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自由に気ままに異世界大陸指名犯 ー空賊ライフー  作者: クラ108
エピソード0 まだ最初の時
35/82

第19話 正直に言おう・・・。事故だっ!

 前回のお話し。パレス工房の自称美男子のお兄さんの協力の元、空船について色々と学ぶ。しかしミヤちゃんとの迷宮の活動の約束を完全にすっぽかし、ミヤちゃんの怒りに触れてしまうのである。



 ミヤちゃんに吹き飛ばされて一週間して・・・。


「ミヤちゃ~~ん。もう帰らへん?うち、もう疲れたんよ」

「だめ」


 あれから彼はずっとミヤちゃんが満足するまで迷宮探索に付き合わされた。

 モンスターをどちらが先に倒せるか、あそこには何があって何がいるのか、本当にミヤちゃんが満足するまで迷宮探索をやらされ続け、例え彼がヘトヘトになろうとミヤちゃんは足を持って引きずり回す。


「あ~~。自由が欲し~~。二度寝できるあの日が遠い~・・」


 さらに彼はシルル教会で寝泊まりしている。正確にはされている。というのもどっか行こうとするとミヤちゃんがガッチリと身体を密着させてくるか、締め技または絞め技、あと高確率で首後ろを噛んで離さないからだ。おかげで二度寝もできず規則正しい生活をされている。


 チチ。チ!


「クラ」

「はいはい。モンスターがいたんですね。倒しに行っていいよ。見守ってるから」


 そして与吉には悪いが今度は彼が教会で寝泊まりする間、部屋のまた留守を申し訳なく頼むのだが、勝手出掛けに行ってることを彼はまだ知らない。


「倒す」

「行ってら~~」


 見えたモンスターの近くでミヤちゃんを降ろせば、颯爽にミヤちゃんは短剣を抜き、一気に距離を詰めに行った。


「ふんっ」


 短剣一号に刃の炎の宿らせ、脚を数本切り落として態勢を崩しに掛かる。

 そして倒れかけるモンスターの顔にミヤちゃんは、接近して今度は短剣二号で顔全体を氷つかせる。そして氷漬けにされた顔にトンと短剣の柄で叩くと砕け散って、モンスターは煙となって消えてしまった。


「わー。ホントこの鮮やかな戦闘センスこわーい。幼女でそれだから将来がさらに怖くなるわな」


 この一週間だけでも戦闘の上達が尋常じゃない。プリエオルバの捜索の時は捜索に専念してたからそこまでモンスターとは戦わなかったが、それでも普通に考えれば戦える自体がおかしいとしか思えない。


「何かしらのスキルがあるとか?それとも獣人特有?ミヤちゃん自体が異質?」


 ミヤちゃんの不思議を考えるも、当の本人は何か納得してない顔である。


「・・・・・・」

「ん?どしたミヤちゃん?」

「何か違う・・・」


 何が不満なんだろうか?

