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自由に気ままに異世界大陸指名犯 ー空賊ライフー  作者: クラ108
エピソード0 まだ最初の時
22/82

9.5話 ミヤちゃんと鬼ごっこ

 これは彼がシルル教会で子ども達と遊んでいた時の話である。



「長い迷宮生活から私は帰ってきたぞ!皆の者っ!」

「クラリオン君っ!?」


 教会の扉をバーンと開けるとそこにいたミルティアがビックリした様子で声を上げた。


「お。ミルティア先生、お久しぶりです。これお土産。迷宮の中に落ちてた木の枝。草木がアラクニード以外生えていないのに落ちていた摩訶不思議の木の枝なのですよ」

「はあ。あのねクラリオン君。前にも言ったけど長期で迷宮に潜るなら、本当に一声掛けないと駄目ですよ。皆心配するから。それに・・・」

「あ。この流れは・・」


 来て早々にお説教を始めるミルティアに何故そんなこと言われなければならないかと不満顔で聞きくしかなかった。


 それから・・・。


「ソロモンよ。私は帰ってきた!」

「おっ!クラじゃん!」


 気を改めてミルティアと共に教会の奥の部屋の扉を開ければ、まず最初にメルダーが彼に気づいた。それから続々と他の子もメルダーの声で彼が来たことに気づき始める。


「わ~。久しぶりだねクラリオン君。ちょっと心配してたんだよ」

「はあ。また騒がしいのが戻ってきたのよ」

「クラ・・・」

「よし。お前らにも迷宮自慢話とお土産をあげてやろう。近いうちに新しい仲間を紹介したいしな」


 それから迷宮で何があったか、与吉のことや他愛ない話しを始めた。しかし与吉のことについては皆微妙な顔をする。

 う~ん。愛嬌あるのに。

 ミルティアに至っては何故か周りをキョロキョロと見渡す。連れて来てないか焦っている感じである。それで当の与吉はと言うと彼が泊まるバーバリエ宿屋の部屋で、寝床の蜘蛛の巣を作って今は彼と一緒にいないのである。



「今日はクラリオンもいるし何かして遊ぼうぜ!」


 お喋りがある程度終われば今度がメルダーが何かして遊ぼうと皆に提案する。それに皆のそのようで彼もまた遊びに混ざる。ミルティアは他に仕事があるようで「教会の敷地には出ないでね~」と注意だけする。

 そして彼は子どもの遊びでも本気で遊びにいくスタイルである。特にリアルおままごとをした時なんか迫真のペット役のシーラカンスは誰も理解してくる人はいなかった。


「おままごとしよう。今度はスズキを見せてあげよう。ただしサケは駄目だ・・。あの遡上は体に負担が掛かりすぎる・・」

「なに深刻そうな顔でバカ言っているのよっ。そもそもなんでペット役を魚にしたがるのよ?」


 マルリが呆れ返すが彼は自信満々で答える。


「ふっ。水の中の生き物を陸で表現できるこの表現力!そして子ども役のミヤちゃんが『お腹すいた』のオチの良さが有能だからさ」

「本気で噛まれるあたりは、凄い表現力だと思うわよ」


 これぞリアルおままごと。本当に生死掛けたおままごとになるんだから、正直笑えないブラックさが多々発生する。

 そんなマルリは彼にあるチョイスを言う。


「次はネズミ物語なんてどうかしら?隠れて暮らしていたネズミがミヤちゃんに見つかる話し。もちろんネズミ役はあんたにゆずるわよ?」

「どうあがいてもカニバリズム物語じゃん。教会がサバトに早変わりだぞそれ」


 もし本当にそうなったら土下座とお菓子の賄賂でどうにかなるか?


