第28話 迷った!!
前回のお話。空船建造を一旦保留にして以下略、彼ことクラリオンと与吉は、どういうわけか空船をハイジャックして工国に向かうのであった。
「迷った!!」
地図も手に入れた。多分悪い人達から空船を乗っ取った。操縦もまあ簡単だった・・?
「だが迷った!!」
チチ(何故二度も)・・。
「何がいけなかったんだっっ!?」
頭を抱える彼だが空船をハイジャックして夕暮れから夜のこと。とりあえず工国の進行方向に向けて船を動かしていたわけだが、いつの間にか山と森に中を飛んでいた。と言うか遭難中。
「ああもう!こうも暗いと周りがっ!何だよ!迷宮より暗過ぎるだろ。道をライトとかで照らすとか・・あの迷宮の・・何だっけ?あの光る石・・とか置けばいいのにっ!」
どうやら地上の夜は迷宮よりも暗いようでそれで道に外れてしまったらしい。それと風向きによって少しずつ進路がずれていたことを彼は・・・全く気づいてもいないし分かってもなかった。空船構造の知識はあっても航空知識まで頭に入れてなかったのである。
「・・やはり一人、いや二人旅だとこうなる運命か。しかしだからこそこのハイジャック!悪党ながら頼れる大人はいる!」
困った時には大人に頼るに限る。そんな彼だが、彼が眠らせた3人は未だにピクピク状態で起きても会話が成り立たなそうだった。
こんな時こそ治癒スキルが欲しいよな~。
「ん。下に拘束してる奴に聞くかね。与吉、案内せい」
チ~~。
そんな訳で艦橋から離れて初めて船内に彼は入ると。
「わ~魔石がぎっしり。お。導石もあるやん・・・。ほ~~ん。これ、悪い人達のだから・・これ自分の物にしても文句はありませんやろ!あざっす!最近金欠だから助かります!!!」
とりあえず金銭になりそうな物は拝借することにした彼。まだ常識は持ち合わせていなかったようである。
よしよしよし。とりあえず全部高質魔導石にすれば2,3オウカにはなるはず。
「でもなんだろ。何か人の気配しないんだけど」
チッチ。チチィ。
「あー。外にぶらさせたのね」
一部暴れる連中がいたらしく、船内の積み込みハッチを見つけた与吉は、グルグル巻きにして外に放り投げてぶら下げておいたらしい。
「ほう。ここがそのハッチのところね。元気にしてるかな?だけどこの後持ち上げるのは面倒そうだな~」
ハッチの場所を案内されて、とりあえずどんな状況になっているかハッチに手を掛けて確認してみるが・・・。
「・・・・。ん~~~・・・。これは・・」
チィ~~・・・。
与吉も覗くとそこには一本だけ垂れ下がる切れた糸だけが風に吹かれているのみ。一旦ハッチを閉めて状況を改めて考えてみる。
「これはまず2つ考えられる。1つ、糸を切って逃走した。2つ、ぶら下がっていたところに木か何か当たってどこかに落ちた。のどちらかと思う」
そしてよくよく思い返すと。
「そう言えば日が落ちて周りが見えにくくなった辺りへんで、船の下から何かガサガサ音がしていたような・・・。暗いから地上との距離が分からなかったんだよな~。そもそもぶら下がっていたことなんか知らなかったし。だから普通に船体を擦っていたか、空船に驚いた動物がガサガサしてただけかと。それで高度少し上げたら静かになって・・・・」
どこでいつ落ちたか分からない。今のいる場所も分からない。救助は・・・。
「・・よし。見なかったことにしよう。またはいなかったか逃げたことにしよう」
彼は見捨てた。
しかしどうしようか。まともに聞ける人がいなくなった。
チッチ。
「え?まだ人いるの?」
チ。チィ。
どうやら船内にはあともう一つ下の階層があって、そこにあと1人拘束している人がいるらしい。
「なんだよ。聞ける人がいなくって焦ったじゃんか~。結局自力で向かう羽目になるのか~とか介護必要そうな人も出たし、余計な面倒な増えたな~とか思っていたけど。よし、その人は丁寧に生かそう」
と、もう1人が拘束されているところに案内してもらうも・・・。
「・・・・。ん~~~・・・。これは・・」
拘束された人の前に来ると消えてしまった連中同様の言葉を口走る。
「与吉~。ちょっとシンキングタイム。えっと捕まえる前、この人どんな状態だった?」
小声で与吉を呼ぶと、拘束する前の状況を聞き出した。
チ?チチ。チッチチ。チィ~。
「なるほど~・・」
再度拘束された人を見つめる彼。正確に言えば彼と同じか少し歳が上の女の子であった。しかしそこはどうでもいいことで、その女の子は檻の中で椅子に座られ、糸でグルグル巻きされながらも剥き出る鎖が見えていた。
あれ?これ人違いやない?悪い人達とは全く関係ない人拘束してない?
