第9話 へ~発掘クエストか
文の最後に一部内容を書き入れ忘れていたので、書き足しました。 2019.12.16
前回のお話し。バンパリアの血を集め、フレア三姉妹の末のフーを無事?にギルドにドナドナして、自然な成り行きで与吉(蜘蛛)が新しい仲間に加わった。
そして今日。何故バンパリアの血を集めることになったのか目的を忘れるぐらいこの苦労たる原因の元へと彼は足を運ぶ。
「血祭だ」
チ。
「血祭だ」
チ。
「パレス工房で血祭だ」
チッ!
全ての元凶たるパレス工房。鍛冶師のイロハを学ぶ為に条件としてバンパリアの血を集めるように言われ、集めた際に発覚したタンク瓶と言う100体分の入る瓶であったこと。それを満杯にした彼はパレス工房に戻って来たのである。
「来て早々荒れているな・・・」
そんな様子を自称男子のお兄さんと話していたオーガスなる人物が遠巻きで見つめている。しかも与吉に阿波踊りをさせながらタンク瓶を持たせて不安定そうに踊らせているあたり、故意に割らせる気すら見える。
「オーガスさん!アレなんですか!?来ていきなり踊り出して、不穏な言葉口にしてるんですけどっ!!?」
「ああ、あれか。あれはいちよマエストロの客人だ。安心しろ」
「でも彼が連れてるあの蜘蛛が持ってるあれタンク瓶じゃないですか!?マエストロがよく見せびらかしてくる物と似ているんですがっ!?」
「あのバカストロ・・」
普段のマエストロの行動に頭を悩ますが、確かに与吉が持っているのはタンク瓶であることはオーガスも分かっている。彼が戻って来たことは、その中身はバンパリアの血で満たされていのは想像できる。
それをここで割られたら・・・。
「最悪だ・・」
言葉通り血祭が起こる。そんな最悪の事態になりそうだと悩ますと、この騒ぎを嗅ぎつけたのかオーガスの真後ろから自称美男子のお兄さんが現れた。
「ほお。騒ぎがあると思えば・・帰ってきたようだな。」
「マエストロ。また後から・・。で?どうするんだあれは。絶対何かやってくるぞ」
「ひと揉めぐらい起きると思っていたさ。あんな感じになるとは思っていなかったがね。子どもの感性は分からないものだな」
「無茶な内容だったのを隠して約束したら癇癪起こすのは当然だと思うが」
「まあ血祭にされる前に瓶は回収しとかないとな」
彼が何かしでかす前にお兄さんはパイプ煙草をふかしながら彼の元へと向かって行く姿に本当に大丈夫かと、どうもオーガスは不安でしかなかった。
「やあやあ。ご機嫌如何かな?」
そう、お兄さんが彼に声を掛けた瞬間、彼の「血祭」の声が止み、一気に体から魔力を放出したと思えば一瞬でまた体に元に戻り、お兄さんと目が合った瞬間キラリと十字に光る超圧縮された魔力レーザーがお兄さんに向ける。この間一秒。
「なーーーっ!?」
その一部始終をを見逃さなかったオーガスは、そのまま魔力レーザーは壁も天井も貫いて工房を貫通するのをただ驚くしかなかった。しかしその間近にいたお兄さんは。
「おっと」
何かのスキルか道具でも使ったのか物理法則に囚われない異様な動きで躱した。
「見たか!バンパリアの結晶すらも貫くこの圧倒的威力!!どんだけ苦労したのか分かっているだろなっ!そして一発殴らせろっ!!」
大変彼はご立腹である。破壊光線に蹴りや殴りを何度もお兄さんに向けるが、全て異様な動きで躱される。
くそっ!なぜ当たらんっ!?ニコニコ笑いやがって!
