第17話 あ~~。自由って素晴らしい。素晴らっ!やっと自分だけの時間だぁぁあああーーーー!!
前回のお話。課題クエストのプリエオルバの山菜を取るために下層を目指すことにした彼らだが、行き過ぎて最下層まで行ってしまった。
そして今、彼らの頭上に落石が迫りきっていた。
「うえ」
「上?」
ミヤちゃんが「うえ」と言って指をさす先には結構なサイズの岩が落ちて来ていた。
「落石っ!?って!その程度何でもないわっ!」
迷宮で魔弾をよく周辺にばら撒く彼は、落石、落盤をしょっちゅう起こすから別にどうってことはなかった。ごく普通に『万物追及』で落ちてくる岩を操る。
「ふっ。一瞬焦ったがただの岩が落ちてくるだけなら・・。マグマとかモンスターとか落ちてこないよな・・」
一瞬気が緩むがマグマ溢れるこの最下層でなら不思議じゃない。警戒して落石した上を見上げるが、これと言って分からない。なので彼より目と耳がいいミヤちゃんと与吉にも聞いてみた。
「ん~~」
チ~~。
「・・・ない?」
・・チチ?
「その疑問形信じていいの?」
言葉の最後に?が入るミヤちゃんと与吉に信じていいのか不安になるも「安全。大丈夫、いける」とミヤちゃんは付け足してくれた。
このミヤちゃんを信じていいのであろうか・・。
やはり不安が隠せない。
「まあ自分より五感はいいから、とりあえずミヤちゃんの言葉は信じるとして。何だろうねこの落石は?」
迷宮は落石が起きてもおかしくはないが、自分達の上に丁度落ちてくるのは偶然か必然か少し彼は怪しむ。
モンスターはいないってミヤちゃんは言うし、運悪く丁度落ちてきたのはな~。まあ自分、運のステータス0もあるから引っ掛かる要素があるちゃ~あるし・・重力石の件もあるからな~~・・。ああ~この先やっぱり不安が積もるな~。
「これは些細な問題なのか、気にしておくべきか・・。怖いな、疑心暗鬼になりそう」
落石を浮かべながら自問自答のスパイラルに陥り掛けた時、ミヤちゃんは落ちてきた落石に何か気づいた。
「・・・クラ。なんか付いてる」
「ん?何が?」
「あれ」
「あれ・・」
彼も落石に目を向け、手元まで引き寄せると何かこびりついていたのを見つけた。
「なにこれ・・?緑ぽっい・・苔?藻?」
ミヤちゃんも確認するかのように指に取ってみる。
「・・ミヤちゃん、指が汚れたからって服に擦り付けないでくれない?せめて自分の服かハンカチでやれ」
指を彼の服で拭いてくるミヤちゃん。しかも反省の色はない。
「だけどこんな場所でも植物が生えてたか」
この場所に植物が自生してるということは最低限の育つ環境があるのか、過酷な環境で独自の進化をして生き残っているのか彼は色々と考える。
「上か~・・・」
「クラ。早く探す」
「お待ちミヤちゃん。落石してきた上に行ってみない?こんなの生えているなら・・って、痛いからっ!?まだ説明とちゅ」
「早く次に行くっ」
締め技が彼の身体に刻まれる。
「は、話を最後までっ!待て。ベアハッグする動きもやめよう?あ、ちょっっ!!だ、だから、無駄に進むより植物が生きてる場所に行った方がプリ何とかがいるかもしれないからっ!行ってみようっていう意味ですっっ!!!!」
「なるほど」
そしてミヤちゃんは彼の絞め技を解く。
「・・何故モンスターの攻撃よりミヤちゃんによる怪我が多いのか。パーティーの有無を問いたい・・・」
彼にも疲労が蓄積されつつあった。兎にも角にもこんな環境下でも植物が自生してるなら、もしかしたら植物関連でプリエオルバの何かしらの手掛かりになるかもしれないと思ったのだ。
