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自由に気ままに異世界大陸指名犯 ー空賊ライフー  作者: クラ108
エピソード0 まだ最初の時
43/82

第25話 お土産?

 前回のお話。空船建造を一旦保留にして、その間に謎のコアについて調べたらゴーレムの部品ではないかと考えつく。しかしゴーレムは数百年前に廃れた技術であり、調べるのも現物を見つけるのも簡単にいかないものだった。



 シルル教会にて・・・。


「・・っっ。あれ・・?ここは・・・シルル教会の・・ベット?何故寝てた?でも今日ミヤちゃんにちょっとお願いしに行こうと思っていたけど・・んん~?あ。与吉~。与吉さ~ん・・はいないな」


 彼は目が覚めると何故かシルル教会のベットの上で寝ていた。

 おかしいな~。なんでシルル教会で寝てるんだろうか?

 ん~と思い出そうとするが全く思い出せない。


 確か昨日ギルドにゴーレムがあるかないか行ったじゃん?それから・・え~っと宿屋に戻ったような・・。それで・・そうだ。ミヤちゃんに話すことがあって、シルル教会に向かったんだ。


 ギルドでゴーレムの話の後、彼はミヤちゃんに話したいことができた。無論、ゴーレムを探しに工国に行くことについてだ。しかし教会に行ってからの後の記憶はどうしても思い出せそうになかった。


「与吉がいればこの状況が分かると思ったんだが」


 どうやら与吉を連れて来てはいなかったようだ。


「仕方ない。ここはミルティア先生かミヤちゃん達でも探すか・・」


 とりあえず皆を探せば何か分かるだろうと廊下に出ると丁度そこにメルダーとクロエが歩いている姿がいた。


「お。メルダーにクロエ。おひさ。何かさ、知らぬ内にここのベットで寝ていたんだg・・」


 しかし話し掛けたら。


「っ!クラッ!待て!ミヤが近くにいるから止まれっ!」

「話は部屋の中でした方がいいから」


 慌ててメルダーとクロエは彼が来るのを止めようとする。


「いやでもミヤちゃんにも用があってさ、話しておきたいことが」

「いいかよく聞けクラッ!お前は同じこと・・を」


 しかしメルダーは言葉途中で止まる。何故ならメルダー達の後ろには・・・。


「あ。ミヤちゃんや~~。ちょっと話したがあるんだけどさ」

「待てクラッ!?」

「これは・・また繰り返す」


 メルダーとクロエの後ろに現れたミヤちゃんに彼は気軽に声を掛けるが。


「ちょっとお願いがあって来たんだけどさ。ちょっとパーティー解散しない?」

「「あーー・・・」」


 メルダーとクロエの落胆の声と同時にミヤちゃんの残像が目に映る。そこで彼の意識が途切れてしまうのだった。



「と言う感じで最後にミヤちゃんに首を曲げられて頭を床に叩きつけられて襲われているんだよ。それからミル姉に治癒スキル掛けてもらってベットに寝かせられてる感じかな?」

「クラ、お前はこの4日間、それを10回以上繰り返してるんだ。」

「マジかよっっっ!!??」


 以上、まさかの衝撃ニュースを今回はベットから起きた彼の傍にいることができたメルダーとクロエから聞かされるのだった。否、聞くことができたのだ。

 

