21.5話 与吉の余談
吾輩?は蜘蛛である。名前は与吉。ある日、ある男に捕まってから一緒にいるようになって、そう呼ばれている。
これはある日の出会いからの吾輩?自分?私?僕?の回想?思い出?分からないけど昔の思い出を書かされて?書くことになった。
チッ!?
「おお~・・。うむ、大きさといい、重さといい・・・」
「あんた・・素手でモンスターを捕まえるようなものじゃないのよ?」
最初はこんな感じ。確かあの時は何かエサないかな~ってウロウロ歩いていただけだったと思う。そしたら目の前に自分より大きい2匹のモンスターがいたんだ。それから頑張って威嚇したけど捕まってしまった。
「ヤダ。この子飼う」
「子どもかっ!あんたは!」
「子どもだよっ!見よこのつぶらな瞳!こんな目で見られたら心にくるものがあるでしょっ!」
そして2匹はどちらが自分を食べるか喧嘩を始めた。逃げたかったけどしっかり捕まえられていたから無理だった。そしたらもう1匹の方と目と合ってしまった。糸を吐きつけた。死にかけた。何故か自分を捕まえていた奴も死にかけた。だけどそいつは最後まで離さなかった。何故だろう?
それからずっと一緒いた。よく分からないけど自分を捕まえた奴は、自分を逃がそうとせず、もう片方のモンスターや他のモンスターから守ってくれる。おこぼれもくれる。糸を貰おうとしたりする時もあった。
今まで経験したことない事ばかりの連続の日々になっていった。初めて『楽しい』というのを知った。だから自分はいつの間にか逃げようとは思わなくなったんだと思う。
ムシャシャシャシャァァァアアアアーーー。
あれは人生の中で一番衝撃的な味だった。初めて迷宮を出て、初めてお店と言うことろで肉を食べた。その時自分は味覚を知った、違う、知らされたのだ!あれは素晴らしかった。今でもあの肉の味が一番の思い出。あれは言葉にできない。思い返すだけでお腹が鳴る。だからこれ以上は書きたくない。
でもその肉の味が自分の全てのきっかけになった。
それからも色々とあった。また迷宮に戻ったり、何か描かされたり、でも描くと何故かクラリオンは何とも言えなさそうな顔をしてきたり。どうやら自分には描く才能があるらしい。だから偶に描くのを手伝ってあげていたりする。
あとミヤ?ちゃん?あれは自分達と何か近いものを感じた。多分だが地上のモンスターの中でもかなり強い方だと思う。
「はい。リピートアフターミー。『ステータス』」
チチーチチ。
これは自分のステータスを出させようと自分にクラリオンがステータスの発音を教えてもらっている時だ。だけど自分はステータスなんて知らないし、何をさせたいのか分からなかった。けどなんかリズムが良かったからついつい脚が動いてしまった。
チ!?
いきなり何かが出てきた。いきなりだから本当に驚いた。どうやらそれがステータスと呼ばれるものらしい。だけどあの時の自分はステータスなんて分かるはずもない。自分からすればいきなり現れた光る何かでしかないんだから。
けど何を思ったかは知らないけどクラリオンはとてもはしゃいでいた。ああいう時はお店で何か食べに行く時があるから、またあの肉が食べられると思って嬉しかった。出来ればあんな肉を毎日食べたいものだ。しかし今は食べれば食べる程不思議だ。あんな肉の味をするモンスターなんているのだろうか?しかも味だけじゃない。何というか・・そう、あれだ。匂いだ。匂いも違う。偶に鼻をツンとさせるような刺激がある匂いとは違う。鼻からお腹にまで刺激を与えるんだあれは!自分は今度はいつの間にか風味まで知ってしまった!まさか肉の一つ二つでここまでモンスターは変わってしまうとは!
閑話休題。
しばらくミヤちゃんとクラリオンと自分とで迷宮に行く日々が続いた。別に迷宮に行くのには問題はない。けど迷宮に潜ってる間お店に行く機会が減るのはいかがなものか。しかもお店に行かない日も多くなった。なので自分は一人でお店に行ったことがある。しかし何故か食べさせてくれなかった。むしろ追い出されるか追われることもあった。
チチィ・・・。
自分が人ではないだからだろうか?それともクラリオンがいないからだろうか?ここは迷宮以上に複雑な世界であることを思い出した。だから人を観察してみることにした。
だけど分からなかった。人は脚が4本しかないのに器用に複雑に動かして、何をしているか分からないことがあまりに多い。だけど一つ分かったこともある。人は何か色々と身に付けている。道具やら武器やら変な物とかも。そして人がいつも身に付けているものがあったことに気づいた。お金と言うものだ。
チチチ・・。
人はいつもお金を手に持って人に渡す。そして何か違う物を持って行く。全く意味が分からないけど、買物と言うらしい。思い出せばクラリオンもそれを持って外に出て買っている?かは分からないけど何かお金とは違う物を持っている時があった。
チッチ?
