第12話 もしかしてミヤ一家はただの戦闘民族の何かですか?
前回のお話し。ステータスの整理、与吉にスキルと色々とある中で、ミヤちゃんが何故か武器を求め始めた。打倒クラリオン。
ミヤちゃんが武器を持った時、彼は生き残れるのか。恐怖クラリオン。
それらはさておき、ミヤ母のコヨテが娘を迷宮に誘う。
「ん~コヨテが待っててと言っていたけどさ。何だろね?」
「さあな。旦那は何か知ってるか?」
「理由も言わずに行っちまったからな。俺にも分からん」
長いウサギ耳がピンと立った女性、筋肉がたくましい男の頭の上にちょこんとトラ柄のような耳の男性、ミヤちゃんと同じネコ科の男性が迷宮入口の城の前で話しをしていた。
この男女3人はミヤ母ことコヨテのパーティーメンバーで、今日いきなり「急遽迷宮に行くわ~」と言われたのである。
「まあいつもことだが。はあ。今日こそミヤに会いに行けると思ったのに・・」
「あんたは昨日の内にギルドで色々報告しないといけないことがあるでしょ?。リーダーなんだから」
「その子煩悩、迷宮の戦闘で呟かないでくれないか?集中力が途切れる」
ネコ科の男性はどうやらミヤの父親であるパーティーリーダーでもあるようだ。そして噂をすればなんとやら。皆の前に今回の迷宮の言い出しっぺが現れる。
「はいみんなお待たせ~」
「はあ。コヨテ。せめて説明してからにしてもらえないか?地上に戻ってきたんだからミヤの顔ぐらい・・・・」
ミヤ父は言葉が途切れた。というのもミヤ母の隣にいる一人に目線が入ったからだ。
「ミヤァァァアアアアアアーーーーーーーーーッッッ!!!!」
「うるさい」
ミヤ父の叫び声にミヤちゃん一言。
「グハッ!!」
「うわ。リアルで吐血した」
さらにミヤちゃんの隣にいる彼ことクラリオンはそれを眺める。
「あらミヤちゃんお久しぶりね」
「また少し大きくなったな」
他の2人はミヤ父を気にすることなく、ミヤちゃん頭を撫でたりする。そしてもう一人の子どもに目が行く。
「あれ?そちらの子どもさんは?」
「この子クラリオン君って言うのよ~。私達と同じ冒険者~」
「うっす。クラリオンです。頭にいるのは与吉です」
チ。
定位置にいる与吉の説明するが、普通の人ならば驚きそうながらも思いのほか気にしてない様子。
何故だろう。ちょっと悲しい・・・。
そもそも何で彼はミヤ親子と一緒にいるのか?別にミヤちゃんはミヤ母に迷宮に行くのを誘われたから行くのは分かるが、彼が付いてくる必要はない。
しかし彼は悲しげにため息を吐けば、その視線の先にミヤちゃんの腰には短剣1号と2号があったのだ。
それは数十分前のこと・・・。
「ところでミヤ。迷宮に行ってみないかしら?」
ミヤ母は突然ミヤちゃんに迷宮に行かないかと誘って来たのだ。それにはずっと彼の首を噛んでいたミヤちゃんも口を離して母の方を向く。
「迷宮?」
「そう。ミヤが武器が欲しいって言ったでしょう?だ・か・ら~ミヤが武器を持つのに相応しいかテストしたいと思いま~す」
「おお~」
無論その提案にミヤちゃんは乗る気満々。彼は別に「あっそ」ぐらいにしか捉えてなかった。
「じゃあミヤ~。これ着てね・・。うん、流石ミヤね~。似合うわ~」
持ってきた袋にはミヤちゃんのサイズに合う子ども防具があって、それを着たミヤちゃんもムフーとご満悦な様子。
「あのちょっと待ってください。ミヤちゃんを今から迷宮に連れて行くんですか!?」
突然ミヤちゃんを連れて行くと事情を一切知らされてなかったから、聞いたミルティアは驚いた。
「いいなー。防具とか装備~。ミヤも迷宮にいくのか~」
そんでもってメルダーはミヤちゃんの防具を羨ましそうに口にする。迷宮に行く姿はは憧れるのだろう。
「あの出来れば前の内に話しておいてもらえませんか?親子だからっていきなりは困ります。冒険者なら尚更です」
ミルティアはいつも言っているが、冒険者は今日会えたから明日と会えるとは限らない。突然いなくなることは珍しくない。だから前もってちゃんと話して起きなさいと口酸っぱく言っている。しかしミヤ母は「大丈夫よ~」と軽く受け流す。
