第21話 わぁ~凄いそよ風~
前回のお話。町の外に倉庫を作り終えて、ミヤちゃんとの迷宮探索することになったわけだが、急遽ミヤちゃんがスキルを覚えたいと彼の部屋に凸してきた。しかも拒否出来ず、彼の空船建造は遠くなりつつあるのであった。
「あ~。マイクテス、マイクテス・・。はぁ~~い。今日から一旦迷宮探索は中止になって、スキル教室を開催するはめになって、なりたくもない指導役を任されたクラリオンで~~す。どんなスキルを教えようが文句は言わせない。そこだけは覚悟しておけ」
お手製のマイクを握り、シルル教会の外で気だるそうにだけど最後の言葉だけは、はっきりと伝える彼ことクラリオン。シルル教会でスキル教室を絶賛開催中であった。
「クラ、すげぇ面倒くそうだな」
「あはは。だけどスキル覚えられるのはいいよね」
「なんで私も参加することになってるのよ」
「そりゃ、ミヤが『一緒にやる』って言ったからだろ」
「はあ。ミヤにも困ったもんなのよ全く」
そしてそこには、いつものメンバーたるメルダー、クロエ、マルリがいた。
ミヤちゃんがスキルを覚えたいと言うことで、翌朝から急遽始まったスキル教室であり、皆にも声を掛けて一緒に覚えようとこんなことになっているのであった。なおミルティアは治癒スキル以外を覚えられないから不参加である。
「んで、クラ。何、教えてくれるんだ?」
「それなんだねよ~。実際問題・・」
メルダーに聞かれた質問に悩む彼。スキルを教えると言っても前回に書いてあるが、簡単に教えられるものはない・・。訂正。誰でも簡単にスキルを教えるどころか覚えさせられる方法が昨晩見つかった。
その昨晩と言うのが・・・。
「スキルを教えろか~。とんだ無茶振りさせられたな~~」
どうにかしないと命が飛んでしまう事になった彼は、急遽ミヤちゃんにどうスキルを教えることに悩まされていた。しかしずっと悩む訳にもいかないので、あれこれと考えみると・・・。
「あ。確か何だっけ?魔術書?魔導書?なんかそんなスキルの本があったな」
それは彼がこの町に来て最初の頃、スキルを覚えようと買ったスキルの本を思い出す。ただ。
「ん~~。でも実際にこの本の通りにやって覚えられるかどうか・・信憑性がな~」
スキルを覚えようにも彼には無理であったし、その時いたミルティアはこれが本物のスキルの本であることは言っていたが、2人共は何故かスキルを覚えられない体質であったりと、この本の通りに本当にやって覚えられるか分からないのだ。なので彼の中では半信半疑の本でしかなかった。
「武器とか記号式ならちょっと教えられる自信はあるんだけど・・」
代わりに彼はスキルの代用として武器や記号式を駆使しているから、その辺りは素人よりは詳しい自信はあった。しかしミヤちゃんに新たに武器を与えるとか有り得ないし、記号式はそう簡単に覚えられるものではないし、何より理解に時間が掛かる。
「はぁ~。どうしたらいいんもんかね与吉~~。下手したら明日死ぬかもれんし」
チチィ?
今一つよく分かってない与吉は頭をかしげる。そんな姿にまたある事を思い出す。
そう言えば与吉に専用スキルなるものを付与したことあったな。
以前『スキル開発』で与吉に『ジャンプの極意』を付与したことだ。これを使ってミヤちゃんにスキルを教えるとは違うがスキルを身に付けさせることはできるんじゃないかと思い至ったのである。
そしたら彼に妙案が浮かんだ。
ふむ。適当な修行させてある程度したら『スキル開発』で適当なスキルを与えればよくない?修行で時間が空けば自分の自由な時間が手に入るのでは?あれ?これ結構名案じゃね?との具合で再び自由な時間を得ようとまた小狡いことを練り始めたのだ。
そして、あれ専用スキルと言う文字があると怪しむやら、あれ『スキル開発』がバレたら厄介やら、どう上手く隠せるか騙せるか再び『スキル開発』について模索を始めたのである。
それで・・・。
「思いのほか『スキル開発』って融通利いたんだな。見逃していたな~」
意外と製作したスキルは設定やら説明欄など詳細なところまでいつでも編集かつ変更(極端な変更でなければ)可能であったことを発見したのだ。
※実は過去に彼はそこまで設定できることを色々操作して知っていたが、今まで忘れていただけ。
そんなかんやで彼はミヤちゃんにどんなスキルを付与してやろうかと幾つかスキルを作ることに成功したのである。
話はシルル教会に戻り・・・。
「んで、クラ。何、教えてくれるんだ?」
「それなんだねよ~。実際問題・・」
幾つかスキルを作ることが出来たのだが、どれもミヤちゃん用に考え込まれたスキルであり、メルダー達に教えることは考慮していなかった。と言うよりメルダー達もいるとか今知ったばかりで、さてどうしようかと悩む事態が起きていたのだ。
