第13話 行けええっっーーー!!全軍、ミヤちゃんを蹂躙せよっ!!!
前回のお話。武器が欲しいと強請るミヤちゃんにミヤ母はテストとして迷宮に連れて行く。が、短剣1号でミヤ無双プレイに皆は唖然。
それで後日・・・。
昨日のミヤちゃん疲れから宿屋の部屋でのんびり寝ている彼ことクラリオン。朝の二度寝は当たり前。今日も二度寝を敢行しようと与吉と一緒に寝始めるも騒がしい一日の開幕が唐突に訪れた。
バリッ!ギィーー~~・・・。
「ん~~?」
部屋の扉から聞きなれない音に違和感を感じるも彼の意識はぼんやりしており、よく分かっていない。そして誰かが軽い足音を立てながら彼のベットに近づいてく。
「ん?」
さらに足を掴まれる感触に流石に意識がまともに覚醒するも・・・。
「あさ。おきる」
「ん?え・・っ?ちょーーーーっっっ!!?!?」
ベットから無理矢理、ゴンッと音を立たせ引きずり出される。そんなことをする思い当たる人物は、彼には一人しか思い付けない。
「ミヤちゃんストップ!ストーーーーップ!!!汚れるから!服汚れるからっ!!与、与吉ーーーぃぃぃ!!!」
疑うことなくミヤちゃんである。いきなり朝襲われて混乱の極みの彼。襲われていなかった与吉に助けを求めるも・・・。
チィ・・。チ・・。
彼を見守って二度寝をそのまま敢行。見捨てられる。
何で朝からこんな目にっ!?
訳が分からぬまま朝叩き起こされるのだった。
「おはようクラリオン君。でも朝は早起きしないと大きくなれないわよ~」
「・・・・・・」
引きずられて来たのは宿屋にある食堂。そこには手を振るミヤ母の姿もあった。そして彼はと言うと無言。と言うより倒れている。正確には足をすっと掴まれて道中立つことすら許されず、段差も階段も関係無しに引きずられて満身創痍。
うちが一体何をしたと言うん・・・。
「で?朝から拉致られた理由は?」
復活した彼は不機嫌になりながらミヤ母の隣の席に座り、問い詰める。そしてミヤちゃんは彼の隣で何かお菓子を食べている。
「・・やらん」
「いらん」
因みにミヤ父とメアリーとバルクはいない。彼がいるとミヤ父が騒ぐのであとの2人がギルドに行かせる理由を付けて、3人でギルドに行ってもらっている。
「ほら~、昨日はあれだったでしょう~?流石にあれだとね~。だから改めて今日ちゃんとしようと思ったのよ~」
「ほお~~」
その言葉を聞いた瞬間、何故こうなったのか察しがつく。
「だ・か・ら~。クラリオン君にまた手伝って貰おうかな~って」
「・・大変ありがたいお誘いですが、これから芝刈りと洗濯と桃でも拾ってこようと思ってまして、ああ~忙しい」
帰ろうとする彼にミヤ母は彼の袖口を掴む。
「あら~いいじゃな~い。2人でよく遊んでいるんでしょう?組み手だったかしら?それ見て評価しようかなって~」
「嫌だよっ!!」
鬼ごっこにかくれんぼ。しかし最後はミヤと彼の激しい攻防戦となるリアル狩りごっこ。負ければ捕食される構図になるのが決まりになる狩りごっこは、何一つ彼に得になりはしない。
「第一自分じゃなくてもいいじゃん。関わる必要ないじゃん」
しかしその返しは予想していたのかミヤ母は、娘に目を向ける。
「だってあの短剣をミヤがずっと持っているんだもの~」
「あ」
気付いていなかったが、ミヤちゃんの腰に彼の短剣1号と2号がベルトに付けられていた。その目線にミヤちゃんは・・・。
「や」
渡さないと短剣を握りしめる。
「クラリオン君、昨日返すの忘れたでしょう?朝返そうと思ったんだけどね~。ミヤがこんな調子だし~、そのナイフ危ないし、クラリオン君がどうにかしてくれないと駄目なのよね~」
そう言われればと彼は昨日返してもらうのを忘れていたのを思い出す。そして同時に短剣1号の火力も思い出す。もしミヤちゃんがここで短剣を暴発させるものなら、部屋を草だらけにした比じゃない。