「んじゃ、上に行っていいですか?」
「いなかったら締め付け」
「・・・・・」
これでいなかったらと思うと彼は黙り込む。
マジでいますように・・・。
祈りながら彼は先が見えない天井に向かうことにした。すると上に進めば所々からマグマが流れる滝が見えたり、脈打つかのように熱した赤黒く光る壁とアトラクションのような風景が現れ、そして今まで無かった湿気がどんどん帯び始める。
「あつぃ」
ヂヂィ~~。
「なんでここだけ湿気が・・」
今までと違う湿気の暑さで皆が思った以上にバテる。
そして飛び続けているとこの湿気の原因が分かった。天井に続く壁から別の洞窟に繋がる入口があって、そこから大量の熱水が流れていたのだ。その熱水が赤黒く光る壁に当たり、熱水が水蒸気となって湿気が帯びていたのである。
チャカリ。
しかしそんなことはどうでもいいと短剣2号を抜くミヤちゃん。苛立ちながら力強く一振りすると熱水が氷に変わり、湿気は冷気へと様変わり。
「すずしい」
チチ(復活した)。
いや~ホント作った本人よりどんどん扱い上手くなってきてるよね。近いうちに返してもらって制限しておこう。
いつ自分が作った武器でミヤちゃんに襲われるかそろそろ考えだす彼であった。
「とりあえずこの大穴進んでみるか」
この洞窟は今まで洞窟とは違って鍾乳洞の洞窟になっており、進む度に上から水滴が落ちてくる。
ピト。
「クラ。傘」
「そっちの道具箱に与吉傘があるから」
色々と用意していた荷物から傘を見つけ出して、ミヤちゃんは差し始める。しかも短剣2号から冷気だけ出して涼んでもいる。
「すずい」
「本当に自分より扱い上手いようで」
羨む彼に気にせず「ん~~」とミヤちゃんは涼み続ける。
「だけどこの先にモンスターがいるのかね~」
流れる熱水の周りには、落ちてきた落石に付いていた藻類が生えているも進めどモンスターが見える気配がない。
この熱水に流されてあの岩は落石になったのかな~。
そんな考察も続けるもやっぱりモンスターは見つからない。
「モンスターがいても不思議じゃないと思っていたけど・・」
ハズレかな~っとミヤちゃんに締め付けられるのを覚悟するしかないと思った時、ミヤちゃんが何かを捉えた。
「音する。いる、この先」
「え?モンスター?流れる水の音で良く分からないけど近くにいるの?」
「分からん」
しかし耳を動かすミヤちゃんは間違いなく何かを捉えている。そこから先に進んでいくと彼もその音が聞こえ始めた。
「確かに聞こえる。でもあれだな。巨大ムシキング達の地響きに似てるな」
音と言うより空間が震えてお腹に響く辺りから大型、或いは超大型のモンスターと彼は予想する。
まあどっちにしてもプリ何とかじゃないよな~。プリ何とかが大型モンスターなんて聞いてないし。
そんな予測をしながらも音の正体に近づくと、巨大な大広間となっている洞窟に出た。その広さはアラクニードがある洞窟よりも広く、飛んでる下は端から端まで続く熱水の湖で広がっている。そして何よりもそんな場所で動く巨大な姿、それは・・・。
「蟹だ!蟹だこれ!!」
「カニ?」
タスマニアキングクラブ似の蟹であった。しかしサイズが㎞で測定するほどの超大型モンスター。しかし驚くのはそこじゃない。甲羅の上には土と草が生えて、洞窟の壁に甲羅の土と草をハサミで器用に植えて草を増やしている。
「え?待って。これがプリ何とか?え?こんなデカいとか言ってなかったけど」
「知らん」
チチ?