 しかしその後もミヤちゃんは何後も無かったようにモンスターを狩り続けていった。


 夕方。


「どうする今日取れた魔石はギルドで換金する、それとも持ち帰る?」

「換金。あとお菓子も貰う」

「だな」


 ミヤちゃんもまたギルドのお菓子にハマったようである。


 それから数日、朝のこと・・・。


「ミヤちゃん様。率直に言いまして休みを下さいっ!マジで休みが欲しいんです!」

「ダメ」


 ミヤちゃんに休みが欲しいと彼はお願いするのだが。


「朝から抱き合ってあの二人は何を言ってるのかしら?」

「夫婦喧嘩みたいなやつか?」

「尻に引かれるね」


 お願いしてる場所は教会の子ども部屋。メルダー達はベットの上で抱き締められてる無惨な彼を眺めていた。


「皆~。起きましたか~~?顔を洗ったら朝ごはんですよ」


 そしてミルティアが部屋の扉から掛ける声に気づき皆は、朝ごはんを用意している部屋に向かうと、後に残った彼に日課の如くミルティアは聞く。


「それでクラリオン君、今日はどこ折られました?」

「肋骨辺りへんと両手両足のどこか2,3本折れてるぽっいです・・」

「私が言うのもあれだけど、自業自得とは言えクラリオン君大変ですね」

「休み欲しいだけなんです・・・」


 休みが欲しいと言う度に彼はこんな感じで朝を迎えていたりする。

 なおこんな彼にミルティアも同情してミヤちゃんに掛け合ってみるも・・・。


「ミヤちゃん。ずっと迷宮ばっかりだと皆と遊ぶ時間少なくなってきてると思わない?」

「罪をつぐなうのが先」


 彼に休みがくるのはまだ数週間後であった。



 そしてその数週間後・・・。



「許す」

「ありがたき幸せ!」

「3日」

「有給入れて5日で!」

「2日」

「日数減ってる減ってる」


 ミヤちゃんから休みを貰えた。いちよ休みは駄々こねて4日にしてもらった。


「休みじゃぁぁああああーーーーーーーっっ!!!」


 念願の休みに久しぶりに宿屋に戻って2日間は睡眠と堕落を貪った。



 そして3日目からは・・・。



「身体は万全とは言えないが時が来たっ!自分はこの日を持って浮遊石の回収に着手する!」


 チチ・・(またあそこに行くのか・・)。


 遂に迷宮最下層で見つけた浮遊石を回収する時が来たのである。

 この日の為に空船で浮遊石の制御の仕方を学んだのだ。ここで動かなければいつ行けるか分からない。


 ここからが彼の空船建造に着手する第一歩目になる。


「行くぞ与吉!もう休みは2日しかない。出来ればこの2日で終わらせたいんだ。駄目だったら・・多分次は全身複雑骨折もあり得るがそれは避けたいところ!すぐに行くぞ!」


 休みが終わって部屋にも居なくて迷宮に潜っていたとミヤちゃんが知ったら、あり得なくない話である。



 そして迷宮下層へ・・・。



「はい。着いた!ああ。道忘れてなくって良かった~」


 チィー・・・。


 浮遊石がある場所まで着けて喜ぶ彼と嫌そうな与吉。そこには変わらず天井に半分埋もれて上がろうとしている巨大な浮遊石があった。

 早速彼は運ぶ準備をすると与吉も仕方なさそうに手伝い始める。


「浮遊石。それは重力に反発する石。触ることも近づくことは危険で、運ぶには重力を弱める記号式を用した陣の中に入れる、または記号式の札を使って周辺の重力影響を弱めながら運ぶか、まあ方法は色々・・・」


 描き描きと地面に大きな記号式の陣を掘る彼と陣の形や大きさを指示する与吉。


「しかしここは最下層。運ぶ道のりが長い。しかも見つけた浮遊石は例ないだろう特大サイズ。多分何処かの道で詰まるだろうし、運び辛い」


 ならどうするのか?


「自分ならこうできる。いつもの如く『万物追及』で圧縮して小さくする。そしてボードに重力を弱める記号式の陣の紙を置いて、その上に浮遊石を置いて運ぶ。と言うかそれしか方法がない」


 空船の機関長も浮遊石の運び方まで専門外なので、空船の浮遊石の制御に使われる重力を弱める記号式しか学べなかった。


「また、重力関係の記号式にも色々と種類がある。純粋に重力を弱くする、重力の影響を一部のみ逃がす、これもまた様々」


 面白いのは浮遊石も魔導石の類だから、記号式に必要な魔力は浮遊石から得る永久機関のような組み合わせになっているのは関心できるんだけど、いかんせん魔力出力が低いから他から魔力供給も必要になるのは残念なんだよな~。


「よし、全部描けた」


 与吉に視線を送ると「チチ」と特に陣や記号式に大きさやズレが無いと確認する。


「あとはこの特製与吉糸を『万物追及』で浮遊石に飛ばして括り付けて・・引っ張る!」


 と言っても本当に糸で引っ張るわけじゃない。糸に『万物追及』のスキルの力を伸ばして浮遊石を操るためである。あと単純に近づいて手足を青くしたくないから近づきたくないのである。


 チチィ・・・。


 そして遠隔操作のように糸をスキルで操りながら、浮遊石に縛るのに相当時間と精神力を使った。まあ、やってることが台風の暴風雨で物が吹き飛ぶ中で針に糸を通すような作業だから心が折れかけていたとも付け加えておこう。



 それから・・・。



 チチチィ・・。


「いや、別に本当に糸で引っ張っているんじゃないんだよ?糸を引っ張っているのは記号式まで微誘導とか調整であって」


 息を整えて彼は浮遊石を地面に描いた記号式のところまで動かそうとしているのだが、糸にスキルを通して操っているだけで、別に本当に引っ張っているわけじゃない。しかし与吉から見ると本当に糸で引っ張てるようにしか見えてない。

 

「自分さ、ゲームとかのコントローラーを持つと手ごと動いちゃうタイプなのよ。今は手足動かして使うコントローラーもあるけどさ。なんかこう、なんか身体も一緒に動いちゃうだけだよ」


 疑い深そうに与吉は彼を見続ける。

 色々と言ってる彼であるが、結局のところ目視でも分からない程度しか浮遊石は動いていないのだ。


「・・分かった。見てろよ。今の自分の魔力6割ほど使って、一気に動かしてやるからな・・・。ふう・・。んっ、はははぁぁぁああああああーーーーーーーーー!!!!!」


 少し本気を入れて浮遊石を引っ張りに掛かる。するとゆっくりではあるが少しずつ動き始めた。


 チィ~~~。


 与吉は意外そうに関心した感じでその様子を眺め始めた。


「あ゛あ゛~~っ!待って!ちょっと動かすだけで馬鹿みたく魔力使うっ!?あかん!魔力効率が悪すぎるっっ!!」


 ステータスを開きながら自分の魔力数値が著しく減っていく速度に焦る。しかしそれでも浮遊石を引っ張ること数時間・・・。



「初めて魔力数値が100切った・・」


 苦労の末、天井の上を引きずりながら記号式の上まで移動させることに成功。おかげで浮遊石の魔力に記号式が自動起動して今は重力影響は弱まっている。


「だけどまだ近づけんな」


 チチ。


 しかし浮遊石が特大だけあってそれでもまだ重力は強い。今は魔力を回復しないと何も行動に移せなかった。


 そして魔力が2割弱戻ったところで・・・。


「記号式に一定の魔力を供給しつつ、浮遊石の圧縮作業するぞ」


 今度の作業は『万物追及』で浮遊石を圧縮して小さくする作業に入る。しかし彼はそこに不安が一つある。


「だけど大丈夫なのかな~~・・・」


 今までの経験で魔石を圧縮すると魔導石になった。さらに実験で魔導石を圧縮してみたことがあったが変化はしなかった。なら魔導石の一種である浮遊石を圧縮しても何も起きないと思うが、知らない未知の物質であるが故に何も起きないとも限らない。しかも今の魔力は心持たない少なさにも悩む。