「ミヤにパーティー解散とか言うからだぜ。初めは「は?」から今は無言で襲うまでになってさ」

「もう禁句な言葉だよ」


 いちよメルダー達は彼がミヤちゃんに話す前に止めようと努力はしてくれていたものの全て失敗に終わり、4日間同じことを繰り返していたらしい。


「えっ!?マジでこの4日間無限ループか違う世界線を行ったり来てたりしていたとっ!??」

「それよりもなんでパーティー解散なんだよ?問題はそこだよ」

「いつもその理由聞けないで気絶しちゃうし」


 そう。問題はそこ。彼はミヤちゃんに工国に行く話がなんでパーティー解散の話になったかである。


「・・お前ら。もう少し友達の心配とかしない?友達が毎度死に掛けているんやで」

「それはいつものことだろ」

「うん。もう日常に溶け込んでいるから」


 こいつら・・。

 そして仕方なくパーティー解散発言の説明をしだした。


「はあ。まあ何と言うか、ちょっとこの町を出て工国に向かおうかな~って思っているんだよ」

「えっ!?クラリオン君この町から出るのっ!?」

「こっちがマジかよじゃんっ!?え?でもなんでそれがミヤとのパーティー解散になるんだ?」


 その理由というのが。


「なんかこの町から工国まで空船でも片道20日以上は掛かるらしくてな。まあ寄り道、ポタリング、迷子もするだろうし、帰ってくるのにひぃーふぅーみぃーの・・90日ぐらい掛かると思うから、ばっさりここは解散した方がいいかな~って」


 理由ですらなかった。寧ろ個人的願望というのか理由に近い。


「いや理由になってないからな?それに解散じゃなくても普通にミヤちゃんから休みたいって言えばいいじゃんか」

「そうだよ。このままだと治癒スキルでも消えなくなった首の噛まれ痕がまた増えるよ」


 無論ミヤちゃんから休みを貰うことも考えた。が、この前みたいに休みを取るにも苦労したのにまた長期休暇を取りたいとなればどうなるか。だったらもういっそうのこと解散でよくない?そうすれば自由やない?ブラック企業卒業やない?と思い至ってしまったのである。


「もう自分の身体はボロボロなんだ。ミルティア先生がいなければ多分死んでいただろうし、さっきまで生死の境にいたらしいし。もうミヤちゃんは強いし、スキルも一つだけだけど教えたし、一人前だ。教えることはないはずだ。巣立ちの時は来たのだ。I can fly!ミヤちゃんが巣立ち自分も巣立つ。でも安心して!ツバメように古巣には戻るからっ!」


 そして突然何か壊れたように喋り出した彼に2人は真顔になる。


「・・・大丈夫かクラ?」

「脳に深刻なエラーでも受けた?」

「ごめん。自分でもなんでこんなこと言ったのか全く分からない。でもきっと今のは心の叫びだったかもれない。飛び立つ時は今だって」


 そこにギィ・・と扉が開く音がした。そしていたのは・・・。


「ミヤ・・」


 ポツリと呟くメルダー。

 ミヤちゃんの御襲来であった。話やタイミングといい、分かってやって来ているのか。

 メルダーはまた繰り返しの日々に戻りそうなのを感じて、諦めたように彼に聞いた。


「クラ。今の心のは?」

「・・叫びと言うか、ここに至るまで起きたあらゆる世界線がここに収束していく感じがする」

「それ今までの出来事思い出しただけだと思うぞ」

「ただの走馬灯だよ。きっと」


 すっごい身も蓋もないことをいうクロエ。しかし言い得て妙。


「お前ら。人の気持ちを考えろ~」


 相変わらずに2人の態度とお決まりのパターンになることを悟ったように穏やかな感じで彼は言う。しかし。


「クラ・・」

「はいっ!今日も迷宮探索ガンバルゾイッ!」


 ミヤちゃんの声で一瞬で引き締められる。


「なんで・・パーティーやめたい?」


 さらにミヤちゃんの一言で今度は周りは無言になる。しかし3人は凄い目線のやり取りが飛び合う。


(おい!ここでさっきのこととか変なこと言ったりするなよっ!?)

(バカ言え!ミヤちゃんの目の瞳孔見ろよ!今のミヤちゃんに言葉間違えたら本当に死ぬわっ!)

(あ。ここで話すのはやめてほしいかな?ほら、怪我はスキルで治るけどベットに血が付くと大変だから)

(クロエよ。お前さっきからちょっと酷くない?)

(気のせいだよ)

(マジか。気のせいか)

(それよりどうするんだよ。本当に言葉間違えたら洒落にならないぞ)

(それな。今必死に良いいい訳考えているんだが、中々思いつかん)


「クラ」


 そこに黙ってる彼にミヤちゃんが声を掛ける。


「はい!少々お待ちをっ!今、回線が混み合っておりまして」


 ミヤちゃんの言葉に現実に引き戻されるが。


(メーデー!これ何て言ったらいい!?お前ら違う世界線見ていたんだろっ?バットかノーマルエンドの分岐点あったら教えて!なう゛!!)