教えてもらったプリエオルバの生態と類似はしていた。しかしサイズが違いすぎて確証が得れない。しかしそのモンスターはプリエオルバで間違いない。ただそれは太古から姿が変わらずにいたプリエオルバだったのである。
なお普通のプリエオルバは人と同じくらいの大きさのサワガニの大きさしかない。
「だけど草を生やしているよな?だからプリ何とかで、いい・・のか?な?あ。でも亜種と言うパターンでビックサイズとか?」
あれこれ考えるがミヤちゃんはもう「もうあれでいい」と甲羅に上陸しようと彼を揺らす。
「クラ。行く」
「あれ近づいて大丈夫かな~」
甲羅に乗ったら攻撃されるかなとちょっと警戒しながらプリエオルバに近づくも思いのほかすんなり甲羅の上に乗れた。
「本当に色んな草があるな。だけど、う~ん・・」
とりあえずこのモンスターをプリエオルバとして、草を持ち帰ることにしても何の草なのか分からないからどれを持ち帰ればいいのか迷うも、その間ミヤちゃんは雑草の如くそこらの草を毟りもぐ。
ミヤちゃん・・・。
「ミヤちゃんさ~ん。何でもいいかも知れないけど。もう少し遠慮して取ってあげよう。あと積む量も考えて取りなさい」
「むし毟る・・」
「駄目だ。聞こえてない。猫草でも生えてたか」
なお、普通のプリエオルバから採れるのはフキかウドぐらいなのだが、古代のプリエオルバだけあって、タラ、コシアブラ、ゼンマイ、青こごみ、赤こごみなど数多くの山菜が生えている。
そして・・・。
「結構採ったね」
「採った」
チチ。
束のようにまとまった草がボードに座れる場所の3分の1占領していた。
「そんな草いらんだろ。あと草がひしめき合ってると箱庭事件を思い出しそうで嫌だな」
「これでよし」
これだけの草があればミルティアの課題クエストも間違いなく合格だろうよ。
「んで与吉さんや。色んな草をちょくちょく食べて何かいいのあったかい?」
そんでもって与吉はミヤちゃんが毟った草のおこぼれを食べて何が美味しいか確かめていた。
それに与吉は「チチチ」とこれが一番良いと彼とミヤちゃんに教えてくれた。
チチ。チィ~チッチ。チー、チチ(生でも食べれるけどお肉に巻くのが美味しいかもしれない)。
「・・・サンチュかな?」
「チュ?」
チュ?
レタスの類も生えていたことも分かった。
「よし、迷宮でやることは全て終わった。あとは帰るだけだけど、何か迷宮でやり残したと言う人は?いない?いないな?よし帰ろう」
もうこれ以上迷宮にいる必要もない。誰もが早く帰りたいはずなのにそこに何故か一人挙手する者が一人いた。
「エサあげたい」
何を言っているのかなこの子?
「草もらったからエサあげる」
このミヤちゃん、暴力的で自分勝手な事が多いも、基本は善良で仲間思いなところがある。大方、草を貰ったお返し何かすべきと子どもらしい優しい慈愛溢れる何かが出たのだろう。
「却下」
しかし彼は真っ向両断する。長居する必要もないのにただでさえ今自分達がいる場所が危ないところ。だから却下するのだが、そこはいつも通りにミヤちゃんの肉体言語で語られ、鵜吞みになるしかないのである。
で・・・。
「はい。美味しいか分からないエサだよ~。ミヤちゃんからの差し入れだよ~~・・・」
「お食べ」
一旦、大型モンスターがいる場所まで戻って、ミヤちゃんが渾身の一撃でモンスターを仕留め、デカい脚を一本だけもぎ取ってボードに吊り下げながら、プリエオルバのところまで持ってきたのだ。
ドン。ドン。ドン・・・。
足音を響かせながらハサミで脚を拾い上げて口に運ぶ。食べる音もバリバリと豪快な音が響く。
「満足そうだね・・」
「食べた」
モンスターの脚一本でも数十tあるのをボードに吊り下げ、ここまで運んで来させられた彼は疲れ気味。
「これで文句ない人~・・。はい、いないね・・。今度こそ帰っていい?」
「いいとも」
チ~チ。
笑えんわこんなの・・・。
それから帰りは特に危ない事はなく、最下層をすんなりと抜けれて見覚えある洞窟の道になっていき、通ったことがある道も通って、やっとの思いで片道5時間半のNO休憩で久しぶりの地上に帰還した。
「着いた?」
「おはようミヤちゃん。着いたよ。今は夜だけど」
地上に戻るまでの間はミヤちゃんと与吉は寝ており、地上に着いて起きたようだ。
「じゃあ寝る」
また寝始めた。
家族を乗せて高速道路を運転して家に帰るお父さんの気持ちってこんな感じなのかな?
