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自由に気ままに異世界大陸指名犯 ー空賊ライフー  作者: クラ108
エピソード0 まだ最初の時
4/82

第2話 くらえっ!3バレルアタック!

 前回の話し。彼ことクラリオンは異世界生活で遂に町へと足を踏みいる。しかしそれには通行税を支払わなければならなかった。しかも期限以内に支払わなければ両腕がもげる契約記号式という魔法陣やら何やらで結ばれてしまうのであった。



「・・・ク、クラリオンです」


 ギルドの職員のお姉さんにそう自分の名前を答えた。


「そう。クラリオン君ね。それでクラリオン君はギルドになんの用事かな?」

「あ、あの、えっと・・ですね」


 自分が一部記憶が喪失してるのは重々承知はしていたが、まさか自分の名前すら忘れていたことを今になって気付いて焦る。それどころか他にも常識的なことを忘れているものがあるんじゃないかとギルドのお姉さんと話すどころではない。


「あ~。あの今日初めてこの町に来たんで、なんか色々と知りたいな~と思いまして」「あら。そうなの?なら、ようこそ()()()()の町“オヴェスト・トレンボ”の冒険者ギルドへ」


 とりあえず適当な話しで場を流そうと思った彼だが。

 え~っと今記憶に無いのが死んだ辺りと名前と他に無いのは・・・ん?大陸最北?

 その言葉が頭に引っかかる。転生された場所と自分が今いる場所を大まかな位置関係を考える。

 最北。つまるところ北の端っこ・・・。あんっのっ!ウズラ卵ーーーっ!とんでもない場所で転生してくれたな!!歩く方角間違えば前人未到の地じゃねええええかっ!!

 同時にあの門番が未開拓の地から子どもが歩いて来るのだから不信に思うのも当然である。


「それにしてもクラリオン君はまだ子どもでしょう?ここに来たのは親子で?それとも誰かの付き人?師弟とか?クランの子?」

「ん?え?」


 あの屋台のおっちゃんもクラン云々言っていたな。だけどその前にあのウズラ卵をどうにかして殴りたいっっ!!

 しかし今の目的はお金。この思いはささやかな目標として目指すとして、気持ちを落ち着かせる。


「一人だよ。子ども一人旅されてる最中」


 その発言にお姉さんは「え?」と驚く。


「それよりクエスト掲示板とかある?ちょっとひと稼ぎしないといけないので」


 お姉さんは何故か口元に指を当て「ん~~」と考え込む。そして何を思い至ったのか「もしかして」と口ずさみ、何か納得した様子。


「ふふ。いいわよ。この町に来たってことは()()のことでしょ?知ってることなら教えてあげるわ」


 何を見て何の納得をしたんだろうか?と彼は、お姉さんには何か確信があったのかそれとも誤解かどっち何だろうと思うも色々教えてくれるなら「まあいいか」と何も指摘しない。


 それからお姉さんはこの町について色々と教えてくれた。要約するとこうだ。


 この町は18年前に迷宮が発見されて、比較的大陸では新しい迷宮の町とホットな話題になっているらしい。おかげで最北の場所にも関わらず冒険者達が他の迷宮よりも多く集ってくるそうだ。おかげで名のある冒険者やクラン、一癖ある大物が来たりするらしい。


 特にお姉さんは子どもで慣れた様子で冒険者ギルドに来ている雰囲気から、何か一癖ある人物であろうなと予想して、早々に迷宮の情報は渡して揉め事を起こさないように気遣って話しをしたのだ。



「ここが迷宮入口になるのか」


 そして彼は一通りの話しを聞いてすぐに迷宮に足を運んだ。と言うのもギルドにランク制や冒険者身分証明発行等は行ってなく、依頼関係なしにギルドの換金受付は随時行っていると言うので、これ以上ギルドに留まる必要がなかったので向かったのだ。


