第18話 第六感が何か告げた気がする・・。逃げろっ!みたいな
前回お話し。ミルティアからミヤちゃんの迷宮探索の許可を貰えた彼ら。そして迷宮の道中で見つけた巨大な浮遊石を彼と与吉だけで再び迷宮に潜り、回収を試みたわけだが今度は天井まで上がって半分以上めり込んでしまったのだった。
「ふむ。あれ、どうやって地上まで運ぼうか・・」
天井に半分以上めり込む浮遊石をその後彼はどうにかしようとあれこれ試した。だが結果は手足を青くさせるだけで、その日は一旦地上に帰ることに。
そして今日はどう運搬対策を練っているのだ。
「何とかミヤちゃんの迷宮探索に付き合わされる前に手にしておきたいし」
ミヤちゃんの迷宮探索は、迷宮に潜ってるミヤ夫婦が帰ってきてミルティアがミヤちゃんの迷宮探索の結果をしてからとなっている。しかも近い内にミヤ夫婦が戻ってくるから、短期間で回収しておく必要があるのだ。
「今出来る手段として、まずあの浮遊石を砕いて破片から運ぶピストン運搬・・」
あの反重力が身体に影響しない程度にして運ぶ作戦。砕いてもスキルを用いてまた一つに戻せるから問題はないが・・・。
時間効率が駄目だな。
「う~ん・・。クエスト発行して・・いや流石にあの反重力じゃ普通の人は無理か。しかも場所が場所だし」
それかこう亜空間的な何かにしまえるスキルを持ってる人を高額で雇う・・。でもあの大きさ・・一度にいっぺんに運べるかな?と言うかそんなスキルあるのかね?あったとしても持ってる人がこの町にいるかどうか・・・。
「う~~む。人手があったとしてもこれも駄目だな。となると・・浮遊石に詳しい人を雇ってアドバイザーをしてもらって、あとは自力でどうにか・・いやだから自力が無理だから考えるわけで・・・」
しかし彼は分かっているんであろうか?巨大な浮遊石を手に入れたとしても何処に置くつもりなのか。仮にいつものスキルで圧縮して部屋に押し込めることが出来たとしてもあの反重力はどうするつもりなのか。そんな問題を先送りにして、さっきからずっと考えていたのだ。
「空船港の人なら浮遊石に詳しいか・・。ん、行ってみるか」
そして更に彼はパレス工房で自称美男子のお兄さんの話を思い出す。
彼の行動力は早いのにどうして早計にまで走るのか。それでも彼は構うことなく出掛ける準備をする。
「与吉~行くよ~~」
チチ・・・(また?)。
そんなわけで空船港。
「壁を上る昇降機っていいね~。エレベーターとはまた違う感じか何とも」
空船港があるのは東の城壁の上にあり、行き来には昇降機を使って行く。
また昇降機自体初めての彼は、いつものボードと違う浮遊感と昇降機の駆動音にワクワクしながら乗っていた。
「到~着」
初めて来た空船港にまたも彼はテンションが高くなる。
「お~~。いいね・・。あ~うん、ファンタジーにある光景だ」
何百隻と浮かぶ船。港の形状が幾つも階層があり、その階層ごとに船の大きさや種類によって分けられて停泊している光景が広がっていた。
どこも荷物運搬が大半のようで、商港が主体のようだ。
そして空船の形も特徴的だった。大体よくあるイメージが帆船なのに対して、この異世界の船にはマストや帆が無いのだ。いや、付いてる船もあるが折り畳み式で、マストが両舷、船底にも取り付けられてる船もある。
と言うのも浮遊石と言う推進力があるから、マストや帆がそこまで必要としないらしい。逆にマストがあると上空の風速に耐えられない、軽量化の一環で付けないという理由もある。なのでマストや帆が無い空船が圧倒的に多い。
「初めてこの町を見た時と迷宮潜った時の心情が蘇るな~。そしていつかここに黒船が停泊するのか・・」
妄想が捗るがここで止まってるわけにはいかないので、まずはここの港を管理運営している場所に赴き、交渉ができるどうか先である。
そして・・・。
「ふむ。ここか」
道中に人からどこに港を管理している人がいるのか聞きながら彷徨い続け、ようやくその場所がある建物にたどり着いた。
「しかしどう話をしようか・・。浮遊石に詳しい人?または扱いが上手い人の紹介のお願い?まあとりあえず受付窓口ぽっいのがあるから、そこで聞いてみるか」
建物の外にある窓口の男性に彼は声を掛けようと近づくと、窓口にいた人も近づく彼に意外そうな顔をしていた。
「すいませーん。ちょっとお話し伺ってもいいですか?」
「・・・どうしたんだい君?」
「えっとですね。ここが港の管理事務所と聞いて来たんですが、合ってますか?」
「あ、うん。そう・・だね。ここは港の運営事務局だけど。一体何の用でしょう、か・・」
「それでがですね・・・・」
諸事情を話すと受付の人は「少し組長に聞いてみるよ」と上司に掛け合ってくれるらしい。
「あのそれで聞くけど・・。その君って、噂のクラリオン君かい?」
「なんの噂が知りませんがクラリオンですが何か?」
「え?いや、あの。な、何でもないです・・っ」
そう言うと奥の扉に手をかけて部屋を出て行った。
なんだろ。嫌な予感しかしないんだけど。しかも歯切れ悪いし。え~何かしでかした記憶ないんだけど・・・。
そして・・・。
「え~組長が絶対に協力したくないようです」
「・・何故」
「以前から高質な魔石や魔導石をギルドで売っていましたよね?」
