第20話 ここに倉庫を作ろう!
前回のお話し。空船建造の為に浮遊石をバーバリエ宿屋に持ち帰ることができた彼であったが、宿屋で問題を起こしたり、ミヤちゃんにジャーマンスープレックスかけられたり、犯罪になるかもしれないが彼は町の外に倉庫を作ることにしたのである。
「母を訪ねて一万里と言うアニメがあってさ。母を探しに地球一周しかけた子どもがいたのよ」
チ~~。
「それで思ったんだよね。今の自分達・・・一体何里飛んでいるのかな~って」
町の外に倉庫を作ることにした彼は、ミヤちゃんから休みをもらって、町の外を飛んで現地調査をしながらどこに作るか良さげの場所を探していた。
そして最初の頃を思い出してほしいが、この町の外は東西南北人類未踏地である。
前にも説明はあったから詳細は省くが不法投棄は場合によって国家犯罪。しかしどの国の領土でもなく、さらに奥地となれば不法投棄になろうとも違法と捉えられないのでは?とわざわざ彼が転生した場所、北にそびえる絶壁の大山脈の向こう側をずっと飛んでいるのだ。
「自分が転生した場所は通り過ぎ、さらにその先地平線は先の先まで森に草原・・」
本当にとんでもない場所に転生されたもんだな~。
チチ?
「ん?自分が転生した場所があってだな。まあいわゆる自分は転生者だったのだよ」
チ?
ここで少し彼はあまり言わない自分の身の内話をしたのだが、一体何を言ってるか与吉は頭大丈夫かな?と分かってない。
「ん~。自分で言うのもあれだけど結構衝撃的だと思ったんだけど・・まあ仕方ないか」
少し与吉の反応の残念がり、今後は手に持ってる道具に目線を移す。
「時間的にも宿屋に戻らないといけないし、ついでにこのロング見つけん棒もこれといった反応も無いし・・。この辺りで切り上げるしかないのかな~」
現地調査のついでに何か見つからないかミシャロ商会で買ったダウジング棒を持ちながら飛んでいたのだが反応もなく、また彼は残念がる。
チチ。チィ、チッチ。
「ちらほら動物?モンスターぽっいのはいたよな~。いや~歩く方向違ってれば、こんなところをうようよしていたのか」
荒地とは言わないがボードで地上を見渡せば進めば進むほど草木が少なくなってくる大地に本当に自分は危ない場所で転生されていたんだと再度彼は思う。しかもこれ以上は進展なさそうと引き返そうとしたが・・・。
「ぬっ!?」
手に持つロング見つけん棒が異様な動きをしだす。
「なんか凄い反応してるっ!?え?なんか近くにある?特に何もないけど・・・」
すると彼は与吉にもその先にあるを指した。
「っ!与吉!アレを見てみろっ!!」
チ?チィィーーーーーーーーーーーーーーーーーッッ!!!!