「町の外でも中でも思っていたけどデカいよな」


 お姉さんの話しからこの町の中央に鎮座する城の真下にある超巨大トンネルが迷宮入口になっているらしい。しかしそれ以上に城のサイズが山を建てたかのような超巨大。城を半周するだけでもかなりの時間を掛けそうなぐらいである。

 世界が違えば文明の発達の仕方が違うのかね~。


 さらに彼はお姉さんから迷宮にどんなモンスターいるのかも丁寧に教えてもらっている。ただ・・・。



「・・・という感じで割と大型モンスターが数多くいるわ。それに上層でもまだ全ての道が・・・」

「・・・・・・・」


とか。


「パピリアとかコンツトンとかもいたわね。中層も亜種なんか多く出てきたりとか、あっ。最近パイザーアッシュが出た報告もあったわね・・・」


 こんな感じであった。

 全然っ・・分からんっ!知らんわそんなモンスター!知ってること前提っ!



「こんなんで迷宮に行っていいのだろうか・・・」


 無知過ぎて話しにならない彼。しかし二日以内で3バレルという大金なのか少額なのか額が分からないお金を用意しないといけない状況で、どうあろうと彼は一攫千金狙いで迷宮に向かうしかないのである。


「命掛けで稼ぐってこんな感じなんだな」


 独り言を呟きながら奥にずっと進むとかなりの広さがある地下空間に彼は出た。そこは電灯のように光る水晶、光る地面。そんなファンタジーでない限り見られない景色が目に入る。


「これが迷宮・・・」


 幻想的な光景に足が止まるが、手の甲に二日で腕がもげるのを忘れるな言わんばかりに魔法陣が光っている。彼に止まってる暇はない。ため息を交えながら再び歩き始めた。


 かれこれ1時間。


 道なりにずっと広大な地下を歩いていたがモンスターらしき生き物すら出会わなかった。


「・・・いないな」


 あれか?近場のモンスターは倒されまくっていないというやつか?

 また彼は広い道なのに冒険者が一人もいないのに不思議に感じるもそれよりも今一番の解決しないといけない問題がある。それは・・・。


「やっぱり戦闘に使える魔法が欲しいっ!」


 どうモンスターと戦うかだ。早速と言わんばかりに迷宮に来たのはいいが、これといった戦闘に使える魔法がない。しかし悲しいかな。戦闘で使える魔法を作ろうと思っても何一つできない魔法開発の魔法が行く手を阻んでいる状況なのだ。よって・・・。


「ん~、砂利に光る粒・・。あの光ってた結晶と同じ物質かな?」

 

 光る水晶やら壁を触って考察なんかして目を前の問題に目を背いていた。

 あのウズラ卵め・・・。殆ど作れないようにしやがって。

 しかし先に進めば進むほどちゃんと考えなくてはならない。


「はあ。とりあえずそこらの土から何とか武器は作れるとして、後は罠の落とし穴・・・」


 この攻撃手段の少なさよ・・。


「接近戦は駄目だ・・・。あらかじめ落とし穴用意して、槍みたいな投擲で無数に一斉投擲・・」


 これ勝てるのか・・・。

 このぐらいしか攻撃手段が思いつかなく、この原始的な攻撃がどこまでモンスターに通用するのか不安が尽きなかった。


 そして数十分後。


「デカい・・」


 遂に彼はモンスターを見つけた。距離は15m前後。数は3体。蟻が2体にムカデが1体の虫のモンスターだった。ただし蟻のサイズが2m。ムカデに至っては長さが5~6mもある。

 こういうのと戦うのか。

 岩陰に身を隠してどう相対してみるか考える。

 

「見た感じ動きは鈍そう」


 そこまで機敏な動きをしておらず、動きがもっさりしているところから、ちゃんと狙って当てれば一撃で終わらすチャンスがあるとみた。


「・・よし、()ろう」


 まずは最適な攻撃ポジションを探し、モンスターがこちらに向かってくるで場所に落とし穴(杭付き)を複数仕掛ける。あと『万物追及』で、できるだけ硬い土製の槍を20本用意する。


