第42話 しかし癖が強いなこのロボ、じゃなくてゴーレムは
前回のお話。空船建造を以下略、地下迷宮と称される新宿駅モドキの最下層辺りまでたどり着き、ついにゴーレムの買取が間近となった・・・。
数日後。
「3日振りで~す。またあの道なのか何なのか通りに来ました~」
チチ。
「おやおや。来たか。数年振りかな?それとも数日振りだったかな?」
彼はゴーレムの買取に向かう為、再び新宿駅モドキに向かい、中間地点であるシルクハットの男性が家としているアルキメデスの木の場所までやって来た。
「普通に3ぐらい?ミシャロの階で時間は狂ってないければ」
「まああそこで時間が数十日ずれるのは誤差の範囲だ。気にするものではない。しかしあの2人は?また連れてくると思っていたが」
「あの時限りの案内係だったからね~。まあ探しても良かったんだけど、無理強いはしたくないし」
「そうかそうか。しかしながら思い返すとあれだ。あれか?あいつらと取引できた魔導石。あいつらを唸らなせる魔導石となると数が少ない。今さっき興味が湧いね。見てみなくなったんだ。どんな物かお手を拝借してよろしいかな?特別な魔導石なら運が上がるヒントがあるかもしれないしね」
どうやらシルクハットの男も興味が湧いたらしい。
それに彼は「ほい」っとケースから出して見せてあげる。
「・・・なるほど。取引に応じる魔導石だ。いや、応じさせられたか?」
シルクハットの男もその魔導石を見ただけで全て理解した。
「これそんなに驚く?」
「言葉にするならチオアセトンで満たしたガラスの入れ物を常に持ち歩いるのと同じさ。刺激的だと思わないかい?」
「恐らくだけど酷いこと言ってる感じ?」
「そうかい?だが一つ疑問が浮かんだ。そんな魔導石があるなら、わざわざここでゴーレムを求めなくてもどっか国にでも頼んでもらえば良かったのでは?そのぐらいはしてもいい取引にはなると思うが」
「・・え?」
「ん?」
彼は遅れて反応すると衝撃が走った顔になる。今更その事に気付いたのだ。
そうだよ!!!よくよく考えれば自分フェレストリア王国の王様とコネがあるやんっ!なんでその時に頼まなかった自分っ!!普通にその手があったやんやーー!
自分を呪うように呻く仕草にシルクハットの男も本当にその事を気付いていなかったんだろうなと彼を見つめた。
「あ゛あ゛あ゛あ゛ーーーーーーー」
・・チ。
それに与吉は軽く引く。
「落ち着きたまえよ。ゴーレムにしろここでしか買えない買物が出来たんじゃないかのかな?それを踏まえれば、有意義だったとも言えると思うがね」
彼を鎮めようと優しく声を掛ける。まあ彼が感情で魔力を暴走させれば、とんでもない事にはなるので当然の優しさだが。
「・・・あ、確かに。ミヤちゃんのお土産2トンやら皆のお土産も用意しないといけないし、工国には行かないといけなかったんだ・・。確かにその通りだ」
ポンッと手を叩いて彼は納得する。
ああ。彼が単純で良かった。
「なら、そろそろ行った方が良い。向こうも準備は整っているとはず?はずだろうからね」
「お。そうだった。忘れるところだった。んじゃ行ってくるか」
「ああ。ではまたしばらくのお別れだ」
「ん、行ってくる」
そう言って前回通った洞穴のような道に彼は入って行った。
「・・・さてさて、世の中は広いもんだ。こうも末恐ろしい人が生まれるとはね・・」
いや、そもそも彼は人だろうかね~?まあ夢の中でゆっくり考えればいいかな?
そして。
ガッッシャァァァーーーーーン!!!