それからシルル教会にミヤちゃんを届けに向かうも、夜だから誰も来ないし、寝ているから扉も閉まっている。なので静かに強引に扉を静かに破壊して、寝ているミヤちゃんを背負い、草を運び、ミヤちゃんは途中でくずり、首を噛みに蹴りも入れてきて、やっと皆が寝る部屋まで着いて、ベットに下ろそうするも寝ながら首を噛んで離さない。
「疲れた。クエストの報告は・・明日でいいか」
彼も疲労が溜まり、噛まれた状態で一緒にベットに寝ることにした。
そして朝・・・。
「びっくりですよ。朝起きたら扉は壊れているし、ミヤちゃんとクラリオン君は帰ってきてるし、もう本当に心配したんですからねっ!!」
朝、早速ミルティアが教会の惨状と教会の外に置かれたボードから、子ども達が寝る部屋に急いで来れば、ミヤちゃんが寝ぼけながら彼に締め技をかけてる姿と辛そうな顔で寝てる彼らを見つけたのだ。それからと言うともうミルティアに色々と言われる始末に。
「寝たのに身体が痛いのは何故だろう・・」
「よく寝た」
「聞いてますか?そもそも迷宮に潜る時は何日潜るのかちゃんと言うように言ったでしょう!」
しばらく帰ってきてなかったことにミルティアはご立腹らしい。どうやら潜る日程を報告してなかったことらしいが、そもそもそんな報告義務があったこと自体彼は知らない。つまりそれを知っていたのはミヤちゃんだけになる。
「ちゃんとした」
「これがですか?」
紙に「行ってくる」と書かれたミヤちゃんの手形入り置手紙を出すミルティアにミヤちゃんは「うん」と頷く。
「これは報告に入りませんっ!それじゃあクラリオン君と同じですよ!」
「ミルティア先生。それ、他の子どもなら傷つくよ」
「ぜんしょする」
彼の悪い口癖を真似して言うミヤちゃん。
わざとかな?怒りの矛先を自分に向けさせるあれかな?
当然、悪影響を及ぼした彼にミルティアの目線が刺さる。
「あ~。んっん゛~。ミルティア先生よ。とりあえず帰ってきたと言うことは、課題クエストの報告をしに来たと言うことです。期限はまだ大丈夫ですよね?」
彼もまた怒りの矛先を変えようと課題クエストの話しを持ってくる。しかし期限なんて途中から分かってないから、期限が過ぎているかも分かっていない。
「ええ、あと二日ありますけどクラリオン君は後でお話しがあります」
「ガッデム・・・」
膝から崩れ落ちる。しかし期限には間に合ってたようだ。
「ミヤ達が帰って来たのは嬉しいんだけどな~」
「声掛ける間もなくミル姉に連れ出されちゃったからね~」
「私はミヤが無事に帰ってきてくれてホッとしたのよ。本当に心配したんだから」
メルダー、クロエ、マルリも彼らが無事に戻ってきて安心してるが、ミルティアに怒られいる最中でまともに彼らと喋れてないから、早く説教が終わるのを待っていた。
そして説教が終わるとミルティアもメルダー達の様子にもう話してもいいわよと呼ぶ。
「ミヤ!!もう!本当に心配したのよっ!分かっているのかしら?」
「いつもより長く迷宮に入っていたよな。何かあったのか?」
「怪我はしてなさそうだね」
その間彼は「あ~~」とミルティアに引きずられながら別の部屋に連れていかれる。彼の説教はまだ長そうであった。
しばらくして・・・。
「それでミヤちゃんとクラリオン君。私が出したクエストはどうなったんですか?」
そして本題であるミルティアがミヤちゃんの迷宮探索の承認のために出した課題クエストについてだ。正直迷宮に行かせてる辺り、本当に意味があった課題クエストだったのか疑問だらけであったが、そこはもう何も言わずに答える。
「取ってきた」
「ミヤちゃんの独裁政権でした。あとこのクエスト自分がいなかったら達成不可のクソクエだった」
彼はいつものことだとして、ミヤちゃんの「取ってきた」と言う言葉にミルティアは聞き返す。
「ミヤちゃん。取ってきたって言うのは・・」
「草抜いてきた。あとエサもあげた」
「ん~~」
ミルティアは唸る。エサとは何だろうと?そこに丁度メルダーとクロエが何か抱えてやってきた。
「なあこれクラ達のか?部屋に草の束があったの」
「朝うるさかったもんね~」
「あ~うんそれ、プリ何とか草」
メルダー達が持ってきた草に彼は答えた。それに「え?いやいや」とミルティアのあり得なさそうな顔をする。
流石にプリエオルバの草花を見たことない私でもあの量はおかしいですよ!?