「・・うん」
「それがあまりに高品質なんですよ。護送や護衛、安全管理の為に専用の停留所を用意しないといけない程に。しかもこっちは別に予算が増えたり、人手が増えたりする訳でもなく、港運営の大幅な変更が必要になったり。だから関わりたくないと組長が・・」
「・・それ自分悪くなくない?」
「あと貴方はギルドから行政関係の人に要注意人物のリストに挙げられてもいますから、関われないと言うのもあります」
「ギルドめ。余計なことを・・」
煮ろう。あの狸は煮て狸鍋にしよう。
怒りの矛先をトクガワに向ける。
それから・・・。
「何故だ!何故どこもNOから始める!?」
事務所が無理なら個人で船の人と交渉しようと色々と当たってみたものの全ての人から「無理」と言われたのだ。と言うのも迷宮の町から出る資源の取引は、国の公認許可が必要となっている。問題を起こせば許可取り消しもあり得るし、加えて行政から要注意人物と勧告されているので子どもであろうと話は聞かないのだ。
「っ!なら本じゃボケッ!空船に関する本で自ら学んでやろうじゃないかっ!!」
意気込んで数日。宿屋で・・・。
「あってもいいじゃん本ぐらい」
本を探すも一冊も無かった。いちよ絵本で空船を題材にしてる本はあったのを買ってみたが絵本は絵本でしかなかった。
あとでミヤちゃん達にあげよう・・・。
「くそ。この町じゃ駄目だっ!」
こうなったら他の町に行って調べに行くしかないと意気込むが、そこに部屋の扉をノックする音がした。
コンコン。
「クラく~ん。いる~?」
いつもなら勝手に入ってくるのになんとアスラが珍しく扉をノックをしてきたのだ。
「いるけど。え?なに?普通の事をしてるのが怖いんだけど」
「クラ君失礼だよ。普段から普通なのに。あ。そうじゃなくてお客さんが来てるんだけど、開けて大丈夫かな?」
客?
「その客って誰だか分かる?」
そしたら今度はアスラではなく客である人が答えた。
「いや~クラリオン君、部屋の前のアートはもう少し抑えた方がいいんじゃないか?と言うよりミシャロ商会の物からして、あまり部屋で話したくないのだが・・どうだろう?お店でお茶でも飲みながら話すのは。あ。勿論奢りで頼むよ?何せ財布がなくてね」
しかも聞き覚えるのある声であった。
「ついに自称美男子のお兄さんまで部屋の前に来たか」
仕方なく扉を開けるとやはりそこにいたのは、パレス工房のマエストロで間違いなかった。
「いやあ久しぶりだね。どうだい?あれから空船港でも行っていい話しは聞けたかい?」
「いや全く。んで何用?」
「それもお茶しながら聞かないかい?オーガスの監視の目から逃れてくるのに財布持てこれなくてね。おかげでお腹がすいちゃってすいちゃって」
「他の人にお頼り下さい。自分も忙しくって、んじゃ」
部屋の扉を閉めようとするが美男子のお兄さんが持ってた杖で扉の間に挟む。
「ちょっと聞いてもいいんじゃないかな?実はね、ちょっと急用で魔導石が必要となって、出来れば質が高い方がいいんだ。もし用意してくれるなら、それなりの礼はするつもりだよ」
「・・・・・・」
今度は扉に貼った鍵の札を操作しだす彼。すると挟んだ杖がミシミシと音が鳴る。
「ちょ、ちょっと待つんだクラリオン君。なんだい恐ろしいまでに力強く閉めようとするその鍵の札は?」
「ミシャロ商会製」
「あそこは本当によく分からないものを作ってくれる」
更に最大出力を上げるように操作しようする彼にちょっと早口で美男子のお兄さんは言った。
「まあ待つんだ。今回はその魔石は船に積んで違う町の方の工房に送るつもりなんだ。ほら、君がいい魔導石をギルドで売ってる話をしたら食いついたみたいで」
彼が気になるワードを違和感ない程度に言う。
「分かった少し話しを聞こうじゃないか」
それを聞いた彼はすぐに部屋の扉の操作を止めて、早速外に出る支度を始める。
自称美男子のお兄さん、彼のあからさまな急変の態度に笑みがこぼれる。
うんうん。ここまでは順調。話は聞いてくれそうだ。けど。
「この杖、見た目に反して丈夫なのにこうも跡をつけさせるとはね。部屋の扉の前でこれだから部屋の中だと何が待ち構えているのやら・・・」
「行くぞ詐欺師。次騙すようなことしたら、工房の素材全部駄目にしてやる」
「おーい、私はマエストロだぞ。しかし素材を駄目にするのは勘弁願いたいな」
準備を整えた彼は宿屋を出て適当に料理店に向かう。
それから。
「で?詳細を聞こうか」
「そうだね。最初でも言ったが他の町にある同じパレス工房でどうも魔導石が足りなくなっているらしくてね。そこに君の話が上がったわけだ。何でも高質な魔石や魔導石を迷宮から発掘する子どもがいる、とね。まあ私が話したわけだが。それでどうにかある程度の魔導石を融通できないかお願いされてね。君のところまで来たって訳なんだ」
「ふ~ん。なるほど」
しかしそこはどうでもいい。彼は船に積んで運ぶ部分の詳細を知りたいのだ。
「だけど君はこの話より船に関するところの方が聞きたいようだね」
「ほう・・」
それが分かって話を持ち掛けにきたか。
「君が空船港で色々交渉してたのが耳に入ってね。それに浮遊石にも興味あったようだし、察しがつくよ。まあ君と最初会った時、武器を作りたいやら学びたいと言っていたから、おそらく今回もそんな感じで空船に興味を持った。ってのも予想している。どうだい?結構名推理しているんじゃないかな私は?」
