第36話 短編Part2 リリア・ティア・F・ティトニアについて
これはクラリオンから足軽一兵卒と呼ばれるリリアことリリア・ティア・F・ティトニアとその友人エリアスの話である。
リリアとエリアスが友達になってから数ヶ月。2人は自分達のスキルについて話をしていた。
「エリアス様!これから記念すべき第1回未来会議を始めますわよっ!」
「ミライ会議?それってどんな遊びなの?」
「遊びじゃありませんわ。そろそろ未来を良い方向に変えるためにスキルで色々試していきたいと思いますの。その為の話し合いを未来会議と名付けたんですわ」
フフンッっと自慢げに語るもここ最近その事を忘れていたリリア。なのでそろそろ遊んでばかりいないで、お互いのスキルでどこまで良い未来に出来るのか色々と試していこうと言うのだ。
因みに未来会議の内容は本人ら曰く「真面目な事から遊びまで幅広く未来を良くしていく会議」だそうだ。
「あ。そうね!スキルについても分かってきたし、そろそろ何かすべきよね」
だが良い未来とはあまりに漠然とした内容。なので最初は簡単な事から試すと思ったのだが・・・。
「手始めに城から私の家にまで続く秘密の抜け道を作ろうと思うのですのっ!敵に襲われたらどちらかが会えるようにっ!それに最近ワンワンシャベル(ミシャロ商会製)と言う良く掘れる道具も手に入れましたのよっ!」
「あ~!それアルセーヌの怪盗にあった話、地面に穴を掘って逃げるやつの!」
「そうですわ!穴を掘って城まで続けるように未来を見て変えていく!練習にもなって成功すればいつでも会いにも行けますのっ!」
「すごーい!じゃあ早速掘ろう!どこから掘る?」
そこは子ども。思う事もやる事も壮大である。が、スキルや魔法が一般的な世界なら子どもでも出来なくはないのだ。
とまあ、第1回目から壮大な未来会議を開いたのだ。それを皮切りに未来会議は何回も開かれては、どう自分達が未来を変えれるか、経験と実践を積んでいくのである。
そしてある日・・・。
「ねえリリア。私最近見えた未来があるんだけど」
「ええ、私もここ最近になって空にデカい分岐が見えていますの。あまりのデカさに分岐があっても見える自信はありませんわ」
「あ。それ私が見えてる未来と関係あるかも」
「本当ですの?」
最近見えた未来について2人は話し合う。
「まだ何年後かの未来だと思うんだけど。今お父様が船を沢山用意させているじゃない?」
「ええ、迷宮の物を運ぶのに船が大量に必要とかで」
「うん、それで船が増えて空賊が出るようになってね、その中で凄く強い空賊がいるの。黒くて速い船。それが沢山いて私達の国を覆っている未来」
「・・エリアス様。結構一刻を争いそうな話しですわよ?」
非常によろしくない未来報告だった。
「うん、そうなんだけど・・」
しかし事の他エリアスは深刻には見えていなかった。と言うのも。
「その黒い船に乗ってる船長?なのかな?姿ははっきり見えないんだけど・・お菓子あげると満足して帰っていく未来がよく見えて・・」
凄く簡単にあしらえる相手らしい。
「それ・・強いのですの?」
「うん、隣の国滅ぼしてた。凄く燃えてた」
「めっちゃヤバい相手ですのよっ!?」
未来ではお隣さんの国が大変燃えていた。
「けどね、行列ができるお店にちゃんと並んで待っていたり、子どもと遊んでいたりする未来も見えてね、そこまで悪い人じゃないって思うの」
「国滅ぼす時点でアウトな人ですわよっ!」
「いいえ、大丈夫よリリア。私ね、この未来見えてからもう対策考えたの。名付けてクッキー作戦。お菓子を用意しておけばいいんですよ。本に欲しい物で餌付けすれば言うこと聞くって書いてあったし、上手くいく自信があるわ!」
「動物と人を一緒にしては駄目ですわよ!もうっ!」
どうもエリアスは自信満々の作戦ようだ。
あーーっっ!凄くまずい未来ですのよこれっ!
しかも今のところ『未来分岐』の動きとエリアスが見た未来と因果があるのか定かではない。だがどうあれ2人のする事は決まっている。
「第35回未来会議決行ですわっ!」
「そうね。対策は考えてあるけど相手がどんな人か知っておかないと」
こんな時の未来会議。今まで培った経験でこの未来を打破する為に動き出す!