どこかのバラエティーにあったノリで彼らが見たものとは・・・。
「何という一本・・野糞」
とんでもなくデカい黒くて茶色い山になってる何かであった。確かに見え方によっては巨大一本野糞にも見えなくないのが、そう言ってしまえばそれにしか見えなくなる悲しいところ。
「しかし本当になんだろこれ。間違いなくロング見つけん棒はあれに反応してるけど」
ともあれ近付いてみると山の正体が何のか分かった。
「これは・・鉄か!」
小山はなんと巨大な鉄塊であった。しかも『万物追及』で色々と表面を探るってみると。
「ん?だけどこれ・・鉄以外にもちょっと色んな金属が混じってるな。別に珍しくはないことだろうけど・・。う~ん、何だろう。何か違和感あるんだよな~」
色々と金属をいじくる機会があったから少し金属に詳しくなってるわけだが、どうも違和感があるらしい。しかもそもそもな話、こんな山のような鉄塊が自然界でできるものじゃない。あきらさまに不自然なのである。
「人類未踏の地で鉄野糞・・。人であるはずもなく、モンスターとか?」
鉄を排出するモンスター・・。でもこんな大きさの排出するなら結構なサイズ・・。
「ん~流石異世界・・想像の域が出ない。しかしこれが何であれ鉄塊であることに変わりないっ!有難く使わせて貰おう!!」
空船、延いては戦艦を作るろうとしてるのだから非常に嬉しい発見でしかない。細かいことは気にせず彼はここに倉庫を建てる場所に指定する。
「ここに倉庫を作ろう!」
そう彼は高らかに宣言した。
そしてバーバリエ宿屋へ戻り・・・。。
「あっぶね・・。お隣さんにまた被害が出るところだった」
あれからあの鉄塊の山を後にして、間一髪で浮遊石が暴走する前に宿屋に戻ってきた。
もう少し遅ければ重力の影響でお隣さんの部屋の人がベットの下敷きになるところだったかもしれないと安心するが、彼が泊る部屋のお隣さんは色々やらかす彼に数日前から宿屋から出ていってたそうな。
「さて、倉庫を作る場所は決まった。あとは建築材料を確保するだけか。まあ材料は明日買いに行くとして・・」
焦った心を落ち着かせながら、重力を制御する記号式に足を置いて魔力を流して次のことを考える。
「建築知識あるわけじゃないんだよな~~」
倉庫を作ることを意気込む彼だが、本格的な建築知識なぞ彼にはあるわけじゃない。
しかもそこは人類未踏の地でもモンスターはいるだろうし、さらに暴走するだろう浮遊石や魔導石を置くとなると倉庫とは言わずに結構頑丈な建物にしなければいけないかもしれないと考え始める。
「う~ん。もはや倉庫じゃない頑丈な建物にしないと駄目かもしれん」
兎にも角にもまずは建物の構造とか建築に関する情報を集める為にステータスからネットを繋げて調べてから考えることにした。
チチィ~~・・。
この行き当たりばったりな彼の姿に不安しか感じない姿に与吉は心配そうに見守るのであった。
翌日。
「よし。今日は資材集めだ!もし今日のうちに倉庫を作れれば、浮遊石も魔導石も置いていこう!」
彼がまず向かったのは家具店。店主からどこから材料や材木を調達してるのか、この町でお勧めの場所とか情報収集から始める。
「お前さん、噂の子どもか。ん?どれも俺が作った家具だぜ。あと聞いたぜ。お前さん、宿屋壊したんだろ?おがげで家具を新調する輩が増えてな。ちっとばかりこっちの業界は儲かりもんよ。んで、お前さんも新調しに来たのか?あん?オーダーメイド?構わないぜ。ん?今度はなんだ?どこでその材木を買ったのか?おすすめ?倉庫街の材木店からだよ。内壁側の13、14だったか?んでー4-1番辺り。まあ行けば分かるぜ」
情報収集ついでに作業台とベットのオーダーメイドしておく。鉄塊の山の場所で寝泊まりすることもあるだろうから用意しておこうと思っていたからだ。
そして今度は、教えてもらった住所を元に材木店に向かう。
「丈夫で頑丈な材木と柔軟性がある材木?あるけどよ、買ってどうすんだ?倉庫?秘密基地でも作るのか?どうした?あ。それいい案だなって顔は・・。んっ!?そんな大量に買うのか!?お前、秘密基地を作る量じゃないぞ!?」