あ~~アスラお姉様の怒りとゆすられる笑みが想像できる・・。
「ミヤちゃんさん。その我が短剣を返して頂きませんでしょうか?」
力ずくで取り返すことは危ないし、出来ないので丁寧な言葉遣いを心掛けてみるも・・・。
「や」
再度1文字で返される。それにミヤ母はある提案をする。
「ならこうしないかしら~?戦闘試合でクラリオン君が勝ったなら短剣は返す。ミヤが勝ったなら、まだしばらく借りるって言うのは~?」
「やる」
「だから何でそうなる!?」
昨日の出来事からこの短剣で勝てると自信ありげなミヤちゃん。一生借りパクしそうな感じである。
「最近ただでさえしつこいのにっ」
ぶっちゃけミヤちゃんの勝負もとい戦闘したくない彼。勝とうが負けようが首を狙って噛み、最近は教会に来ただけで襲われる。しかも今回泊まっている部屋がバレた以上、今後部屋に押しかけられる可能性が出てきた。
部屋のセキュリティ上げないと・・・。
朝から色々案件が浮上する。
そこに。
「やっぱりここにいたかコヨテ!ミヤ!」
ミヤ父が現れた。
「あら?場所は伝えていないのによく分かったね~」
「大体の冒険者はバーバリエ宿屋に泊まるからな」
ふんっと当たり前そうに言う。そしてそこにいる彼を睨むと今度は不敵な笑みを浮かべた。
あ。これ、また面倒になるやつだ。
もう顔見ただけで悟る。
「おい。クラリオンだったか?お前絶対そこから動くなよ。それよりコヨテいいか?ギルドでだな・・・」
ミヤ父がミヤ母に耳打ちで話しているを見ると彼は無言で席を立って逃げようとするもミヤちゃんがお菓子持ちながらもがっしり袖を掴んでくる。
「分かったこうしようミヤちゃん。その短剣はもう差しあげよう。そして離して頂きたい」
「勝って頂く」
ミヤちゃんは勝ち取って頂きたいようだ。
別に自分ミヤちゃんに恨み持つようなことしてないのになんで家族総勢で絡んでくるんであろうか・・・。
ミヤちゃんと出会ったのが運の尽きとしか言いようがなかった。そしてミヤ夫婦の話が終わったのかミヤ母は・・・。
「やっぱりクラリオン君は人気者ね~」
彼を見て笑うのである。
少し前。ギルドで・・・。
「別にギルドに行かなくてもいいだろ」
「昨日の一件があるだろ」
「いちよ報告しておかないと、問題が起きて顔が割れたらどうするのよ?処罰ものよ」
「だったらあいつが行けばいいだろ!」
昨日の一件をいちよギルドに報告すべきと言いくるめられたミヤ父は、バルク、メアナと共にギルドに来させられていた。
ミヤ父としては娘と戯れたいのだが、久しぶりに会ったら武器が欲しいとねだられ、その横には見知らぬ少年が娘とイチャイチャ(ミヤ父目線)していたり、しかも彼のせいで後始末のような扱いでギルドに行かされて、折角の娘との時間をと彼に恨みしか湧いていなかった。
「本当に重症ね。うちのリーダーは」
「まあしかし昨日一件から見れば、あんな事を起こせば心配にはなるかもな」
ブツブツと恨み言を呟き始めるミヤ父に呆れる2人。
「そもそもあんな得体の知らないのをコヨテまで許すのかも分からん」
そんな彼の話にある人物が現れて、ミヤ父達の話に絡んでくるかのように声を掛けてきた。
「そうよね~。クラリオン君ってまだ色々隠していそうだからね~」
ギルド警備長、フレアであった。
「あなた達知ってるわよ~。獣人パーティーで前線で活躍するパーティーの一角。ギルドも貴方達の活躍には期待しているのよ~」
「これはフレア長。貴方に言われると俺らも鼻が高いな。だが何で俺らに声を?」
「だってクラリオン君の噂してたでしょう~?だからちょっと聞きたいことがあってね~」
「あいつの?いいぞ。実は昨日色々あって今日ギルドに来たんだ」
思いっ切り告げ口感覚でミヤ父は話し始めた。
あら~最近大人しいと思っていたけど、一体何をまたしでかしたのかしら~?