持って来た山菜が大量のまとまった束が3束とどう考えてもプリエオルバ以外で集めてきたしか考えられなかった。
しかしこういう時にするどく無駄に勘を発揮する彼は口ずさむ。
「それがあり得るかも~」
「クラリオン君。後でお話しがあります」
「なんかもうそれ条件反射で言ってませんか?」
彼の制裁はさておき、メルダー達が持ってきた草をちゃんと確認するも・・・。
「・・・・・・・」
先ほどでも言ってあるがミルティアはプリエオルバの草花かどうか見極める術などない。
いや山菜なのは分かりますよ。だけどこれがプリエオルバから採れた山菜かどうか・・・。
それで出した答えが・・・。
「ギルドに聞きに行きましょう」
「もう合格にしたら?」
「お腹すいた」
それで・・・。
「季節物の山菜がバラバラにありますね。プリエオルバからじゃないとこうは用意出来ないですよ。しかもこんな沢山」
「草」
「むし毟った」
「本当にプリエオルバから採ってきたんですか・・」
ギルドに鑑定してもらった結果、お墨付きを貰った。
「ミル姉。クリア?」
「・・ゔぅ。ご、合格です」
「よし」
観念したかのように課題クエストのクリアをミルティアは認めた。これで晴れてミヤちゃんは迷宮探索の許可が貰えたことになる。
あ~。これからミヤちゃんに無理矢理迷宮連れて行かれるんだろうな~。確実に自分の自由が減る日々。一体自分はどこで間違えたんだろう・・・。
しかし今までの行いが自分の首を絞めてるのは分かっていたのに彼は、それが現実になると後悔しか浮かばない。
そして最後にミルティアは、最後の確認と念押しに彼に聞いてきる。
「クラリオン君・・。冒険者としミヤちゃんは本当に迷宮に潜っても大丈夫と言えますか?」
「んーーー・・・」
そんな真面目そうな言葉に彼もどう話を返そうか悩む。
ん~。ミヤちゃんに暴力振るわれる思い出しか思い浮かばない・・。
思い浮かぶのはミヤちゃんの暴力。それでも彼は思ったことを言った。
「まあ正直、自分の迷宮の移動手段って普通じゃないじゃない?一般的なパーティーと比べても常識なんて学べないと思うし、モンスターの戦闘も絶対普通とは違うだろうし・・。だから冒険者として早いと思うのはミルティア先生と同じ考え」
今の発言でミヤちゃんから鋭い視線に襲われる。しかし彼は一息着いて続ける。
「まあでもこうなっちゃった以上は、この町にいるまで面倒は見るよ。いや本当は一人の方がいいんだけどさ」
余計な事を言いながらも面倒見ると彼もまた認めた。と言っても彼もまだ迷宮初心者であるし、しかも内心本当に一人の方がいいとも思っているのが残念であるが。
「はあ~。もう少し真面目に言えないんですか?だけどクラリオン君がちゃんと見てくれるなら、私はもう何も言いません。冒険者の先輩としてしっかり見てあげてくださいね」
ミルティアはもうこれで心残りは無くなった。ただ最後に彼は。
「ぶっちゃけ戦闘力の強さならミヤちゃんが強いんだけどね」
「本当にクラリオン君はどうしてこう・・。はあ」
最後の最後まで余計な一言を挟むのである。
あと彼は大量の山菜を換金できるかギルド職員に聞くと「鮮度が落ちる物は・・ちょっと」と言われた。仕方ないので知り合い料理店に提供したのとシルル教会のご近所さんに配ったとさ。
それから・・・。
「あとはミヤちゃんの両親ですけど」
ミルティアはミヤちゃんの両親に課題クエストクリアについて伝えたところだが、以前にミヤ夫婦はミヤちゃんの課題クエスト終わり頃には戻って来ると迷宮に行ってしまってまだ帰ってきてない。
「せめて連絡入れてからじゃないと迷宮に行かすのは駄目ですね」