 ハッピーエンドと言う選択肢がない辺り、彼の悲しいところ。


(残念だが・・どれも大体同じ会話で終わってるんだ)

(誰も知らない世界線っ・・!)


 どうやら自力で切り開くしかなかった。


「あのですね、ミヤちゃん、ちょっと工国に・・」


 だからと言ってパーティー解散したい理由が理由ですらないので、馬鹿正直に言ったら再び記憶は飛ぶだろう。しかし別にパーティー解散は目的であくまで手段。とにかく工国に行ける時間が欲しいだけで、可能ならミヤちゃんの制裁やら条件付き無しで行けれればいいのだ。


「工国?」

「あ。はい、ちょっと工国にですね、あ。工国と言うのは・・」


 なのでミヤちゃんに工国について話をしてる間にどうにか考えようとするも・・・。

 


「んで工国は残念ながらバベルの塔建設に失敗したんだよ。だけど噂だとミシャロ商会の一部の人達はその熱意に今でも資金投資してるらしい。あ。自分達の物も置いていいですか?ってね。それをミシャロの人から聞いたんだから面白いだろ?」

「・・・・・・・・」


(へウプッッ!!)

(中々面白い話だった)

(いつもより説明がていねい)

(感想なんか求めてねぇよ!まだ納得させる言い訳が全然思いつかないんだけど!?と言うかマルリは!?あいつがいればこの部屋からミヤちゃん引き出すことぐらいできるだろ!)

(マルリは最近ミル姉と聖書の勉強をよくするようになったんだ。この時間だとしばらく来ないな)

(この前にスキルの習得を途中でやめちゃったでしょ?それで私は聖書を頑張るみたいなことしだしたんだよ)


 マルリはマルリで色々と頑張っているようであった。


(だったらこの間に呼びに行くとか)

(だって扉の前をミヤちゃんが陣取っているんだよ?行けないよ)

(じゃあ窓からでも)

(いや流石に今のミヤの前で俺は動きたくない。俺達はな、死にたくないんだ。犠牲は多いより一人の方がいいだろ?)

(それがお前の本音かメルダー)

(と言うか素直に謝ったらどうだ?これが一番早いと思うぞ?)

(うん。僕も言い訳よりいいと思う)

(いいか自分はあくまでお願いなんだ。間違ったことを言ってるわけでも理不尽な要求をしてるわけじゃない。だから謝ってはいけないんだ。謝ればそこに付け込まれ、これから後先色々と言ってくるようになるんだよ。だから絶対に謝らんっ!!)


 この目線のやり取りに「だからミヤちゃんに襲われるんだよ」とメルダーとクロエは顔をしかめながら呆れる。

 それで彼はミヤちゃんになんて言ったかと言うと・・・。


「あのだから・・ちょっと工国に行ってみようかな~って。んでしばらく帰ってくれないから・・その~~思い切って解散しちゃおうかなって。てへぺろ!」


 結局まともな言い訳が思いつかなくて、どうなるか分かっていながらも最後の最後でおふざけに走る始末。


(あーー。またやり直しなるな)

(せっかくここまで来たのに)


 ミヤちゃんの狩る動きの仕草にまた同じことがまた繰り返すと2人は思ったが。


「って・・!ループ教えてもらったのに繰り返すとでも思ったかぁぁあああーー!!!!」


ギリギリのところで彼は魔力障壁を展開してミヤちゃんの攻撃を防ぐ。


「あ。生きてる」

「これは新しい世界線に入ったね」


 この様子をメルダーとクロエは他人事のように眺める。そして彼は辛そうな顔。

 ミヤちゃんの攻撃はな、防ぐことはできるんだよ。できるんだけど・・防いだ後の八つ当たりがな~~。怖いんだよな~。

 しかしそんな束の間に事態が急変する。


「って!ん?あれ!?なんか魔力障壁が押され・・。え。魔力障壁って魔力による空間固定であって押すなんて出来ないと思・・ゔ!!?」


 今までミヤちゃんの攻撃は魔力障壁を張れば完全に防げていたのになんと障壁を押してきたのだ。


「ちょ、ちょちょい待ちミヤちゃん!?」

「行くのダメ」

「なっ?!ひびまで入りはじめたっ!?」


 しかも魔力障壁にひびが入り始めて一部が砕け散る始末。

 どういことだこれ!?え?魔力障壁薄く張ったからっ!?