「どうしよう。魔力が全回復するまで待つか、危険承知でやるか」


 色々と時間ロスが多かったので時間はこれ以上無駄にしたくない彼は。


「やるか・・。与吉危ないからちょい下がっておき」


 チ?チチ。


 与吉を下がらせて彼は浮遊石に出来るだけ近付ける距離まで来ると最後の力を振り絞るようにメキメキと浮遊石を圧縮を掛ける。


「っ!」


 そして圧縮される速度が遅くなっていく。

 やっぱ魔力的にキツイ!


「与吉!ちょっとボードから道具全部持って来て!」


 チ。


 道具に付いてる魔導石の魔力まで使いはじめた。


「ああ~流石我が魔導石!消費が和らぐ!」



 今持ち合わせる魔力を全て使い切り・・・。



「ザ・コンパクト」


 チィ~~~。


 巨大な浮遊石が正方形の3mサイズまで圧縮による縮小で非常にコンパクトになった。しかし重力影響範囲は変わらず近づけない。


「あとはボードの上にも記号式を描いた紙を置いて、乗せれるようにして・・。ん~部屋に入れるとなるとちょっとまた形状変えないと入れそうにないな」


 そして時間は深夜帯なってやっと魔力の6割が回復。時間が惜しい彼は全回復を待たずに強行輸送を考え始めた。


「うむ・・。魔力の5割を記号式に回せば、9割は重力影響をシャットアウトできる。残り1割でボードの移動に浮かう魔力でギリ輸送はできる・・か。与吉、武器や道具の方の魔導石はどんな感じ?」


 チチチチ。


「ギリギリの戦闘は可能と。やはり魔力が心持たないか」


 宿屋まで戻るのに大体半日は掛かる。しかも今は魔力の余裕もなく、早く飛ばすのも無理。間違いなく一日以上は掛かる・・・。


「与吉、戦闘になれば色々と頼む。自分は戦闘に回せる魔力はない。そして倒した敵に魔石が出てきたら回収もしてくれ」


 チチ~・・。チ。チッチ、チィ~チ。


「えっ!?ん~~・・・ん、あい分かった。しかしお金を要求してくるとは、ちょっと驚き」


 チチ(学んだ)。


 与吉、まさかの金銭要求。貨幣概念を理解していたことに驚きである。

 だけど一体どこで学んだんだろうか・・。


「とりあえずお金は帰ってからでいい?」


 チ。


「ふっ。なら決まりだ。覚悟して行くぞっ!!与吉!!」


 チチッ!


 彼と与吉は声を上げ、不敵に笑いながら強行輸送が始まった。



 2日掛けての輸送。そして朝・・・。



「時間掛かった割に案外壮絶な輸送にはならなかったな」


 チ。


「あとお金。1ハクと30バレルぐらいでいい?」


 チチ。


 時間は掛かったがモンスターに襲われることなく、ごく普通に帰ってこれた。ただ宿屋に戻り、浮遊石の形状を変えながら部屋の中まで入れてある事に気付いた。


「ふと思ったんだが、記号式で浮遊石の重力影響を抑えているけどさ。記号式に自分の魔力の半分も使って、この状態を保っているじゃん?これ、自分が離れたら大丈夫なんだろうか?」


 自問自答で無言になる。そして改めて自分部屋を見渡す。

 部屋にある魔導石を使えば大丈夫かな・・・。

 盛大に何かやらかしかねないフラグを立たせた。


「クラ。迷宮」


 そしてバーバリエ宿屋にミヤちゃん来襲。彼の4日間の休みが終わり、朝一で来たのだ。

 こっち2徹で眠いんよ・・・。


「・・・ミヤちゃん。眠いから寝ていいですか?」

「ダメ」

「与吉や~」


 与吉に助けを求めるが、お金が入った袋を持って買い物してくると言わんばかりに「チッチ」と言って出掛けて行ってしまった。

 いつから買い物するようになったんだろう・・・。

 そして彼は首根っこを掴まれながら宿屋から引きずり出されて、迷宮に行くのであった。


 で、夕方。


「クラ君!これどういうことかなっ!」


 今日は本当に疲れたから半日でなんとか迷宮探索の終わらせてもらったのだが、宿屋に戻ってみるといきなりアスラが待ち構えて怒っていた。しかし彼も何とな~く何があったか予想はしていた。