流石にいくら課題クエストクリアしたからといって、親の確認もさせないで勝手に迷宮に行かすのは、子どもを預かる身として出来ないので、ミヤ夫婦に報告ができるまで迷宮探索はお預けされることになった。
しかしそのおかげで、久しぶりに彼は束の間の自由の時間を手に入れたのだ。
「あ~~。自由って素晴らしい。素晴らっ!やっと自分だけの時間だぁぁあああーーーー!!」
チィ・・。
宿屋の部屋で叫ぶ彼に与吉は若干迷惑そうである。
「武器作りに二度寝と色々とやっていきたいところだが・・。さて、どうしようか」
何をしようか悩む彼。ミヤ一家が絡んでくる前は、記号式を使った武器でもまた作り始めようかと悩んだが、今は机の上にはある物が置かれている。
「この重力石って一体何だろうかね?いちよ魔力に影響するところ魔石の一つなのか、それとも別枠の存在なのか・・・?ん~~分からん」
迷宮の最下層で発見した手足青くして手に入れた仮称『重力石』だ。手持ちの書籍でもこの重力石の類の内容は無く、そもそもこれは安全な物なのか、どう適切に扱うべきなのか、何に使えるかのか、全く分からないのだ。
手の上に持てば浮いて、握れば握ったところから血が通わなくなって青くなる。これ普通に取扱注意物質だよな~。心臓の近くに置いたら絶対死ぬだろうし。
色々と実験してみたいもこれがもし暴走すれば、どうなるか分かったもんじゃない。せめてこれが何なのか知ってから実験に挑みたいのだ。なので誰か詳しい人はいないかと彼が知っている人物を順当に当てはめていく。そしたら・・・。
「HEY、オーガス。重力石、検索」
「何しに来た疫病神」
「見聞を広めようと」
やって来たのは鍛冶師の技術を身に着けるため通ったパレス工房。久しぶりの来訪であるが、オーガスから辛辣な言葉を受ける。
それで何故パレス工房に来たのかと言うと、ここでも魔導石やら色々と扱っているから何か分かるだろと訪れたのだ。
「まあこれが何か分かるか聞きに来ただけなんだよ。深い意味は無いから」
そう言って彼はオーガスに重力石を見せる。
「何拾ってここに来たんだ全く・・。そんなことでいちいち・・・・お前、その小さいの浮遊石か?」
オーガスは目を細めて石を見つめた。
「浮遊石?」
「あれだ。お前がいつも町中でなんか乗り回している鉄板。あれにも浮遊石使ってるんだろ?どこでそんな小さい浮遊石を見つけたんだ?」
何故か呆れた様子で彼を見始めた。
「いや。あのボードはスキルで浮かして飛ばしてるんだよ。前に言わなかったけ?」
「知らないし、聞いていたとしても覚えておく理由がない」
「うわ。辛辣」
「それでその浮遊石は一体どこで拾った?一番ありえそうなのはミシャロ商会から買ったとしか思えんが」
「あ。ミシャロでもあるんだ」
なんだ。後で聞きに行くか。
「なんだ?ミシャロ商会じゃないのか?どこの奴がそんな浮遊石を売ってたんだ?いくら高値でも買う物好きは・・・いるか」
「ん?何か?」
以前に何だか分からない石や爆発石とか持って来たことがある彼を考えれば、多分どんな物でも買うだろうとオーガスの想像は容易かった。
「と言うかこの浮遊石?ってどんなの?よう扱い分からんし、武器に使えたりとかするの?」
「そう言うのは空船港で聞け。大体浮遊石は空船に使う魔導石だ。工房では扱わん」
「へ~。まあ浮かんでいるから何となく予想はしてたけど・・。やっぱり武器に使えたりしないの?重力波っ!!みたいな感じで」
波のイメージが「波ぁぁぁぁ!!!!」のイメージで伝える。
「なんだそのポーズは?」
「オーガス君よ、そんなこと言ったら死ぬよ。あいつら毎回パワーアップして強くなる癖あるから」
「何を言っているんだお前は。とにかく浮遊石を使う武器なんて無い。そもそもそんな小さい浮遊石がそうある訳でもないからな」