「到着~」
再びボブでゴミ山に舞い戻った。
「おいいい!!だからゴミを散らして来るんじゃあねえ!!!階段使って降りてこいやコラァ!!」
そして最初にここで会った男にも再開した。しかも周りのゴミを平地にしてまとめていたようで、それを彼は全て無に帰した。
「いやだから戻って来たらゴミを元に戻すって言ったじゃん。また押し込むから」
「サボってるとしばかれんだよ!!なんでいちいち俺がこんな事・・っ」
「んじゃ自分はボスのところに行ってくるから」
打ちひしがれる男をしり目に彼は以前通った通路を進み、ボスがいる場所へと向かう。
そしてその場所に着くとボスが直々に出迎えてくれた。
「ご足労掛けたな。悪いがクラリオンさん。物の取引はここじゃなく他でやる。少し歩かせてもうらうぞ」
どうやらここで取引する訳ではないらしい。そしてまた違うところを案内される。
「それで何か準備とかはもういいの?」
「それなりに。ってところだ。急な話しだったが丁度いい買取手が現れてな。準備の協力を申し出て、あとは他の家の話しをまとめるだけで済んだわけだ」
「へ~。そんな事が」
「ただな、聞いていいか迷ったんだが。なんでわざわざ俺らみたいな所にゴーレムがあるとはいえ戦略級魔導石を?どこの国でも頼めば喜んで協力してくれると思っていたんだが。野暮な質問だったか?」
「・・・工国でも買い物の予定もあったから、ついでにここでゴーレムを買おうと思っただけダヨ」
「・・野暮な質問だったようだな。忘れてくれ」
少し自虐気味に笑い出した彼に、やはり野暮な質問だったとボスは思うのであった。
そしてその取引場所へと向かうと随分と人だかりに仰々しく厄払いやら祈禱なんかで置く神具のようなのが準備されているのが遠くで見えた。
「あそこか」
「まだここは発掘途中の場所でな、そこにゴーレムに発掘させている数体のうち2体と交換ってことだ」
ただ彼は何か若干の違和感を感じた。と言うのも・・・。
ん~・・。何か密輸用に通路を掘ってるって聞いてるけど。なんだろ・・・掘ってるって言うより・・・。
そんな彼の様子にボスは教えてくれた。
「なんだ?この最下層のことを知らないのか?てっきり知ってると思っていたんだが」
「密輸通路を掘って地下拡張ぐらいしか」
「この駅の七不思議。まあ七つも無いが、最初この駅は地下10階も無かったらしい。だが地下に続く階段や通路を土砂で埋めて隠してあったのさ。当初の建設予定にはない地下ホームとか通路がな」
「へ~~」
またこの駅の豆知識が増えていく。
そしてボスは話しを続けた。
「掘り返せばさらに地下に続く階段、路線。それが発掘のようになっていき今の駅に。だがいつからか変な金属のゴミで埋もれているようになってな。それが今見えてる金属のゴミと言うわけだ」
「この金属って発掘で出たやつだったのか。やべな、謎が深い」
「全くだ。工国が総出で裏で建設していたとしても規模が多き過ぎるし、経緯が不明瞭すぎる。しかもまだ地下の階が発掘が続いているときたもんだ」
改めてこの新宿駅モドキの謎が更に深まるのだが、歩いている内に人だかりがいるのが見えた。恐らく他の家で、近づく彼らにひそひそと話し始める。
「あれか・・」
「噂通りなら容姿は子ども、蜘蛛を使役している、までは合ってるが判断がつかねえな」
「あの魔導石だろ?今のところ魔力に乱れはねえがよ。ちと急すぎるだろ」
更に奥には神具のような道具が置かれた場所があり、周りの人とは違う雰囲気でフードで顔を隠している人達もいる。
何だろう、厄除け?あと顔を隠している人・・最下層の人では・・ないな。
そんな周囲を見ていると何人か派手な服装の人が彼の近くにやってきた。
「ほ~う。お前が噂の・・。見た目だけで判断できねえもんだな、本当に」
「カモッラ。騒がすようなことはやめろ」
ボスは制止させるように言うが聞く耳持たずで話し続けた。
「おいおい、急な呼び出しに律儀にこっちは顔を出したんぞ?少しは顔を拝ませてもらっていいだろ?な?」
「いいか。今は安全に事を終わらせる方が先だ。話しなら後で聞いてやる」
そんな様子に特に何も思わず彼は会話に混ざろうとする。
「どちらさん?」
「おい、待て」
「いいだろ別に?知りたいようだしな」
ボスの言葉を遮って改めて男は彼に向かって話した。
「俺らはこの最下層で仕切ってる一家の一つ、カモッラ家の・・まあ上級組のヤン、とでも言おうか。ここじゃあファミリー名で呼ぶのが通だな。それと名前は偽名だ。本当の名前を知られると面倒に巻き込まれるかもしれないし、言いたくない奴もいるしな」