 そしてバーバリエ宿屋の中を覗くと・・・。


「わ~~。ここだけ無重力の世界~。フシギダー」


 物がそこら中に浮いていた。どう考えても浮遊石が原因しか有り得ない惨状。


「クラ君が泊ってる部屋の近くだと、壁があるようになんか周りが反発するんだけど!またミシャロから何か買ったのかなっ!」

「あ。その状態まずい」


 急いで自分の部屋に戻り、重力影響を受けながらも部屋に入って記号式に魔力を流して安定させる。しかし同時にバーバリエ宿屋全体から物が落ちる音や割れる音があちらこちらからに響く。無重力が無くなれば、浮いていた物が落ちるのは当然のことだった。


「ク~ラ~く~~んっっっ!!!」

「正直に言おう・・・。事故だっ!」


 今回限りは無茶苦茶説教された。無論弁償は当たり前である。

 なお、説教で聞く限り、ミヤちゃんに朝連れて行かれてから特に何も無かったらしいが、お昼から重力の影響が広まっていったそうだ。


「さて、部屋にある魔導石だと午前まで保った。時間にして6時間が限界か」


 早急にどうにかしないと。


「クラ君!まだお話しは終わってないからねっ!!」



 本当に早急にどうにかしないと色々と問題を起こしかねない事態に早速次の日・・・。



「空いてる倉庫ありませんかね?」

「それを冒険者ギルドに聞かれても困るんだがね」


 困った時はトクガワに相談と浮遊石を安全に置ける広い場所が必要と倉庫を借りられないが訪れるがそんな仲介はしてないと言われる。


「それでパーティーの仲間であるミヤちゃんは、何で君の首に嚙みついているんだい?」


 しかもミヤちゃんに今日の迷宮は無理と言ったら恒例の首噛みである。しかも中々離さないパターンで、仕方なく嚙まれた状態でミヤちゃんをおぶいながらトクガワさんに訪ねて来たのだ。


「深い理由も浅いも理由もないただの理不尽で噛まれてるだけ。まあいつものこと。あ。あと空船港でギルドから危険人物と名指しされていたんだが?それについて何か一言お願いします」


 ギルドのお菓子でミヤちゃんを釣ろうとするもそれでも首から離れない。


「生憎冒険者ギルドは物件の仲介はやってない。そう言うのは倉庫街の区役所で聞くか、個人で借り入れ頼むかぐらいだよ」

「おや?最後の話は聞こえてなかったのかな?今軽く無視されたんだが」

「私達も全て庇える訳じゃない。アラクニード爆破事件で既に君は目を付けられていたんだよ。あそこは軍営場所もあるし、情報開示を言われれば出すしかないだろう」

「・・・・・」


 自分が起こした問題だからぐうの音も出ない。


「はいはい、あれは自分が悪かったですよ。だけど倉庫の方はホントにどうにもなりませんか?結構辛い状況なんです」

「どうしようもないな」


 きっぱり言われた。

 そもそもこの町には倉庫の余裕がないのだ。ここの迷宮の町は他の町とかなり距離があるため、物資や迷宮資源の管理に倉庫は必要であり町の4分の1は倉庫街になっている。しかしそれでも慢性的に不足しており借りること自体が難しい状況なのだ。しかも彼は行政からブラックリストに載っているから、どこも貸しはしないだろう。


 そして・・・。


「今日はここまでか・・」


 部屋にある魔導石のみで浮遊石を安定できるのは朝起きてからのお昼の6時間のみ。それ以外の時間は彼の魔力で補う必要があるので、一旦宿に戻らないといけない。


ミヤちゃんと一緒に・・・。


「まずいな・・。夢に猛進し過ぎたせいか環境が追いつけないとは。しかも活動時間の制限掛かる始末で、ミヤちゃんのおまけ付き・・・」


 浮遊石を手にできたはいいが現状とんでもないデメリットを背負わされていることに悩む。しかもリアルで背負っているミヤちゃんからは部屋に置かれた新しい物(浮遊石)に怪しそうに指を差す。


「これ何?」

「ああ。迷宮で拾・・・」

「迷宮で・・?」

「・・・・・」


 迷宮に行ってたことをつい言葉が滑る。そのあとミヤちゃんが彼に何をするのか彼自身容易に想像できた。

 この異世界の葬式は土葬だろうか?それとも火葬だろうか・・・

 彼の短い異世界人生に走馬灯が駆ける。



 次の日。今日も彼は朝から物が置ける倉庫探しに精を出す。



「今日は駄目元でミシャロ商会に聞いてみるか」


 だがその前に・・。


「教会に行かなければっ」


 ベットから立ち上がると同時に未だに首後ろに嚙みついているミヤちゃんが引っ付いていた。そして彼の身体は傷だらけ。右腕は脱臼していたりする。

 なお治癒スキルで脱臼を治す場合は、骨の位置をある程度正常位置に戻しておかないと効果はない。


「自分さ、いつかミヤちゃんに殺されると思うんだよね」


 その後シルル教会に首を噛むのをやめようとしない嫌がるミヤちゃんを引き取ってもらい、時間制限がある中やっと彼はミシャロ商会に向かうが結果はやはり・・・。

 