 薄かれ厚かれ自慢の魔力障壁が破られたことに焦る。


「よし分かったミヤちゃん!話し合おうっ!!可能な限り譲歩するからっ!一旦、一旦話し合おう。落ち着くんだ。争いは何も生み出さない!」

「離れるのもダメ」


 なおミヤちゃんが魔力障壁を押したり、ひびを入れたり出来たのは、スキル『物理干渉』を習得したからである。効果は物理での魔力干渉が可能となるスキル。簡単に言えば筋肉で魔力を殴れる筋肉バカになれる超凄いスキルだ。が、習得条件が自分の魔力値より数十百倍以上の魔力環境があるところに一定日数いないといけないらしく、習得が難しいのだ。


 しかしミヤちゃんの場合は、短剣一号と二号の製作ミスによる濃い魔力が溢れていたり、彼ことクラリオン自身もまた馬鹿高い魔力を周りによく垂れ流すので、習得は時間の問題であったのだ。



 そして話は戻って。



「くそ!最強の拒絶タイプ並みの魔力障壁が・・っ!まさか裏スキル『ザ・ビー・・」


 何かに例えながらもまだミヤちゃんと攻防戦を繰り広げていた。その最中、彼の言葉途中に割り込む声が部屋に響いた。


「はいはい。2人ともここまでにしょうね~」

「っ!ミルティア先生ーーーー!!ヘウップッッ!!」


 それはミルティアであった。


「ふう。まだ記憶を失う前のようですね。一々治癒スキル掛けてベットまで運ぶの大変なんですよ?」


 まだ無事そうな彼の姿に若干の安堵をする。そしてその後ろにはメルダーとクロエに呆れた様子のマルリもいた。どうやらメルダーとクロエはいつの間にか部屋から出てミルティアを呼びに行ってくれてたらしい。


「先生っ!はよっ!死ぬっ!!最後の一枚が破られるっっ!!」


 しかし今の彼にはそこまで周りを見る余裕がなかった。


「ミヤちゃん。いい加減に毎回気絶させるのはやめてって言っているでしょう?皆大変なんですよ」

「や」

「や、じゃありません。クラリオン君もよく言っているでしょう。まずは話をして、それからちゃんと話し合わないと。何でも暴力で片付けてはいけません」

「ミルティア先生!!今は手を動かしてっ!この子さっきから力緩める気配がない!」


 やれやれと言わんばかりにミルティアはミヤちゃんを持ち上げる。ついでにミヤちゃんが握っていた魔力障壁まで一緒に持ち上がり、その光景にも彼は困惑を隠せない。

 え?どういうことだよこれ・・。ミヤちゃんの暴力から解放はされたけど、何で空間固定のはずの魔力障壁を持てるの?握っているの?え?ホントなに?え?裏スキル?ミヤちゃんチート説?


 そんな彼をよそにミヤちゃんは握っていた魔力障壁をポイッと手放す。そしたら手放した位置で魔力障壁が空中で止まる。

もはやバグにしか見えない光景にさらに混乱する彼だが、ミルティアとミヤちゃんは気にせず話を続ける。


「ミヤちゃん。よくクラリオン君がろくでもないことするけどね。パーティーなんでしょう?どうしてまたこんなことするのかな?」

「・・・・パーティー、やめるって言った。どっか行くって言ったから」


 凄いムスッとした顔で言った。


「なるほどね・・。それでクラリオン君。いい加減にどうしてこなったか気絶する前に教えてくれるかな?」

「えーっと今軽く頭混乱中なんだけど・・」


 それでもその問いかけに彼はメルダー達にも同様なことを話すと・・・。


「はい。クラリオン君は普通に有罪ですね」


 ミルティアは彼に有罪判決を下した。


「待ってミルティア先生!!今回限りは!今回限りは自分悪くない!ただ・・ただ自分は自由が欲しかっただけなんだ!なのに・・っ!くっ・・!欲して何が悪い!望んで何が悪い!願い求めて何が悪い!!」

「それが駄目です」


 途中からのネタを即座に見抜かれて言い返された。

 ミルティア先生、まさか途中のセリフお知りで?