「秘密基地と言う良い名案を貰ったので、無敵要塞ザイガスでも作ろうと思い立って」
「もはや秘密基地ですらないっ!!?」
割とありかもと彼は思案するがそれは横に置いておき、とりあえず木材確保はできた。
そして彼はボードを用意して運搬準備を始める。
「与吉~。この材木、糸で固定して~」
チ~~。
「ボードの下にも吊り下げるから、ボードの方にも糸お願~い」
チチ~~。
「まあこんなもんか。あと風で揺れないように材木の両端にも糸を伸ばしてもらって・・・」
材木店でボードの運搬の準備を終えると早速彼は、鉄塊の山がある方角に飛んで材木を降ろしに行く。と言っても結構な量になるから何日に分けて往復する必要があった。しかも鉄塊の山がある方角に飛んで行くも、これといった目印があるわけもなく、たどり着くのに大変手間が掛かった。おかげで昨日の今日で浮遊石の無重力問題を引き起こしかける。
「あかん。何か目印がないと真っ直ぐ行けない・・・」
地図やGPSの偉大さ、昔の人はどうやって行くのだろうやら思い、そう言う時こそネットで何か調べて対策を考えようと思った彼。しかし・・・。
「ん?うちの倉庫に腐るほどビーコン商品あるよ?このビーコンボタンを押すと反応範囲にあるビーコンが光ったり音がなったりするんだよ。まあ反応距離は300~400mかな?」
ミシャロ商会にビーコン名なる商品が売っていた。迷宮探索の手助け用にと大量に在庫を置いているらしい。結構便利そうなアイテムだがそこはミシャロ商会、ボタンの反応範囲にある他のミシャロ商会の商品が誤動作を引き起こす場合があると言うのだ。一癖二癖もあるミシャロ商会製の突然の誤作動はただのテロだから売れずに倉庫行きになっている物である。
「う~ん、ミシャロ愛用者には使えないミシャロ商品。それどころか他の愛用者達にも被害に遭う可能性・・。まさにヤマアラシのジレンマ。接触したら集団自爆か」
「本部でも改良はされているんだけど。中々誤作動を引き起こさせてしまうんだよ。あはは。不思議なことがあったもんだ」
「確かに」
「だろ?それでどうする買うかい?」
「リスキーだが買おう!とりあえずビーコン100個でっ!」
危険ながらも場所が分かるビーコンを手に入れた。これを鉄塊の山辺りから配置しておけば、遠目でも少しは分かるようになる。
「ふう、これで少し心配事は減った。あとは材木の運搬が全部終わらせて建築まで出来ればいいが、これだけで無敵要塞は作れるものだろうか・・・」
横に置いていたものを割と本気で図案を頭の中で構築しているが、ミヤちゃんとの約束もあるからそう長く時間を掛けれるものじゃない。
「まあ時間が掛かることはやめるか」
なのでまた今度と再び頭の中で横にしておく彼である。
「まず安全に置ける倉庫を作って、それから鉄塊の山を整備して、造船所とか資材置場とかやっていきたいな~・・・」
そして数日・・・。
「遂に浮遊石の移転を決行したいと思いま~す」
チィ~。
「可能ならそのまま今日中に倉庫を作り終わらせたいとも思ってま~す」
チチィ~。
必要な資材は運び終えて後は倉庫を建てるだけになった。そして今日は同時に浮遊石や魔導石も持って行き、今日中に作り終わらせるつもりでもいた。
そして資材が置いてある鉄塊の山へ。
「よし。倉庫作り始めっぞ!」
早速彼はスキルを使って色々と操りだす。とりあえずネットから建築に関しての知識は仕入れたから、雑ながらも素人にしてはそれなりに丈夫な物は作れるだろう。そう彼は最初思っていた。
翌日。
「朝、目が覚めると自分が作った倉庫の全貌に違和感を覚えるのだった」
昨日、彼は倉庫を作り終えることが出来た。そして倉庫の中にオーダーメイドしたベットを入れて寝たのだが、気が付くと彼は外に寝ていた。しかも全身が痛い始末でもあった。しかしそれ以上に・・・。
「基礎的かつ最低限の建築技術で倉庫を作ったはず・・」