「与吉や~。この人は違うと思うぞ~?」
チッチ。チィーチッチ。
「ゔ。ま、まあ確かに人間は拘束しておいてって言ったかもしれないが・・。これは自分の伝達ミスが悪いのかな・・」
う~んと迷うが、さっきから女の子は不思議と身動きも声を発しない。
「さっきから動く気配がないな・・。あ。まさか」
檻をスキルで変形させて中に入ると、女の子の顔の近くに手を当てた。
あ。呼吸してた。焦った~。てっきりやってしまったかと思った。しかし何で動かないんだろう?
とりあえず糸でグルグル巻きにされていたのを解くと、鎖以外にも付けられているものがあった。
「あ~。この札かな?」
それは怪しく光る札が手足や口にされていた。
これは記号式か・・。ふむ、なるほど。これで手足が動かないと。だけどあれ?この記号の配列ってどういう配列だっけ?と言うか見たことない組み合わせだな。まあ記号数が少ない組み合わせから見ると一時的か使い捨てタイプか?
好奇心が勝って納得するまで考察して20分。やっと彼は札を剥がす。
ビリ。シュー・・。
あ~札が剥がれると燃えて無くなるか~。火の記号があったからそうかな~って思っていたけど。あ。今更ながら書き写せば良かったな・・・。
名残惜しそうに消える札を眺めていると札の拘束が解けた女の子がやっとの思いで身体を動かすと。
「・・~~っっ!!ん~・・はぁ。ふう・・・。っ!!貴方!!!この私が!拘束!されて!いる!のにっ!!なんでまた拘束するのかしらっっ!?!?」
わ~元気~。
弱々しかったり、怯えたりする感じかな~っと思っていたら思った以上に元気に吠えてくる感じで彼に突っかかるので、彼もフレンドリーに接するべきか真面目に接しようかかと悩んでいたが先ほどの態度でどうしようか決めた。
「我らがボス、ヴァ?ファ?え~ファ。ファ。ファンシー一家のボスがさらに拘束しておけと」
「ヴァンプ一家!!」
「そうそれ」
「分からないなら適当な嘘言わないでくれないかしら!!」
「思いのほか突っ込み入れてくるな」
そして女の子はその後もキャンキャン言ってくる。
「そもそも貴方がこの船に入り込んで来たのは最初から分かっているのよっ!誰か助けに来たと思えば、蜘蛛が来るわ、更に糸を巻かれるわ、またしばらく放置されるわ、一体貴方は何なのかしらっっ!?!?」
本当に元気だなこの子~。
女の子も言いたいことは言い切ったのか少し息が上がっていた。そして一体何者と言われれば・・・。
お。久しぶりの自己紹介する流れだな。与吉、やるぞ。
与吉に目配せをするが頭に?を一瞬浮かべるもそこは与吉。何をやりたりのか察して脚で合図する。そして何処からかBGM(スキル『SE音変換』の応用)が流れ始め・・・。
「一体貴方は何なの!?と聞かれれば!」
チチィーチィ、チーチチ、チチ、チチ、チチチィー。
「自由と自由を守るため!」
チチ!チチ!チィーチッ!(ご飯!肉!香辛料!)
「時には手段は選ばない!」
チチ!チチ!チィーチチ!(塩!胡椒!ターメリック!)
「我らクラリオンと!」
チチチ。
「2人合わせて自由の翼!!」
チーー。チッチチィ。(喋ったらお腹空いた)
そして最後にドーンと煙が上がる。
「・・・・・・」
これを見た女の子はまずどこから突っ込んでいいのか言葉が出ない様子。それで披露した本人達は。
「う~ん、元があるのでやってみたけど、今回頭に浮かぶものが無かったからな~。最後は適当に言っただけだし、これは没だな」
チーチチ。チッチ?(お腹空いたから食糧漁っていい?)