「鍛冶師になるわけでもないのに教えを乞いたいと言うのだ。そのぐらいの実力を試す試験があってもよかろう?」
「そんなんで合格できるなら鍛冶師なんか目指さないで他の職に就くっ!」
「しかしこうして戻って来たんだ。やる気はあるんだろ?」
事実、彼の目的は自分の武器を作ること。長い期間バンパリアの血を集めることになって忘れ掛けてもいたが、戻って来たと言うことは思いは忘れていない。そして教えてもらう以上は、これ以上余計なことはできないと認識させられる。
「っ!見てろよ~!英国紳士が満面の笑みになるパンジャドラムの実験をここでやってやるからな~!」
悔し言葉を吠えるしかなくなった彼にしばらくは暴れたりしなさそうだと確認すると。
「あと瓶を割られたら困るからね。回収させてもらうよ」
お兄さんは今度は与吉の方を向くと、いつの間にか与吉が持っていたタンク瓶がお兄さんの手に渡っていた。そして優々とタンク瓶を振り「確かに満杯のようだ」と確かめる。
チ!?
「なっ!?」
一瞬でお兄さんの手元にタンク瓶が移動したのに驚く。
「あと一つ言っておこう。まるで私が騙してこのタンク瓶を渡したように思っているが、私はこの瓶にそれなりの重さになったらしか言ってない。冒険者なら契約内容をちゃんと確認しないのが悪い」
ほくそ笑むお兄さん。
「駄目だ。やっぱり一発殴らないと気が済まない・・っ!」
長く苦労したのに軽い感じでいなされることに彼は納得がいかない様子。やはり何かしら一撃は与えたいようである。
「では鍛冶師の教えを学ばせてあげようじゃないか。オーガス、あとは頼んだよ」
「なっ!?なんで俺が子どもの世話をしないといけなんだ!?」
遠くで見守っていたオーガスはまさか自分に話が振られるとは思っていなかった様子。
「ほら、私も色々と忙しいからね。このタンク瓶も保管室に置かないといけないし、工房に穴も空いてしまったから塞がないといしけないし、オーガスが書け書けとうるさい書類もしないといけないし。あ~忙しい忙しい」
そして「何故なら私はマエストロ~」と口ずさみながらこの場から一瞬で消えた。
「あのバカストロ、逃げたな」
「くそ。あの自称美男子・・。まだ言いたいことはあると言うのにっ」
面倒事を押し付けられたオーガスと悔しそうな彼が嘆き、周りは何と話だ?とよく分からない雰囲気で工房の中は静寂に静まり返る。
それで結局・・・。
「こう光ったり、変形したり、ビットが飛んだり、技とか必殺技とか出たりしたい」
「お前は何を求めているんだ・・・」
今話しているのはオーガスという人物。あの後、あのままの訳にもいかないから、仕方なくオーガスは不機嫌な彼に声を掛けて、まずは彼と話して何をどうしたいのか聞いたらこれである。
「あとは武器同士が合体して一つの武器になるとか。ほら、戦隊シリーズに出てきそうな感じのやつ。ん、あ。それなら変身ベルトもありか?でもそれって武器とか防具の類と同じ枠でいいのかな・・・?」
俺は何の話を聞いていたんだ?武器について話していたよな?
しかし彼からすれば長かった念願の武器作りになる。若干不機嫌なことはあったが、色々と試していきたい気持ちが溢れている。
それに対してオーガスは途中からよく分からない内容にこんなを教えないといけないことに頭が痛くなってくる。しかしそれでも彼が学びたい内容にオーガスは察しが付く。
「つまりお前は記号式や魔導石の流し込みを学びたいんだな」
「ん?記号式?魔導石?」
あ~なんか末っ子のフーも記号式とか何とか色々使っていたな。あれなんだろ?確か魔法陣系のあれだっけ?