「ふんっ。全くたかがネズミで全然駄目ね。クラリオンは・・・」

「いやむしろネズミを食糧としているお前たちは、正直、普通の人にはできないことだなって思ってるぞ」

「それ褒めているの?」

「高みの人だなって思ってる・・・」

「「・・・・・・」」


 マルリと彼が微妙な間の中で、メルダー達は勝手に何で遊ぶかを決め、高らかに叫んだ。


「よしっ!鬼ごっこで決まりだぁぁぁーーーー!!」

「OK!それでいこう!みんな大好き鬼ごっこ!」


 カニバリズム物語になりたくないので、メルダーの勢いに乗るように彼も鬼ごっこにする。


「メルダーとミヤがクラリオン君がどのくらい強いか鬼ごっこで決めたいんだって」


 事の結末をクロエが教えてくれてる横でメルダーは「やっちゃるっぞ~!」とやる気満々。ミヤちゃんもまた尻尾がいつも以上に揺れている。



 第1回戦鬼ごっこ耐久編の幕開けである。



「ルールは簡単。教会の場所から出ちゃいけないだけ」


 クロエが彼の為に鬼ごっこの説明をする。


「建物の中は?スキルは?」

「中もスキルも使っていいよ。でも何か壊すとか駄目だよ。ミル姉の聖書砕きの刑になるから」


 なにそれ?スキル?


「全員が鬼の役をやったら終わり。ミヤはいつも通り全員にタッチして鬼交代ね」


 ミヤちゃんだけ不利なルール。と思うが獣人の身体は子どもと言えど非常に高い。特にミヤちゃんがリンゴ片手で潰したのを見る機会があった彼は、それ以降ミヤちゃんに掴まれる度にちょっと絶望した顔になる。



「それじゃあ始めっぞ!」


 メルダーが待ち切れないと言った様子で叫ぶ。


「よし!始めはミヤが鬼なっ!60まで数えてスタートだ!ハイ!スタート!」

「はやっ!?」


 心の準備も何もなしで唐突に開始の合図。そんなことは慣れているのかメルダー達は一斉に逃げる。この場に残ったのはミヤちゃんと彼のみ。


「1、2、3・・・」


 そんなミヤちゃんは時間を数え始める。


「あ~、余裕持って逃げたかった!」


 彼も出遅れて走り出した。


「7、9、12、15・・・」


 各して皆はミヤちゃんから逃げ切れるのであろうか。



「あいつ出遅れたわね」

「それに僕達とは違うところ行ったね」

「それよりミヤがどう動くかだ」


 メルダー達3人は最初はバラけるも礼拝堂に集まっていた。ここが一番安全であると長年の経験で分かっているからだ。広く、物があって隠れやすい、音が響きやすく、物音すればすぐにどこにいるか分かる。


「クラリオン君に行くか、いつも慣れている僕達に来るか・・・」

「逃げ足が遅い奴からヤられるのよ。ミヤはあいつを追うわね」

「まあミヤって最後に見た奴を狙って来る癖があるからな~。しばらくは大丈夫かもな」


 と言うより、鬼ごっこなのにかくれんぼになるのは子どもあるあるなので指摘してはいけない。


 一方彼は・・・。


「・・これが大人の本気だよ」


 教会中ではなく外に隠れていた。


「鬼から逃げるには幾つか手段がある。まず一つ、純粋に体力で逃げ切る。二つ、鬼から隠れる。この隠れ方には3つある。徹底的に潜む、適度に場所を変える、常に鬼の後ろ側にいる、これが隠れる3原則なる」


 それぞれにはリスクが存在する。

 徹底的に潜む場合、移動しない分、体力温存にはいい。ただ隠れる場所と言うのは、逃げ場のない場所であるのが多々ある。できる範囲でとっさに逃げれる場所、視界の確保もできるところが望ましい。

 場所変えは、同じ場所にいるより居場所が特定されにくい。しかし動く以上、見つかるリスクもある。しかも今回この教会では不利だ。長年いるあいつらが建物の構造を熟知している。無作為に動くのは不測の事態になりえる。

 そして鬼の後ろ。これは一番リスキーだ。常時、鬼を見られることは鬼の行動は読めやすい。そういう意味では一番安心とも言える。しかし鬼を視界にいれる以上、安心であっても安全ではない。鬼が不測の行動した場合は一番最初に捕まる担当になる。


