようだな」
「と言うことは帰って来たのかな?本当にいつ振りだろうね?」
「はぁ~~。平穏もここまでのようなのよ」
そんなミヤちゃんの「来た」と言う反応にメルダー達も彼が帰って来たことを悟る。
「ミル姉に伝えておくか」
「そうだね~。だけどどうなるかな?ミル姉も怒っていたし、今までにない騒ぎになるかもよ?」
「そんなの当たり前なのよ。ほら。あんたら、避難準備始めるのよ」
まあ以前にシルル教会に兵を押し掛けられ、何故かお菓子を持っているは、大人しく食べていてくれなど言われ、しまいには彼のクラリオンの名前が聞こえてくる始末にその時のミヤちゃんとミルティアの顔を見れば想像容易かったのだろう。
そして遂にオヴェスト・トレンボの城壁が見え始め・・・。
「なんでだろうな。ただ町に帰ってきただけなのに・・。ただ自分がしたいことしただけなのになんでこんな緊張感が張りつめないといけないんだろうな」
『ザワザワ・・』
『ドドド・・』
町から溢れるミヤちゃんの気配をビンビンに感じ、嵐の前の静けさと言いたげにゴーレムは効果音を口にする。
そして彼はため息を吐くと決心を声にする。
「どれだけ抵抗できるかだ。どれだけ正当性を主張できるかだ。それで今後の未来が決まるっ!!」
もし挫かれればどんな事をされるのか、どんな約束を吞まされるのか・・。
「もはや声だけで正義を全うできる時代は終わったのだ!」
台本役者みたいな言い回しをやり始めた。
「これは前座!壮絶な前座の始まりであるっ!!」
更にゴーレムはそんな彼を壮絶な時に流れるBGMを棒読みで囃し立てる。
「己の自由を得る為、自由を勝ち取る為、片手に松明を!もう片手に我が足たる鉄板を持ってここに武装せんっ!今がその時!今がその時なりてーーっ!!」
そんな彼の意味の分からない叫びに船員達は色々悲しそうに見つめていたとさ。
その後どうなったか言えば大体の落ちは予想つくだろう。まあ映画の言い回しを真似るならばこんな展開だった。
町に足を踏み入れた時、彼に待ち受ける運命は如何にっ!静かなる怒涛、飛び交う魔弾と拳、逃げる与吉、監督ミルティアの元で作られたミヤちゃんお手製の磔台!彼が目にした現実は希望か絶望か!?次回クラリオン、死す!!!
と、たった数時間の出来事ながらノンフィクション、ノーカットリアルタイム、R-18指定映画だけあって一部のマニアでは熱狂的に人気を誇ったと言う。
まあ結局壮絶な前座とやらはどうなったと言うと・・・。
「運命は・・御手から落ち・・私はここにいる・・・」
うわ言を呟きながら今は磔台から降ろされて野ざらしにされてる状態であった。
彼が処刑されかけた際にエヴァンが用意したお土産がシルル教会に運ばれてきたので、一旦処刑は中止されたわけである。
「んーーーー」
そんでミヤちゃんは現在自分宛てのお土産(重さ2tの何かの物)を吟味中。そんなお土産選びを任されたエヴァンは何を選んだのか言うとバラエティーに富んだ総量2tを用意したのだ。家具、インテリア、冒険者向けアウトドア用品、衣類、小物、食材など他にも諸々と目移りするものばかり。中々いいセンスであった。
そしてこの現状にミルティアは「この辺りで終わりですね」と彼に寄って治癒スキルをかけ始めてくれた。
「クラリオン君、後で私からも言いたいがあるので身体が治ったらちゃ~~んと大人しく待っていてくださいね?ね?」
「ミルティア先生・・これは全部、自分が悪いんでしょうか・・・」
「流石に半年も帰って来なければ皆心配しますよ。私だって心配したんですよ。こればかりは何も言えません。猛省して下さいね?」
「・・善処します」
「あ。ゆっくり治す方が効果ありそうですね」
ミルティア先生・・。見ない間にS要素が強まったようで・・・。
「ところでクラリオン君。あれ何ですか?」
「ん?・・ああ、あれ。ゴーレム」
騒動を横目で大人しくしていたゴーレム2体であったが話題を振られた事に気付き、挨拶するかと思いきや、彼らの横で横たわり・・・。
「「幽体離脱~~」」
一発ネタを披露する。
「本当に何ですかあれ?」
「この子の達時々よく分からない事するんよ・・」
その後、避難していたメルダー達と与吉も合流。メルダーらもお土産を漁り、彼を見つけた時は特に掛ける言葉は無かった。まあメルダー達に言わせればいつものこと。騒がしい日常が戻ってきたぐらいにしか捉えていなかったのだろう。
ともあれ彼はゴーレムを手にし、町に戻って来れたのだ。これで本格的なゴーレムの研究も出来るだろうし、空船建造も再開するかもしれない。まあミヤちゃんとこの後色々とあるだろうが、彼の目的の一つはやっと終わりを告げたのだ。
遅いけど明けましておめでとうございます!
今年もダラダラと進めていくことをご納得して読んで頂けると幸いです。