「無理無理。こっちも貸してもらいたいぐらいだよ」

「ですよね~」


 分かっていたことだがミシャロ商会も同様に年中無休で倉庫不足である。


「でも君も倉庫が必要とするなんてね。大量に魔石でも取れたのかい?」

「まあね。部屋に置くのも限界になってきたし、ちゃんとした作業場も必要となってきたし。この間なんか問題起こしちゃったし」

「ああ。聞いたよ~。面白実験でバーバリエ宿屋が宙に浮いたんだって?商品開発部の連中が聞いたら詳しく話を聞こうじゃないかって耳を傾ける話だよ」


 バーバリエ宿屋で起こした騒動がすでに噂が広まっていた。それに彼はぶっきらぼうに答える。


「あれは不本意。まさかああなるとは思ってもいないし。部屋の中はぐちゃぐちゃで片付けるのも大変だったし、だから安全に物置ける場所を探す羽目になってるんだけどね」


 お互いの共通の悩みと言うか似ている現状から世間話が盛り上がっていく。そしたら

ミシャロの人からこんなアドバイス?を頂いた。


「でも物が置けなくなると、ついうっかりやりそうになるんだよね~」

「ん?何を?」

「勝手に倉庫を作るとかね」

「勝手に・・」

「でも町の中だと流石に無理だから外に作ったりしたり。で、物置になって、忘れちゃって、行方知れずになって。それで罰金取られちゃうことがよくあるんだよ。うちは」


 前にも説明はあるが不法投棄は国によっては国家犯罪である。当然、倉庫を勝手に作り、それを放置しているのならば不法投棄に当たる。


「・・・倉庫を作るか」


 彼はう~んとその話を考える。しかも・・・。


「あ。そうだ。新しく商品を追加したんだ。見ないかい?間違いなくこれは売れる商品だよ」

「ほお。それは気になる」

「君が良い魔石を発掘するから発掘道具がそれなりにどの店でも人気になり始めてね。だからうちもあやかってこんな物をね・・・」


 見せてきたのは水脈を探し当てるのに見ることがあるL字棒のダウジングのアレであった。


「これはまた・・」

「これは見つけん棒って言う名前でね。特別な素材で作られていて、魔石の反応があると二つ棒がこんな感じにクロスして場所を知らせてくれる道具なんだ。まあそこらの金属にも反応しちゃうんだけど、何かは見つかる優れものだよ。どうだい?」


 試しに持ってみると金属に反応すると言うより、動きが磁石ような反応に近かった。

 ネオジム並みの手にくる磁力の引っ張われ方に彼も楽しそうにそこら辺をダウジング。


「よし。これ買う!」

「範囲広めたロング見つけん棒もあるよ?」

「それも買おうっ!」

「ふふ。じゃあおまけもつけてあげよう」

「やったね!」


 ただ無駄な買い物をするだけで終わった。

 しかし良いアドバイスを聞けたな~。無ければ作る・・。うん、そうだよな~。今まで無ければ作ったり学んだりしてたじゃん。今まで通りやれば良いだけの話。ふっ。自分は何をやっていたのやら。

 と言うことで、違法と分かりながら彼は倉庫を作ることを決めた。


「無ければ作る・・。うむ。いい言葉だ。これ自分の座右の銘にしようかな?『無ければ作る』・・!!よし、決まりだ!」


 ただ倉庫建設をするにも町の中は無理そうなので建設場所は町の外になる。

 しかしその前にどうにかしなければならない事が一つあった。



 話は変わり・・・。



「ミヤちゃん。クラリオン君のところに泊まるにしても迷宮に行くにしても一言声を掛ける約束したでしょう。私も皆もお母さんも困るんですよ」

「クラが悪い」


 シルル教会では現在ミルティアがミヤちゃんに説教中であった。ただしミヤちゃんに反省の色は無く、とても不機嫌でしかなかった。


「それにいつも言ってるけどクラリオン君に暴力もしちゃ駄目です。同じパーティーなのに。今日だって脱臼と肋骨もいつも通り折れているし、首の噛み跡も私の治癒スキルでも消えない程嚙んでいるし、普通の人だったら泣いちゃうんですからね」

「クラは泣いてない。やさしくしてる」

「暴力してる時点で駄目です」


 ミヤちゃんはミルティアは近くにいなければ、内蔵破裂しない程度に加減はしているのだ。トテモヤサシイ子ダ。

しかしミルティアが近くにいれば加減はしない。すぐに治癒スキルで治してくれるからだ。トテモオソロシイ子デモアル。


「それとね。そろそろお父さんに会いに行ったらどうかな?しばらく迷宮探索しないで」

「・・・・行かん」


 以前ミヤちゃんが迷宮探索の許可を得る課題クエストで、ミヤ夫婦に報告する際にいたのはミヤ母であるコヨテだけであったのを覚えているだろうか。ミヤ母曰く「モンスター倒していたら巣にお持ち帰りされちゃってね~」云々としか言われてないがミヤ父に何があったのか?