「しかも今回鬼が獣人のミヤちゃん。獣人という未知の種族に近くにいるのは不測の事態になり兼る・・・」


 本気で大人視線で無駄に色々と考えた結果・・・。


「故に今回は徹底的に隠れるのが最善手である・・」


 そして今、彼が隠れてる場所は外でも教会に植えられた背丈の短い草木があるところ。しかしいくら小さい子どもが体を丸めても隠れられないそんな場所である。そこにこいつはスキルで地面に穴を開けて身体を隠して、頭に草を付けてのカモフラージュまで徹底的している。子どもがする隠れ方じゃない。


「教会内はあいつらが有利、ミヤちゃんは獣人。だったら外で隠れるしかない。相手がそこに隠れているはずがない、隠れられる場所じゃないところに隠れる。これがかくれんぼの極意!大人が本気出せば水の中にだって隠れるんだからな」


 うんうん。と自画自賛。


「しかもここは周りが良く見えて視界確保も充分」


 さて、あいつらがどう動くのか見ものだな。

 すでに勝利者として慢心真っ最中である。



 一方ミヤちゃん。



「いない・・・」


 マルリの予想通りに彼が逃げた方向に向かって探すも一方に見つからない様子。


「ミヤちゃん目視で確認・・・」


 そんな様子を彼は一方的に観察する。


「・・・・・・」


 尻尾をゆらゆら揺らし、耳も動かして、どこに逃げたか検討している。


「獣人か~・・。絶対に身体能力で勝てるのは無理だろうな~」


 しかしどこまで人間より身体能力が高いんだろうか?視力、聴覚、嗅覚とかもやっぱ優れているのかな?だったらここすぐにバレそうだけどそんな気配ないし・・。


「ん~~」


 ちょっとした生態観察もする中、教会の壁の角からこそりと辺りを見渡すメルダーを発見する。


「あ。メルダー」


 そしてすぐさま考察。

 メルダーが偵察・・。しかもバレないように・・。ふむ、そちらもかくれんぼの要領になっていると・・。おそらくクロエとマルリも一緒にいるはずだな。



 メルダー視点。



「なんで俺が様子探らないといけないんだよ・・・」


 愚痴るメルダーは恐る恐る周りを見渡していた。来る気配が無いミヤちゃんに周辺偵察にメルダーが駆り出されたようだ。そしてメルダー達は知っている。ミヤちゃんの身体能力の凄さを。捕まえる時に走り出す姿は本能に忠実な獣そのものであることを。

だから偵察は命がけになるのだ。


「ッ!いた!」


 お、落ち着け俺。まずミヤがどこに動くのか確認しないと・・・。



「・・・視線が・・増えた?」


 そんなミヤちゃんはすでに視線を察知している様子。しかも実は彼の視線にすら気づいている恐ろしい程の直感を持っている。そして意識を集中してメルダーがいる方角にバッと顔を向けた。


「バレたぁぁああーーーー!!」


 ばっりちと目が合ったミヤちゃんとメルダー。そしてその瞬間が凄かった。視認に入れから0から一気にMaxに近い加速力で駆け上がったのだ。しかも爪が伸びて襲いに行くようにしか見えない。そんな姿を見て彼も思わず声を出してしまう。


「はっや!?」

「ッ!」


 追いかけたミヤちゃんが一瞬で止まった。そして即座に聞こえた後ろにグインと首を回して周りを睨んだ。こりゃ凄い顔してメルダーも逃げる訳だわ。正直ビビる。

 しかもミヤちゃんはまだ動く様子がない。


「・・・・・」


 そしてサッとジャンプしてさっきまで立っていた場所まで一気に跳んだ。しかも最大限音を立たせないように着地するまでの動作が狩猟本能で動いているようにしか見えない。

 メルダー達っていつもこんな感じのミヤちゃんから逃げていたのか・・。


「ん~~・・?」


 さっき声した、視線もまだある。だけど姿が見えない?それにミヤちゃんは不思議に感じ取っている。しかしどこを見ても隠れる場所はないので、程なくして仕方なくミヤちゃんはその場を去り、メルダーの後を追うことにした。


「こんなの相手にしてるならモンスターとそう大差ないぞメルダー達よ。多分迷宮でもしぶとく生き残れる。立派な冒険者間違いなしだ」


 ここの子はたくましくなりそうだと思う彼であった。



 第一回戦鬼ごっこ持久戦。多分後半。



 あれから数十分。ミヤちゃんよって悲惨な末路な断末魔がちらほらと聞こえた(ただしマルリだけ頭ポンポンタッチされただけ)。

 しかしなんでメルダーはこうなることを予想できたであろうに鬼ごっこを選んだろう。ちょっとスリル求め過ぎじゃない?