「お前・・まさか記号式も魔導石も知らないのか・・?はぁ~~。お前、子どもとはいえ冒険者か?」
そんな初歩的なことを知らない顔にあり得ないだろとオーガスは彼を見る。
「うっさい。自分がいたところは辺り一面の大草原な人類未踏の地だったから、最近になって世間を知り始めたんだよ。んなの記号やら石の種類なんて知るかっ」
「お前の故郷はどこの果てだ」
「めっちゃ遠いのは確か」
本題に戻り・・・。
「まず魔導石はただの魔石と違い、魔力が切れてもただの石になることはない。時間が立てばまた魔力が戻る」
「あ~やっぱそんな魔石もあるのか。一つ賢くなった」
「記号式は一つの魔法みたいなものだ。詳しいことは自分で調べろ」
「うい」
とりあえず簡単な説明やらレクチャーやら聞いて、鍛冶師らしく見て学べと特別に作業場の一角を借りて実践で教えてもらうことになった。
「あ。そうだ魔石の類なら持っているんだけど、これ使えないの?」
腰に付けた袋から取り出すそれは以前ミシャロ商会の商品を素材に戻すなかで埋め込まれていた魔石であった。自分で製作した武器に埋め込んでも何も起きなかったので、なんの効果のあるのか見てもらうと。
「おま・・っ、それ爆発石じゃねえかっ!?なんでそんな物騒なものを・・・っ」
「ミシャロから少々」
それを聞いたオーガスは「あのミシャロか」頭を悩ます。
どうやら周りの魔力に反応して爆発するらしい。しかも小さいながら威力が高いとかどうとか。魔法の世界では危険物でしかない代物である。そんなを堂々と使っているミシャロ商会は流石と言うべきか。
「早々なんで危険物を取り扱わないといけなんだ・・・」
その後彼の石は不明な石が多いため取り扱い注意としてパレス工房で処理してもらった。
気を取り直して・・・。
「これからやるのは武器に記号式を打ち込む工程をやる。お前の要望はそれを覚えれば大体方が付く」
「うっす。お願いします」
やっと本格的な作業に彼も真面目に聞き始めてきた。
そしてオーガスはペンを持って作業台に紙を置いて何か書いた。すると書き終えた紙は何かに導かれるように飛んで行く。
「何あの紙?」
「注文書だ。あれで書いた内容の物が運ばれてくる」
「リアルメールってあんな感じなのかな?」
そう思っていると今度はこちらに向かって飛んでくるものが現れた。
「おお~、今度は魔法版ドローン・・・」
こちらまで来ると地面に箱を落として再び飛んで行った。しかしその横で与吉はジーっとドローンを見つめて口をグモグモしながら見つめて狩猟態勢。飛んで行くドローンに忍び足で一気に近寄って「チッ!」と密かにドローンに喰らいつく。
「材料は揃ったな」
箱をオーガスが持ち上げると今度はその箱に与吉は喰らいついて一緒に作業台に運ばれる。
「この蜘蛛一体なんだ・・・」
「与吉だよ。可愛いでしょう。迷宮の外の物が珍しいようで好奇心旺盛」
なんでこいつは蜘蛛を可愛いと思えるんだよ。というかなんで蜘蛛を連れているんだ?ペットか?まさかテイマーしたのか、蜘蛛を?