「こんなもんか」


 槍を叩いたりして折れたり崩れないことを確認。あと『万物追及』の能力範囲で槍をどこまで動かせられるのかも確認する。


「槍は・・浮かせる。飛ばせる」


 槍を宙で自由に動かし、確認すること終えると全ての槍をモンスターの方に向ける。これで戦闘の準備は整った。ここから彼のモンスターとの初戦闘の幕が上がった。



「準備よし!」

 

 狙いを定め・・・。


「っ!」


 全ての槍が3体のモンスターに飛ばす。


「うっわ!命中力悪すぎっ!」


 運よく蟻の1体に頭に深々貫通。しかしそれ以外の槍はかすりもしてない。

 

 ピクッ・・・!?。ダッ! 


「なっ!?」


 攻撃を外した2体が彼に気づと、今までもっさりしていた動きをしていたのに巨大に似ても似つかない俊敏さで彼に迫ってきたのだ。この速さに彼は目で追うことがやっとで対応なんて全く出来なかった。


 ズシャアアアーーーー。


「見事にハマったな!落とし穴にっ!」


 しかし迫って来た場合の落とし穴に2体が同時に嵌まり、杭が身体に刺さって絶命する。何とか作戦勝ち彼はモンスターとの戦いに勝つことができた。


「初手のモンスターでこれだろ?勝ったけどあの脚の速さから逃げ切れるもんじゃないぞ・・・」


 予想していたより脚の速さに全く対応できないことにどう対応していけばいいか悩むもまずは倒したモンスターから何が得れるかものがあるかどうか、落とし穴に降りてモンスターに近づく。


「しかしやっぱ剥いだり捥いたりするのか?」


 本当に死んでいるか土の棒を用意してちょっとツンツン突きながら、素材として何か解体できるものがあるのか眺めていたら突然蟻のモンスターから煙が立ち上がる。


「ッ!?」


 急な出来事に焦って身構える。


 パリ・・・。


 蟻のモンスターの身体が白くなってひび割れていき、しまいには煙となって散っていった。


「え?何、ホント・・」


 突然過ぎて意味が分からない彼だが、何か残っているのを見つけた。


「これは・・・」


 それは一粒の石。黒曜石のような感じで薄黒い色で僅かに光っているようにも見える。それに彼にはピンとくる。


「魔石?」


 モンスターで石が出てくると言えば魔石ぐらいしかないとそう直感したのだ。

そして実際にそれは魔石で合っている。魔力ある石。消耗品で使われ、数多くの用途で使用されているポピュラーな存在な物。なお、彼が拾った魔石は質がひどく低いもので、一粒でお金にはならない。


「他の奴らは何も起きないな・・・」

 

 そして不思議なことに他のモンスターは白く煙にはならず、肉体を保ったまま死んでいる。それに何かモンスターで違いでもあるのか調べたいところが、そこにそうはさせてくれない事態が発生する。


 ド・・・ドド・・・・ドド・・・・・。

 ギギ・・・・・ギギギ・・ギギ・・ギギィーーー。


「なにこの音?」


 洞窟全体に響くように異様な音に落とし穴から上がり、槍を無数に用意して辺りを警戒する。


「・・・・・・・」


そしてどこが音がする方なのか耳を澄まし、方向が分かるとその場所を凝視する。


「いや、まさかこれっっ!!」


何かに気づいて顔が強張り始めた。彼が見たのは異様に動く壁、いや、それは壁ではなく・・・。


 ドド・・・ドドド・・・ドド・・ドドド・・・。

 ギギ・ ギギ・・ギギギ・・・ギギ・・ギギギィーーー。


「虫の塊だあれぇぇぇーーーーーっっ!!!!」


 壁ではなく虫の塊。あらゆる虫のモンスターがお互いに密集しあって動いていたのだ。その数が500体以上はくだらない。ついでにGモンスターが多かったのも付け加えておこう。

 この状況に彼は順に予想する。あらゆる虫のモンスターが一緒にいる。理由は分からない。あの虫のモンスターを倒してから騒ぎ始めた。もしや仲間を殺されお怒り?