モンスターに襲われても丈夫なように鉄塊の山から重装甲並みの鉄板も作って、倉庫の壁にしたりと丈夫な作りにした。浮遊石が暴走してもバラバラにならないようにしたり、浮かばないように地面に固定させる杭も打った。
「なのに何で倉庫が宙に浮いているんだろう」
それでも倉庫が宙に浮いていた。そして自分の周りをよく見れば地面には吹き飛ばされた跡があった。
「与吉さんや~~。どっかにいるかね~~?」
とりあえず与吉がいないので声を上げると「チィ~~」と近くから声が聞こえた。
「あ~。いて良かった・・」
チィ。チッチ。チチィ・・チーー。チィーーチッ。
「マジか与吉」
チ。
与吉曰く、昨日の夜のこと。彼はベットに寝るも記号式に魔力供給できるようにして寝ていたのだが、ちょっとベットと記号式に位置が悪かったのか彼が寝返りを打ったら浮遊石が暴発したらしい。その衝撃で彼は外に吹き飛ばされて気絶してしまったとのこと。
与吉の話を聞いて改めてよく周りを見ると倉庫に付けてた扉がクの字に曲がって落ちているのを見つけた。見るからに激しく当たったんだろうと検討が着く。
「何か背中が凄く痛みはじめてきたんだが・・」
おじいちゃんように背中を丸くなる。
「あ。待ってさっきから痛いと思っていたけど、だんだん激痛になって・・」
大よその事情が分かったらからか激痛が身体に走り始めた。
「・・っ。しかし、あんなにやって倉庫が宙に浮くとは。正直ラピュタの如く成層圏まで飛んで行ってしまうかと思ったけど」
チチ。チ~~。チッチ(飛んで行きそうだったから、糸で繋げておいた)。
何と与吉は倉庫が飛んでいかないように糸で地上と繋ぎとめておいてくれたらしい。
倉庫の周り目を凝らしてよく見れば、光に反射する糸が無数見えた。
「有能過ぎるっ!これはお小遣いと何かプレゼントとお小遣いをあげざる得ないっ!!!」
身体の激痛を我慢して与吉を称賛する。与吉もどこか満足気であった。ともかくどこかに飛んで言ってもおかしくない浮遊石を飛んで行かせないようにした与吉の功績は大きかった。
その後は倉庫を地面に戻し、勝手に飛んで行かないように地面に刺していた杭を長さをさらに長くして、と倉庫の壁の鉄板の厚さを増して重りを増やすなどして、浮かばないように何とか突貫で倉庫完成にこぎ着けた。だが・・・。
「ん~。何か倉庫が傾いているような・・。まあ、空中に浮いても空中分解しなかったぐらい丈夫だったし・・これでいいか」
杭の固定が大雑把であったりと倉庫自体が傾斜角度4度になっていたり、とてもに雑な仕上がりになった。ともあれこれで浮遊石が置ける倉庫は完成したので、自由な日々に戻れるようになったのである。
だが忘れていけないのがミヤちゃんである。契約記号紙。約束その5。個人的諸事情が解決したら、その分掛かった日程分を迷宮探索を延長する。即ち倉庫の建築が終われば、ミヤちゃんの迷宮探索が再開される、否しなくてはならないのだ。
「ほら。ちゃんとクラリオン君戻ってきたでしょ?」
「・・ん」
だから彼は仕方なく今度はシルル教会に向かい、ミヤちゃんに会いに来たのだがミルティアがミヤちゃんを諌めていた。
「もしかして何かありましたか?」
ミヤちゃんが若干不服そうにしてる姿について聞くとため息まじりにミルティアは言った。
「はあ。そうですよ。あの記号紙を書いた次の日に一人で空船港を見張ったり、町の中探し回ったりしたんです。大丈夫だからと言ったんですけど、どこか勝手に行くかもしれないからって。そしたらクラリオン君、いつの間にか宿屋にはいないし、どっか行ったとミヤちゃん大騒ぎしちゃって」
「騒いでない」
しかも部屋で壁を蹴り、飛び、跳ねるの立体起動を繰り広げていたらしい。
「ミヤっ!部屋の中で暴れないでくれるかしらっ!?埃が立つのよ!!」
「なんかどんどん暴れぷっり増しているよな~」
「クラの影響だよね」
「男子!眺めてないで止めないかしらっ!!」
とミヤちゃん止めるのにメルダー達も大変だったのこと。
話は戻って・・・。