「ふ~ん。小さい浮遊石ってそう無いのか。以外に使い道がなさそう。インテリアの道具ぐらいかな~」
オーガスもあまり浮遊石については知らないらしい。しかし空船港なら詳しいことが聞けそうなのは分かった。
「おや?久しぶりだねクラリオン君」
「うわ。出た」
「またサボりかマエストロ」
そこに今後は彼の背後から自称美男子のお兄さん基、ここのパレス工房のマエストロがひょっこり来ていた。
「ほう~。また珍しい小さい浮遊石だ。しかも小さい割には純度が高い。これ手で握っただけで手が青くならないかい?」
「ご明察で。若干取り扱い注意で、どう取り扱えばいいのか聞きに来たんだよ」
「なるほど、ここなら魔導石もそれなりに扱うからね。しかしオーガス君も言っていたが浮遊石は専門外だ。空船港の人なら詳しいだろうね」
自称美男子のお兄さんもそう言うからにはそうなのだろう。
「そうか~。もう少し詳しいことがここで知れれば良かったんだけど」
「ああでもその程度の浮遊石なら扱いは難しくないと思うよ。何せ小さいからね。周りの影響は少ないはずだ。何処かに行かないように紐でも付けるか箱に閉まっておけばいいさ」
「そんなに危険でもないと。ふむ、若干安心」
「それは良かった。だけど普通の大きさの浮遊石なら流石に危ないかな?最悪血の巡りが悪くなって死ぬとも聞く。安全に扱うとなると空船で使う浮遊石専用の記号式ぐらいかな?」
「へ~。そんな記号式もあるのか」
また興味が沸く内容だな~。しかし浮遊石は空船で使われる物か・・・。
そして彼は「空船か」と呟く。
ふむ。自分はこの町にずっといるわけでもないし、いつかはこの町から出るだろうし・・。ん、自分の船を持つのも悪くないな。しかも迷宮に浮遊石がある場所も知ってる。ふむ・・。悪くはない。悪くはないな・・・。よし!船だ。次は空船を作ってみるかっ!
とても安易ながらこれが彼の空船建造の最初のきっかけであった。しかもそれが後に空賊の始まりとなるのは彼も想像してなかった。
「さて、空船を作るっ!と言ってもこれ結構大変だよな?自分で決めてあれだけど」
パレス工房を後にして次なる目標に行動を移してみるわけだが、空船を建造となると今までの武器製作とは訳が違う。造船所、資材、その他諸々必要となってくる。それを全て一人で行うのは無理に近い。しかも今後ミヤちゃんの迷宮に付き合うことになると時間も少ない。が、彼は・・・。
「どうしようか。しかも空船って見る限り木造船・・。まあ手軽で簡単に浮かびやすいんだろうけど・・・。他とは違う船にしたいよな~。自慢したいし」
全くそんな事は考えていなかった。今の彼には自由と素材さえあれば物を簡単に作れる環境であるから、コツコツとプラモのように組み立てればイケると何年掛かるか分からないおめでたい思考なのだ。
「よし。まさに世は黒船来航時代!鋼鉄の巨体こそがこの先の空を斬り進む先駆者なるだろう・・・!っ、いいね。このフレーズ。我ながら結構かっこいいんじゃない?」
しかも彼は木船ではなく鋼船を作ることにした。
「そうなるとやっぱ軍艦がいいよな。空を駆ける軍艦・・・。ふっ、まさかマル5計画の超大和型戦艦の建造の時が来てしまったのか・・・。ダメだ、ロマンしか溢れてこない」
建造の想像しているだけで手に汗握りはじめる。クラリオンこと彼、地味にミリタリー好きでもある。そしてどんどんと気持ちが高ぶり・・・。
「よしやろう。価値はある。ロマンもある。実行するだけの力も金だって用意できる!時は来たっっ!!!」
テンション爆上がりである。
「クラ君。お姉ちゃん、玄関ロビーで大声上げるのは感心しないよ」