はいはい。結構な名探偵ですよ。
十中八九その通りだから特に言い返す言葉が思いつかない。
「・・・はぁ。それで船に関して何が提供できるんだ?あと魔導石はどう欲しいわけ?質?量?種類?納品はいつまでで?」
騙されたくないので詳細をせがむ。しかしここまで全て自称美男子のお兄さんの計画通りである。
「そういっぺんに聞かないでくれたまえ。まあ私から言えるのは今から10日後にパレス工房所有の空船がこの町に来る。その間に魔導石を用意して、船への積み込みとその護送を手伝ってもらう。と言うのがお題目だ」
「ん~10日か」
「おや?君からすれば今回は日数的に厳しくは無いと思うが」
「今パーティー組んでる一人が近い内に迷宮探索に自分も駆り出されて、しばらく余裕がない日々になりそうでな・・。まあ仕方ない。最悪二枚舌か三枚舌外交が乗り切ってみよう」
今から10日後となると時間的にシビアであったが、自分の目的の為にはちょっとミヤちゃんにはまだ大人しくしてもらおうと決める。
だけど下手すると閻魔様ならぬミヤちゃん様に舌をリアルで引き千切られるそうなんだよな。
一番恐れる結果はそれである。
「う~ん。私も言うのもあれだが、将来仲間から殺されて死ぬ運命になるんじゃないかい?」
「ふっ。高レベルの治癒スキル持ちの人がいなかったら、とっくにもう死ぬ運命だったよ」
「よく子どもの身でそんな状況になれるもんだ」
「ホントだよ全く。まあ時間は大丈夫だとして、船への積み込みと護送を手伝いの詳細は?そこが大事なんだが」
ここが一番彼が気になる内容である。
「ああ。船への積み込みと護送するには当然船内まで入る必要があるわけだ。勿論船内確認や船員とのやり取りも必要だろう。しかもそれを行うのは君一人だけ。時間が掛かるだろうから停泊期間は長めになってる予定だ。用は君がどれだけ早く終わらせるかで出港が決まる。どうだい中々魅力的な話だろ?」
用は、船内の中を自由に見て回れて、船員、つまり船長や整備士や機関士から色々と話を聞ける機会があり、納得するまで空船はこの町にいる。と言うこになる。
こいつ。こうも自分に都合のいいような解釈を。
ただ、あまりに彼とって都合が良すぎる内容にしてくるのにどうしても裏があるようにしか思えなかった。
「確かに魅力的だと言っておこう。どう考えても裏しかないと思うほどに」
「それは心外だ。私ができる最大の良心を込めて用意したのに」
「んで、その裏が魔導石ことだと思うんだが。一体どんな感じで魔導石が必要で?」
「出来れば質は良いのが欲しいね。ギルドで売ってたぐらいな物を」
「それをどのくらい用意すれば?」
「う~ん。バンパリアと同じ重さぐらい?」
「はっ倒すぞっ!!」
明らかに数十t超えである。
「あっはっはっ。冗談さ。まあそうだね~、けどあるだけ欲しいかな?何せ魔導石は多く持っても損はないからね」
「ん~手持ちの魔導石もそれなりにあるけど・・。属性云々は?」
「属性は問わないよ。普通の魔導石でもこっちは構わない」
それにまた少し彼は考えると・・・。
「それだったら10日で5、60kgは用意してみる。これで駄目だったら話は無し。どう?」
「では交渉成立だ。それだけ用意出来れば十分どころかお釣りも出るけどね」
本当はもっと裏がありそうな話しだが、彼にとっては渡りに船。例え割高料金でお金を取られることになってもこんなチャンスはないのだ。
「じゃあ今の内容を契約記号紙で書くから。違反したらパレス工房の素材全部駄目にするから。自分が違反したら持ってる知的財産以外の財産を全部あげよう」
そして彼は何処からか一枚の紙を取り出す。
「これ古いけど上級契約記号紙じゃないか。裁判で虚偽申告させない程の物を。何でそんなの君は持っているんだい?あと君が持ってる財産って殆どミシャロ商会の物じゃないかな?嫌がらせかい?」
「ミシャロ商会で大人買いしたらおまけにこの紙もくれた」
「あそこは何でこう余計な物を付けるかね・・・」
兎に角にもお互いに再度内容を確認しながら契約記号紙に内容を書き込んだ。
「はあ。お互い裏切るつもりは無いとしても中々のハイリスクハイリターンになったわけだ。全く参った内容だよ」
「結果的に裏切ることなったら、その後でミシャロ商会の物を取りに行くから安心せいよ」
「だとしたら書く意味あったかい?」
「あった。恨みを忘れぬ限り、あの時の苦労をどう返してやろうか常々思っていたから」
「意外に君は嫉妬深いね」
「最低一回ぐらいは恨みを晴らしておかないと自分の中で遺恨が残るからな」
書き終わると2人は軽い雑談をしながら今は軽食をしていた。
「しかしそれだけ魔導石を用意できるなら普通に船一隻は買えるんじゃないかな?」
「え?うそマジ」
「あ~でも無理かな。今この国が総力あげて空船を集めているから」
「へ~なんでそんなことを?」
「この迷宮だよ。運搬や運送の為に空船が大量に必要となったのさ。しかも一部のところでは空船の個人所有を禁止して徴収したりもしてるらしい」
「うわ」
これ普通に空船作ったら、普通に徴収される恐れありってやつ?