そしてフレアは昨日の出来事を知ると・・・。
「なるほどね~。そんなことが~・・。だったら丁度良いクエストあるんだけど受けないかしら~?」
全てを聞いたフレアはほくそ笑んであるクエスト紹介をしてきたのだった。
そしてミヤ父達はギルドから戻り、ミヤ母を探して・・・。
「おい。クラリオンだったか?お前絶対そこから動くなよ」
ミヤ母にギルドであったことを話して・・。
「コヨテ、ギルドでだな・・」
フレアはミヤ父にこう言った。
「ちょっとクラリオン君の身体能力がどの程度か調べられるかしら~?。ええ、別にスキル込みの状態でもいいわ。ん?どうしてそんなことを~?秘密よ~。ただ私達でも世話が掛かりそうな子なのよね~」
いきなりクエストを紹介された訳だが別段難しくない内容。しかも冒険者ギルドからのクエスト依頼。裏があるわけではないだろうが、何か思惑あっての依頼に考えものだが、ミヤ父は娘に近づく不貞を正当に殴れるチャンスでは?と親バカの思考を発揮していた。
そんなことがギルドであったのだ。そして話は現在に戻って・・・。
「報酬は最低でも300バレル。優良な情報であれば1ハクから10ハクも出すだそうだ」
あら~。ギルドもクラリオン君に興味があるようね~。
「やっぱりクラリオン君は人気者ね~」
だけどあのフレアさんが世話掛かるって言っているのがちょっと意外かしら?
ギルドの話を断る理由もないので、とんとん拍子でミヤ母も話に乗り始めた。
「じゃあ、朝ご飯食べてから迷宮で勝負で良いわね~」
「お前に奢る飯はないが今日はいいだろう!なんせ、このあとお前をボコるからなあ!あっはっはっは!」
「あさごはん」
「だからもう短剣あげンッッ!?」
どこかの店でご飯を食べようと席を立つと朝ごはんの言葉にミヤちゃんは、彼の袖を持ったままミヤ母の後をつける。また彼を引きずりながら・・・。
「災難だな彼は」
「私達は報酬がいいから止めなかったんだけどね」
そしてその様子を申し訳なさそうにバルクとメアナは騒ぐ彼らを見るのだった。
そして迷宮。
「かてる」
「皆で掛かれば噂されてる奴なんてどうってことないっ!行くぞ!だけどミヤは後に下がっていようね~~」
「貴方~。子どもに言うセリフじゃないわよ~。あと勝負するのはミヤだけよ~」
「ねえねえ、バルクはどうなると思う?また昨日みたいなことになるのかしら?それともクラリオン君の圧勝で終わるのかしら?」
「さあな。ただあいつの顔を見てみろ。朝から問答無用でここまで引きずられて来たんだ。疲労困憊で本来の力を出せるかどうかだな」
そしてそんな彼は無言。道中逃走を図ろうとするも全てミヤちゃんによって失敗している。
獣人なんて嫌いだ・・。
「じゃあ第2回ミヤテスト、ミヤテスを始めるわよ~」
「ん」
「・・・・・・」
やる気があるミヤちゃんともう勘弁してほしい彼。
「ミヤはクラリオン君のナイフ使っちゃダメよ~。代わりにこの普通の短剣ね」
「・・ん」
ミヤ母は昨日の反省を生かし、普通の短剣を使ってもらう。しかしミヤちゃんは、彼の短剣を装備したまま普通の短剣も一緒に持つ。そう簡単に手放すつもりはないようだ。
「クラリオン君は素手で勝負ね~」
「いやもう短剣あげるんで。あとナイフじゃないです短剣です」
そしてミヤ父というと彼云々と騒がしいから、ミヤ母の容赦ない膝蹴りで黙らされ地面にぐったりしており、さっきからずっと無言なのである。
逆らったらああなるのかと彼の未来がなぞらえて見える風景に抵抗の無意味さを知らしめられる。
そんでもってバルクとメアナは他人事のように観戦準備。どこから用意したのかサンドイッチとお茶を出している。
「じゃあ2人とも準備は良い?」
「ん」
「・・勝敗の決め方は?」
彼は諦めて、もう早く終わらすことを考えようとする。
「特に無いわ~。私達から見て、あ。決まったな。と思えば止めに入るから」
「わー。曖昧~」
ほぼ主観による判断で決まるらしい。早く終わらす決め手が無かった。
「ふふ。じゃあ良いわね?はい、どーん」