しかもさらに予想しなかった事が起こった。自分には無関係な話しで、早くミヤちゃんに嚙まれた首に治癒スキルを掛けて貰えないか無言でうつ伏せで待つことにした彼に・・・。
「クラリオン君。何か武器貸してもらえないかしら~?」
「・・ん?え?」
武器を貸してほしいと頼まれたのだ。普通は知人であれ友人であれ、武器の余裕はそう無いから貸したりはしない。ただ彼はいちよ複数の武器が持ってるし、まだこの世界の一般常識には疎い。
「ん~~。今1号と2号しか持ってきてないしな~」
だから貸すぐらいならと貸してしまうお人好し日本人精神があるので、貸そうかどうかちょっと迷う。
そしてミヤちゃんは武器という言葉に彼の短剣を目線でロック。その視線に彼も気付く。
「無理無理。これは無理。調整中だし、記号式とか見直し考えてるし・・」
しかしミヤちゃんは彼に寄って。
「かして」
「・・いやだ」
「かせ」
「い~や~だ~ッバハ!?」
「とった」
容赦ない腹パンが彼に襲う。そして死体となり果てた彼から短刀を引き抜かれる。
「・・っ!よ、よろしい・・。うっ・・。な、ならば、戦争だ・・・っ」
強奪許すまじと息絶え絶えに彼は宣戦布告。しかし彼とミヤちゃんの暴れっぷりをよく知るミルティアがこれを回避する為に「ジャンケンで決めなさい」と言い出す。
ミルティア先生。そもそも貸したくないんですが。
しかし無情にも意思は聞きもらえず、ジャンケンで事が決められてしまったのだ。
結果・・・。
「勝利の剣」
「あのね。まだ調整とか足りてないの。だから絶対変な使い方するなよ。マジやぞ」
そんなもろもろ事情をミヤ母のパーティーに説明を挟むなか、戦利品と言わんばかりにミヤちゃんは、ベルトにぶら下がる短剣を皆に見せつける。
それで彼は自分の短剣がどうされるかたまったもんじゃないと一緒に行くことにしたのだ。
なおミヤちゃんは圧倒的な動体視力で相手の筋力の動きや人間では見抜けない後出しで、ジャンケンは負けなしなのだ。
「私が言ってあれだけどミヤに自分のナイフを貸していいの?」
「あれはナイフじゃない短剣だ。あと貸したつもりもない。ほぼ強奪されたと言っても過言じゃない」
「でもそこは置いといて~。もし壊しちゃったらどうする?何か調整とか言っていたけど?」
「どこに置く要素が・・」
彼は愚痴る。
「だけど。壊れたら仕方ない。としか言いようがないな。武器の製作自体浅いからな~。自分が分からないところで不備があるとも言えるし」
「あら?鍜冶のスキルでも持ってるの?」
「真似事程度には」
「へ~。多様のスキル持っているのね~」
そんな話しにミヤ母のパーティー達も彼に寄る。
「しかし君が噂になってる子どもの冒険者か。まさか本当に子どもとは・・。あ、ああ。失礼した、俺はバルク。見て通りジャガ族のサス出身だ」
「私はフレミッシュ族のバニーバーサー。メアナよ」
そんな事前知識必要な紹介されても反応に困る彼。
そして吐血して倒れたミヤ父は、今はミヤちゃんに頭をバシバシ叩かれまくっている。
「もう。家族の事情にほいほいパーティーを巻き込まないでくれる?ミヤちゃん可愛いからいいけど・・本当に迷宮に連れてくの?まだ早いんじゃない?」
「俺も構わないぞ。だがな俺達いつも言ってるだろ。前もって言ってくれって。シルル教会のシスターも困っていたんじゃないか?」
意外にもメアナとバルクは、ミヤちゃんを今から迷宮に連れて行くのに反対はしないらしい。獣人の子どもならミヤちゃんぐらいの年でも戦ったりするらしいのだ。その事実に彼は一歩ミヤちゃんから引く。
「だ、ダメだ・・っ。まだミヤに・・・迷宮なんて早い!」
そして聞こえていたのか力振り絞るようにミヤ父は反対する。
「だから皆に言わないで呼んだのよね~。貴方は反対するから~」
しかしミヤ母はミヤ父がミヤちゃんを迷宮に連れて行くのは反対することを見越して、今回わざと皆に言わなかったのである。しかもミヤ父は状況に流れやすい性格だから、娘さえ来させればあとは何とかなると考えていた。