「とにかく勝手にパーティーをやめるのは良くないです。はい。クラリオン君、ミヤちゃんに謝ってください」

「い、いやだ!自分が悪くない。縛られ続けるのは・・嫌だあああーーーー!!」


 そして彼はこの部屋から逃走を図ろうとする。


「逃がさん」

「嫌ゔぇ・・」


 が、ミヤちゃんに足を掴まれる。


「あ゛あ゛あ゛あ゛ーーー黒い手がーーーーっ!扉に引き込まれるーーーっっ!」


 彼には何か違う幻覚が見えているらしい。


「強制等価交換は嫌だあああーーーーーーー!!と言うかミヤちゃんだと等価交換すらじゃねえええーーーー!ただの不平等条約!黒船が、黒船が農民に乗っ取られるーーー!!?」


 色々叫ぶ彼の姿に・・・。


「ミル姉。クラは頭叩かれすぎて・・なんかもう色々ダメぽっいんだ。だからもう少し優しくしてあげた方がいいと思うぞ」

「さっきもね、脳に深刻なエラー出していたんだよ。今もそんな感じだけど」

「う~ん。でも今回もクラリオン君が悪いのですし・・」


 それでまた彼を見返すと。


「あ゛あ゛あ゛ーーーー!!扉が閉まるぅぅぅうううーーーーー!!??」


 これにマルリが。


「ミルティア先生、あいつはもう手遅れじゃないかしら?時間のむだなので勉強に戻った方がいいと思います」


 もう精神的にアウトな域にいるんじゃないかと思えなかったらしい。しかし流石にこの状況のままにするわけにはいかないので、ミルティアは再度ミヤちゃんを持ち上げる。


「ミヤちゃん、そこまでです」

「や」


 しかし彼の足は掴んだまま離さず、持ち上げられない。


「クラリオン君はもう逃げませんから、だからミヤちゃん離してあげて。ですよねクラリオン君?」

「時と場合っ!」

「クラリオン君・・。このままだと本当に足持っていかれますよ?」

「命の危機が起きない限り逃げないことを与吉に誓いますっ!」

「はあ。そこはシルル様でしょう」


 ともあれこれでミヤちゃんを説得して離してもらい、ミルティアが仲裁に入りながら再度話し合いに戻った。


「はあ。それでクラリオン君がまず工国に行きたいのは分かりました。そもそもなんで工国に行きたいんですか?そこをまずはミヤちゃんに言いましょうね」

「はい!ただの買い物です!だけど遠いし何十日も掛かるし、道中死ぬかもしれないからパーティー解散を提案しました。自分は悪くない!」

「最後のは言わなくていいです。それでミヤちゃんはそれにどう思いますか?」


 今度はミヤちゃんに話を振る。


「だめ。一緒にいること。もうクラに休みはない」

「はい。だそうですクラリオン君」

「いや、はいじゃないです。365日ミヤちゃん生活はマジで死にます」

「では2人ともこれをどうしたらいいですか?」


 それに2人は。


「解散総選挙の実施を提案します。投票権は自分と与吉とミヤちゃんだけで」

「決闘」

「ミヤちゃん。今回は暴力はなしです。あと選挙もなしです」

「解せぬ」

「民主的なのに」


 はあ。本当にこの子達は・・。なんでここまで問題を起こせるんでしょうか。ちょっと我が強いと言うか前に出過ぎですよ。将来何かやらかさないか・・いえ、もうクラリオン君はギルドで結構やらかしていると聞きますし・・もう手遅れとして、せめてミヤちゃんだけはまともになってほしいですね。


「う~ん。でもミヤちゃん。お休みは無しは流石には可哀想だからやめてあげたらどうかな?あとクラリオン君はパーティーをやめる以外に他に考えはないのかな?」

「別にミヤちゃんが食い下がって無条件で工国に行けるなら、別に自分は何でもいいです」


 ミヤちゃんは少し考えて。


「・・じゃあミヤも行く」


 その言葉にミルティアはそうきたかと「う~ん」と唸る。

 やっぱりミヤちゃんはクラリオン君のこと・・。でもそれはね~・・。

 それは親の許可が必要になるパターンであり、許しはしないだろう。


 そして彼はミヤちゃんの返答に、え?もしマジで着いてきてしまったらどちらにしろミヤちゃん24時間生活?あれ?この先一気に不安が加速したぞ?と今まで何か上手くいった試しがないので不安しか思い浮かぶ余裕がなかった。