「これってどこの()()()ーーーーっっっ!?!?」


 間違いないだろう自分の予想に全速力ダッシュでこの場から逃げる。が、悲しいかな子どもの身体。遅い。


 ドドドドドドドドドドドドドドーーーーーーーー!!!!

 ギギギギギギギギギギギギギギィィィィィーーーーーーー!!!!!


「こういう定番やらないと駄目なの!?絶対なのっ!?」


 そして後ろを振り返れば・・・。


「嘘だろ!?!?おいいいいいいーーーー!?!?」


 地面を埋め尽くす虫のモンスターの濁流。まさにモンスターパニックから逃げるB級映画そのもの。


「クソ!!なんだよこの初心者殺しの迷宮はあああぁぁぁぁーーーーーー!?!?」


 走りながら今までより早く投擲できる物を大量に作っては投げ、落とし穴、足止め用に壁なんかも張り巡らす。しかし穴に落ちてもすぐ虫一杯に。壁も容易によじ登られ、時間稼ぎにもならない。


「ヤバいヤバいヤバい!!」


 精一杯の攻撃も罠もほぼ効果なし。しかも彼の横まで迫ってきており半包囲されかける。


「ッ!」


 もっと早く!もっと威力あるのっ!!


 ヒュン。


 小さな音で風を切る音。


「んなところで死んでたまるかぁぁぁあああーーーーーーーー!!」

 

 風を切ったのは槍ではなく土の弾丸。死の瀬戸際からか過剰に魔力を魔法に流れ、実際の弾丸並みの速さで撃てれた。

 これでしばらく戦えると思ったが・・・。

 


「あああああーーーー!!!!!」


 無理だった。始めの20秒はちゃんと善戦していたのだが、モンスターの数という物量には対応できなかった。


「戦いは数かよっ!!」


 しかも完全に囲まれ、足場には倒した虫の死骸が囲うように積み重なって逃げも動けもできない状況にもなっている。


ガガガァァァァーーーー!!


「ああ!!次から次へと!!」


 このままじゃあジリ貧・・・。

 弾丸を弾幕のように張ろうと貫通力を高めようとしてもモンスターの勢いを押し返せない。

 しかしここでふと気づく。穴やら壁やら色々やったけど、これって地形操作だよな?とこの状況を打開する何か閃いた。


「そうだよ。起死回生の・・ヒントはあった!」


 片足を強く地面に踏みつけて振動するかのように微弱に地面が波打つ。


 ダンッ・・・・ズシャアアアアーーーーーーー!!


 地面から剣樹地獄の如く、周りのモンスターに無数の土の槍が貫く。


 ザッ。


 そして一瞬で全ての槍が地面に戻る。


「くっ!」


 自分の足元にも槍が突き上げ、左足と左腕に血を流した。魔法の扱いに慣れていない未熟さが自分にも襲い掛かってきたのだ。何とか自分の周りには槍を出さないようにしたいところだが、こんな状況でまともに操る余裕などない。


 ギギギィィーーー!!


 くそ。結構倒せるけど負傷覚悟で今のやり続けるかっ?


 シャァァァーーーーー!!!!