このスタートの合図で第二回ミヤちゃん武器を持つのか相応しいかテスト、ミヤテスト、略称ミヤテスが始まった。審判はコヨテことミヤ母、観戦者バルクとメアナ、意識不明者1名が2人の勝負を見守る。
「え?今の合・・!?」
しかしそれが合図か分からず、ミヤ母によそ見した彼は言葉途中で吹っ飛ばされる。
「こっわ。どこの悪質タックルっ!?」
ミヤちゃんによる先制攻撃。あとタックルではなく蹴りである。しかし慣れた様子で彼は魔力障壁で直撃を防いでいる。
この異世界で人間不信になったら、絶対ミヤちゃんが原因だろうな~。
友達であろうと容赦なく襲い掛かってくるこのミヤちゃんに人の信頼関係の築き方の難しさに磨きが掛かる。
「とりあえず防御に関しては問題ない。ただ・・・」
怒るんだよね~。
ミヤちゃんの顔を見ればあきらさまに不機嫌。尻尾の振りも大振りである。
鉄壁と言える魔力障壁を張られると一切攻撃が加えられないから張ると怒るのだ。そして勝負が終わると襲ってくるのだ。
「どうしたものか・・」
気でも逸らす方法でもと考え込むも以前猫じゃらしに似た道具を試したら、殺人猫パンチが飛んできた過去がある。
「駄目だ。あれは失敗したんだ。マタタビかニャンチュールがあればもしくは・・・」
その間ミヤちゃんは魔力障壁を通用しないと分かっていてもガンガン攻撃してくる。その迫力ある攻撃は、檻があっても噛みつこうとするホワイトタイガー。
この鉄壁前でもこの怖さよ。
これは友達と呼んでいいのであろうかとミヤちゃんを見てると友達の定義が曖昧になりかける彼である。
それから・・・。
「ああもう!ちょこまかとっ!!」
ずっと防御のままでいるとミヤちゃんの不機嫌さが増すので、攻撃に転じる彼。加減して魔弾をミヤちゃん向けて撃っているのだが当たらない。ミヤちゃんの素早さと彼の命中精度が致命的に悪いのだ。しかしだからと言って本気で魔弾を撃つわけにもいかない。一発一発が重魔力の過剰火力もの。当たれば致命傷になる。(過去に割と本気で撃っていた時もあったが、日々の成長で加減して撃てるようになった。)
ただ加減自体は苦手。だから時より当たると危ない魔弾が混じっている。
「ッ・・。それずるい」
そしてミヤちゃんは魔弾の回避はできるも接近すればするほど弾幕が厚くなって思うように近づけない。しかも近づけても即座に魔力障壁を展開して防御される。
「当たり前だ!ただでさえ武器持って襲ってくるし、障壁張らないといつもの教会の命がけっことは訳が違うわっ!」
彼の身体能力は普通の子どもと同様であり、魔力障壁や防御スキルがないとミヤちゃんの攻撃は彼もまた致命傷になるのだ。しかもここは教会ではなく迷宮。いつもミヤちゃんに物理で骨を折られれば、ミルティアが治癒スキルで治してくれるがこの場にはいない。しかしどうにかしなければ埒が明かないこの状況に彼は攻撃を変える。
「ならばこれならどうだ!!」
『万物追及』で周辺の地形を操作する。そしてミヤちゃんの周りを土の壁が囲むように高く伸びて閉じ込めたのだ。
「捕まえたっ!」
さらにミヤちゃんを囲っている土の壁はミヤちゃんごと地面に沈み込む。
「封!殺!」
これで動きは封じたとガッツポーズ。しばらく動けないだろうミヤちゃんにどうこの勝負を終わらせるか考えたかったが・・・。
「あら~、凄い地形操作のスキルね~」
「あれなら大型モンスターでも生け捕りできるんじゃない?」
「そもそもあんなスキルなんてあるのか?」
「・・・・・・」
「もう貴方ったら~いつまで寝てるのかしらね~」
呑気に観戦してる大人組。
「ん?地面がなんか・・・」
考え込む前に地面に彼は違和感を感じた。ほのかに冷気が足に通るのだ。
「っ!!」
そして何かを悟ってその場から全速で離れる。その瞬間、地面が一気に凍ると思えば地面から巨大な氷塊が勢いよく突き出た。
「あら~」
「あら~。じゃないわよ!?何この氷結は!?状況からしてクラリオン君じゃなさそうだけどっ」
「一本の彼のナイフだろうな。炎と言い、氷と言い、あんなのをミヤが制御できるのか不思議だ。最近の子どもはそんなものなのか?」