これがあれば何か買物?ができるんじゃないかなって?そう思ってある日クラリオンにこんな話をしてみたんだ。
チチ~・・。チ。チッチ、チィ~チ。
手伝うはいいけど・・。お金。お金が欲しい、たくさん。って言ってみた。
「えっ!?ん~~・・・ん、あい分かった。しかしお金を要求してくるとは、ちょっと驚き」
そしたらくれると約束した。それから手伝いが終わって1ハクと30バレルを貰うことができた。ただ未だにお金の価値とか種類と言うのが分からん。足りないとかお釣りと言われも困る。なんでそんなよく分からないことをするのか人は不思議だ。
とにかくお金を貰った次の日は、これで買物をしてみたんだ。
「安いよ~安いよ~。ランチョウの卵が五つで6バレルーーー」
「これはいい品だよ旦那。見た目は普通の剣だが、ちょっとした合金でね、使わているのが・・・」
「こんな日には冷たい飲み物が一番!氷で出来たグラスでうちの店で一杯いかがですかーーー!!」
初めて買物した日はいつもと違う感じだったかな?いつも聞き慣れた騒音が変に聞こえてくるんだ。それともいつもは持ってないお金の重さがあるせいだったかな?よく分からない感覚になったよ。
チチィ・・。チ~~・・・。
だけど買物は中々に難しい。だってお金があってもまだ追い払われたり追われたりした。やっぱり人は複雑だとしか言えないね。だけどクラリオンと良く行く店の一つに入ってみたらさ、最初は驚かれたけど拒みはしなかったんだ。
「あれ?まさかクラリオンのところの蜘蛛?」
「どうした?何かあったか?」
「いや、それがクラリオンがいつも頭に乗せてる蜘蛛がいますよね?それがなんか今いるんですよ」
「ああ?近くにあいつがいるんじゃねえのか?」
「それがいなくて。あと何か持っ・・。店長すいません。なんかお金出してきたんですけど。え?これどうすればいいですか?」
「おい、変な冗談言ってないで戻ってこい。その内あいつが来るだろ」
「いやでも何かメニューの料理を指してきたんですが」
「だから変な冗談・・・マジだな」
「マジなんですよ」
それからは大変だった。お互い言葉は理解できないし、自分は文字が読めるわけでもないから、人が良くやる動きをしてみたけどさ、向こうは困惑を隠せないと言う感じで。
「どうします?」
「どうしますってお前・・。いやでもあいつの蜘蛛だしな~。普通ではないと言うの大いにあり得るからな~」
「ん~~。ん!?店長!これ1ハクと10バレル硬貨ですよ!」
「おい、その蜘蛛はお客様だ」
だけど何とかご飯を食べることが出来たんだ。やっぱりお金は買物できる物だと分かった瞬間だったね。けどもっと言えば本当は違うの食べたかったけど。それでも最初の買物は大成功だ。
それから自分はクラリオンからお金を貰っては買物をした。最初は追い払われる店が多かったけど、今では向こうも慣れたのか追い払らうことはしなくなったし、お金を見せると普通に中に入れて貰えるようになった。
そして香辛料と言うのを知ったんだ。今まで買物で食べたあれは料理と言って、香辛料は料理を美味しくする物らしい。だけどそれは食べて不味かった。
ヂ・・・ッ。
どうやら香辛料は料理の調理する時に使うものらしい。しかし自分にはそんな複雑な事は分からない。なのでクラリオンに買った岩塩をあげて調理を見てみようと思った。
「なぜ岩塩」
とても不思議そうな顔したのだが、直後クラリオンはミヤちゃんの襲来によって連れて行かれてしまった。
チチ・・・。
ミヤちゃんの襲来。つまりこれはまた迷宮に行かされるかしばらく忙しくなるだろう合図だ。こうなるとクラリオンに料理も調理する時間が出来ない。
だからこの時、自分はこれはもう自分が料理してみるしかないのでは?と思い至った。美味しい物を食べたい。ただそれだけで自分が料理に携わっていく一歩になるとは思わなかった。ここから自分は料理人への道になったのである。終わり。
おまけ。
「んーー。試しに書かせてみたけど、そんなこと思っていたのか・・。よしそのまま小説に載せるか」
「あんた・・。与吉に何を書かせたと思ったら、まさかあのフィクション小説に載せるつもり?」
「あれはノンフィクションライトノベル。与吉の話やこの際皆の話を盛り込もうと思って」
「そう言えば本の売上が雀の涙らしいわね」
「・・うっさい。自分が満足すればそれでいいんだよ!」
与吉の話でも入れようかなと思いまして・・・。
2020.06.09 タイトル話数表示ミスを修正。