初めて知ったこの国の情勢にさらに色々と考える必要となった。
ふ~む。この国の政治関連も知っておく必要も出てきたな。しかしよくよく考えればこの町で色々してたけど、自分がいるこの町の国について一切知らない・・・って言うか・・あら?ってかここどんな国?
ここに来てまたもや常識が欠如していたことに気づく。
「・・調べることがまた増えたな」
「君も色々と大変そうだね。何に悩んでいるか知らないが。しかしここの店の料理は当たりだ。悩んでないで食べたらどうだい?あ。お姉さ~ん。お酒一杯こっちに一つ」
「よくまあ昼間から飲むよな」
「なに、ただ酒となれば昼間でも飲むさ。それとも君も飲んでみるかい?大人の階段ぐらい早上がりしても文句は誰も言いわしないさ」
子どもに対してお酒を進め始めてきた。
もう酔ってるのかこの男は・・。
「結構。酒は日本酒が飲みたい。ここのお酒は酔えるほどの度数もないし、ピンから当たりが激しいし、焼酎薄めのサワーでしかない。かと言って蒸留酒は濃すぎ、風味も香味もない。いちよサワーの要領でリキュールとかカクテルモドキをしてみたけど駄目だなあれは」
「う~ん、私が思っているより何十段と登っていたようだ」
彼も彼でお酒には色々と手を出していたようだ。
「ああ。愛しの大吟醸に純米大吟醸、ただしスパークリング日本酒・・。あれは個人的に好かない。不味い訳じゃないんだが、何だろう・・何か好かないんだよな。すまない・・・」
同時に彼は日本酒好きでもあったようである。
その後・・・。
「あ。マエストロ!何処に行っていたんですか?オーガスさん怒ってましたよ」
「ああ、少し商談をしてきてね。まあ結構いい額になるんじゃないかな?あははは」
「・・マエストロ、まさかお酒飲んでいませんか?オーガスさんに見つかったら何言われるか知りませんよ」
「なぁ~に問題はないさ。要はバレなきゃいいんだ。それに商談にはお酒が付き物だろう?仕方がなかったんだ、商談を成功させるには・・ん?どうしたんだい?顔を背けて・・・ああ。なるほど。大体理由は分かった。でも聞いてほしいオーガスよ」
後ろに誰がいるのか察しが付いた美男子のお兄さんは、振り返りながら後ろにいるだろうオーガスに懇願してみるも・・・。
「ほぉ。商談の予定も聞いてもいないし部下にも伝えず、こっそりと抜け出して酒を飲みながらとはな。詳しく聞こうじゃないか朝から手を付けてない書類仕事をしながらなああ゛あ゛ーーーーっっ!!!」
それから10日後、パレス工房で・・・。
「いやあ~。流石クラリオン君だ。10日で魔導石をここまで用意できるとはね」
「ちょっと生態系に問題与えたような気もしなくはないが、多分魔導石は100kgいったはず」
魔導石を精製する為に上層のモンスターを一掃殲滅戦して集めた魔石で計124kgの魔導石を作ることに成功したのだ。勿論迷宮に行ったことはミヤちゃんに内緒である。
そしてこれからパレス工房の空船に積む予定になっている。また幸いなことにミヤ夫婦はまだ地上に戻ってきてないから、まだミヤちゃんの迷宮探索に付き合う必要はなかった。
「しかもまたこの魔導石は大きい。国家戦略級に当たるんじゃないか?」
「なにその単位?」
「ほら、町や都市の防衛に記号式の防御結界があったりするだろう?維持にはかなり魔力を消費するから、高質で大きい半永久的に維持できる魔導石が必要になってくるのさ。そう言う魔導石を戦略級って言われたりしているんだ」
「へ~~」
「うん、あまり興味ない顔してるね。ただ魔導石は多く持っても損はないとは言ったが、明らかにパレス工房では扱う大きさじゃないね」
工房で扱う魔導石の大きさではないから、これにはお兄さんも宝の持ち腐れと言いたげな顔になる。それに彼は・・・。
「なら砕いて普通に使う大きさにすればいいじゃん」
そして魔弾で適当な大きさに砕く。