「とりあえず相手が賊でしたら対処は簡単ですわ!取り締まりを強化して将来空賊になる芽を捥げばいいのですわよ」
「でもどうやってそんなことするの?」
「簡単ですわよ。エリアス様がお父様に「お願~い」って言えばやりますわ」
「う~ん、簡単にいくかな~?」
「いけますわ。前にモンスター襲われたでしょう?それに「あれから空が怖いの。もう襲われたいしない?」って悲しそうな顔で言えば堕ちますわよ。そうすれば空の警備に兵は出しますし、必然的に取り締まる!ふふ、完璧ですわ!」
と。まずは妥当な手段でいってみると・・・。
「凄いわリリア!本当に上手くいったわ。最近周りの人達が張りつめてから駄目だと思ってたけど」
「少し揉めると思っていたけどこうもあっさりと・・。世の中のお父様は甘いのかしら?」
意外にあっさりいった。
※と言うのも彼ことクラリオンが発掘したことになってる迷宮の高質魔導石がしばらく彼が売ってなかったので買い付けに不満を持った中央国家の使者が圧力を掛けて王城はてんやわんやになっていた。
それが原因で相手が中央国家である以上、どういったことをしてくるか警戒の為に国境警備の巡回強化が必要となり、警備の強化は必然だった。
しかしそんなことは2人は知らず。しかもエリアスが未来を改めて見るも黒い船とお菓子に釣られる人が変わらず。リリアの空に浮かぶ巨大な『未来分岐』も消えていることも無かった。
「こうなればいつもの手段しかないのよっ!」
「リリアそれってまさか!?」
思うような未来が見えない。そんな時はとっておきにして最終手段。
「打って出るのよ!」
テレレレッテレ~と一瞬野球バットを振うリリアの姿がイメージに湧く。が、何が言いたいのか言えばリリアが積極的に三塁打、『未来分岐』を見つけて動きに行くと言うものだ。
「それは危険よっ!危なすぎるわ!」
それにエリアスは止める。再度説明になるが『未来分岐』が見えるという事は自分が行動次第で未来か変わる、または歴史が変わる分岐点があること。
それを自発的に見えるようにするには今まで培った経験(失敗)から、生死の境になる状況を作り出すことであった。
そこにエリアスが見た未来の内容に関わる所に生死の境となる状況を作り出して、エリアスが見た未来にならないように分岐行動をする。成功すればエリアスが見た未来とは違う未来になっているはずで、これが今まで未来を変える中で一番確かで一番リスクがある方法なのだ。
「これしかないのよ。エリアス様が見て、私が空賊を倒すか空賊になる賊を倒しにいく。そうすれば『未来分岐』は反応するだろうし、もしかしたら空に見える分岐も何か変わるかもしれないしね」
「けど盗賊のところにその船長がいるとも限らないじゃない。『未来視』はいつも見えるわけじゃないし、リリアが戦うなんて・・」
「まあ確かにエリアス様が見た人が最初から賊にいるなんて限らないのよ。でも相手は絞り込めるし検討もできるのよ」
そしてリリアは自慢げにある物を見せる。
「何より私、騎士勲章がありますのよ?何も全て私自身が戦うなんてしませんわ」
騎士勲章。勲章は何もただの勲章とはこの異世界では限らない。勲章を持てるということはそう言った実力も持ち得ている、経験がある経験をしている。と言うことだ。ならばその勲章に相応しい行動を国の為に使って頂こうと特権付きの勲章が存在する。
リリアが持つ騎士勲章もその一つ。限定的ながら軍の指揮権、又は全体的な指揮権限が持てるのである。これを利用して賊を討伐しようとリリアは考えているのだ。
「無茶よっ!今はそんな特権・・」
だが勲章特権は形骸化している。実際の効力はほぼ無いって言ってもいいだろう。
勿論リリアもそれは承知している。しかし最近ティトニア家の知名度は広まっているし、王族との関係も深まっている。それに虎の威を借りるのは申し訳ないが現王家の娘であるエリアスの名前を使えば、融通は聞けなくもない・・かもしれない。
「無茶は分かっていますわ。けど、エリアス様。この未来を知っているのは私達だけですし、何より私達の未来に大きく関わるのですのよ?流石に見逃せませんわよ」
「だけどもしのことがあったらどうするの?リリアがいなくなったら私・・・」
不安になるエリアスとは対照にリリアは自信たっぷりに返す。
「そ・れ・に・こうも考えられましてよ?私達の未来を良くする。ついでに国の未来も救う。絵本のような主人公じゃありません?」
自分達にしかできない、救えない。そんな状況に高揚感や優越感、英雄願望も湧くだろう。だが事は決して簡単ではない。それでも自信を持って言えるのはエリアスがいるからだ。同じ者同士で理解できて、話し合えて、助け合える。どんな困難にも2人なら超えられると信じられるから信念が湧く。だからリリアは自信を持って言い続けるのだ。
「大丈夫ですわ!絶対上手くいきますの!だって私達は未来が見えますのよ?変えられますのよ?どんな未来でも運命でもどんとこいですわっっ!!」