「ミヤちゃん、それは家族と決めないと駄目なことでね。う~ん他の考えはない?」

「ない」


 即座に断言された。


「はあ。じゃあクラリオン君。どの位の予定で帰って来るとか決めてますか?それで早めに帰ってくるとか」

「ん~大体90日ぐらい?」

「いくら何でも長すぎじゃありませんか?空船でも往復20日ぐらいで済むと思うんだけど」


 それに対し彼は一旦沈黙すると突然何か閃いたように言った。


「寄り道草刈り草むしりぃ~。子どもによくある道中街道。けれど危ない一人旅~。何が起こるか獣道!だけどもそれが俺の道!()くぜ?行くぜ!ひたすらに~!それが俺の筋道さ!」

「・・・・はい。話し合いはこれで終わりですね」

「待って違うんですっ!!ミルティア先生!!!何か!何か急に閃いちゃったんです!!本当に急に!言わないと損かなってっ!!あ。お土産沢山買ってくるからっ!この前契約記号紙に書きやがった、なんだってあの本・・えーっと保存用観賞用布教用拷問用の4セット買ってくるから!だからまだ話し合いは終わらないでっ!!」

「次ふざけたら2人だけで話し合ってくださいね?」

「Yes,your god!」


 本当に次から次へと。どうして余計なことしか言えないのかしら?

 しかし今の彼の言葉の中にミヤちゃんがピンと耳を張る言葉があった。


「お土産・・・」

「ん?ミヤちゃんどうしたの?もしかして他の考えが浮かびました?」


 ミヤちゃんは「お土産」という言葉に少し考えが変わる。と言うのも彼とパーティーを組んでからは迷宮でお金を稼げるようにはなった。しかしお金は教会に寄付と言う形で皆の為に使っており、手持ちのお金は殆ど無いのだ。つまり皆のお土産とか遊ぶお金がないのである。


ならば彼にお金を頼る(たかる)こともできるが、自分で稼げる立場になった手前、頼る(たかる)のはおかしいし、そもそもお金の為にたかるのは流石に良心が許さない。だから考えが変わって、今度は「ん~」と頭を悩まし始めたのだ。


「ミヤちゃ~ん?」

「大抵暴力で解決するはずのミヤちゃんが悩んでいる・・だと?」

「クラリオン君。今ミヤちゃんに聞こえてませんけど、聞こえてたら足だけじゃなくて身体全部持っていかれても助けられませんからね?」

「あー。鎧に魂定着してもらわないと」


 そしてメルダー達も意外そうにミヤちゃんを見る。


「おお。ミヤが色々考えてる」

「でも何か悩むところあったかな?」

「あそこまで耳が動いているのは珍しいわね」


 そして考えに考えて、ミヤちゃんは決めた。


「分かった・・。行っていい」

「・・・?ん?え・・?えええ゛え゛え゛ーーーーーーーーーーーー!!!?!!?!?」

 

 まさかのお許し判定に一瞬理解できなかったが、彼は驚きの声を上げる。いつもなら「や」「だめ」からの骨を折りにいくか首を噛まれるかと思っていたし、ミルティアもそう思って治癒スキルを掛ける構えをしてたから意外な答えに驚きと成長したわねと一安心する。しかしそこはミヤちゃん・・・。


「だが・・」

「え゛ーーーー・・・!!!?え?だが?」


 やはりただで行かせるつもりはない。


「お土産」

「お土産?」

「皆のお土産・・沢山買う。2日で帰ってくる。それで・・許す」


 すっごい納得している表情ではないがミヤちゃんは皆のお土産を沢山買って来ることで工国に行くことを許したのだ。もちろんその程度であれば彼も全然許容範囲内だから大喜び。