「・・・流石クラリオン君。要人にマークされるだけの行動力を持ってる訳だ。恐ろしいまでの大胆な発想だが、勿体ないと言われたことないかい?」
「まったく」
「なるほど。常識に捉われないとはこう言う人か」
ただ単に常識が無いである。また彼からすれば元に戻せるので勿体ないということもない。
「よし、船はもう来てるんだよな?」
「ああ港に着いたと連絡は聞いた。確か中型フロア2Fー4番?だったかな?」
「あ。そこ歩いたことある。どの船からも手ひどく断られた場所だからよく覚えてる」
「でも気を付けてくれ。いちよやってることがグレーなところもあるからね。問題起こしたらこの町で取引が出来なくなるから」
「大丈夫大丈夫。爆破する訳じゃないから」
こうして彼はボードに魔導石を乗せながら、お兄さんと一緒に空船港まで飛んで行く。
因みにここには与吉はいない。彼がしばらく空船で色々とするから、部屋の留守を任せたのだ。そして現在は留守をしないで一人で町の中でお買い物をしている。
そして空船へ。
「ほお。これがパレス工房の船か」
見た感じは一般的な空船と同じでマストが無いタイプだった。
そして遠慮なく船の上にボートを置いて乗る彼。
「せめて船長に乗船許可ぐらいは取ってから乗るべきではないかな?」
「許せ。子どもは好奇心が抑えられない生き物なんだ」
そして船員がいようがいまいがタッタと船内に侵入する。そんな彼が横切る姿を呆然と見る一人の男性。見るからに船長そうな出で立ちの男性にお兄さんは声を掛けた。
「いや~すまない。子どもと言うことで大目に見てくれないかい?あと事後確認になってしまうが乗船はよろしいですか船長?」
「あ。ああ。別に厳格にやってるつもりはないから構わんよ。それで貴方がここのオヴェストのマエストロでいいのか?」
「そうとも。まあここでは美男子のお兄さんと呼んでくれたまえ」
「美男子・・・・のお兄さん、ですか」
「まあ、それで品なんだが」
ちらっとお兄さんはボートに置かれてる魔導石を方を見る。いちよ今回は魔導石の輸送と護衛で来てもらっているわけで、それをほっぽり出して彼は船内に先走って行ってしまっている。
「ああ。これが今回の魔導石ですか。しかし凄い量だ。ここの迷宮はそんなに取れるもんなのか?」
「いい魔導石の鉱脈の当たりを見つけた冒険者の伝手がいてね。だからこんなに用意が出来たわけさ」
そして何処からか船員の叫ぶ声がする。
「君!何処から入ったっ!?ここは立入禁止で・・・っ!」
ガシャーーーーーンッッ!!
「もしや・・」
何か察した船長。
「その冒険者の伝手と言うのが空船港で聞いたかもしれないが要注意人物である彼だ。まあ一癖ある子どもでね。天才は常識に捉われないのが常らしい」
それで船長は何か悟った様子で書類とペンをお兄さんに渡す。
「まさかその子どものせいでこの変な輸送が?オヴェストに行って荷物を輸送しろやら滞在してろやらなんやらで行かせられましたから。あ。あとこちらの紙にも名前と工房の印鑑を」
「あ~。まあ彼の要望に沿った形でなったようなものだからね」
う~ん。急ぎで船を回すように言ったが、向こうはずいぶん強引な言葉で行かせたようだ。彼らには申し訳ないことをしてしまったな~。
しかもその後は彼の面倒を見させられるんだからきっと苦労は絶えないだろう。
「まあそれでもちゃんとお金を貰えれば文句はないんですがね。あと細かいことは現地のマエストロに聞けと言われているんですが、このあと何をすれば?ただの輸送じゃないのは分かってますが、あまり面倒事には関わりたくないんですが」
「あ~、うん。申し訳ないが少し面倒事なんだ。でも違法でも何でもないからそこは安心したまえ」
「今の言葉でどう信用できるんですか」
「なに何日掛かるか分からないが、あの子どもに空船の見学させてくれればいい。好奇心旺盛だから質問攻めにされるかもしれないが・・まあ後は頼んだよ」
「え?それはどういう」
ギギィ~~~。バタンッ!