 そして攻撃の範囲外にいたモンスターは、そんなの関係なしに目の前で来ている。


「っ!やってやらぁっ!こいやぁぁああーーーー!!」


 そして・・・。



「・・・終わった・・のか」


 辺り一面にはモンスターの死骸、そこらにきらめく魔石、その中で彼が一人佇んでいた。


「人生の中で一番命掛けた・・・」


 もう腕とか足がプルプル。

 服はもうボロボロで満身創痍になりがらぎりぎりの戦いだった。しかし彼にはやることは残っている。


「魔石・・拾わんとな」


 お金を得る為に広範囲に散らばった魔石を拾い集めをしなければいけないのだ。

 またあんな数で襲われに来たら嫌だからな・・・。

 なお部位などは剥ぐ体力も気力も無かったから最初から諦めたいたのこと。




 別のところで。



「今日ね。ギルドに子どもが来たのよ」

「子ども?また珍しいわね。何しに来てたの?」

「冒険者ぽっいわよ。多分中央のところから来たのかしら?」

「またまた~。その子、本当に子ども?しかも冒険者って」

「だって慣れた感じで掲示板探していたし、迷宮の事話したらすぐ行っちゃったのよ。間違いなく冒険者よ」

「まあ、大人顔負けで冒険者やってる子がいるのはよく聞くけど、信じられないわね」

「えー本当よ。近いうちに換金所に来るかもよ?」


 冒険者ギルドでこんな他愛ない話しがあったさ。



 そして夜・・・。



「帰ってきたー・・・」


 迷宮の出入口となる城のトンネルから戻ってきた彼。すでに日は暮れているもののまだ町は活気で満ち溢れていた。というのも迷宮の町は夜に迷宮から帰って来る者も多いから、他の町と比べて深夜までお店が開いているのが多いのだ。


「あ~重い」


 そしてそんな彼に周りはヒソヒソと言う。


「なああれ。子どもだよな?」

「ずいぶん傷だらけだが・・」

「担いでいるのは・・あれは魔石か。いやそれよりも」

「ああ。あれだな」


 周りの人は思った。『あれ虫モンスターの脚と羽じゃね?』と。そう彼は魔石集めても大量に持ち帰る手段がなかったので・・・。


「羽と脚でいけるか?」


 と。残った体力を振り絞ってバッタぽいモンスターの脚を切り落とし、羽があるモンスター(G)から毟って袋代わりと魔石を入れて、天秤棒モドキを作り上げていたのだ。

それを道中、膝をがくがくさせながらここまで帰ってきたのである。


「何故、こんな苦労を・・・」


 嘆きながら彼は換金するためギルドに向かった。そしてギルドの換金所に着くと・・・。


「・・っ。お願いします」


 頑張って換金所の受付の机にGの羽で包まれた大量の魔石を持ち上げて渡す。満身創痍な彼には、今の背丈で受付の机の高さに重量あるのを持ち上げるのはキツイ作業でしかない。


「後これも」


 ついでに棒に使った脚も机に乗せる。


「あ、あはは。お、お預かりします。精算しますので少々お待ちください」 


 そう言うと何か仕掛けがありそうな箱にザっと魔石を入れた(脚も)。すると箱の中身が光り、連動するようにレジと思われる機械から光る数字が浮きはじめる。

 彼もその光景を見ようと満身創痍なのはどこにいったのか、机に手を掛けて上半身だけ身体を上げて「おお~」と興味深そうに見た。


「合計9バレルになります」


 チャリンと出されたのは9枚の硬貨。これが異世界生活始まっての初日の稼ぎであった。

 正直な話し、これが適正価格?いや、ギルドだから公平だろうとは思うんだが、命掛けで出された硬貨の安っぽさに疑問に思うも疲れて口には言わなかった。

  