「でもクラリオン君は今までどこにいたんですか?まさか迷」
「ミルティア先生っ!例えそれが間違えでもミヤちゃんの前で言ってはいけない。分かるでしょ!こうなると理不尽な暴力が飛んでくることぐらいっ!」
ミルティアの言葉を遮るもミヤちゃんは、彼の言葉途中でもう既に襲っているからどちらにしろ遅かった。
「迷宮・・また一人で」
「ミヤちゃんストップ。行ってない!行ってないから!よ、与吉!証言台に立って!自分達は今までただ町の外にいたって・・っ!あれ!?与吉!?え?与吉どこ行ったっ!!?」
そう言えば教会に着いてから与吉が何も言わないなと思っていたら、いつの間にかいなくなっていたことに気づいた。
与吉は彼の倉庫を作り終えれば、また迷宮探索に行くだろうな~と感じていた。別に着いて行くのはやぶさかではない。ただ最近は地上の食べ物にハマって、彼からお金を貰ったりと買物したり買い食いしたり、そっちを楽しみたかった。なので町に着くと早々にボードから密かに離脱していたのだ。
「与吉ぃぃぃーーーーーーっっっ!!!!!」
助けを求める声なのか逃げていたことを恨む声なのか、どちらにしろ悲痛な声であることは変わらなかった彼である。
なおその後、契約記号紙の記載通りにちゃんとミヤちゃんと迷宮探索に行くことになった。が・・・。
迷宮探索から数日。食糧や消耗品の補給のために半日休みを取って、ミヤちゃんは一旦シルル教会に帰ることにした。しかしどうも浮かない様子なのである。
「・・・・・・」
「久しぶりに戻ってきてどうしたのよ?」
「なんかクラとあったのか?」
「まさか殺して・・」
そのようにマルリは最初に声を掛け、メルダー、クロエは遂にミヤちゃんは彼を殺してしまったのかと口にする。実際一番ありえそうである。
「マジかよミヤッ!?」
「モンスターにやられたことにすれば大丈夫なのよ」
「・・ちがう」
ちょっと間があったように感じたがミヤちゃんは否定した。
「じゃあどうしたのよ?」
「強くなってない」
「「「強く?」」」
メルダー達は何を言ってるんだろうと疑問が浮かぶ。
「いや、充分に強いと思うのよ。いつも骨折ってるじゃないかしら」
「この前だって首の骨折ってたじゃんか。あのままならクラ死んでたぜ?」
「ミル姉がクラリオン君の指の骨を治し終わった指をまた一本ずつ折っていくのに?」
メルダー達はいつも物理的に彼を締め上げられてるんだから、もう充分強いとしか思えない。
しかし一体彼は拷問じみた行為にどんな心情をしてるのであろうか?ともあれ話は戻り・・・。
「あれだけじゃクラに勝てない」
今まで迷宮探索をしてモンスターと戦い、強くなってるし目新しい物を見たりと楽しいことが多かった。しかし今回の迷宮探索で気づいてしまった。
元々は彼と同じくらい強くなりたいから彼と同じように迷宮探索を始めてから、今では一撃でモンスターを倒せるようになった。しかし迷宮探索が慣れるにつれて、最初の頃と比べてモンスターを倒せても最初の頃の高揚感は無く、何より彼との差が縮まってすらないことに気づいたのだ。このままでは意味が無いのだと。
はあ。ミルティア先生に怒られるのは勘弁してほしいのだわ。
そんなミヤちゃんの様子にマルリはこれ以上面倒事はやめてほしいと思うのだが。
「スキル・・」
「スキル?ああ。あいつは無駄にスキル持ってる・・・って、まさか」
ミヤちゃんが何か決めた様子に「はあ」とため息が出るしかなかった。
バーバリエ宿屋では。
「あ~またしばらく迷宮か~。こっちは空船とか色々やりたいのに。と言うか与吉、お前さんはどこに行ってんだい?」
チチ?チッチ。
彼は宿屋に戻れば今まで姿をくらましていた与吉が部屋でのんびりくつろぎでいた。別に怒りはしないが最近薄情になってないかな~と思いつつも、当の与吉は何かを持ってそれを手渡してきた。
チ。
「ん?お土産?」
手渡された物を見たら。
「なぜ岩塩」
なぜそんな物をとじっと見つめるとそこに・・・。
ドバアアアァァーーーー!