「もうミヤたっら~。使っちゃ駄目って言ったのに~。あ。ミヤが出てきたわ。なんか様になってる風貌ね~」
氷塊の上に颯爽と立つミヤちゃん。砂埃と氷の塵が漂う中のその姿は、雪国の地にて敵に立ち向かうプロローグ風。そして目線の先にいる敵をロックオン。敵の表情からは「うぉぉいっ!?凍傷じゃ済まねぇからなこれ!っていうか自分の短剣使うの禁止だったよな?」と言いたげ。実際言いそうになるもミヤちゃんは目で殺しに掛かる。
くそぅ~。まだ二号もそんなに試してないのに何であんなに自分より使いこなしているんだよ・・・っ。
その後・・・。
「行けええっっーーー!!全軍、ミヤちゃんを蹂躙せよっ!!!」
「むだ」
あれから彼は逃げに徹した。いや、徹することしか出来なかった。モンスター群を見つけてはミヤちゃんに焚きつけて時間と作戦を練りたかった。が、そんな行為は無駄で、短剣一号の炎で再びのミヤ無双プレイが始まる。しかも扱いが前より扱いが上達していたりしている。
「なんで数百体いるのに数十秒で決着つくんだよ!?」
嘆く彼は今は炎の勢いに逃げるモンスターと一緒に敗走中。モンスターも彼には構っていられないようで、隣で走っていようが襲ってこない。
「にげちゃだめ・・」
彼を追うミヤちゃん。
あいつは獣人じゃねぇ。悪魔だ。戦場の悪魔だ!映画でありそうなセリフがが彼の心に響く。
隣では仲間は、火だるまにされ、または弾丸のような雹まで飛んでくる戦争映画さながらの臨場感が溢れていた。
これが敗残兵の末路かよっ!!
「っ!少しでも生存を上げるには・・スキル『戦友』・・!あれ?うそ!?」
スキル『戦友』とは、周辺にいる自分と自分と同じ状況である者同士のステータス、スキルが5%向上するというもの。それがなんとモンスターにも適応された感触があったから、それにはびっくり。
まあ与吉の件もあるから、ありえなくはないか。
しかし悲しいかな。ミヤちゃんの前では、たかが数%上がろうと死から逃れられない。
キィィィ・・・・。
キュウゥゥゥ・・・・。
バタバタと彼の横から消える仲間達。
「クレープス!ヨードル!カイテル!ブルクドルフ・・・!」
いつの間にか名付けられたモンスターが死んでいく姿に不思議と涙が出そうで出ない。
くそ。役に立たない!
「あの二人・・もう少し周りを見なさいよ。はぐれたモンスターはこっちは始末しているのよ。しかも数多いし」
「ああ。のんびり観戦とは言えなくなったな。しかしミヤにモンスター群をぶつけるとは流石に思ってもいなかったぞ。コヨテ本当にあのままでいいのか?」
「ん~。止めようと思ったのよね~。だけどね、ミヤが昨日よりいい動きで群れのモンスター倒していくし、まあ彼の短剣に頼りすぎで、あやふやだけど・・・ふふ、流石私の子ね~」
コヨテ達はと彼らが逃したモンスターを始末しまながら後を追う。
「ちょっとコヨテ!語ってないで手伝いなさいよっ!あの子たち追いかけられなくなるわよ!?」
「分かってるわよ~」
そこに一匹のモンスターがコヨテに迫ってくるが、襲いかけられる前に一発で殴り飛ばす。しかも殴ったとは思えない凄まじい衝撃波でモンスターを四散させ、それどころか衝撃波が周辺にいるモンスターまで四散させる。なおこれには一切スキルを使っていないと言う。
「やっぱり上にいるモンスターは柔らかいわね~」
そして彼は・・・。
「くっ、所詮は烏合の衆かっ!ならっ『PTボーナス』!」
さっきから聞いたことがある某ゲーム内容のスキルを連発する彼。
なお『PTボーナス』はステータス開けばチャットも、音声会話もできる優れもの(キーボード操作必須)。欠点はステータス開いて招待を受け取らないといけないのとランダム戦のみに適応される。あと経験値もクレジットもこの異世界には存在しないのでボーナスはない。ほぼネタ。
「そうだ。ボーナスがないんだった。あとこいつらステータス開く方法知らない・・」
そうしてる間にもモンスターは倒され、遂には彼一人となってしまう。後ろには殺す気満々と言うような巨大な氷塊がこちらを狙っているのが見える。
くそっ!ミヤちゃんめっ!!