そこに扉を開ける音がすると思ったら噂の子どもが甲板に戻ってきた。
「大体見て回った!知らない構造があって大変満足!特に機関室?は・・なんだろ?レトロ?スチームパンク?まあ詳しく分からなかったけどいいねっ!だけどあくまで予想だけど、浮遊石の動力的エネルギーを船全体に展開?してるのかな?機関室から何か配線?あれが船全体に回って、エネルギー循環して浮遊してるとみたっっ!!」
目を輝かせて長々と船内探索の報告をする。
「え~~っと」
船長は何と言ったらいいか言葉が出ない。
「それは良かった。ではクラリオン君。私は戻るから後は船長から色々と聞いてくれ」
「うい」
「ちょっ、ちょっとお待ちを・・」
ツンツンと彼は服の袖を引っ張る。
「船長船長。しばらくよろしく」
「すまない。そろそろちゃんと説明してほしい・・・」
「あの自称美男子から聞いてなかったん?」
そして、かくかくしかじか・・・。
「機関長。しばらくこの子を頼む。どうやら動力回りで何か知りたいらしいから」
「ああ。さっき来た子どもか?勝手に入って、色々触って、嵐のように去っていきやがった奴」
歳は50歳そこらの中年男性が少々彼にご立腹していた。
「すまん。立入禁止の字が見えなかったのと好奇心が抑えられないお年頃だから、そこは大目に見てくれ」
「自分でそれを言うか。それで船長、この子どもは一体なんですかい?」
船長に聞くも船長は。
「まだよく分からないがこの町に来ることになった原因らしい」
「言っている意味が分からないんだが」
「この子が満足するまでこの町に滞在予定になるらしい」
「余計に意味が分からないぞ船長」
彼から聞いた話を機関長にも話して・・・。
「マジですか船長?」
「マジらしい」
「つまりこいつが空船を見たいから俺らが来させられたと?」
「・・そういうことになる」
「そんな理由で・・」
そして話が終わったの見計らって彼は口を開く。
「分かったところでこれからよろしく」
本当に面倒事を押し付けられたと船長同様に乗組員一同も不安を抱くことになった。
数日して・・・。
「つまりこの配線は船全体に通して、浮力を伝達させて船を浮かばせていると」
「ああ、そうだ。モドキ石を粉末にして混ぜた物が配線だ」
「なるほど。そのモドキ石と言うのは?普通に入手できるものなん?」
「モドキ石か?簡単に言えば魔力の伝達がいい石だ。道具の製作で使われたりしてんな。まあどの工房でも置いてるが、そこまで使うものでもないがな」
「ふむ・・」
彼はこの数日でとにかく質問攻め。問題を起こすような真似をしないか船長達は当初は不安であったが、思いのほか騒ぐようなことはなく安堵していた。と言うのも彼が知りたいのは空船の浮遊の仕組みのみ。そこに携わる機関長が彼の質問攻めの相手にされて、機関長だけが疲労気味。
そんな彼は彼で色々と知れる事があって大変充実感ある数日であった。空船の仕組みや浮遊石の扱いなど着々に知識を蓄えられていくのである。しかしそんな楽しい時間に終わりが迫ろうしていたことに知る由はなかった。
シルル教会。
「時は来た」
「え?ミヤちゃんどうしたんですか?」
突然ミヤちゃんが言った言葉に驚くミルティア。周りにいたメルダー達も「どうした?」と聞きよるもそこに・・・。
「ミヤ~帰ったわよ~。遅くなってごめんね~。お父さんが張り切っていたらモンスター倒していたら巣にお持ち帰りされちゃってね~。本当に笑・・大変だったのよ~」
ミヤ母であるコヨテがミヤちゃんを迎えに帰ってきたのである。即ち、ミヤちゃんの迷宮探索の許可のクエストクリアが話され、正式にミヤちゃんが迷宮に行けるようになるのである。
「コヨテさん!帰って来たんですね!」
「ええ、予定より遅くなったけど」
「それでミヤちゃんの課題クエストですが」
「うんうん、聞かせてもらうわ~」
そしてミヤちゃんは。
「クラ呼んでくる」
「ミヤ~今日は遅いから明日にしなさいね~」
「ん」
止められたが明日から迷宮に行けるとミヤちゃんは嬉しい気持ちで待ちきれない様子だった。
しかし次の日。
「・・いない」
「いないわね~」
彼が泊まる部屋には彼はいなかった。ノックしても返事がなかったから扉を壊して中に入っても確認したから間違いない。
なお与吉は買物に出かけていなかった。
「ん゛ん゛~~~っっ」
ミヤちゃん。怒りのボルテージが上昇中である。
「ん~。困ったわね~。だけど何処に行ってるのかしら?やっぱり一人で迷宮かしらね~?」
で、その彼は・・・。
「ZZZZZ~~~~」
宿屋に帰るのが面倒だから船の船員室を借りて寝泊まりしてしたのである。そしてミヤちゃんのことは完全に忘れ去られていた。
以降ミヤちゃんが彼を見つけるまでの今から数十日が彼の充実した日々であり、その後は地獄でしかなかったと彼は語るのだ。
ではここからダイジェストで彼の数十日がどんなものであったか、ミヤはどうしたのか会話のみで伝えていこう。
「え?浮遊石の制御の仕組み?普通に記号式で組まれて・・・ん?いや、まあ記号式を写すのはいいが、絶対に変なことはするなよ」
「写すのは得意。あと、この記号式の説明もお願い」
「ミヤ。どうする?クラリオン君が帰って来るまで待つ?」
「さがす」
「ん~。探すと言ってもね~」