「あと誰だその子どもはっ!?まさか教会にいた噂の子か?なんでそんな奴がいるんだ!?うちのミヤとどんな関係だっ!!?」
そして今度は彼の方に飛び火してくる。彼を睨み、自分の娘に男がいることに何を想像したのか分かりやすい親バカを発揮しはじめる。
「クラリオン君とミヤはただの恋人よ~」
「なにっっ!??」
「なった覚えはないし、DV被害で訴えてやろうか?」
適当なことを言うミヤ母にミヤ父は更に食いつくが、彼もまた食いつく。
「本当にミヤが絡むとうるさくなるわね、うちのリーダーは」
「まあいつものことだな」
騒ぐ2人にメアナとバルクは呆れ返す。
「もう貴方ったら~、話しが脱線しちゃうじゃな~い。いつまでも進まないわよ~」
「問題大有りだっ!こんなどこの馬の骨の奴がミヤを!グハッ!?」
突如話しの途中でミヤ母の膝蹴りがミヤ父を襲った。
「じゃあこれからミヤのテストしに迷宮に行くけど、異論ある人いるかしら~・・?うん、返事ないから皆賛成みたいね。貴方もいいわよね~?うん、返事ないから賛成よね」
ミヤ父が再度気絶するもやっぱり周りの仲間は気にしない。
ミヤちゃんに襲われてる自分の周りっていつもこんな感じなのかな?
シルル教会のメルダー達の立ち位置を感じて無言で彼はこの状況を見つめる。
「いいけど。どこまで潜るつもりなの?ミヤちゃんがいると中層までよ?」
「それに俺達は軽装だ。いきなり迷宮に行くと言われて道具も装備もそこまで揃えているわけじゃないぞ?」
「大丈夫、今回は上層だけだから~」
上層と言う言葉に彼は少し反応する。何故なら上層のモンスターと言えば千を超すことも珍しくないモンスター群れがいて、そんなの相手にしてるのは彼ぐらい。だから数で攻めて来るモンスターには、いくら獣人パーティーが強くてもミヤちゃんがいると足手纏いでしかないと思うからだ。
「上層ね~。普通に中層のモンスター方が楽だと思うんだけど」
上層のモンスターを相手するより中層のモンスターを相手にいた方が安全でもあるとメアナは口にする。
「いや、噂のクラリオン君がいるんだ。俺らと連携できる実力はあるだろうし、何かあればすぐ地上に戻れる。上層の地形には詳しいだろうし、良い適任者がいると思うんだが」
バルクは彼がいるなら上層でも問題ないと公言する。しかし当の本人は本来なら来るつもりは無かったし、獣人なんてミヤちゃんによく襲われるぐらいでしか知らない。
「そうね~。そう言えばクラリオン君って上層に詳しいらしいわよね~。忘れていたわ。じゃあいい場所に案内してもらえるかしら~」
「勝手に当てにしないでほしいんだが。そもそもパーティーとか自分は・・」
「じゃあ行くわよ~」
「おい」
話しの途中でミヤ母が塞いで、皆の前を歩き迷宮に向かい出した。
「いく」
ミヤちゃんも母の後ろを付いて行く。
「うちのパーティーってコヨテがあれだから大体いつもこんな感じよ」
「まあコヨテに色々と引っ張られると思うが悪く思わないでくれ。あれはあれで色々考えているんだ」
メアリーとバルクはそう言いながら、彼を横切ってミヤ母を後を追いかける。
「クラリオンく~ん。案内が前にいないと駄目よ~」
はあ。自分の短剣が心配で付いてきただけなのにな~。本当に当てにされても困るんだが。
「だけど本当に今から迷宮に行くのか。ボード、教会に置いてきちゃったんだけど、迷宮で歩くの嫌なんだよな~」
仕方なく彼もミヤ母達を後を追い、皆振り返ることなくミヤ父を置いて迷宮に向かい出す。
「あのさ、いつもこんな感じでミヤ父って置いていかれるの?」
「ミヤちゃんが絡むと大体こうね」
「あいつは子煩悩すぎる」
「本当にあの人、娘に弱いのよね~」
ちょっと会話しながら迷宮上層付近。
「はい。危ないからミヤはクラリオン君と手を繋いでね~」
「ん」
「軽く骨が軋む・・」
ミヤ母の言葉に彼の手を握るミヤちゃん。その姿に促せたミヤ母が「あら〜」と微笑む。