「そんでもって残りは自分だけか」


 ずっと隠れるのも芸がないしな~。

 このままいけば数日は隠れられる自信がある彼だが、こう最後にポンっと出て来ても生き残ったアピールに欠けると何か派手に登場したいなと考え始めた。


「ん~スキルって何でもありだよな~・・」


 何かよからぬことを考えていそうだ。



 一方ミヤちゃん達は・・・。



「いない」

「クラ、ずっと上手く隠れているよな」

「そうだね。逃げた時からずっとね~」

「あいつ教会から出ているんじゃないかしら?」


 メルダー達はミヤちゃんの捕まった後、一向に見つからない彼をミヤちゃんと一緒に探すも中々見つからない。


「・・・いる」


 しかしそこにミヤちゃんは耳をレーダーのように動かしてピーコンと何か探知した。探知した方角は教会の屋根の上。そこには腕組をしながら高らかに笑う彼がいた。


「はっはっはーっ!みんなで探すが見つけられないとは・・かくれんぼでも自分が圧勝のようだな!!あっはっはっはっはっ!!」

「あっ!いた!」

「いつの間に屋根に登って・・・」

「あいつあそこでずっと高見の見物していたのかしら。腹立たしいわねっ!」

「屋根も探した・・・登った?でも音無かった」


 ふふ。みんなが注目した中で鬼から正面に立って逃げ切る・・・。これで鬼ごっこの真の勝者が決まる。ミヤちゃんでも捕まえられないと!無理なのだと!心に刻みつけようじゃないか。そして余裕を持って捕まろうじゃないか!格の差を見せつけなっ・・・!!


「さてミヤよ。我が捕まえられるかな?」

「・・・・・」


 ミヤちゃんは無言で彼を見つめ。


「おーいクラ~。屋根の上は危ないんだぞー。ミル姉が怒るぞ~」


 メルダーは呑気に声を掛ける。


「・・・行く」


 ミヤちゃん少しばかり目が本気になった。そして。


「やはり来るかミヤよ」


 タタっと走って来ればジャンプしながらの壁走り。そんでもって何かのキャラにハマった彼は・・・。


「あ、あいつまさか!?」

「飛ぶ気なの!?」

「あのバカっ!!・・」


 屋根の端で飛ぶ気満々の彼。そしてタイミングを見計らい・・・。


「行くぜ・・!フォ~~~ゥウウウ」


 飛んだ。あの高さから飛べば骨折とかそういう問題じゃないとメルダー達は目をつぶる。が、そんな無様に落ちる訳がない。彼が落ちる場所の地面が凄い勢いで土の柱が盛り上がったのだ。


「っ!着地成功ーーー!」


 あ~こわ。生やす場所ずれてたら、とんだ飛び降り自殺だな。まあ成功したからいいけど!


「ふっ。どうよミヤちゃん。錬成陣無しでも自分はこんなことできるんだぜ」


 イメージは某錬金術師。さらに彼が乗っている土の柱が高くなって、屋根に着いたミヤちゃんを見下ろす。

 ん~~、人を見下ろすっていいね。こうやっぱ超越者みたいな感じで。


「・・・・・」


 が、その態度がミヤちゃんの癪に障ったようで、顔には出してないがちょっとイラっとした様子。尻尾が揺れに揺れている。そしてまた膝を曲げて飛び移る気満々であった。


「そんぐらい想定済みだわ!」


 シュっと飛んでくるミヤちゃんからすぐに第二の柱を用意して飛び移る。ミヤちゃんもまた続けて飛び移ろうとするが、突然が柱が崩れた。


「一緒に崩れ落ちるがいいわっ」


 ミヤちゃんが柱に乗ったのを見計らって柱を崩したのだ。無論そんなことすれば怪我をしてもおかしくないが相手が獣人。身体は丈夫であることを信じて、そんな子どもでも情け容赦ない鬼畜の所業。しかし現実、獣人と人間の身体的能力には圧倒的に追いつけないものがある。