 次に。


「宿どうしよう」


 手の甲を見た。

 あの門番が言っていた記号なんたらもとい呪い。


「これどうにかするために迷宮に潜ったが」


 この9枚の硬貨で9バレル。つまりは1枚1バレル。解くのに必要なお金は3バレルは手に入った。


「つまり今のところ使えるのは6バレル」


 さて。これで宿は取れるのか、食べ物は買えるのかよう分からん。

 まだ店は多く開いているが所々閉め始めているところもある。


「どこかで聞くべきだったな」


 早く休みたい彼だが、どこに宿のかも分からない。どう探そうと悩んだが「あ」と思い出す。



「おっちゃん来たぞ」

「なんだ。もう来たのか。って凄い傷だらけだな。大丈夫か?」


 そう、小さい屋台のおっさんのところだ。


「小遣い手に入れたから約束通り来た」

「まあ傷からして迷宮に行ったのは何となく分かるが、金になるモンスターは中層の4日か5日掛かるところだろ。お前一体何してそうなったんだ?」

「細かいことはいいんだよおっちゃん。とりあえず1バレルで何かくれ」


 そう言って1バレル差し出してみる。


「1バレルかよ。3バレル5バレルで買ってこい」


 しかしお金は受け取って、焼きあがったやきとりみたいなのを手に取り、壺に入ったタレに軽くつけ、パック代わりに大きな葉の上に6本置いた。


「あ。意外に美味そう」

「意外とはなんだ。味だったらそこらの店よりはうまい」


 そしてまずは1本取ってみる。

 ふむ、見た目はやきとり。鳥かどうか分からないけど。

 

「あ。美味い」

「当たり前だ。値段は高いかもしれんがボルドアやムーアのいい肉使ってるんだぞ。それとこのタレ!この俺が作りあげたこのタレが!このタレがいいんだよ!!」


 おっちゃんが熱く語りかけてくる。

 

 ハムっと2本目に突入。


「確かにいいね、このタレ。日本人好み。タレでご飯いけるタイプだこれ」

「そうか。ちなみに1本おまけで多く入れてある。次回も来るならまた1本おまけしといてやる。俺が覚えてるうちにな」

「マジか。あとところでおっちゃん。この辺りに安い宿ない?今宿探しているんだけど」


 ここでだべってもいいが、肝心なのは宿探しである。


「そうだな。大抵の冒険者は『バーバリレ宿屋』を利用しているぞ。この町で大きいから空きはあると思うぞ」

「おっちゃんその宿どこ?」

「北大通りだ。ギルド通る時になかったか?看板も立ててあると思うぞ」

「あ~全然気付かなかった。あれ?と言うと逆戻り?」


 口にやきとり・・ではなく今はムーアの肉をくわえながら項垂れる。


「行くんだったら早めに行った方がいいぞ。夜遅くまで店開けるところが多いが、この時間になればさすがに閉めるところも多くなるからな」


 おっちゃんの忠告通りに彼は来た道を戻って、その宿屋を探すことにした。



「ここか?」


 そして彼はそれらしい建物を見つけた。

 建物の前には光る結晶のランプで照らされたバーバリレと書かれた看板が確かにあった。


「まだ大丈夫なのかな・・・」


 扉を触ってみると扉は開いた。

 開くってことはまだやってるってことかな?