いや、まあメルダー達にも教えられないことはないんだよ。何かあれば編集はいつでも可能だし。だけどな~・・・・。
今まですんなり物事を終えた記憶は少ない。先日のミヤちゃんに言い返された事もあって、メルダー達に教えても大丈夫なんだろうかと疑心暗鬼の如く不安が積もる。
「お~~いクラ~?どうしたんだ?」
「また凄く悩んでる顔してるね」
「どうせどうでもいいことで悩んでいるのよ。今までこいつがまとな事考えたことがあるのかしら?」
「まああれだな。こうなるといつものパターンになるよな」
「あまりクラリオン君も学習しないよね」
「ミヤ。始まらないからヤっていいのよ」
もはや恒例と言わんばかりに皆はミヤちゃんに目線を向ける。そんな期待にミヤちゃんは肩を回すなど軽くウォーミングアップを済ませ彼に近づき、クロエはその間ミルティアを呼びに行き、メルダーとマルリは事の顛末を見届ける。そして・・・。
「・・クラ」
「ん?あ・・」
ミヤちゃんに呼び掛けに気づくもガシッと身体を掴まれた時点で全て彼は察する。あ。これ逃れるのは無理だと。
「ヴッ・・ン゛ッのヴぁ・・」
「遅い」
「大丈夫だクラ。もうクロエがミル姉呼びに行ってるから」
「折れる鈍い音も聞き慣れたもんね」
鯖折りを受けて地面に崩れ落ちる。
「あら?でも珍しいわね?いつもならミヤ止めても噛み付くのに噛まないなんて」
「成長したってやつじゃね?」
いつもなら更に首後ろを噛んでくるもんだが、スキルを教えを乞う立場だからかミヤちゃんが嚙み付かない珍しい光景にメルダーとマルチは目にした。
いや、普通はね骨を折るとかいけないよ?Byクラリオン・・。
口にすると身体が辛いので、心の彼はとりあえず辞世の句は言っておく。その後ミルティアが来て「死んだらこの本読んで自分達で覚えるようにとあとこれ、死んだ時の遺書です」とスキルの本と遺書を託しておく。
茶番劇が終わりスキル教室は再開して。
「じゃあスキル教室を再開するぞ~。なんかもうどうでも良くなってきたから」
「よっしゃ!何教えてくれるんだ?」
「ミヤちゃん達に教えるスキルは『重圧パンチ』になりま~す」
教えるスキルの名前を出すとにさっきまでテンション高かったメルダーにミヤちゃん達は・・・。
「なんか思っていたのと違う」
「パンチ・・・」
皆微妙そうな顔になる。
「お前ら、文句あるなら他の人から教えてもらえ」
「クラのことだからもっと凄いの教えてくれると思っていたんだよ!」
「自分もかっこいいスキルを覚えられるんだったら覚えたいわっ!」
「クラ。どんなスキル?」
とりあえずミヤちゃんはどういった効果があるのか知ってから彼をどうしようか考えた。
「まあ普通のパンチより攻撃が痛くなるスキル。正確な効果は一発に殴るパンチの威力をスキルレベルに合わせて上昇する。と言う感じ」
「ん~~」
「本当に普通のスキルだ」
「素直に微妙」
「お前ら・・」
彼が『スキル開発』で昨日作ったそのスキルは、可でもなく不可でもなく、だがまあ戦闘に使えることは使えると言うスキルである。
あのな。普通にまともに使えるスキルを作ることに成功したスキルなんだぞこれ。我ながら数少ない傑作スキルなんだぜ。
だがその『重圧パンチ』には結構な隠し情報が盛られているのであった。
一つ。取得条件が『重圧パンチ』を取得してる者からの指導が無いと習得できない。
二つ。とりあえず20日間、指導者はそれっぽい指導内容で、それを取得希望者がそれを従事してくれたら20日間で自動習得できるようになる。
と言う自分が作ったスキルが変に広まらないような仕組みと指導が面倒だから適当かつ楽に教えられるように、自分の自由時間が欲しさで当たり障りのない指導日数したり、詳細が彼以外見れないようにしているのだ。
「ん~~・・」
そしてミヤちゃんはスキルの効果を聞いてから唸っている。すると無言で拳を握り、彼の目の前で勢いよく突き出した。
「わぁ~凄いそよ風~」
ついでに冷や汗も流れた。
「それ。必要?」
「ちょ、ちょちょ、ちょい待ち!いや本当に覚えて損は無いスキルだぞ!?」
「ほんと?」
「ああ。魔力消費無し、相手のスキルによる威力低下を受けない優れものだ」
デメリットは、他のスキルで威力が重複されないこと。使用後、数秒間は他のスキルが一切使えない拘束時間があること。
あとスキルレベルに対して威力上昇とあるが、パンチ力×0.02×ランダム数値(基本値1~10程度)と言う設定があり、スキルレベルによってランダム数値の基本最大値が上昇して、威力上昇分に当たると言うものである。