突如として部屋の扉が吹き飛んだ。
「何事!?」
「クラ」
「ミヤちゃんっ!?」
扉を吹き飛ばしたのはミヤちゃんであった。
「クラ・・。スキルを・・教えろ」
「ッ!!ヴ・・ミヤちゃんっ。マジで何の用デスカ・・っ!」
服の襟を持ち上げられながらいきなりお願いされたのである。
で・・・。
「えっと何だっけ?東京音頭の踊り方だっけ?」
「違う。スキル」
「聞き間違いじゃなかったか~」
でもなんで突然スキルなんか・・。しかも今日半日休みじゃなかったっけ?
束の間の休みを邪魔されるのは好かないが、彼は改めて聞き返した。
「んでどうしてスキルを?自分で言うのもあれだけど、まともなスキル持ってない方からな」
未だに彼は『スキル開発』で作られたスキル以外何一つ覚えてられていない体である。むしろこっちが教えられたいの方なのだ。しかしミヤちゃんはこう言い返した。
「・・誠にいかんながらクラしかスキルを教えてもらうしかなく」
「ミヤちゃん。自分の口ぐせ真似しなくていいから。ミルティア先生うるさいんだから」
「大変便利なことば」
「ああ。近いうちにまた殺されるのかな~」
実際のところミヤちゃんのスキル周りで詳しい人は彼ぐらい。ミルティア先生は治癒スキルだけで当てにはならず、ミヤ母はまたしばらく迷宮に潜るとかで今はいないらしい。なので頼れるのは彼だけ。
「でもさミヤちゃん。迷宮とかはどうするの?スキル覚えるやら迷宮潜るやら二つ同時は無理だと思うし、そもそもスキルを教える義理がない。物も無い。時間が無い。余裕も無い。諦メロン」
全く手伝う気持ちも思いやりもない彼である。しかしミヤちゃんはピクッと眉毛が動くが暴力には珍しく訴えなかった。と言うのも。
「約束その5・・」
「その5?」
彼が契約記号紙にブラックライトペンで書いた項目で『個人的諸事情が解決したら、その分掛かった日程分を迷宮探索を延長する』と言う文面。彼が町の外に倉庫を作る日程を確保する為に書いたものだが、そこをミヤちゃんは指摘する。
「クラはこれで休みを取った」
「うん、まあ」
「クラは使えて、ミヤが使えないことはない」
「・・・・・・・・」
今の言葉にちょっと深く考え始めた。
確かに倉庫建築の為に休みを得る為に書いた。内容は悪くはないはず。でも言われて見えれば個人的諸事情ってこれ自分じゃなくてもミヤちゃんにも当てはまる・・気もしなくもない。
若干彼に嫌な汗を書き始める。
え?でも解決したらって書いてあるから契約記号紙に書く前の個人的諸事情と解釈でき・・。できるよ・・な?
詳細に書いて無ければ、違った解釈も可能と言えば可能である。しかも彼の契約違反の項目に『死ねばいいのよ』と書かれた死の宣告付き。もしそれがミヤちゃんにも適応されて、その要求を拒否して契約違反になることとなれば・・・。
いやっ!でも!!
「これ・・」
そしてミヤちゃんはこんなことがあろうかと契約記号紙を持って彼に見せた。そしたら記号紙が光始めて。
「っ!胸が・・っ」
幾度もミヤちゃんに死地に追いやられたことがあるからこそ分かる死の感覚が身体に付きまとうのを感じ始めた。そしてダメ押しの如くミヤちゃんは彼にこんな言葉を送る。
「契約記号紙は約束を守るためじゃない。どう内容と罰則をかいくぐり実行できるか」
前にミヤちゃん達に言った彼の言葉であった。
「・・・・・・」
それに彼は言い返す言葉も無く、ただただ悔しそうな顔をするしかできななかったとさ。
そんな訳で次からはミヤちゃんにスキルを教えることになった彼である。
今回はいつもより非常に短いです。あまり書く時間も余裕も無かったし、とりあえず出来たところまで投稿しようと思った訳です。
どんどん投稿ペースが落ちてますが、気長に待って頂けると幸いです。