「ふっ。流石に2日だと東京から一泊沖縄旅行を楽しもうとか言ってる並みに無理だ。だがお土産は任せろっ!お土産選びには定評があるこのクラリオン!沖縄に何故か売られてたモアイのキーホルダーか生チラガーをどちらにしようか迷った挙句選んだのは、生ヤシガニ!(野生)小さい子どもには大絶賛された記憶が薄っすらある!」


 未だあまりまともな記憶は蘇ってないようである。


「それに自分はお金持ち!ただ最近損害賠償が多くて手持ちがあれだが、なに、すぐ稼げる!欲しいお土産があれば何でも買っておいてやろう!」


 と言うことで皆に欲しいお土産を買おう!と提言すると「おおーマジかよクラッ!」とメルダーとクロエは素直に喜んでくれる。ただミルティアとマルリは何か疑いを掛けるかのような目線で見る辺り賢いようだ。


「じゃあ俺も何か武器が欲しい!」

「僕は重たくない魔導具」

「ふっ。買うより作ってやろう!工国のいい素材を使ってな!ミルティア先生とマルリは何がよいっ!」

「シスターとして私欲で物をお願いするのは・・でも聖書『門』記4~6巻だけは欲しいです」


 しかしミルティアは一途の望みは託しておく。


「このシスター、臆することなく私欲を。だがまあいい!次!マルリ!」

「何もいらないのよ。余計な物は買わなくていいから。しばらく帰って来なくてもいいから!本当に余計な物は買ってくるな!なのよっ!分かったかしら!?」

「分かったフリだな」

「こいつやっぱり絶対分かって変なものしか買ってこないつもりなのよっ!」


 そしてマルリにはいいお土産をあげようと彼は心に決めた。


「ではずっと不服顔のミヤちゃん。ご希望のお土産があれば買おうじゃないか!」


 そして最後にミヤちゃん。これ以上何か追及されないようにこのノリで押し切って、考える時間を与えずに皆と同じ範囲に収めようと彼は内心思っていたが、流石ミヤちゃん、彼に与える言葉は重たかった。


「お土産2t」

「トン!?」

「2t」

「重さ!?」


 ミヤちゃん、お土産を重さ2tで要求する。

 鉄屑2tでも辛すぎる重さだぞ、それ・・。


「あとあの紙。契約の。あれに書いて皆と約束」

「ここでも契約記号紙か・・」


 そして契約記号紙に今のお土産の話を書面上まで書かせる徹底ぶり。口約束で終わらせないのは今までの彼の行いのせいだろう。

 その後、彼が余計こと(ブラックライトペンとか)をしないようミルティアが代筆して契約記号紙に書き記した。なお、予定帰還は90日と概ね彼の要望に沿った形となり、ミヤちゃんのお土産は変わらず2tであった。



 こうしてやっと彼は工国に行けるようになったのである。


「よし、これで工国に行ける!!すっごいめんどい事になったけど、行けるんだっ!くそ!辛すぎて目汁が出そう!」


 その後は宿屋に戻り、旅支度の準備を始める。何を持って行くか、しばらく留守にするので宿屋に事情を(アスラには内密に伏せて)話しておいたりと。


 チッ、チチィ~。チチ?


「あ~与吉や~。しばらく帰ってこれなくてすまんな。ご飯とか大丈夫だった?」


 そして与吉との久しぶりの会話。と言っても彼にはシルル教会での4日間の記憶はないが。


 チィーチ。


「なるほど。そうだったかー。あ。それでなんだけど数日中にこの町出てちょい長旅に行くぞ。与吉も何か持って行く物あったら、こっちの荷物入れに入れておいてね」


 チチ!?チィ~~、チィチィ・・。


「この町じゃあ食べられない料理とか食材とかも結構あると思うぞ。大丈夫だって」


 チィ・・。


 若干不安そうな与吉であったが、新しい料理にありつけると荷物詰めを始めてくれた。

 よし、与吉もOKと。まあ持って行く物はどんなものがいいんだろうか。ん~だけど空船での移動か~~。飛行機とは違うんだろうな~。

 


 そして2日後。シルル教会で・・・。



「クラリオン君。変な場所に行かないで早めに帰って来て下さいね」

「武器だぞ武器良いやつだぞ」

「魔導具も忘れちゃだめだからね?」

「本当に余計な物は買わなくていいのよ!」

「分かってるフリだろ」

「こいつ・・」


 彼は準備を済ませ、メルダー達に挨拶をしに来た。そしてミヤちゃんはいまだに不服顔だったが、それでもちゃんと声を掛ける。


「・・早く戻れ。お土産は絶対」

「ねえ、ミヤちゃんお土産2tはやっぱりどうにかなりません?」

「ならん」

「やっぱり即断か」


 やはり2tは覆らないらしい。それでも思い思いにお互いやり取りを終えるとそろそろ彼は行こうとする。


「よし!じゃあ行ってくるな!」


 チッチ!