「なんで子どもは訳分からないことするんだか・・・」
作業台に置かれた箱から中に入ってた物をオーガスは説明していく。与吉も興味深々で箱の中を覗かせる。ただ彼の背丈の理由から空箱を台にしないと作業台の上が見れなかった。
「まずはさっき言った魔導石と記号式だ」
魔導石と呼ばれる小さな石に魔法陣みたいな札が数枚。そして色んな種類の金属の素材がいくつも入っていた。
「これは火導石と風導石。魔力に付属して火や風の属性が宿る。魔力属性が必要な時、足りない場合に導石は使われる」
次に見せるのは記号式の札。
「記号式はお前が言う技や必殺技を放つのに使うものだ。これが無いと何もできない」
ふむふむ。と彼は頷く。
「記号式の使い方には色々とある」
手本と言わんばかりに金属の塊の一つを手に取り、実践で見せた。
「まずはこの札ごと刀身に植える」
手にした金属がぐにゃぐにゃと動けば、札を飲み込むように包まれて刀身になった。
「おお~」
「ただこれは応急用の使い捨てだ。短時間で用意できるが強度、札の紙の耐久性から長期の使用は向いていない」
そしてまだある金属を手に持ち。
「次のは一般的にやるやつだ。刀身の形を整えると同時に記号式の溝を作る」
刀身に形を変えながら記号式の溝が浮いて出てくるように現れた。まさに職人芸当の技と言うべきもである。
「うっわ。すっご。職人技術というのが見て分かる」
「あとは刀身の中に溝を彫るか、溝を彫った上に魔力の伝達性が高い金属をはめたりというひと手間入れるやり方もある」
「はー、本当に色々と考え深いな・・・」
自分がいた世界とは全く違う鍛冶に感銘深い何があった。
「言うが鍛冶師はそう簡単じゃない。溝の彫によって刀身の強度、魔導石をどこに埋め込むのか、魔力伝達の効率も色々と知らんといけない。そう易々できはしないからな」
こうしてある程度のレクチャーを受けた。あとは練習しながら作ってみることになった。だがオーガスの言う通りそう簡単ではなかった。『万物追及』というスキルがあるからある程度問題無いとしても魔力伝達の云々など経験や知識を積まないと中々理解できるもんじゃない。
「しばらくパレス工房にはお世話になりそうだな」
その言葉通り迷宮に潜っていた日数を遥か超えて彼は、数ヶ月パレス工房に通うようになった。興味あることについては結構長続きできるタイプなようで、迷宮の時よりも楽しそうに通っていたという。
そんなある日・・・。
パレス工房であれこれ通って草をついばむ程度には技術は身に付いた。おかげで火や風を出せる武器や光ったり、オーラぽっいのも出せるようにもなった。しかしそれは全ての材料や素材、魔導石と言った物はパレス工房の物であり彼自身の物ではない。なのでそろそろ自分の素材を使って、自分だけの武器を作っていきたいと考えていた。
「その上で学んでから問題が二つある。魔導石と記号式だ」
チ?チィ~~。
宿屋の部屋で一人呟く彼に与吉は一体何を言っているんだろうと彼を見るが、まあいつものことかと部屋の中でくつろぎ始める。
「魔導石に関しては今まで迷宮で取ってきたやつはただの魔石らしいので魔導石の代用にはならない。しかしお金はあるのでお店で魔導石の類を用意することはできる」
問題は小さいのしか売ってなかったことだ。この前に高級店と自称する店に行った時では・・・。
「すいません。導石ありますか?と言うか1オウカあるのである分全部見せろ」
「は、はっい!!」
高圧的態度に普通は怒りそうなものだが店員は驚きながらも素直に対応してくれた。というのも彼が最近噂の荒稼ぎの子どもであることを知っていたのだ。
つ、ついに来たか~我が店にもっ!毎日5オウカ6オウカ稼ぐと言われるあの子どもっっ!!これは売り込まなければっ!!との具合である。
「お待たせしました。これが当店の用意した導石全てになります」
「お~これが・・・」
ちっさ!まだパレス工房のやつの方が大きいじゃん!
どれも彼の小指の爪ほどしかない大きさであった。
「お値段御一つ6ハクになります」
「・・・・・」
1ハクって100バレルだよな?つまり600バレル・・この大きさで?