 中の明かりは消えているが大きなロビー広場があり、フロントには小さなランプが弱弱しく光っている。


「あら?そろそろ鍵掛けようと思っていたけどこんな遅くにお客さん?」


 するとそこにランプの明かりで照らしながら歩いてきた若い女性がやさしく声をかけてきた。


「あ、すいません。この時間でも飛び込みで宿泊ってできますか?」

「ええ。時間はギリギリだけど・・・」


 女性は彼に近づいて来ると彼の姿を見て変に驚く。


「こ、子どもっ・・!」

「ん?はい、そうですけど・・」


 まあ子ども一人で来るのは驚くだろうけど・・・。なんか違うことで驚いてるように見えるんだよな~。

 女性からにじみ出る何かに嫌~な予感を感じるのだった。


「それで!どのくらい泊まるつもり!?」

「とりあえず一晩だけ。朝になったら改めて詳しくからでもいいですか?」

「もちろんよ!ええ!是非にっ!」


 信じていいのかこの宿屋・・。

 疲れているのでこの際何も言わない。


「じゃ、ここに名前書いてね。お金は1バレルよ」


 受付のフロントから用紙を取り出し、女性は彼を呼び、彼が来ると・・・。


「よいしょっと」


 持ち上げた。


「・・・あの」

「宿泊の手続きはこの受付でしないといけないルールなの。そうルールなのっ!だから君の身長だとカウンターに届かないでしょ?」

「・・・・・」


 やっぱり何かおかしいと思うも、ここも何も言わずに記入する。


「はいはい。書きますよ。書けばいいんでしょう・・」


 記入が終えればとりあえず寝るだけのスペースがある部屋に案内される。

 でも手を握って案内する必要ないんじゃない?



 次の日。



「ん~。よく寝た・・・」


 朝になって目が覚めた・・・というわけではなく、もう昼である。


「ああ~」


あくびをして軽く体を伸ばすと同時にお腹が鳴る。どこかで朝食もとい昼ご飯を食べたいが、その前に彼は先に行っておきたい場所があった。



「来てやったぞ」


 どこに来たのか言うとあの彼にとって忌々しい手の甲に両腕がもげるとか言う呪いとも言うべき何かを付けられたあの老兵のところだ。それを解除してもらうために町に入った最初の門のところに来たのだ。


「もう来たか。しかし服がボロボロだな。まさか盗みで手にした金じゃないだろうな?」

「たかが盗みでここまで追い詰める人がいるのか?普通に迷宮で稼ぎに行って死に掛けたわ!この野郎!」


 命掛けになった原因の老兵にそんなこと言われて悪態をつく。


「昨日の今日で迷宮?それで稼いで来た・・?まさかお前が冒険者というのか。それで上層の虫とやりあったと?」

「おかげでなっ!」


 老兵は馬鹿にしたような哀れんだ目で言う。


「どうしたらそんなバカができるんだ。数だけ多くて金にもならん虫相手に・・。もっと他にも色々あっただろうに」

「本当になっ!支払いの延長さえしてくれれば、本当に色々あっただろうになっ」

「別に払えなくない金額だろうが。門の通行税は子どもには優しい料金になっているだろ」


 知るかっ!まだバレルの価値云々知らんわ。とは口に出さない。しかし顔には悪態顔で出す。

 老兵はため息を出して改めて聞き直す。


「まあいい。それで3バレルはちゃんとあるのか?」

「当たり前だ。ご飯食べずに来たんだからな」


 ポケットからお金を取り出そうとする彼だが。


「くらえっ!3バレルアタック!」


 そう思わせての投擲。頭脳は大人のはずだが、やっているのが子どもの悪態そのものをやってみせる彼である。


「はあ。まったくガキだな」


 パシッ。パシッ。パシッ。


 が、何の苦もなく3枚の硬貨を手の平で掴み取る。


「んなっ!?」

「確かに3バレルだな」

「こ、このやろう。取られたのはまだしも怒りもしないとは」

「お前の考えに乗るよりこうした方がいいと思っただけだ」

「ぐぬぬ・・・」


 まさかリアルでぐぬぬと言う日がこようとは・・・。



「ほら消えたぞ」


 彼の嫌がらせあと、門番は約束通りに彼の手の甲から記号式を消してくれた。


「おお~。やっと自由をこの手にっ。これから色々自由にやって生きるぞ」

「全くとんだ子どもがこの町に来たもんだ・・」


 笑顔を見せる彼だが、子どもの無邪気を一切感じない老兵は、後先が不安そうに彼を見る。そしてその不安が悲しいことに現実になって現れていくのである。


 今日からが本当の異世界生活。よしやるぞ!今後の生計から迷宮について、装備や魔法。特にあの数のモンスターに挑む方法も考えないとな。ほんとにやること一杯だ!



             そして一週間後。彼の生活は激変した。



本編の投稿が1週間~2週間掛かりそう。


2019/10/27 サブタイトル変更

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