彼はさっきからバーバリエ宿屋の玄関ロビーにいて、そこで決意表明をしていた。さて、そうなると彼の行動もまた早い。早速再び迷宮の最下層に向かう準備を始めた。
「与吉。起きるのだ。目覚めの時が来たのだ」
部屋で睡眠を貪っていた与吉を彼は起こす。
チィ~・・・・。
一体なんだよと言いたげに目を覚ます与吉を頭の上にセットして宿屋を出た。
「また迷宮に潜るぞ与吉。あの重力異常現場もとい浮遊石がある場所まで戻り、浮遊石の発掘を開始する。なに往復自体は一日で済む。もちろんミヤちゃんは無しだ。なんせ個人的な目的で潜るのだからな」
それに与吉は無言。個人的な用なら自分を起こす必要なくない?と圧を掛けているが本人は感じてない。
「それで与吉よ。どこか料理をテイクアウトできるお店知らない?一日潜ること想定しているから軽食買っておきたい」
・・・チィ~。チッチ・・。
「あっちか」
それからボードで再び迷宮に潜ること半日・・・。
「着いた~~。ちょっと迷ったけど、間違いない。ここだ」
道中はいつものようにボードで高速で飛んで進むもまだ不慣れな場所でもあって迷うところもあったが、彼はあの重力が狂う場所まで何とかたどり着く。
「よし。問題はあの荒れ狂う重力だ」
前回、壁全体ほどの巨大な浮遊石が埋まっているのは手足青くして確認済み。それをどう発掘するかである。
「だから与吉を連れて来たのだ」
チ?
「まず可能な限り自分が浮遊石を壁から露出させる。露出した浮遊石に与吉糸を取り付け、重力影響が出ないところまで伸ばして引っ張る綱引き作戦。我ながら名案だと思う」
それで彼は与吉を連れて来たのである。
「と言うことで、浮遊石が埋まってる壁まで行きたいんだが・・・。はぁ、手足の血の流れが見えるほど青くなるんだよな~。これだけ怖いんだよな~・・・」
意気込みはいいが、まさに血の気が引く発掘になるのに踏ん切りがつかない。
チッチ。
「分かってる。やると決めた以上は行く!が!少し待って。今、心もブルーになりかけてるから、人肌に戻るまでは待ってほしい」
チ~~・・・。
心が人肌に戻って・・・。
「行ってきますっっ!」
チ。チィ~。
その様子を見守る与吉。その目には声を上げながら壁に走って行く彼の姿。さらに見守っていると「腕がぁぁあああーーーーっっ!!?」と叫ぶ声が聞こえてくるが、それでも遠目で見守り続ける。
チ?チィ~~。
壁が崩れて巨大な浮遊石の塊が露出した。そして全速力で戻ってくる彼。
チチ(おつかれ)。
「この前より手足が青いだんけど・・。というか身体前だけ薄っすら青くなってない?」
チ~・・チッチ。
「マジか。自分の気のせいか・・でもちょっとこれはミヤちゃん並みのトラウマだな・・」
与吉は嘘をついた。ちょっとではなかった。特に彼の目から見えない顔色は、酷いもので言わない方がいいだろうと気遣ったのだ。
「あとは与吉糸をくっ付けて引っ張るだけだけど・・・なんか大きすぎない?明らか空船港にある一番大きそうな空船よりも大きくない?」
大きさがどれもWDHの長さが200m以上はありそうに見える。
「と言うか大きすぎて運べなくない?持って行けなくない?あと・・あ。あ~。あ、あ、あ~~・・」
言葉から彼は「あ~」しか言葉が出なくなる。と言うのも巨大な浮遊石が地中に埋もれていたのを露出させたせいで浮かぼうと動き始めたのだ。そしてゴゴゴと鈍い音をさせながら天井まで上がったと思えば、浮遊石の半分が天井めり込みはじめた。
「あ~、止ま・・・ったぁ~・・」
あ~~。これは運べないわ。
まずはこれをどうやって運ぶかが今後の課題となりそうだった。
いや~やっと小説のタイトルに近付いてきたよ。本当に長かった。だけどまだ道のりは遠いんだよね・・・。
2020.07.28 誤字、文の一部修正。