「なっ!」


 驚く先には崩れ落ちる柱から、アニメの如くジャンプして回避するミヤちゃん。そのまま今の彼が立っている柱に張り付いてきたのだ。

 嘘やろっ!?慣性の法則云々とか、落ちるエレベーターの中でジャンプとか、くそ法則無視して歪んでないっ!?

 それほどまでに人間の規定を超えて、獣人は物理でぶち破っていくのだ。


「・・・つかまえる」

「まだだっ!」


 よじ登るミヤちゃんの前に壁が生えて、ネズミ返しのように移動を阻む。その間彼は柱から横に向かって伸びる柱の道を作ってミヤちゃんから距離を稼ぐ。しかしミヤちゃんも壁が生えてない場所を回り、彼が立っていた場所までたどり着けば、横に伸ばしや柱の道に逃げている彼を追う。


「壁!」


 追うミヤちゃんにいくつも土壁を出現させ移動の邪魔をさせるが、難無くそれを飛び越える。しかし全ての壁を越えると眼の前には逃げる彼がいない。


「ん?」


 どこに行ったのか立ち止まれば、その瞬間また足場が崩れた。


「今度こそヤったか!」


 いつの間にか下に戻っていた彼がまた何の躊躇せず柱全て崩して、土煙りが舞うのを眺めた。しかしそれは期待を裏切らないフラグの言葉。それが証拠に土煙の中に動く白い髪が見えた。


「くそっ!やっぱ無理なのかっ!」


 即座にこちらに向かって走って来るミヤちゃんに無数の土壁を設置してその場から逃げる。が、ミヤちゃんにの前では意味は無い。


「ん゛っ!」


 進行方向の前にある土壁を体をしならせながら勢いよく蹴り貫く。


「嘘やろ!?」


 くそ!ならばっ!!


「接近戦じゃコラァ!」


 あ~でも勝てるかな~。勢いで迎え撃つ感じでミヤちゃん見たけど、くそ爪伸ばしていかにも殺気満々だし・・。本当によくメルダー達はこんなの相手してたな。


「つかまえる」


 ミヤちゃんの声がはっきり聞こえる距離にまで近寄られ、襲いに掛かる長爪で迫る。しかしバシっと音を立ててミヤちゃんの手が何かに弾かれる。


「ん?」


 何か弾かれた手を見るミヤちゃん。


「ただの土ダンゴさ。こっちだって無策で接近戦に挑むわけじゃないんだよ」


 不敵に笑う彼の周りに無数の土ダンゴが浮遊する。

 妨害、撹乱、目潰し、足止め何でもござれ。我がスキルでただの土くれでも無限の土製で倒してくれるわ!


「・・それ、無駄」

「ほぉ~、これでも?」


 さらに地面から無数の土ダンゴが生成される。


「ハエ叩きより楽」

「言ってくれるっ」


 浮遊する球体のいくつかミヤちゃんにけしかける。


「だから無駄」


 全て長爪によるクローで砕かれた。


「あらやだ」


 これでも硬めの球体にして撃ったつもりなんだけどな~。砕かれるかぁ・・。なら手段は一つ。


「数撃ちゃ当たる!!」


 今浮いてる全てをぶつけ、すぐに新しいのを用意して無限に撃ち続ける。しかしそれでもミヤちゃんはただの土に戻す。


「ならこれはっ!」

「っ・・!」


 土ダンゴの一つが砕かれると同時に目潰しで爆発させる。それが見事に効いてミヤちゃんは一旦その場をバク転しながら引いた。

 くそ。バク転とか自分できないのに羨ましい。

 


「んん~・・・せこい」


 目を擦りながら彼を睨んだが近くにはいない。少し離れたところで立っているのが見えるが何かしている様子も確認できない。眼の砂が取れれば、すぐに彼に向かって走り出す。しかし彼が何もしてない訳がない。


「ッ!」


 彼の近くまで来たはずのミヤちゃんが突然彼と距離が空いた。


「お~。咄嗟に思いついてやってみたけどできるもんだな」


 彼がしたのは地面を操って、地面そのものを動かして距離を作ったのだ。

 これならいくらでも距離が稼げる。ふっ、勝ったな。



「無駄・・・」


 流されるミヤちゃんだが体勢を変えて彼を見据えた。


「ん・・?まさか・・・」


 如何にも膝を曲げて跳ぶつもりような姿勢。

 ここまで跳ぶ気か!?