 さかのぼること何週間前。



「うおらぁぁぁあああああーーーーーーーー!!!!」

「あら~。凄い張り切っているわ~」

「いくら何でも一人で突っ張りすぎだ。精神攻撃してくる個体も確認されてるんだぞ」

「精神忍耐持ちはコヨテしかいないのよ。何かあったらどうするのよっ!」


 ミヤ夫婦達のパーティーは下層で発生した大量のシロアリモンスターと戦っていた。

 ギルドの報酬も良く、女王の討伐の成功には追加報酬も出すのことで、ミヤ父が躍起になっていたのである。

 なおギルドは予算を安く済ませようと彼を行かせる算段を立てたがあらぬ方向にいってしまい、追加報酬をやむなく立てた裏話があったりする。


「むしろ出てこいっ!!亜種の亜種ならミヤにいいお土産ができるっ!!もっといい額縁も買えるっ!!」

「額縁?」

「あいつ何か良い絵でも買ったの?」

「ミヤの手形入り手紙を飾るのよ~。時間固定できて劣化しないやつ。ちょろいでしょう?」

「だから前線に行こうって言ってきたのか」

「親バカの極みだわ・・」


 ばかすかと「ミヤーーーーー!!!」と叫びながらモンスターを倒しまくるミヤ父であった。


 それから数日・・・。


「あら~。私の旦那が咥えられて行っちゃうわね~」

「吞気に言ってる場合じゃないでしょっっ!!?」

「だから一人で先走るなとっ!」

「うーん、無抵抗で咥えられたの見る限り、精神攻撃受けたのかしら~?しかも運ばれて・・。あら、もしかして餌を持って来させる大物がいるのかしら?」

「だから吞気に考察してる場合じゃないでしょっ!!」

「後追うぞ!」


 で。


「あら~大きい。女王かしら?」

「あんたの旦那、その女王に口渡しされそうだけどっ!?」

「流石に食われるぞっ!!」

「大丈夫よ~。2秒余裕があるから」


 そして。


「煙になっちゃったけど大きい魔石落としたわね~。クラリオン君のと比べると安いでしょうけど」

「おい起きろ。いつまで寝ぼけているんだ」

「・・あの、あの額縁で・・ミヤの手紙を、あれじゃないと・・・」

「気絶しても本当に親バカの極みにいるわね」

「額縁が・・。額縁が。額縁・・額縁額・・・縁」

「うーん。精神攻撃の影響まだ受けているわね~。治癒スキルで治るかしら~?」


 ということがあったりして。


「コヨテさん!帰って来たんですね!」

「ええ、予定より遅くなったけど」


 シルル教会に行き、娘とミルティアに会い・・・。


「それでミヤちゃんの課題クエストですが」

「うんうん、聞かせてもらうわ~。あ。それとシスターミルティア。あとで私達の宿に来てくれないかしら?私の夫見てほしいの。もう額縁しか言わなくてね~」

「それ一体何があったんですか」


 それで宿屋に連れて行くと。


「流石に治癒スキルで精神的な問題までは・・。でも大体の人は1ヵ月ぐらいで意識は戻ると思いますが」


 ※治癒スキルは怪我や病気を治せても精神疾患までは治せないのである。


「まあ予想はしてたけどね~。治癒スキルで治れば越したことはないと思って呼んだだけだから~」

「あのミヤちゃんには・・」

「大丈夫よ~。無抵抗なのをいいことにバシバシ叩く子だから気にしないわ~」

「・・それは何といいますか・・流石ミヤちゃんですね」

「私の子ですもの~」


 こんなやり取りが数週間前にあったのだ。

 勿論現在のミヤちゃんも自分の父親の状態は知ってる。ただ一回会いに行ってみたら寝ながらも娘が近くにいるのが分かるのかにやけ顔なる辺りで、ミヤちゃんもほっといても問題ないとその一回限りで会っていない。そんな家族観を心配してミルティアはミヤちゃんにお父さんのお見舞いしてあげたらと言っていたのだ。



 話は現在に戻り・・・。



「もう少し家族を大切に思った方がいいですよミヤちゃん」

「まだ寝てていい」

「はあ。ミヤちゃんもミヤちゃんですね・・」


 ミヤちゃんからすれば迷宮に潜ることを反対してるミヤ父が静かにしてるおかげで、今まで何も言われずに迷宮に潜れていたのだ。

しかし目が覚めれば色々と突っかかってくるし面倒に違いない。だから邪魔されず自由に行ける内は彼が嫌がろうとミヤちゃんは迷宮に行っておきたかったのである。


 バンッ!


 そしてそこに扉を開く音が。


「ミヤちゃんにお願いあって来た!会いたくないけど!」


 彼が戻って来た。ミヤちゃんを教会に引き取ってもらい、ミシャロ商会から教会に戻ってきて早数十分である。


「どうしたんですかクラリオン君?忘れ物でもしたんですか?」


 そして案の定ミヤちゃんはタッタっと駆け寄り、彼を組み伏せて噛みにいく。


「・・この状況で最初に掛ける言葉違いませんか?」


 彼は浮遊石の重力問題を倉庫建設をして離れた場所に置くことを決めたのだが、準備やら資材確保は必要。そうなるとミヤちゃんの迷宮探索との両立はできるはずもなく、仕方なくまた休みを貰いに戻ってきたわけである。


 それで・・・。


「だめ」


 この期に及んでまだ休みたいとほざいていることにミヤちゃんは強めに噛んでくるが、気にせず彼は懇願を続ける。


「そこを何とかっ!この後も宿屋に戻らないと今度こそ宿屋がラピュタになっちゃうからっ!」

「迷宮が先」


 そこにメルダー達も現れ・・・。


「俺だって迷宮に行きたいんだぞっ!俺も連れてけっ!」

「なんか前にもこんな話しなかったっけ?」

「私は言うのも馬鹿らしくなってきたのよ」


 ええいっ!貴様ら!人の苦労も知らずにっ!