チョンチョンして与吉は彼に聞いている。
「・・・今まで聞いたあいさつ・・、いえ、名乗り・・なんて聞いたこもないのだけれども絶対違うわよね・・・」
「大丈夫。大体の人はそんな感じになるから。それにこれ気分とノリでやる自己紹介だから」
「ええ、反応に困る姿が想像できる・・じゃなくて!!結局何者なのよっ!?全然説明にもなっていなかったじゃないっっ!!」
「・・・確かに」
「こいつ話が通じないっ!!」
「あ。さっきよりは仕上がりがいいPart2思いつい」
「するなっ!!」
そしてかくかくしかじか話して・・・。
「待って・・。乗せてくれる船が無かったから乗っ取ったって言うの・・?」
「うん」
「うんじゃないわよ。じゃあ何?本当に助けに来たわけでもなくて、偶々襲ったら私に遭ったっと?」
「うん」
「・・はあああああ」
すっげえため息・・。
「まあいいわ・・。クラリオンでしたっけ?どこでもいいから速く降ろしてくださらないかしら?早くお父様やお母様に無事なのをお伝えしないと」
「あ。それなんだけどさ。今どこ飛んでいるか迷ちゃって。大人の人に聞こうと思ったらいなくなっててさ」
「迷ってる?ん・・?待って。忘れてたけど貴方達は2人だけのはずよね?船の操縦はどうなっているのかしら?」
「え?無人」
「ちょっとおおおおおおおおおーーーーーーーー!!」
急いで女の子は舵悍を握りに行った。
「何事もなく飛べてるとは思うんだけどな~」
そして彼はゆっくり歩いて後を追う。
「来るのが遅いですわよっ!?操縦をほっとといて何船内ぶらつけるんですか!?落ちたらとか考えてませんのっ!?あと本当にどこ飛んでいるのよっ!!辺り真っ暗で人気がないように感じるんですがっ!?」
「いや、だからさっき迷ったって言ったやん。因みに下は森林で、方角、飛行高度も分からない状態で、食糧の方は・・・」
チッチ。
「船の食糧は元から少なかったようで与吉が全部食べたそうです」
「くっ・・。まだ捕まっていた方がマシだったとは思ってもいませんでしたわ・・・」
とんでもない奴らに出会ってしまったと嘆くしかなかった女の子である。
それから・・・。
「さて諸君。この状況を打開する方法ある者よ。挙手を願いたい」
「せめて船を止めようとか思いませんの?」
「残念ながら船をどうやって止まるのかが分からないんだ」
「よくそれで船を強奪しようと思い至りましたね」
「小型船だし、船の構造を知ってればイケるかなって思っていたけどそうでもなかった」
なんで私はこんな馬鹿のせいでこんなことに・・・。
「まあ。細かい事は気にしても仕方ない。あとお前、操縦桿握らなくても普通に飛ぶから問題ないと思うぞ。この緊急円卓会議の席に座ったらどうだ?丁度3人分の椅子はあるし」
椅子と言ってるのは最初にグルグル巻きされた3人である。その上に彼と与吉は座っている。
「こんなピクピクする椅子は座りたくありませんし、落ちたくありませんの。それを私はリリア・ティア・フェレストリアと言う名前がありますの。お前呼ばわりはされたくありませんわ」
「あ~。そう言えば名前聞いてなかったか」
色々ごたついた中でようやく彼は名前を知った。しかしリリアはフェレストリアの部分だけ妙に強調して言うも彼が何も思わない素振りに「あれ~?」と困惑した表情が浮かべた。
「あの~聞こえませんでしたか私の名前?」
「え?え~っとリ、リ、リリカル・マジカル・ミトコンドリア?」
「あら?ケンカ売ってますの?もう一度言いますわね?私の名前はリリア・ティア・フェレストリア。もう一回聞いたから分かりましたよね?」
「あ。あ~文字の後ろに全部アがつく珍しいお名前?」
「違うわっ!!んん゛っ・・。違いますわ。フェレストリアと言う名前があるんですのよ?分かりますよね?」
そう言われて改めて考えるも。
「ん~~・・。ごめん。今、非常時だから名前云々どころじゃないと思うんだ」