満面な笑みにエリアスも心境が変わる。
「リリア・・」
エリアスもリリアと会ってから全てが変わった。未来が見えても変えられず、誰かに話すこともできない不安がリリアと出会ってから変わった。
それでも不安な時には、屈託のない笑みで「大丈夫ですわ!」とリリアは言ってくれる。根拠もないのに不思議とその言葉が信じられて、いつも救われる。だからその言葉を言われると・・・。
「ねえリリア。信じていいの・・?」
「ええ!大丈夫に決まってますわっ!」
もう・・。私がこんなに心配してるのに・・・。
一呼吸するとエリアスは。
「分かったわ。だけど何かあったらすぐ逃げてね。無茶はしない。ちゃんと私に会いに来ること。未来が変わったのか教えないといけないから。だから無事じゃないと駄目よっ!」
「もちろんですわ!!」
「あ・・あと、あと。あとね・・っ。あ。私の家の家紋の印のやつ!今お父様が持ってるけど借りてくるから!借りれなくても借りてくるから!」
「あっそれ、待、待ってくだ・・マジでそれ洒落になりませんのよーーーーっっ!!!!」
思い出したかのようにエリアスが駆けて行くのを必死にリリアは追いかけるのであった。
ともあれこれで第35回未来会議の方針が決まった。
その後もどのように動くか計画を話し合い、あれこれ何がどうできるかどうするかと色々と奔走して計画を練った。そして出来たのが『トウバツクエスト計画』である。
その計画とは、表向きエリアスとリリアが各場所の軍事施設の見学と激励に訪問しに行くと言うものである。しかし本当のところは、訪問の際にあらかじめピックアップした将来空賊となり得る賊をエリアスが周辺の賊討伐を強く進言して実行させると言うもの。その際に騎士勲章持ちのリリアも戦力として出させると言うものであった。
そして計画当日・・・。
「にしても軍事施設の訪問なんてよく王様からお許しが出たもんよ。これも無理な話しだと思っていましたのに」
「ええ本当に無理したわ。でも私、第2王位継承権持ちですし、いずれこのような事もやりますしね。遅かれ早かれと言うことです」
と言っているが嘘である。王族が施設に激励や行事で訪れたことは別段珍しくはない。ただエリアスが行うにはまだ早いので、ちょーっとお父様の印を使って紙に何枚かポンポンと印をしたのである。
リリアが知ったら怒るだろうな~。でもこれもリリアのため・・っ!
やってることが大変あれだがエリアスも随分と逞しくなったようだ。
「でも確か王室御用達の船があったと思いましたが。あれには乗らないんですの?」
「えーっとそれは・・」
と言うのもエリアス達が乗る空船が王室の方を乗艦させるのに装飾とかもなく、しかも装飾とは程遠いゴリゴリの砲門が見えていた・・。どう見ても軍艦だったのである。
「あーー。今なんか修理中で、この船しかないようで・・」
嘘である。お父様の印を使っても王室御用達の船を使えば確実に跡が残る。なので国境警備の強化の為に早めの就任が必要となった空船が近々試運転があると言うことで、ちょっとそれに乗艦して各場所に巡ってもらうことにしたのだ。
「そうなんですの?まあ回るところが軍事関係のところでしたら、軍艦と言うのも納得できるんですが、な~~んか怪しいですのよねぇ~?」
怪しげにエリアスを見つめる。しかしエリアスは誤魔化す。
「あらリリア?信じてくれないの?」
「ええ、最近何か隠し事してるエリアス様の顔が分かってきたので」
リリアもエリアスことが大体の分かってきたようで、何か隠し事してるのに勘づくも。
「ふふふ。そんな事はありませんわよーー。あ。そろそろ乗らないと」
「エリアス様、誤魔化さない・・って!エリアス様そんな走らないで下さいなっ!」
その後2人は軍施設を訪問をするも特に周囲から怪しまれるようなことはなかった。どうも王城がピリついているのと国境警備の強化が言い渡しから、士気高揚か維持の為にエリアス達が激励やら慰問に来たと解釈したようだった。
ただ周囲の賊討伐を提案してきた時は、流石に疑問視されたが三冠王と周りに風潮されているスター選手が協力するのを聞くと「ああ~」と納得してくれた。
何故、私で納得するんですのよ・・・。
しかし計画は順調に進むとは限らない。
「リリアッ!!リリア!!ねえ大丈夫なのっっ!!??」
「・・ゔっ。ま、まあ、無事なの・・よっ。ですけど賊の頭には死球はお見舞いしてやりましたの。この・・延長戦、勝ちましたわっ」
そもそもリリア自身、戦闘なんかできやしないし得意でもない。だから本当に死にかけることもあった。しかし危険に踏み込み慣れているからこそ肝がそこらの兵より据わっており、スキルを得る機会が多く、それで紙一重で相手を倒せた、なんてことがあったりした。
けどスキルの取得に悪意を感じるのよ・・・。
ただ腑に落ちない点があるなら、取得できたスキルが何故か投擲系に関するスキルだけと言うことだろうか?