「なるほど。それでヤンさん?で良いのかな?顔を拝むだけならいいけど、それ以上は初穂料が掛かるよ」
「そう言うなよ。噂の人が直々にこんな所に顔を出すんだ。色々と拝みたくはなるだろ?」
そんな彼らに会話お光景にフードの連中もひそひそと話す。
「どうだ?何か分かったか?」
「・・駄目ですね。無効化されました。スキル詳細も数も把握できません」
「プロテクトか」
「恐らく」
「全く、何で私達がこんな連中に対して・・汚れ仕事を。護衛と言え私、騎士などですけど?」
「そう言うな。可能な限り戦略級を手にしなければ我が国の影響力が落ちる。裏からも手を伸ばす必要性も出てくるもんだ」
「しかしとんだ大物がいましたね。いつか目にする機会はあると思っていましたが」
「ああ。しかしこんなところいるとなると表立ちしたくはない理由があると言うことだ。何か知れれば良い交渉材料になるかもしれん」
「あの~そんな調べる余裕なんてありませんよ。ここの人達の今後の商談として来たら、いきなり戦略級の取引になるなんて思ってもいませんでしたから」
「そうですわね。護衛に輸送ルート、それらを考えると例え私が優秀とは言え、私1人だけの護衛は安全とは言い切れませんし」
「分かっている。最優先事項を蔑ろにする訳がないだろ」
そしてクラリオン達は話しが終わったのか、こちらに近づいて来た。
「すまないな。少しちょっかい掛けてきた奴らがいてな」
「友好の印にミシャロポーションあげようとしたらスンって引いてった。これ、当たりの方で味もいけるのに」
何人か顔は見えないも彼の言葉にどんな想像したのかは容易かった。
よりによってミシャロを使う者だったか・・。
スーーッと聞こえないように息遣いすると。
「いえ。こちらはいつでも。それで魔導石を確認したいのだが」
「はいはい。これです」
スルッと彼は魔導石を出す。
待て・・。おかしい。間違いなくあれは戦略級。だが・・・。
普通なら溢れる魔力で周囲に魔力暴走を起きないように色々と施すもの。それを裸一つで手渡しで渡そうとしてくるのだ。しかもこれと言って魔力が溢れたり乱れてる様子が無い。つまり膨大な戦略級魔導石の魔力を制御しているように見えるのだ。
他のフードの人もお互いに顔を見返し、ボスの方にも顔を向ける仕草にボスも何を思ってるか察して頷いて肯定した。
冗談だろ・・。
あの魔力量をコントロール!?スキルで制御?いやっ!だとしても・・っ!!。
無茶苦茶ですわ!こんなのっ!
「え~~。ん~・・何か、問題でも?」
「っ!いや確かに確認した。それをあそこの箱に」
冷静さを取り戻し、簡易に作られた台の上に置いてある箱に指を差した。それに彼は従って箱に魔導石を置いた。そしてフードの1人が置いたことを確認すると蓋をする。すると何十枚のも記号式の紙が勝手に巻かれ、更に何かしらのスキルで封印ような事もする。
「メタル工程完了」
そして今度は箱が宙に浮き、光を纏うとその周囲に記号式が浮かび上がり、亜空間から呼び寄せたのだろうか違う箱が現れ、さらに箱の中に閉われていく。
「木棺工程完了」
これが一工程なのか10回程も繰り返して箱詰めをしていく。
そして・・・。
「これで完了です」
「ご苦労だったな。どれくらい持ちそうだ?」
「5日ってところですかね。それ以上経てば魔力漏れで探知される恐れが」
「5日ですか。それ間に合いますの?それとも今みたいのをもう一回出来まして?」
「もう一回は無理ですね。あの箱もそうですが呼び出す箱も専用の記号紙が必要で。今回支給されたのがこの一回限りです」
「本国に連絡だな。至急箱の手配とできるだけ本国の近くで合流できるようにせねば・・」
このフード達の様子に作業が終わったのか彼とボスは寄って様子を伺う。
「あの~終わりました?」
「こちらも異常があるのかないのか知りたいのでね」
「・・ああ。作業はこれで終わりだ。そちらの方々も確認してもらって構わない」
「分かった」
それを聞いてボスは後ろにいる人達に合図を送り、ゾロゾロと箱に近寄ってきた。
するとそれぞれの方法で魔力漏れの確認、強度についてもフードの人達に聞いたりと結構ワチャワチャしだした。
まあここだと魔力漏れの影響は被害甚大であったり、ここの密輸トンネルの経路がバレる問題も出てくる。なので高質な魔導石の密輸となるとそれぞれの家が独自の違う方法で魔力漏れの確認をしあっているのだ。
「こっちは特に問題はないな。他は?」