「詳しい人がいる」
「とんだお騒がせ子どもと思っていたが、お前それなりに記号式は学んでいるんだな」
「ちょっことだけ。あとは独学。陣は与吉が綺麗に描けるから与吉に任せてる」
「与吉?お前のパーティーか?」
「我が相棒で、最近グルメなんだよ。あとなんか料理をしようか考えているらしい」
「副オーナーも知らないみたいね~。あら?あそこいるの・・確かヨキチだったかしら?」
「クラは?」
チ?チチ・・。
「・・はは。何て言ってる?」
「お母さんもよく分からないわ~」
「おい待て!基盤を抜こうとするなっ!」
「なるほど。記号式の基盤か。これが1,2,3・・5,7の・・10、13・・16枚基盤があって記号式は・・」
「だから抜こうとするなっ!」
「ギルドでも手掛かりなしね~。どうするミヤ?」
「・・・ミシャロ」
「そこにクラリオン君はいないとお母さん思うな~」
「あそこでクラを釣るエサを探す」
「お前な~。不眠不休で全部の記号式を書き写すか?」
「書き写すだけならこの三日は問題ない。けど元の生活習慣に戻るのに五日は掛かる」
「だからお前、午前はずっと寝ているわけか」
「それはただ二度寝の癖が抜けなくて」
「彼は最近来てないね。え?彼を釣るエサ?彼を探してる?ほお。ならこんなのはどうかな?じゃーん『一撃君』!普段彼の使ってる物とか身体一部とか入れておくと、近くに来たら起爆するトラップ。これで彼が近づいたらすぐに場所が分かるよ?」
「買う」
「ミヤ~。駄目よそれ~」
「今なら小型高性能の『一撃必殺君』もあるよ」
「それも買う」
「ミ~ヤ~~」
「ふむ。これで大体の浮遊の仕組みが分かった。しかし飛べる高さに限度があるのが嫌だな。惑星の引力から振り切れないのがもどかしい」
「船を軽量化して切り詰めても高く飛べて10㎞だな。それ以上で飛んでる船は聞いたこともあったこともねえ。」
「浮遊石も万能と言う訳でもないのか~~」
「爆発しない・・・」
「そうなると~迷宮か、どこかに引きこもっているのかしらね~?だけどそろそろお父さんのところに戻らない?」
「もどらない」
「変なところはお父さん似ね~」
「飛べる高さの比例は浮遊石の出力、船と積み荷の重量、地上との距離と地形・・の三要素。これを計算式に出来れば、飛行高度が割り出せるんだろうけど、浮遊石の出力の割合ってどう出せばいいのだろうか・・・」
「なんだ?最近静かになったと思えば、今度は何かの計算か?」
「高度距離の計算式ができるかなって思ったんだけど、全然無理だわ。なんかそんなのない?機関長」
「そんなの勘だ。勘。船作って浮かせて、どれだけ乗せられて浮くか、必要なら船の減量や補強して、あとは慣れで身についていくんだよ」
「雑だ」
「え?自分みたいな背の高さで男の子?ああ、噂の子どもか。それなら前に港で一回みたな。なんか色んな船の船員に聞き回っていたとか」
「・・・いた」
「ミヤ~。女の子は笑顔じゃないとクラリオン君に嫌われるわよ~」
「いいか?配線の配置によって飛び方が変わってくる。大まかに船には二通りの配置方法がある。主軸配置と全体配置だ」
「主軸と全体・・」
「主軸配置は船底の中心線とした配線から、他の配線が枝や葉のように繋がっていく。高く飛べるが、舵の効きが悪いし、旋回も遅い。たまに葉っぱ船とか言われるな」
「ふむ・・」
「全体配置は中心線とかは無い。船体全体に浮力が均等に流れるようにしてある。逆にこっちは高くは飛べんが、舵も旋回の効きがいい。大体の商船は全体配置型だ。この船もそうなってる」
「それぞれ短所長所がある訳か」
「いる」
「ミヤ~。危ないから一人で勝手にいかないでね~」
「っっ!?殺気!?」
「どうした?何かあったか?」
「第六感が何か告げた気がする・・。逃げろっ!みたいな」
そして今日・・・。
「よし。大まかな知識は得た。あとはあの浮遊石の重力を抑える記号式の陣をどう配置して引っ張ってくるかだな・・。まあ、それが出来たと仮定して、建造と必要な資源だが・・・ふ~む、課題が多い」
彼は空船から得れるものは得れた。そろそろ迷宮下層にある浮遊石を運び出そうと思い立っていた。なので空船とはおさらばしてもいいかな?と甲板の上に立ちながら考えていた矢先・・・。
「見つけた」
聞き慣れた声がした。彼ことクラリオン。最近忘れていた声の正体に段々と思い出し、今の今まで忘れていたことにどんどんと冷え汗と手が震えだす。
そう言えば迷宮行く約束してたような・・・・。
「・・・・・」
そこにはオーラを身に纏い、放っているように見えるミヤちゃんと「あらあら」と傍らで笑顔なミヤ母ことコヨテがいた。
ミヤちゃんの尻尾のうねり具合が今までに見たことないキレと目の瞳孔がただ獲物を見る目でしかない姿に覚悟を決めるしかなった。
「・・っ!そ、総員直ちに強行出港ーーっっ!!ロープを切れぇぇえええーーー!!アレを船に近づけるなっ!死ぬぞっ!」
彼の逃走の決意の叫び声に何事かと「なんだ?」と甲板にいた船員が視線を向ける。
「早くお前ら動けっ!死・・ンッ!?」
「つかまえた」
さっきまで波止場にいたミヤちゃんが瞬間移動したかように彼の前までいて、首を絞めて持ち上げていた。
は、速い!障壁張るより近づかれた・・だと!?