いくらお金に余裕があると言っても流石にこれはぼったくりを疑う始末になる。そんな様子を察したのか店員は慌てて言った。
「た、確かに小さいと思うところもあるかもしれませが、導石としての純度は高いんですよっ!一つ手に持って魔力量をお確かめて下さってみて下さいっ」
「ふむ・・・」
う~ん・・。確かにまあこの小ささでそれなりにあるわな・・。
普通の魔石よりは魔力はあり、サイズもまた小さいのであれば重さや持ち運びの面から見れば確かに悪くない魔導石である。しかし根本的に魔力が少ないのがネックというところ。
「どうでしょうか?迷宮深くまで潜るようになれば導石単体でも魔力の補給にもなりますし、ポケット入れておくだけでも効果はありますよ」
「でも、どれも微妙だし・・・」
手に持った魔導石を戻し、帰る雰囲気に。まずいっ!どうしたら興味を引いてもらえるかあれこれ店員は考えると、一つある物を思い出した。
「しょ、少々お待ちを!実はもう一つ導石がございまして、それは大変希少な物なんですよ!」
「ほお。希少とな」
希少という言葉に食いついた。
そしてまた彼の元にこれまた厳重そうな箱を持って、番号入力に指紋認識やらを終えると箱の中が開いた。
「土導石でございます」
そう言われて取り出されてもどう稀少か分からないが思ったことと言えば・・・。
ちっさ!さっきのよりもちっさ!
今まで見せてもらった魔導石よりもまたはるかに小ささ。
「言いたいことは分かります。しかし腐っても土導石!枯れることがない大地に変え、肥沃の土を生み出すと言われるこの導石は国家が喉から手に入れたい一品っ!!もしこの導石全てお買い上げして頂いた方にもれなくこの土導石がタダで御付きになります・・・!いかがでしょうか」
と言っているけど・・。はい。脳内会議開始。
『どう考えても売れ残りプラスされてるだけだろ』
『いやそれしかないだろ』
『せやな』
『まあでもいいんじゃない?珍しければ研究の暇つぶしにはなるでしょ?』
『それにオーガスさんからもそんな導石があるなんて聞いてないしね』
『待て待て。子どもだから騙そうとしているとかあり得なくはないか?』
『ただの石であると?』
との具合でコンマ間で自問自答。
「まずそれが土導石である証拠は?」
「よく土導石の周りをご覧ください。ほら。ちゃんとあるでしょう。土が」
「ん~・・・・」
いやでもこれ・・・。はい。第二回戦。
『まずあれ見て思う人』
『ゴミじゃね?』
『一票』
『正確に言えば砂粒じゃね?』
『ゴミを生む導石ってやつか。さすが異世界』
『まあ・・・珍しいか・・な?』
『え?価値あんの?』
『だからの暇つぶしの研究』
結論ゴミ。しかし暇つぶしにはなりそうなので。
「導石全部お買い上げで」
「ありがとうございます!!」
と言うことがあった。不満はあるが属性寄与できる最低限の導石の類は手に入れた。しかし問題なのが記号式。
記号式ことについて調べようと思っても、まず書店に記号式の本が一冊も無い。パレス工房の記号式の札は、見て覚えて描けれるが、練習用なのか効果がどれもしょぼいものばかりで、今まで作った武器も中火やそよ風が出る程度のもの。だから実戦で使えそうな記号式が欲しいとねだったが「機密情報だ」と教えてもくれなかった。
「記号式もどこかで学ばないといけないのかな~。記号式も興味はあるけど、なんでこう一つ何かやろうと思ったら、こうまた問題が出てくるんだろうか・・」
異世界であろうと世の中、簡単にいかないことに「与吉~」と愚痴るが愚痴ったところで何の解決にもなりはしない。現状、武器作りに関して行き詰まりが起きてもいるのだ。
こうなるといつものトクガワさんといきたい彼だが「アポが90年先まで埋まっております」とギルド受付に言われてたのである。明らかにトクガワが根回ししたに違いない。
「どうしよう。お部屋にある何オウカにもなる魔石を売りつけて財政悪化でもさせようかな?」
そんな嫌がらせでもやってやろうか思うも解決にはならない。なので頼れるところが無い問題をどうするか考えると一つしかない。
ギルドのクエスト依頼所である。そこはクエストの、依頼、紹介、仲介と一通りのことができる場所で冒険者のたまり場でもある。そこに依頼を通して、記号式に関するクエストの発行してもらうのが手っ取り早い。
しかし彼は子どもの外見だからかカモとして突っかかれることが多く、行きたくない場所でもあるのだ。
「依頼所か~。あそこ受けなくても換金はできるし、お金に困ってないし、行っても絡まれるし・・・。与吉が代わりに行ってくれたな~。チラッ」
チ?