「これ耐久に難がないか?前回よりのマシだが最近の国周辺の警戒上げてるから、どっかで引っ掛かんないか?」
「俺らのところも同意だな。引き取り手は、その辺りどうお考えで?」
「こちらもそこは問題があると承知している。なので早急に運び出したいと考えている」
その間に彼とボスはゴーレムについて話す。
「んで、魔導石のマトリョシカ詰めが終わったところで、本題のゴーレムだけど」
「分かってる。おい。近くの2体、こっちに来い」
すると奥から2体が奥からこちらに近づいて来た。
「この2体だ。どうだ?初めて動くゴーレムを見た感想は?」
「・・やっぱりロボットだな、これ」
チチィ・・。
何だっけOSIMOだっけ?めっちゃ似てるんだけど。
懐かしき平成の面影が見えるゴーレムだった。
「・・あの、この子達って平成から来たゴーレムか何かで?」
「ヘイセイ?どこかの国か町の名か?まあこいつらがどこで作られたかは知らんが」
そんな会話に突然ゴーレムの一体が。
『僕はサーカスで売られていたのを博士に引き取られて、いつの間にかここで働いたよ』
「・・・・・・・」
「・・・・・・・」
「ん~・・。そうなの?」
「突然意味わからないことを話す時がある。まあ古いしどこかガタかきてるんだろうな。それでも命令通り動くから気にしなくても大丈夫だ」
「ガタきて喋る言葉かな~?」
そんでもってもう一体の方も喋り出した。
『僕には16兆ビットの記憶ができるよ』
「この子はどこのロボットと比較を・・。ちょっとだけ性能を高いアピールしてさ、と言うか本当に16兆ビット?テラいくつよ?」
『動力は魔力。人体に害は無いよ。あいつより安心安全だよ』
「ちょっと何かあの子マウント取りにきてる感あるんですけど?どこのロボットとは言わないけど絶対取りにきてるよねこれ?だがなアトムは核融合エネルギーで動いていて、核分裂反応で動いているわけじゃあないんだな~」
「お前らはなんで会話が成立できているんだ・・」
ちょっとだけ彼はアトムに詳しいのは何故なのだろうか?
「しかし癖が強いなこのロボ、じゃなくてゴーレムは」
「他の奴にするか?」
「う~ん、どれも似たような感じだし、この子達でいいや。命令とかマスター認識とかあるの?」
「基本誰の命令でも動く。だから命令する時には自分以外の命令は聞かないように命令しとくことだ」
そう言うとボスは2体のゴーレムに向かって命令する。
「今後の命令はこの人の命令を聞け。いいな?」
『『了解しました』』
「ではクラリオンさん、こいつらに自分以外の命令は聞かないように命令を。それで譲渡の完了だ」
そう言われてこれまでの苦労から解放されると思うと「お~。やっと」と口が開く。
「では・・。その2体のゴーレム。今後命令はこのクラリオンとクラリオンの許可を得た人のみの命令を聞くこと」
『『了解です』』
「はい、ではさっき言ったことを復唱」
『『了解です。今後命令はこのクラリオンとクラリオンの許可を得た人のみの命令を聞くこと。かしこ』』
「ん~何か最後~、けど・・よっしゃああ!!ああ長かったっ!!」
トンネルの中だから小声で叫ぶ彼。ちょっと引っ掛かるもまあこれで名実ともに彼はゴーレムをやっと手にしたわけである。
「これで取引は終わりだ。この後クラリオンさんはどうするおつもりで?そのまま駅を出ますか、それともトンネル通ってどこかの国に抜けますかね?」
「おおーーっっ!ん?え?あ。ああ、まだ工国で用事があるから、このまま上に戻るつもり」
「では駅の途中まで部下を付けておきます。私はまだ彼らと話し合うことがあるので、これで失礼を」
「ん、お互いに良い取引が出来て良かったよ」
「ええ、また機会があれば」
こうしてゴーレムの取引が円滑に終わり、駅の外に出るためゴーレムを連れて上へと戻るのであった。
なおその帰りの道中・・・。
「あ。すっげ、めっちゃ走れるじゃん!ああ~しかも馬力~。普通に100㎏の物も運べるのかよ」
「そうなんすよこれ、普通の人より速いし、重い物も楽勝だし、便利っしょ!」
「ああ、こりゃ高値になるわけだ。そう簡単に売らないわな」
「希少っすからね~。それを2体も買うなんて、流石すっねクラリオンの兄貴!でもいい加減お姫様抱っこで運ばれるのは恥ずかしいっす!」
「苦しゅうない、苦しゅうない」
「・・そっすか」
ボスの部下を付けてもらった彼は、その部下からゴーレムの性能を聞いてそれを試しながら、階段を上がっていったのだった。
2024.02.05 脱字一部修正。