「お前にだけは言われたくないわっっ!!」
この子所々口が悪いな~。
「いい?今!あなたがいる所はどこかしら!?」
「森の上の森杉さん」
「国の名前ですわよ!」
「知らん」
「フェレストリアですのよっ!それが私の名前にもある!その意味お分かりっ!?」
それに「ああ」とそう言えばそんな名前だったのを思い出すも彼は。
「なるほど。言いたいことは分かった」
つまりはこの国の王族と言いたいのだろうと察しは付いた。
「なら・・」
「だが何処の国の王だろうが貴族だろうが態度は変えるつもりはない!!自分が敬う人は、自分が認めた人のみ(ミヤちゃんは別)!身分が偉いだけで敬われると思うなよ!!」
「別に敬えまでとは言って」
「ただし!媚びる時は媚びる!将来この人は大物になりそうならコネクションは作って越したことはない!王位継承権は何位ですか!!」
「こいつ・・・」
やはりとんでもない奴らに出会ってしまったとリリアは操縦桿を強く握るのである。ついでに言うとリリア家の系譜は現王家の血縁となくもないがかなりの遠縁であり、なんとか苗字をフェレストリアと名乗れる程度でしかない(貴族階級としては子爵)。
だからよく誤解されて誘拐される誘拐慣れっ子でもある。
それから色々とお互い話して朝・・・。
「朝になったわ・・」
「はあ。王位継承権が無いのに堂々と名乗る分家筋だったとは。お前は今日から足軽一兵卒だ」
「あんたはいい加減操縦を代わりなさいよっ!なんで朝まで私が操縦しないといけないのっ!あんたは全然眠そうじゃないし、こっちはもう眠いのっ!!」
そう言うリリアは目にクマが出来ており、一方彼は普段通り。
「サーファーたるもの一徹はよくある。片手一つで情報は見れるは、リアルタイム反映のゲームなら拠点攻めに深夜帯や早朝狙う奴もいるし、まあこっちもウマウマな訳で。まあ慣れだな」
「あんた冒険者ならせめて冒険者らしいこといいなさいよ!」
「おいおい冒険者でも疲れたら眠るぞ?我子どもぞ?疲れたら寝るし、家より規則正しい生活してるからな?」
「ホントこいつは・・っ!」
「あと二徹も可。ほら土日とか」
そんな無駄話をしつつもリリアはそろそろ限界と「あんたちゃんと操縦しなさいよ。あと人がいたら起こしなさい」と言って横になって寝始めた。
「だから操縦桿握らなくても勝手に飛ぶのに。心配性だな~」
だけどそろそろどこ飛んでいるか知らないとな。しかしやはりと言うか貴族か~。
彼は夜に話した事を思い出す。
「まあとりあえず貴族なのは分かった。まあ町か村があったら降ろすけど。ちょっとその前に聞きたいんだけどいい?」
「何ですの?」
「拘束解いた時さ、何かこっちの動きとか人数とか色々把握してたじゃん。それって何かのスキルで分かっていたりするの?」
「あら。その辺り気にしてないと思っていましたけど、そこはやはり冒険者ですのね」
「まあね」
「ですがそう簡単にスキルを他人に教えるものでなくてよ。まあ風系のスキルと言っておこうかしら。周辺の音を聞こえやすく程度。だから僅かな足音でも小言もはっきりと聞き取れるのよ」
「あ~だから色々分かっていたのか。うん、納得した」
「おかげでこの辺りが人がいない森の音が続くばかりで耳を塞ぎたいほどよ。まったく」
だけどな~。地獄耳スキルだけかな~。誘拐して身代金目的でも手足を鎖までして拘束するのかな?まあスキルと言う見た目だけで判断できない物があるし、ファンシー一家が念には念を入れての拘束しただけというのも否定できないけど。
「あと本当に貴族の娘なのか確証もないし。と言うかあんま貴族見えないんだよな。まあ嘘言ってるわけにも見えないし、まあ別にいいか。それより今はどこを飛んでいるかだな」
呑気に言っているが彼らはまだ絶賛遭難中なのである。
2020.09.24 一部文、誤字の修正。