「そっちも即死技使うなら・・こっちもそろそろ即死技使うぞコラァ!!」
走っていたのを立ち止まり、なりふり構っていられない状況に彼も容赦しなくなった。そして彼は必殺技のように叫びを入れる。
「とくと見よ!たかが魔弾を撃つ程度の能力を!されど魔球を魔弾へと昇華した威力は一発一発は重火力っ!<魔弾>「ただ目線の先へ」!!!」
多分どこかで考えていたんだろう必殺技を叫ぶ。しかしそれはいつもと変わらない魔弾。されどいつもより多めの飽和攻撃を撃ち込む。
「ん~~。派手にやり過ぎたかな・・」
爽快に撃ちまくった彼は、気づけば見えていた氷塊は砕け、辺り一面に土煙と落盤を起こしている。それを今更、ミヤちゃんは大丈夫だろうかと心配になるも憂鬱に終わる。
「・・・・マジかよ」
魔弾によって穴が開いた壁。崩れた落盤。それらを全て巻き込んでそびえる圧巻の氷壁がそこにはあった。いつの間にか土煙が冷気によって押し出され、周辺に霜が立ち、凍りつく。どう考えてもミヤちゃんがやったに違いない。
「自分は一体何と戦っているんだ・・・」
なんでこんなことになったのか目的を忘れかける。そして氷壁の一部が派手に吹き飛び、ミヤちゃんが現れた。
「・・かくご」
短剣を十字に交差するその姿は、何かを彷彿させる。
あ。なんかすごくヤバい。
「・・っく!もはや加減云々ではない!千に一つか万に一つか、億か兆かそれとも京か・・っ」
彼も本気で挑まなければ勝てないと覚悟を決める。が。
ギギ・・・。
氷壁から鈍い音が響く。そしてまた今度は氷壁そのものが飛び散っていく。
あっぶねっ!?
魔力障壁を展開して分厚く降ってくる氷塊を防ぐ。
「はいは~い。二人とも~。そこまでね~」
「はは・・」
声がしたのはミヤ母であった。
え?あの分厚い氷壁どうやって吹き飛ばしたの?スキル込みでもあの破壊力怖いんだけど。
今まで鉄壁であった魔力障壁でも耐えれるか自信が無くなる。
「二人ともやり過ぎよ~。他の冒険者から怒られるわよ?」
「自分は悪くない。悪いの全部ミヤちゃん」
チクリ魔の如くミヤ母にミヤちゃんを指摘する。
「ミヤ~、クラリオン君の短剣使っちゃだめでしょう~?」
「・・クラが使っていいって言った」
おい。
「はいじゃあ。クラリオン君に剣返してね?」
「・・・やだ」
「ねぇ・・。もうお家帰っていい?」
「ん~、そうね~。結構グダグダだったんだけど~・・」
昨日と大差ない惨状なのだが。
「ミヤ~、合格よ~」
「よし」
それにミヤちゃんは嬉しそうに尻尾を振る。
「おめでとう。帰っていいよね?」
どこをどう見て合格なのか突っ込みたい彼だが、これでもう終わってくれるのなら何も言わない。
しかしながらこのミヤちゃんが武器を持っていいのかのテスト、実はミヤ母は今後の娘の安全の為にも色々と見極める為にこのテストが決行されていたのだ。
ここから少々文字が長くなるがそこは勘弁して次を読んでほしい。
娘のミヤちゃんぐらいが武器を持つということは、バルクも言っていたが別段獣人では珍しくはない。しかしこの町、オヴェスト・トレンボとなるとちょっと話は別になる。
まずこの町は隣町から何百㎞と距離があり、東西南北は未開拓地に囲まれている。教会に預けるだけではなく、何かあった時の自衛の為にも武器を持たせるのは悪いことではない。
しかし同時のここは迷宮の町。武器を持つようになれば、自ずと迷宮に向かってしまうだろう。何しろ彼ことクラリオンと躍起させる存在がいるのだから、余計に迷宮にこだわるかもしれない。しかもここの迷宮は発見されて10年近くは経っているが、日は浅い方で未調査のエリアは数多い。もし不測の事態が起きて巻き込まれれば本末転倒である。
それならこの町から出て行くのも考えだが、ミヤ母達は訳あってこの町の迷宮に留まる必要があってそれができない。
ならミヤ母はどうするか?