「めーいーきゅーーうーーー」

「あ。骨っ。ミヤちゃんストップ。骨が折れっ。あ。ん!?まっ!?肺に骨がっ!」


 しかしミヤちゃんは止めない。


「溺死しちゃうから!肺に血が溜まると溺死しちゃうから!!内蔵の痛みだけは我慢できないからっ!!ミルティア先生!治癒!治癒スキルを!!」


 緩める気配もない。


「分かった。話をしよう。いつものように話をしよう。対話は人類が生み出した平和的解決手段だから」


 しかしミヤちゃんはある言葉だけ口にする。


「・・契約記号紙」

「・・どこでそんな単語を」


 契約記号紙。それはお互いの約束事を守る為の記号式を用いた紙で、約束が遵守出来なければお互いに決めた罰則が降り注ぐというもの。それをミヤちゃんは口にするのだから嫌な予感しかしない。


「知らない酔っ払いの・・超絶美男子が言ってた」

「あいつかぁぁあああーーーーっっ!!」

「あとクラがいいの持ってるって言ってた」


 彼を探しにミヤちゃんが町を探し回っていた時に彼の話が聞こえて、とある酔っ払いが話し掛けてきたらしい。やれやれだの面倒だの愚直を言いながら、どうでもいいことや契約記号紙ことも含めて色々と吐くまで語ってくれたのこと。


 それで契約記号紙を知ったミヤちゃんは、これで彼が勝手なことをしなくなると話を持ち掛けてきたのである。

 オーガスにチクってやろう!


 しかしおかげで彼は少し余裕が出来た。いくら記号式を知ったとしても詳しいわけじゃない。

 周りに契約記号紙に詳しい連中もいない!イケるっ!

 騙す気満々で事が済ませられると内心微笑むのであった。


「分かった。契約記号紙を用意して今後を決めようじゃないか」


 こうして彼が持ってる上級契約記号紙を使ってあれこれ内容を決めたのだが・・・。


「解せぬ」


 今の発言は彼である。と言うのも決まった内容と言うのが・・・。



 約束その1。契約成立後、即時契約は効力があるものとする。

 約束その2。30日間はミヤちゃんとクラリオンは一緒に迷宮探索の行動を取るものとする。(与吉は人数に入れなくてもよい)。

 約束その3。怪我又は病気又は両方の状態は地上に戻ること。迷宮探索は継続してるものとする。

 約束その4。30日間の迷宮探索終了後、クラリオンは10日間の休みを得れるものとする。

 


 まずまず悪くはなかった。0の数増やして3万日迷宮探索やらされそうにもなったが、問題は契約違反のところであって。



 クラリオンがいた違反した場合・・・永遠に罪をつぐなえ。俺も迷宮に行きたい。お菓子。死ねばいいのよ。聖書『門』記4巻~6巻欲しいです。



 と契約記号紙自体が珍しいのかメルダー達にミルティアも興味を持ってあれこれ説明していたら、彼の契約違反のところに個人的な要求も書かれていることだ。

 永遠に罪を償うって何よ?死ねばいいって、おいマルリ貴様。まあ内容が詳細じゃないし曖昧な分、そこまで拘束力はないけど。いや、やっぱマルリのは駄目だ。

 

 ※ただし契約違反は魔力値と魔力消費で対抗できることはまだ彼は知らない。


 なおミヤちゃんが違反した場合は、意思の希望がない限りクラリオンは何があっても360日間休みとする。と書いてある。特に『何があっても』という字は、強めかつ大きめで書かれている。

 ともあれこれで契約記号紙で契約したミヤちゃんはしたり顔だが、そんな彼は不適な笑みを浮かべている。


「ふふ・・。ミヤちゃんよ、そしてミルティアにメルダー達よ。ずいぶんあれこれ書いてくれたな。しかし自分はそれを見逃した。何故だか分かるか?」

「え?あ。もしかして書いたら駄目でした?」


 ミルティアが悪気無しで彼に聞く。


「普通に駄目ですミルティア先生。あと死ねと書かれた所は、大人として指導してほしかったと付け加えておこう」

「記号紙って普通は約束を守るために使うから、流石に約束を無かったことにするは無いと思ってちょっと書きましたけど・・まさかクラリオン君・・・」


 それに彼は堂々と言う。


「契約記号紙は約束を守るためじゃない!どう内容と罰則をかいくぐり実行できるかだっ!大人は皆汚い!なら私も喜んで汚れよう!私にはその覚悟があるっ!!」


 その言葉に皆は「うわ・・」と引く。しかしミヤちゃんだけは睨む。


「しかし世の中そんな簡単にできはしない。だから私は肉を切って骨を切った!策略あった故に貴様らが我に対しどんな違反内容でも許せたのだよ!!」

「クラリオン君。何を考えたが分かりませんが素直にやめた方がいいですよ。あとでミヤちゃんに噛み噛みされますよ」


 お決まりのオチになりそうだからミルティアは彼をやめさせようと言うも。


「私にミヤちゃんは一切の暴力は振るえない!何故なら約束その3。私が怪我をしたなら地上に戻ることになっている!つまり怪我してる状態で迷宮には潜れない。これは自分達に治癒スキルが無いから安全を考慮してだが、それを逆手に取らせてもらった!」