「少し本気」


 今までよりも足に踏ん張りを入れ、曲げた足を一気に解き放つ。


「っ!?」


 速っ!!

 圧倒的な跳躍力で砂を巻き上げながら、こちらに向かって跳んできた。

 

「今度はつかまえる」

「させるかよっ!」


 掴まれる前に突然砂が舞い、壁となって彼を中心に渦巻いた。


「砂を操るキャラとかいてね。こんな技あったの思い出してきたな~。あ~懐かしい」


 そう言っている間にミヤちゃんは蹴りを入れようとするが再び砂で防がれる。そして今度は土のナイフを浮遊させ、手には土を這わせ鉤爪のような武器を形成する。


「今度はこっちからじゃゴラァァアアアーーーー!」


 反撃と言わんばかりに攻撃するもバシッとミヤちゃんのクローで鉤爪も同様に砕かれた。

 いくら何でもその爪、丈夫すぎませんかね!?今までのより硬めに形成したんだけど!

 さらにナイフも飛ばすがやはり無駄で、ただの砂に還るばかり。しかしすぐに鉤爪とナイフは砂であるから補充させすればすぐ元に戻る。


「オラオラオラオラオラオラオラァァァァ!!」


 砕かれても片方の鉤爪で殴りに掛かり、砕けた方の鉤爪はその間に修復して、また打ち出す。そんな一進一退の激闘を繰り返し、時に土のナイフも飛ばしながらどんどん動きが加速していく。

 ナイフの生成に余裕がねえ。爪だけで精一杯だよくそ。あと腕も疲れた!なんでミヤちゃんは疲れた顔しないんだよ。あいつの体力は化け物か!


「くっ・・・」


 このままだと埒があかない。そんな彼の苦肉の策・・・。

 肉を切って骨を断つ・・・。

 

「グッ・・!」


 ミヤちゃんのクローを鉤爪砕かれながらも素手で受け止める。

 ッ!!クッソいてぇ!骨逝ったんじゃね!?


「手・・手は止めたぞ・・」

「むっ・・・」


 そう簡単に引き離させるかって!

 さらにミヤちゃんの足を地面に埋めて硬くする。

 これで身動きは封じた!


「いくぜっ!魔弾光殺法!」


 とか丸パクリのあれであり、額に指すらも置いてもいないし、というよりただの魔弾。しかし・・・。


「遅い・・・」


 手足が拘束されているのも関わらず無理矢理体の向きを変え、足も拘束していたが意味することなく普通に抜かれる。そして彼の腹に蹴りを入れようとする。


「ッ!あっぶね!?」


 寸前で魔力障壁を張って事なきを得る。そしてお互い距離を取った。


「まさかここまでやるとは・・。ええい!異世界の子どもは化物かっ!?」


 レベルを上げて物理で殴ればいいとか思っているのかこの子はっ!?と体感させられる。で、そのミヤちゃんはと言うと・・・。


「ん゛~~・・・」


 不機嫌そうであった。尻尾がゆらゆらと揺らしているのが証拠である。

 どんな相手(子ども)だろうと同じ子どもの獣人がいたとしても別段にミヤちゃんは強いのである。しかし最近になって現れた自称冒険者。本当に強いのか胡散臭かったが、今日になって、自分と同等かそれ以上の存在に今までの強さに揺るぎをもたらそうとしていたのだ。