 くるりと回り、空船港に向かう彼。しかしすんなりと事がいかないのが彼である。何故ならば歩きはじめて数十歩辺りで、彼に向かって近づく女性がいたのだ。


「ん?あの方、誰でしょうか?」

「なんかクラに向かって歩いてね?」

「クラリオン君に何か用とか?」

「何故かしら?しょうもない予感がするのよ」

「ギルドの・・」


 ミヤちゃんは彼に近づく人が誰だか察しがついた。そしてまたしばらく見守っていると。


「あ」

「・・なあクラ、手錠されなかったか?」

「捕まったね・・」

「あ~やっぱりなのよ」

「お菓子くれる人?」


 彼は手錠されて連行されていったのを遠目で見守り続けたのだった。


 それで彼に何かあったかと言うと・・・。


「まずはこの後、空船港で工国行きの船を見つけないとな~。色々初めてだから大変になりそうだな~」


 チィ~。


「あれ?あれは・・・フレアさん?」

「おはよう~クラリオンく~ん。久しぶりに会ったわね~」


 そこにいたのは普段は冒険者ギルドの中にいるフレアであった。


「お~、おはようございます。久しぶりですね。でも何故フレアさんが?あ。そうだ、フレアさん、自分しばらくこの町離れるんで、今から空船港に行こうとしていたんですよ」

「あら~。そうだったの~。でも残念ね~」

「ん?それはどういう意」

「はい、逮捕っと」


 彼の手を捕まえると思いっきりガチャと手錠をされる。


「・・ん?フレアさんフレアさん、これは何でしょう?多分冤罪ではないかと」

「ふふ。ちょっと前に町から何度か出たことあったわよね~」


 おそらくフレアが言ってることは以前に彼が町の外に倉庫を作りに行った時の話だろう。そしてフレアは続けて言う。


「別にね、町から出るのはいいのよ~?けど~町に入る時は通行税があるのは・・知っているわよね~?」


 そして彼は思い出す。そう言えば町に帰る時は外壁の上何度か飛んでいたな~と。


「だけど前に通行税払わないで外壁の上を飛行して侵入した人がいたのよ~。まあ外見情報から目星はついていたんだけど~証拠がなくてね~。でも最近一人で買い物してる与吉ちゃんがいて~。ちょっと世間話?が出来たのは分からないけど~。まあジェスチャーで何となく通じて分かったことがあったのよ~」


 そして彼は与吉に目線を合わせると。


 チチ。チッチ(奢ってもらった。色々話した)。


「この子は・・もう」

「はい。そんなわけで話しはギルドと憲兵で聞こうね~。通行税と罰金、反省文、禁錮は~まあ初犯だから10日ぐらいで済むんじゃないかしら~?」

「え?禁固刑?」

「うん、禁固刑。長くて90日よ~」


 それを聞くと彼はもう暴れまくる。


「あの待って下さいフレアさんっ!!悪意はっ!悪意はなかったんです!!だからせめて禁固刑は・・禁固刑は無しでーーーー!!」

「そこはギルドの管轄じゃないから無理ね~」

「嫌じゃああーーーー!自分は自由が欲しいんじゃああああああーーーー!!!」


 そんな叫び声を上げながら連行されていくのであった。で、その光景を見たミルティア達は・・・。


「皆。今のは見なかったことにしましょうね」

「クラ、お前・・」

「悲しい別れのあいさつになっちゃったね・・」

「はあーー。声を掛ける気にもならなかったのよ」

「お土産楽しみ」


 彼が工国に行けるのはまだ時間が掛かりそうである。

2021.1.28 誤字一部修正。

2021.12.06 誤字一部修正。

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