しかし彼は迷宮に入るとやっぱりまだミヤちゃんには迷宮は早いんじゃないかとミヤ父同様の考えが浮かび始める。その彼の様子に気付いたのかミヤ母達は獣人について色々教えてくれた。
「気にしなくていいわよ。私達はミヤちゃんぐらいでもモンスターと戦うことはあるし」
「元々俺らと人は身体の作りが違う。例えばアラクニードに向かうのに人は5日は掛かるが、うちらであればミヤでも多分2日で着ける。それぐらい体力に差がある」
「まあ普通は上層のモンスター群何か相手にしないけど~、ヒット&ウェイに徹すれば勝てるし、普通に走って逃げ切れるわよ~。ミヤも逃げるぐらいは余裕よ~」
「マジか」
ミヤちゃんの身体能力が凄いのは知っていたが、そこまで人と獣人にそこまで差があるとは思ってもなかった。ただ「流石に千を超すと流石に対応出来ないから、数百の群れが精々だけどね」とミヤ母が付け加える。
それでも充分凄いと思うけどな。
それから色々と話しながらモンスターを探がす中、メアナとバルクが彼に聞こえないようにミヤ母に聞いた。
「あのさ。クラリオン君が貸したのか取られたとか言ってたあのナイフだけど・・・」
「鞘の差し口から異様なまでに濃い魔力が溢れてる。あれはとんでもない魔導石を使っているな」
*魔力が溢れているのは、ただの製作ミス。ちゃんと製作すれば魔力漏れは起きない。そして作った当本人は全くそれに気付いていない。
「あれ、クラリオン君お手製ぽっいわよ~」
「作った?」
「鍜冶士なのか?噂の話から、見つけた魔導石を使えばあんなナイフも作れる道理にはなるが・・・。おいそれミヤに持たすか?暴走の危険とかないのか?」
「大丈夫よ~。彼も冒険者だから、心得持ってミヤに貸していると思うしね~」
彼自身が作ったかどうか真実はまだ分からないが、それでも彼の気にしてない様子から、いざという時は制御できる自信があるんだろうとミヤ母は予想していた。そうでなければ貸すはずもないと思ってのことだ。しかし現実は悲惨なもので、ごく単純にミヤちゃんに奪われただけである。
「お~いミヤちゃんや~。勝手に行かな~い」
「この石ひかってる」
しかし現実の彼は凄いようで非常識であったのを知るのは、もう少し先になりそうである。
なおその後ミヤ父はミヤちゃん達に追いついてきた。
その後。
「おい小僧!うちのミヤとはどんな関係だっ!吐けっ!したのかっ!?ヤったのかっ!?言葉次第でどうなるか分かっているんだろうなっっ!!」
ミヤ父が合流してからこんな調子で彼に付きまとっているのが続いているのだ。
「あなた~。子どもにそう言わなくてもいいじゃな~い。孫が見れなくなるわよ~」
「このミヤ母、止める気ないな・・」
ミヤ母がいちよ宥めてるようで宥めてない。と言うのも彼に焚きつけておけば、ミヤちゃんに意識が向くのが薄くなって止めに入らないからほっといているのだ。ミヤ母は意外にもパーティーの中では策士なのである。
「ッいた」
そんな状況でミヤちゃんは騒がしい彼らから少し離れて、初めての迷宮に好奇心と警戒しながら見渡していると、モンスターの気配を感じ取った。
「あらミヤ~。耳良いわね~。ちょっとしか音してないのに」
「ネズミより音が大きい」
その会話にメアナとバルクも耳を澄ます。
「数は200~300ぐらしかしら?」
「ミヤに丁度いい数かもしれん」
「あなた~、クラリオンく~ん。丁度良い相手見つけたのだけど大丈夫かしら~?」
それに二人は。
「ごめん。前に人がいると無理」
自ら戦力外通告。彼の攻撃主体は圧倒的な魔弾の広範囲攻撃。人が前にいると普通にフレンドリーファイアする。
「ミヤ!パパの後ろに・・・・」
そして彼のことで周りを忘れていたミヤ父が状況に気付いて颯爽と動くのだが・・・。
「虫は頭落としても動くから気をつけるのと脚は3、4本切れば動きは鈍くなるわよ~」
「ん」
「あとミヤちゃん蜘蛛は危ないわよ。糸吐いてくるから」
「頭の触角・・二本付いてるあれを切れば動きが雑になる。無理に倒せなければそこだけ狙うのもありだ」
ミヤ母達からモンスターの倒し方のレクチャーを受けていた。