「こうなれば仕方ない。モンスター相手にしかしなかったが、ここで弾幕ゲーを開催することになるとはな・・・」


 空間全体に彼の魔力が浸透し、魔力が形になって無数の形の球と成す。それにミヤちゃんも警戒心を一気に引き上げる。


「全て終わりだ!魔弾・恋のめい「あんたやっているのよっ!!」ヘヴンッ!?」


 マルリが彼の頭に膝蹴りが良い角度で入る。


「何?バカなの!?馬鹿なのかしら!!?」

「くっ・・・マルリか・・」

「くっ、マルリか。じゃないのよっ!?あんた何めちゃめちゃにしているのよ!!」

「そうだぜクラ・・」

「もう途中鬼ごっこじゃなくなっているよ」


メルダーとクロエもこちら来て惨状を語る。

それはそうだ。彼がスキルで土を盛り上げ小山ができて、そこらじゅうに土壁がいくつも生えているんだから。

そんな彼らがああだこうだと色々と話していると・・・。


「クラリオン君・・これどういうことかな?」


 皆の保護者役ミルティアが現れた。この惨状を見る限り、今のミルティアの心情が雰囲気で察することは誰の目でも容易だった。


「おっとこれはミルティア先生・・・」


 明らかに自分は悪いと思うも彼はこう言いくるめる。


「包み隠さずに答えよう!鬼ごっこしていただけなんだっ!!」


 この僅か間にもミヤちゃん一同は鬼ごっこ続きと言わんばかりにいつの間にか消え去っていた。ちなみに鬼はミルティアであったりする。


「ふぅ〜ん鬼ごっこ・・・」


 あっこれヤベェ。マジで鬼だ。


「ほ、ほら。子どもって元気じゃん!?砂場とかでおっきなお山とか作りたく・・な、なるやん?そんな感じでしてね?」

「へぇ~・・・」


 いつもより声のトーンが低いミルティアに予想はしていても自然と足がたじろぐ。


「クラリオン君分かっているよね?」


 その威圧に彼は諦める。逃げても今後関係は良くはならないだろうと。そしてクロエの言葉を思い出す。


「うん。クラリオン知ってるよ。クロエから聞いた聖書砕きの刑があるって・・・」

「違いますよ。誰しも素直になれる魔法の指導です」


 ミルティア先生。それは拷問ですよ・・・。

 この後彼がどうなったは極一部の人しか知らない。ただ後日には教会に盛り上がった小山と壁は、綺麗になくなって元通りだったと言う。

 壮絶鬼ごっと大会これで閉会に終わる。



 おまけ。



「お前ら容赦なく置いて逃げるとか仲間意識無いよな」

「あれは誰でも逃げるさ」

「あれは嫌だからね~」

「そもそも私達には無関係なのよ。どうして一緒に怒られるかもしれないのに一緒にいないといけないのよ」


 まず逃げたメルダー、クロエ、マルリの言い分。で、ミヤちゃんはと言うと・・・。


「・・・・・」


 無言で彼に近づいて・・・


「ミヤちゃんよ。申し開きがあるのならば述べるが良い」


 偉そうな態度に目もくれず彼の後ろに立って・・・。


「ん?」

「ん・・・」


 そして口を開くと・・・。


「いっ!?った!?なっ!!?ちょっ!?痛い痛い痛い!!あ゛あ゛~~ミヤちゃん!?喰ってる!喰ってるからーーーーーっ!!」

「ん゛ん゛・・・・」


 容赦なく首後ろを噛まれた。これが初めてミヤちゃんが彼に意識した瞬間であった。


「うわ・・。血が出てる」

「擦り傷で出る血と量じゃないね・・・」

「ちょっとミヤッ!?やめなさいよ!そんな奴の血を飲んだら腐るわよ!?」


 なお地球での一般的な猫は首を噛む行動には自分の優位性や上下関係を示す時にするマウンティング行為があったりする


「ん゛ん゛!!」

「あ゛あ゛あ゛ーーーーーーーーーー!!!!首があああああーーーーーー!!!」


 彼ことクラリオン。この異世界で結構深い負傷を初めて受けるのであった。


 次の話数でこれを入れようと思ったけど、思いほのか長文になったので切り分けて投稿することにしました。


一部誤字修正 2019.12.23

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