※例えばパンチ力を握力として置き換えて、30㎏出せるとしよう。そしてスキルレベルによってランダム数値が11になった。計算すれば30×0.02×11=6.6となる。この数値が威力上昇分としてパンチ力に上乗せされる具合になっている。
そしてこの計算から分かると思うが、ランダム数値の基本最大が上昇してもそこまで強くはないのである。しかもランダム数値だから常に最大が出せる訳でもない。
しかしこんな風に細かく設定の内容を紹介しているが内容はそこまで重要ではない。大事なのはそこまで詳細なスキル設定ができると言う事である。
それでミヤちゃん達は。
「それで皆どうする?他とか言ったら『重圧パンチ』の素晴らしさを伝える体感コーナーを実施するつもりです」
と言う彼だが、現在頭の中で他のスキルを皆にも教えて大丈夫なスキルに絶賛編集中である。
ミヤちゃんの発言よってすぐに変更しないといけないからな。
「・・・やる」
ミヤちゃんのやる宣言によしっ!と彼は喜ぶ。
「ん~まあミヤがいいって言うんだったら」
「僕は気にしないけど」
「私、そんなスキル覚える必要あるのかしら?」
確かにマルリが覚えても意味なさそうだが、そこは「マルリも~」とミヤちゃんが身体を密着させて参加させようとする。これには文句を言うマルリも仕方なく参加する。
「はあ。分かったからミヤ、分かったから離れなさい」
「んーーー」
しかしミヤちゃんは離れずにじゃれつく感じで離す気配は無い。
なんで自分だと骨折ってくるのにマルリには折らないんだろうか。
沸々とこの光景に何故か納得がいかない彼だった。
それで・・・。
「上上、下下、左右左右と言いながら拳を突き出して心でBA、を一日100回、10日続けて行う。はい皆これから頑張るように」
いちよ言うがこれは『重圧パンチ』の修行内容の話である。
「「「・・・・・」」」
もう一度言うがこれは修行内容の話である。
「もう一度聞くわね?今なんて言ったのかしら?」
一番乗る気が無かったマルリであったがもう一度聞き返してみるが。
「上上下下左右左右と言いながら拳を突き出して心でBA言って一日100回10日続けて行うと『重圧パンチ』が覚えられます」
「・・・ミヤ」
「ん」
あまりのふざけた説明にマルリの呼ぶ声にミヤちゃんは分かってると言わんばかりに彼に近づく。
「ちょっ!?まっっ!本当なんです!!そう言う設定コマンドがあってっ!!ステータスで何回できたか確認できる優しい設定もああ゛あ゛あ゛あ゛ーーーーーーーーっっっ!!!」
彼曰く、だってこのスキルだって昨日の今日で作ったようなものだから、修行内容とかそこまで考えていなかったんだよね。それにどういった修行内容がいいか思いつかなかったし、とりあえず形にしようとしたらさ、あのコマンドが浮かんでそのままにしていただけなんだよね。それに今から考えるのも面倒だし、まあいいかと思ったけど、うん、今思うと後悔しかなかったな・・。とのことである。
「・・マジでステータスのスキルのところに何か出たぞ」
「本当に出たの?」
「何か『重圧パンチ』取得まで9日99回って書いてある」
「ほんと?」
「信じられないのよ」
彼が言ってたことを馬鹿正直にメルダーが試したら彼が言ってた通りにステータスに回数確認が本当にできて、それにクロエ達も渋々やってみて・・・。
「本当に出た」
「ほんとこいつ何なのよ!!」
「・・・・」
皆自分のステータスを確認するとメルダーと同様の文字が見えたらしい。そして彼はと言うと・・・。
「・・・・・」
辛うじて息はできるが見せられないグロ画像ものとなって放置されていた。
まあ、ふざけた説明で皆から放置された訳なのだが、真実であったことが発覚して仕方なさそうに皆は彼を見つめた。
「じゃあミル姉呼んでくるね」
「でも世の中ってこんなスキルがあるんだな」
「世の末なのよ」
「・・・・・」
再びクロエがミルティアを呼びに行き、他の皆はこのスキルについてあーだこーだと言い、ミヤちゃんは終始納得いかない顔であったという。
ねえ、この世界の神様。普通なら事件だと思うのに、それが教会で起きてるとか監督不行き届きものだと思います。あいつらにそろそろ天罰あってもいいんじゃないですか?
ともあれ納得いくいかないはあれど、ミヤちゃん達は『重圧パンチ』のスキル習得の為にふざけた修行内容をしばらくやっていくしかないのであった。
さらに文が短くなったけど、とりあえず書けたので出したよ。あと自分が予定していた話数の構成が大幅に変更になって、一体何話まで序盤になるんだろうと遠い目になっているよ!