「クモ・・・クラの与吉みたいの?」
「そうよ。クラリオン君のより大きい奴ね」
頭に乗せてる与吉を指を指して確認する。
そしてまたミヤ父が待ったを掛けるも。
「お前ら!うちの可愛いミヤに傷でも付いたらどうするングッ!?!」
ミヤちゃんがミヤ父の後ろの回り込み、両手に力込めて膝の部分を殴って膝かっくんもどきを仕掛ける。
うわ。すげぇ痛そう・・。あれ絶対痣できるだろ。
倒れるミヤ父を笑顔で見守るミヤ母。おおよそミヤちゃんに何か焚き付けていたのだろう。
「いく」
「ミヤ~一人で行っちゃダメよ~」
そしてミヤちゃんはモンスターの方に駆けて行く。その光景に止めないの!?と彼はミヤ母に言おうとするが、ミヤちゃんはすぐに戻って来た。手土産持って・・・。
「あらーミヤ、それって~」
「頭ひょこひょこしてるの取った」
「俺が教えた触角だな」
「ねえ?獣人って恐れ知らずなの?」
頭に手を乗せて表現するミヤちゃん。数秒でモンスターの触角をもぎ取って帰ってきたらしい。
そして前から聞き覚えがある圧倒的物量で走ってくるモンスターの怒涛の足音の地響き。彼もざっと300体程度のモンスターの群れを目視する。
「こっちに向かって来るわね~」
「それでどうするの?ミヤちゃんに何体残しておく?」
「10体ぐらいでいいだろ。あとは俺達が倒せばいい」
こいつら殲滅する気かい。
彼もモンスターの群れの戦闘は慣れているも近距離、ゼロ距離戦となれば流石に身構えるのに獣人パーティーはこの程度は脅威ではないらしい。しかも皆は逃げも隠れも武器すら構えていない。
「ま、待て。俺も・・」
「あなたはまだ休んでいなさいな~」
まだ相当痛いのか思うように立ててないミヤ父にミヤ母は、ここに座ってなさいと夫婦らしく宥める。と思ったら。
あ。今またミヤ母蹴った。
さらにうずくまるミヤ父。
「ふー。うちの旦那はしばらく休むから~。皆お願いね~」
「すごい。こんな状況で理不尽なまでのDVをするとは」
彼はただその光景を傍観するしかなかった。
「おい!ミヤが先陣切ったぞ!」
「ああ、もう!コヨテの子ねっ!」
そして待ちきれなかったのかミヤちゃんがモンスターの群れに走る。つかさずフォローに入るバルクとメアナ。彼もまた突出していくミヤちゃんに驚きを隠せない。
「恐れ知らずでも程あるだろっ!?」
ミヤちゃんの無謀とも言える突貫に彼もフォローを入れたいが難しい様子。
「ふふ。私そっくりで元気ね~」
母親に関しては心配もしてない。しかしミヤちゃんの戦闘を見れば、心配しない理由が良く分かった。
「まず一ぴき・・・」
掴んでいた触覚を投げ捨て、ミヤちゃんは正面のモンスターに短剣一号と二号を向ける。
まず最初に会敵したのは蟻型のモンスター。ミヤちゃんを狙うも・・・。
「マジか」
彼の声がこぼれる。
ミヤちゃんは攻撃を見切り、すれ違い様に淡々と首を切り落としたのだ。正直、これが初戦闘で成せるとか嘘やろ?自分は命掛けだったのに。と彼は心で呟く。
そして次々にモンスターを狙って跳び回り切り伏せる。素早い立体軌道で一分もしないでもう5、6体は倒したのだ。
「・・ミヤ母よ」
「何かしらクラリオン君?」
特に出る巻くは無さそうと横で待機するミヤ母に思うことを聞く。
「もしかしてミヤ一家はただの戦闘民族の何かですか?」
「大体獣人はこんな感じよ~」
獣人自体がただの戦闘民族だったことが判明した。しかもバルクとアメナも凄いしか言えない。武器なんて使わず、苦でもない様子で片手でモンスターを捕まえて投げるだけで何十体以上とモンスターが吹き飛ばすのだから。
「うわ。獣人とは関わりたくねぇー」
その凄まじい戦闘光景に本当に出る幕がないと分かると与吉で遊び始める。
「だけどあそこまで動けるとは思ってなかったわ~。もしかしうちの子は天才なのかしら~?」
と言ってもその動きは彼を襲う遊びにシフトチェンジして身に付いたものである。モンスターより、素早くスキルも展開してくる彼と比べれば楽な相手だったのだ。
「しかもあの短剣で切るか・・・」