そんな訪問と討伐を何回か続けていると・・・。
「リリアが捕まったっ!!??」
「はい・・。先ほどの戦闘で敵のアジトを破壊したのは良かったのですが、不意を突かれたようで・・」
「それで今リリアはっ!!」
「敵の空船に囚われ逃げられました」
「そんな・・・」
リリアは敵に捕らえられてしまったのだ。
その一方、リリアは・・・。
「ボスッ!こいつです!最近うちらの仕事を狩るように仕向けてる貴族の娘って奴は!」
「ああ。こいつか。空船が手に入りやすくなって仕事がしやすくなったと思った矢先にとんだ横槍を入れたやつは」
「どちらかと言えば横スライダーが強かったですボス」
「いやあれは速球とチェンジアップの組み合わせが強かっただろ。あの切り返しはそう上手くないと出来ないぜ」
「お前ら少し黙っとけ」
ああ。これヤバいのですのよ・・。
捕まったリリアは動けないように拘束されて吊るされていた。
ですけど分岐が見えないあたり、まだ死ぬようなことは起きないようですわね。
「で?どうしますボス?」
「あ?俺らヴァンプ家の縄張り潰されたんだぞ?殺すに決まってるだろ」
「うっす。なら今・・」
しかしボスは手を挙げて周りを静止させる。
「だがここでは殺さねぇ。こいつがどこの家か調べろ。そんでもってそいつの家族に送ってやるのさ。バラバラになった身体を箱詰めにしてなっ!」
「ボス~。報復の趣味悪いですよ。バラバラするのこっちは大変なんすからね」
「最近流行りの爆弾人形しません?身体に仕込ませて、一定の人が寄ると自動で爆発してくれるトラウマ系のやつ。今お手頃価格すっよ?」
「お前らな・・」
あ。こいつら普通にヤバい奴らでしたの・・。
今は大丈夫でもこの先短いのは明白。なのでリリアはここで一計を投じた。
「あ、貴方達っ!私を誰だと思ってますのっ!私はリリア・ティア・フェレストリアですのよっ!!私を殺せばどうなるか分かって言っているのでしょうね?」
それに賊達は。
「フェレストリアだと?」
ボスは疑い半分にリリアを睨み返すが、周りは焦り始めた。
「こいつもしかして王族すっか!?うわ、ヤッバいの拾ちゃった」
「ちょ!!ボスどうしますっ!?」
流石に焦っていますわね。まあそこらの誘拐とは全く違いますし。
「ガタガタ騒ぐんじゃねえ!!いいか!こいつが本当のこと言ってるとは限らねえだろっ!!!」
「そ、そうすっよね!」
「んだんだ」
そしてボスは少し考えて・・・。
「どちらにしろここに長居は意味ねえ。新築の拠点に移るぞ。もしこいつが本当に王族なら憲兵モドキがわんさか動くだろうしな」
「うっす!みなに伝えますっ!」
「それとこいつは別の拠点に送れ。いちよスキルでマークされてる可能性もあるからな。しばらく適当に泳がさせて、安全ならこっちに連れて来い」
「分がった!」
それからしばらくリリアは誘拐生活になってしまったのである。
無論その間にエリアスはリリアを救出しようと手掛かりや捜索に力を入れたり『未来視』でリリアの未来を見ようとするも。
「・・どれもダメ」
救出に結びつくようなことは無かった。こうなる周りに全て話すべきかと悩み諦めかけていた時、転機がやって来た。と言うのが・・・。
「貴方!!!この私が!拘束!されて!いる!のにっ!!なんでまた拘束するのかしらっっ!?!?」
「我らがボス、ヴァ?ファ?え~ファ。ファ。ファンシー一家のボスがさらに拘束しておけと」
リリア、彼ことクラリオンに遭遇。窮地に追い込まれるも無事に生還したのだ。それがエリアスの元にも伝わり・・・。
「リリアが見つかったって本当なのっ!?」
「はい。どうやらリリア様を空船で何処か別の拠点に移そうとしているところを拿捕して救出されたのことです」
「・・良かった・・っ本当に・・っ」
リリアの無事の報告を聞いてエリアスは涙を堪える。
「特に怪我も無いようですが、衰弱気味ようでしばらく寝入っていると」
「分かったわ。無事ならいいの・・。こっちも色々やっておかないと・・」
リリアを見つける為に色々と動いたので、それらの後処理をしないといけなかったのである。
そしてリリアは、彼が裁判所まで連行される数十日の間にまた苦境に立たされるのである・・・。
part3も近い内に投稿するよ。