 大体自分が怪我するのはミヤちゃんが原因だしな。


「だけどそれは怪我してないと・・あ」

「ふっ。忘れてないようだな。最初ミヤちゃんに襲われて治癒スキルで治してもらったが、その後もミヤちゃんは何度も噛んできた。歯型くっきり!流血ありし!即ち噛み傷と言う怪我がなっ!」


 しかも契約後は即時施行とされ、迷宮に潜れる有効時間は削れていく。それを利用して彼は逃げ回る。そんな思惑をミヤちゃんは即座に理解して彼を抑えつけようとするが。


「っ・・」

「諦めよ。我が魔力障壁は厚いぞ。しかも今は何重に重ねての最強の拒絶タイプ並み。今回ばかりは、この傷は・・ミルティア先生に治してもらうわけにはいかぬ」

「うわぁ。ずりぃ」

「流石にそれは駄目だと思うよ?」

「お黙り。メルダーとクロエよ。本当に今回ばかりはミヤちゃんに屈せぬ訳にはいかぬのだよ」

「クラリオン君。大人げないですよ」

「まだ子どもだから駄々っ子の範囲」


 卑怯しか思えない行動と屁理屈にミルティアも「はぁ」とため息が出る。


「本当にいつかミヤちゃんに殺されてしまいますよ?」

「それシスターが言うセリフじゃない」


 しかもいつもは分厚い魔力障壁で刃も通さないが、今回は薄く何重に重ねているだけなのでミヤちゃんは黙々と短剣で魔力障壁を何枚か現在進行形で食い破っている。

 これが使途目線・・。 


「だがこれだけは約束しよう!個人的諸事情が解決したら、その分掛かった日程分を迷宮探索を延長する。()()()()5()だ!」

「その5?」


 ミルティアは怪訝そうに彼を見た。契約記号紙には約束その5なんて書いていないし、改めて見返してもそんなものは書かれていない。しかし彼はミルティアにある物を投げる。が・・・。


 バシッ!


ミヤちゃんに叩き落とされる。


「ミヤちゃん。出来ればそこは叩き落とさないでくれたら良かった・・」


 改めてミルティアは叩き落とされた物を拾うと彼に聞いた。


「なんですかこれ?」

「ふっ。そこにボタンあるじゃろ。それがライトになって光ってな。その光を記号紙に当てて見るといい」


 また怪訝に思いつつも光を当てると契約内容にある約束その4の下に彼が言った言葉が浮かび上がった。その光景に皆も集まり、ミヤちゃんの手も止まる。


「ミシャロ商品。さっき買い物でおまけで貰ったブラックライトペン!いやあ、こっそり書くのは大変だったが、試せる機会が早めにあって良かった~」

「まさかこれが書いてあるからさっきまであんな態度を・・」

「うん!壮絶な茶番劇!いつも強引に迷宮に連れて行かれるミヤちゃんへの意趣返しも込めて」


 一切悪びれてない顔である。

 これにはミルティアは今までより深いため息が出る。


「約束は勿論守る。ただ今すぐ迷宮に行くのは無理ってこと。それだけは譲れなかった」

「ミヤちゃんどうしますか・・?」


 しかしもう契約は成された後で変更はできない。そこまでの不公平は無いが、ミヤちゃんはどうあれ納得するしかないのである。


「・・・クラ」

「・・・・」

「ちょっとこっち」


 ミヤちゃんのちょっとこっちと呼ぶ手の仕草に嫌な予感しかしないが、仕方なく魔力障壁を解いて無言でミヤちゃんに近づくと。


「ん゛っ!」

「ボォバァッッ!!?」


 彼の後ろに回り込むとジャーマンスープレックスが炸裂した。


「次はない・・・」


 そのままミヤちゃんはクールに去った。


「・・・・あいつ。首の骨折れてないかしら?」


 一瞬の出来事に皆はミヤちゃんが去るまで呆然となったが、マルリが一言に皆は動き出す。


「はっ!クラリオン君、だいじょう・・・ぶではないですね。見事に首折れてますね」

「・・・ミ、ミルティア先生。身体が・・何も感じない・・・・」


 首から下が全く動けなくなってる彼にメルダー達は。


「俺、今まで見たなかでこれが一番怖かったと思う」

「初めて死を直感する何かだったよね」

「本当に・・バカしか言いようがないのよ」


 そして彼の人生の中で治癒スキルの有難味を一番感じた時でもあった。

 いや凄いね。首の骨折れても治るんだもの。麻痺残ると思ったけどないし、現代医療より凄くて本当にあの時はありがたかったよ・・・。


 ともあれこれで彼はミヤちゃんから休みをもぎ取ることができたのである。

 なおミヤ父は彼が休みを取れてから数日後に意識は戻ったとさ。

 あーー思ったより書くの時間が掛かった。


 2020.5.15 誤字一部修正

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