今回、娘が武器を持ちたいとねだったのは、彼と娘のやり取りを見て分かった。彼が羨ましかったのだ。
獣人は身体能力が強い。同じ子どもの人間と比べたら天地の差だ。なのに彼はどうだろうか?自分と比べたら明らかに弱い。だけど強い。同じ歳なのに母と同じ場所の迷宮に行っている。強くなるには、追いつくには・・・。
そんな娘の胸の内をミヤ母は見抜いた。負けず嫌いで我儘な娘。きっと遅かれ早かれ皆を振り切ってでも彼と同じくらい強くなろうと彼と同じことをすればきっと強くなれると迷宮に向かおうとするだろう。
流石にシスターミルティアじゃあ物理的にうちの娘は止めるのは無理ね~。
教会に預けているだけでは娘は止められないと容易く想像できた。
いつでも娘を見ていられる訳じゃない。誰か見てもらう人はいないだろうか。しかし普通の冒険者を雇ったとしても無理だろう。今回のテストでもうちの娘は恐ろしいまでに戦闘の才能があった。流石私譲りね・・じゃなくて。
安心して娘を見てもらえる人はいないだろうか。出来ればお金を掛けなくて、娘を止められる人物は・・。
考えるその先にいた人物は・・・。
うん。彼はお人好しね。何だかんだで付き合ってくれるし。これならミヤの面倒見てくれそうね~。一緒いても大丈夫そうだし、ミヤも気に入っているみたいだし、末永くお付き合いになるかもしれないわね~。
そして今・・・。
「二人とも。反省してる?どんだけ迷宮で危ないことをしたか」
「特にクラリオンよ。お前は子どもでも冒険者の端くれだろ。それぐらい何がいけないのか悪いのか分かっているだろ」
現在ミヤちゃんとこの場から逃げる彼を捕まえて、メアナとバルクからお説教受けている最中であった。
「自分は悪くない。悪いのはミヤちゃんである。全ては正当防衛内の行動であり、自身の生命の危機に対して適切な手段であった。このような対応は誠に遺憾である」
「なんか勝手に氷でた」
ただし二人とも全くの反省無し。しかし彼らが起こした氷塊の出現、魔弾の二次被害による落盤と辺りは滅茶苦茶。人がいれば死者を出してもおかしくない惨状である。
「ミヤ、クラリオンく~ん。分かっているわね~?今後迷宮で活動するなら今回のようなことはしてはいけないわよ~」
「うむ。そうだぞミヤちゃん。今後は特に気を付けろよ。んじゃ、解散!あとその短剣もうあげるので、我が自由時間を奪わないように!お疲れ様しったーーー」
もう本当にこれ以上関わるのは懲り懲りと彼は適当に言いくるめて再び去ろうとする。しかしそれにミヤ母は笑顔でこう言ってきた。
「クラリオンく~ん。今回のことギルドにありのまま報告するわね~」
「・・・・・・・」
そう言われると彼は動きを止める。ギルドマスターであるトクガワを困らせること多々ある彼は、これ以上印象を悪くしたくない。何故なら気晴らしでギルド来ては貴賓室借りてお茶とお菓子を食べに行っているのだ。そしてお菓子が美味い。中々に美味い。しかし最近何故かお菓子のグレードが下がってきている。とても不思議だ。とにかく、もしここで何かしら問題を起こしたら、この先のお菓子がどうなるか分からない。そんな小っちゃい思惑が彼にはあった。
「伝えない方針とかは・・」
「実はちょっとクラリオン君についてギルドからクエスト発行されているのよ~。本当に人気者ね~」
「マジか・・・」
何故ギルドがそんなことを!?と思うが、最近の前例としてフレア三姉妹の末っ子フーをアラクニードから連れ出す為に被害を出した過去がある。監視される理由が充分にあった。