今まで与吉でしか見たことない速さに魔力障壁の展開すら出来なかったことに驚くが。
「あれ?また子どもか・・?」
「ああ。いつの間にか増えたな」
この状況に船員は彼にとって緊迫している状態に気づいていない。
「なにやってた・・」
「・・・ッ!ン!?ンン!!」
ミヤちゃんは彼に言うも首を絞められているので声が出せない。タップして首を緩めてほしいと合図するが聞き届いてくれてない。
「迷宮・・・」
ミヤちゃんが呟くと身体を動かして、如何にも物を投げる姿勢を取り始める。それに彼もその意味に気づきくも何もできない。もうミヤちゃんになすがままである。
そして・・・。
「フンッッ!!」
思いっ切り空船港の方に投げつける。その投げる威力たるや見事な一直線で、直線上にあった荷物も建物に突き抜けて豪快な煙が上がり強制退艦された。
なお、一部始終を見ていた船員は・・・。
「・・・今、獣人の子があいつを投げていなかったか?」
「幼女であそこまでできるのかよ」
「あいつまさか死んだか?」
そんな心配事に煙の先では・・・。
「死ぬ。これは死ぬ・・・」
投げ飛ばされたと分かった瞬間に魔力障壁を展開、そのコンマ秒後に何がどうなってどう当たったのか全く分からず、ただ身体に凄まじい衝撃だけが走った。その姿、正にヤ無茶。
「クラ」
「ッ!」
怪我はしてないもミヤちゃんにの声だけで身体が強張って動けそうにない。ミヤちゃんは彼に近づいていく。そして案の定に・・・。
「痛・・っ!?あ゛!まっ・・!?ん゛っ、い、いつもより深い深い深い深いーーーっっっ!!!!!骨、骨きてるっ!!」
「ン゛ン゛ン゛ン゛ーーーーー・・・・」
その後何度も首の位置を変えて噛み続けられ、傷物にされるしかなかったのである。
「あらあら。子どもってわんぱくだわ~。だけど・・これ、どうしようかしら?」
その二人の様子をミヤ母は見守っているのだが、彼を投げ飛ばして起こった壊れた荷物と破壊された建物をどう後始末すべきか悩む。後日、弁償と修繕費、時間的損失における金銭、怪我人の治療費、慰謝料、罰金、その他諸々の損害賠償を全額彼が支払うことになった。
え?なんで?むしろ被害者なのに・・。何故だよ!?
この町の行政でイエロー扱いだった彼がレッドどころかブラックリストとして国の行政にも危険人物として登録された決定的な日になった。
パレス工房・・・。
「ほお。彼は船から降りた?」
「いえ、なんか飛ばされたとしか」
部下に通じての彼の情報が美男子のお兄さんにも伝わった。
「またよく分からないことに・・。まあ概ね港から上がった煙も彼が何かしたことだろうけど、うちらに関係してなければいいのだが。まあ船から降りたとなると見学は終わったと見ていいかな?」
う~~ん。中々上手くいかないものだね。
部下がいなくなると自称美男子のお兄さんは独り言のように語る。
「彼は空船に興味を持った・・。それはきっと迷宮で浮遊石を見つけたからだろうね」
あの時も彼は武器製作に関連する魔導石、記号式にも手を出して手に入れた・・。いつだって彼の行動は何か知ってから行動に移す・・・。
「あの小さい浮遊石も最初はよく分からず割って小さい破片を持って来た。ってところだろうし」
魔導石も普通に割ってしまうんだからね。彼の行動を見ると浮遊石でも割ってそうなったと予想は難しくない。
「そして浮遊石の使い道を知った。船に興味を持つのは自然の流れ・・。出来れば良好で穏便に彼と協力して、浮遊石の場所を知って色々と大きなおこぼれを得ようと思ったのに・・・こうも騒ぎを起こされるとは」
この騒ぎで確実に彼は目を付けられるのは間違いない。そこにパレス工房も絡んでいたとなるとこの町での取引が出来なくなってしまう恐れが出てくる。それだと本末転倒になりかねない。
「欲をかき過ぎるのは良くないか~・・。仕方ない。浮遊石も得たかったが今回は魔導石だけで諦めよう」
苦笑しながらお兄さんは空船港に上がる煙を見たのだった。
2020.07.28 誤字、話の一部修正。
2021.08.30 誤字の一部修正。
2021.10.04 誤字の一部修正。
2022.05.14 誤字、一部文の修正。