そして彼はその様子を少し羨んでいた。彼は最初の短剣1号の出来事から、調整具合や刀身強度を確かめる為にモンスターと何回か戦ってみたりするも刺すことが出来ても斬ることは出来なかった。それを容易く斬り倒すミヤちゃんに種族差があると言っても女子で筋力で負けるのはどうも悔しいようだった。
しかし当のミヤちゃんに至っては少し苦戦していたりする。
「かたい」
今まで斬り倒してこれたのは、単純な力押しだった。しかし硬い身体のモンスターになると上手く倒せない。そんな時は距離を置き、一旦様子見してから再度攻撃の機会を探す。彼との遊びで一度攻撃を防がれたら手痛い反撃に会うことを学んだから、次の一手をどうするか考える。
「んーー・・・・」
ただ相手はモンスター。遠慮はいらないし、彼から手に入れた武器がある。いつもは持ってない武器を意識して強く握る。するとミヤちゃんはこの短剣から途方もない魔力が溢れているのを感じ取った。
「ん」
また強く握りしめる。それだけで自分に流れる魔力と短剣の魔力が繋がる感覚が手から身体へと伝わっていく。それを本能のまま、感覚のみで短剣に埋め込まれた火導石の魔力を遠慮も加減も考えないで思うままに引き出す。その光景に彼は「ん?」と遅れて気付き出す。
「なっ!?ちょっ!!」
突如うねり上がる炎。巨大な火柱がモンスターを襲ったのだ。
「この炎はっ!?」
「何!?いきなり!?」
皆、驚きを隠せない。ミヤ母は「あら~」と呑気に言うが顔は真面目になっている。
「べんり」
そして炎の中から勢いよく映画のワンシーンのようにミヤちゃんが現れ、生き残ったモンスターに短剣に炎を纏わせて切り伏せる。
誰もがミヤ無双プレイに呆然と動きを止める。しかし一人だけある悲しい事実に気付いてしまった。
「あれ?自分より短剣・・上手く扱ってね?」
それが今日の彼にとってのハイライト。同時に自分の技量に目のハイライトも消えかかる。
こうして突発的なミヤちゃんの初戦闘体験が終わった。
それから・・・。
「ぐっすり寝てるわね~」
既に日は落ち、ミヤ母達が泊まる宿屋ではベットで眠るミヤちゃんをミヤ母は眺めていた。因みにミヤちゃんの横ではミヤ父が「ミヤが寝るなら俺も寝る」とかで隣で寝ている。
「今日は簡単な戦闘だと思ったんだけどね~」
あくまで自分の娘が武器を持つか相応しいかテストを兼ねた成長具合と彼について知れることがあればと思ったが、あの短剣のおかげでそれどころじゃなくなった。その後も色々あったのだ。
「はいミヤちゃん。反省することはありますかっ?」
「ない」
「ほぉ。皆ススだらけにして良く言うわっ!」
まずこの戦闘で起きた問題。炎を起こした結果この辺りに酸欠と大量のススが舞うと言う以前彼と同じ問題を仕出かす。
あと負傷者一名(ミヤ父)を出す。しかも味方による故意。ミヤちゃんに殴られた足の箇所が見てもいられない酷い内出血に彼も「うわぁ」と声を漏らすほど。ただ獣人の家庭では、このような事は稀によくある光景らしい。
「だけどクラリオンく~~ん?あんな高火力の火導石の武器は、迷宮ではあまり使ちゃっダメなのは知ってるよね~?」
※迷宮ではあのような炎(周囲への影響)や質量を出す(通路や移動の障害になる)スキルや攻撃は、しないのが暗黙の了解である。
「はっ!過去の経験からとっくに学んださっ!なのに色々調整中にミヤちゃんが奪うわ使うわ。全てミヤちゃんがわるブッハ!?」
本日二度目の腹パンを受ける。
「な、なぜ・・・」
「ひとのせいにしちゃいけない」
そんな揉め事のような話しをしながら解散した訳だが、今ちょっとミヤ母は「ん~」と考え込んでいた。
「ミヤに貸したままなのはどう考えているのかしら?」
短剣二本、ミヤちゃんに貸したまま彼は帰ってしまったのだ。結構危ない物を不用心で置いていき、貸したままなのはどうなのだろうかと。
そんな事があって次回。ミヤちゃん借りパクを決行する。
2020.03.08 一部の誤字修正。
2020.07.27 一部誤字と文の修正。