まさか・・ミヤ母が変に絡んでくる理由って・・ギルドの刺客・・。まずい!マジでお菓子が出なくなる恐れが・・・っ。
彼の中で誤解が生まれる。
「あの~。出来ればですね~。報告の内容はやんわりとして頂ければ。あ。自分で出来る範囲で協力できることがあれば、可能な限り協力しますよ?」
思いっきり下手に出始めた。その態度にメアナとバルクの目が細くなる。
「なら今後ミヤの面倒見てくれないかしら~?ほら、今日から武器持てるようになったでしょう~?だから面倒見てもらいたいし、私達は下層でクエストしないといけないから、潜ってる間お願いしたのよね~」
「分かりました。慰謝料の件は和解。育児はしたことないですが、ミヤちゃんが野生に返れるまでは面倒見させていただきます」
「うちの娘は野生動物じゃないわよ~。でもお願いね~。あと子どもだけのパーティーって良い話題になりそうね~」
ん?
ここで何か致命的なミスを犯したことに彼は気づき始める。
「迷宮で色々教えてあげてね~」
それに彼はゆっくりとミヤちゃんに視線を向ける。
待って?よく考えろ自分・・。それって自分の自由時間削られない?24時間ミヤちゃん生活ってやばくない?あれ?なんか余計に面倒事に巻き込まれてない?
何か罠に嵌められた感覚が襲われる中、ミヤちゃんはミヤ母に寄る。
「母と一緒じゃないの?」
「う~ん。お母さんはもっと奥の方に行かないとだから。一緒は無理ね~」
「・・・一人で迷宮する」
「危ないから駄~目。クラリオン君と一緒にね~。ミヤもクラリオン君のこと好きでしょう~?」
しかし高速で首を横に振る。
あら~。恥ずかし屋がりね~。
「でもね~、クラリオン君と一緒にいたら、クラリオン君より強くなれるかもしれないし、弱点とかも分かるかもしれないわよ~」
そう言われるミヤちゃんはまだ苦悩している彼を見る。
当たり障りなくミヤちゃんが納得できる方向に持ってくるとミヤちゃんも悪くないと決めて・・・。
「リーダー、がんばる」
「あら~」
どうやらミヤちゃんの中で色々と決まったようだ。そして彼はと言うと・・・。
「くっ!自由気ままな生活がっ・・!社会のしがらみがない実力と自己負担の危なくとも確かな自由24時間生活・・。どうするお菓子か育児か・・・」
まだ謎の葛藤を繰り広げている。因みにギルドに出されるお菓子は結構いい物で、あまり代わりになるお店が無いのである。
「とりあえずクラリオンく~ん。まずこの辺りの落盤の瓦礫どうにかしておいてね~」
結果。彼はミヤちゃんとなし崩しに今日からパーティー組むことになった。この町一番の最年少パーティーの誕生である。同時に彼の愛する自由が蝕まわれる始まりであった。
だってさ、その当時はお菓子って希少だったんだよね。そう簡単に切り捨てられなかったんだよね。
おまけ。
「貴方~。いつまで寝てるのかしら~」
「コヨテ・・」
「あら~。起きてたの?」
「なんか身体が寒くて動けないんだ。いったい何が起こって・・」
それを見たミヤ母は「あら~」とまた言う。よくミヤ父を見ると身体に霜がついていた。見事にミヤちゃんによる被害を受けていたのだ。
哀れってこういう気持ちなんだな。と彼は悲しい視線をミヤ父に向けたという。
誤字脱字あったら教えてくれ。あとね、やっぱりストーリー構成がむずい。『はじめに』で書いた1~20話云々ってあったけど25話までになりそう。
2020.2.25 一部分、文を修正。
2020.3.10 誤字修正。
2020.07.20 一部誤字修正