与吉に視線を向けて見るも。
無理だよな~。はあ~。行くしかないか・・・。
仕方なくクエスト依頼所に向かうのである。
クエスト依頼所。
「相変わらず壁紙量凄いな~」
頭に与吉を乗せながら依頼所にある掲示板には、クエスト依頼の紙がズラッと広く長く続いている。そこに張り出されている依頼の紙は300枚近く超え。内容はパーティー募集、仕事の求人、単発な仕事、調査等色々だ。
ちなみに依頼の紙に番号が振り付けられ、受付で番号を確認するとその依頼の詳細を確認することもできる。
そんな場にただ一人似つかわしくない彼に周りが騒めいている。
「おい。あれって・・・」
「ああ。噂の子どもか」
「なんで頭に蜘蛛なんか乗せてるんだ?」
やっぱ目立つな~・・与吉の可愛さが。しかしここの掲示板の位置は高いし、人が立っていると本当に見えんな。
行きたくない場所であり更に子ども身長で下に貼られている紙しか見えないから、余計にため息が出る。
チィ~~。
与吉は壁に紙が張られた光景は珍しいようで興味深く目を動かしていた。
チ?チチッ。
すると与吉が一枚の紙に反応を見せる。他の依頼の紙とは違い、色や絵に光に反射するラメが入っているなど、他とは違う紙に興味が出たようだった。
「どうしたん与吉~?依頼発行しに行きたいんだけど。ん?あ~確かに目立つな。なるほど。これなら多くある依頼の中でも人目につきやすい。その辺り考えて出す人は好きよ」
ちょっと関心する出来事に彼は、手が届かないから与吉にその紙を取ってもらうように頼み、内容を確認する(掲示板にある依頼の紙を外す行為は禁止である)。
内容を確認すると再度与吉に貼ってあった場所に戻してもらう。彼は「へ~発掘クエストか」と興味を示しながら何か思った様子。
それから彼はクエスト依頼所の受付で依頼の発行と先ほど見た依頼の紙の詳細を聞いてみたのだった。
それで3日後。
「はいっ!このパーティーのリーダーをやっているメルンと言います!あとはエントリア、スン、フェア、メアリーです!」
「最近ちまたで有名な荒稼ぎの子どもと言われるクラリオンと与吉で~す。よろしく」
「改めまして発掘クエスト依頼者のオガです。今回はよろしくお願いします」
彼は与吉が見つけたあの発掘クエストを受けることをしていたのだ。
そして今日、指定の食事処で顔合わせとして集まることになったわけなのだが・・・。
「今回2組が依頼を引き受けてくれると言うことで、どのように採用するかを決めようと思いましてこのようにお呼びしたわけです」
と言うことである。この発掘クエストに彼と他のパーティーにも依頼受けがあって、どうするか話し合いを設けたのこと。なおメルン率いるパーティーは全員女性である。
「でもまさか有名なクラリオンさんが僕の依頼に受けに来るなんて思ってもいなかったですよ」
「私達もビックリ!あとあと!最近すっごい攻撃でよく迷宮で落盤させてる噂があるけどあれってホントですか!」
「いや~魔石とか発掘できるの知って興味に引かれてね。あとは落盤は不本意で起きた事故が8割だけだから」
「す、凄いです・・!子どもで頭がそんなイカれているとはっ!末恐ろ踊ろし気です!」
「はいメルン~。お口チャックね~」
「ん゛っ!?」
エントリアと言われた女性がメルンの口を塞ぎ、話の続きをと相づちを送る。
「んん゛っ。で、では話の続きをしますね。依頼の紙にも書いてありましたが、発掘と言うより調査の面が大きいです。迷宮中層から前線までの地形調査と発掘作業の手伝いに私達の護衛をお願いしてもらいたいのがこちらの要望です」
改めて内容確認するオガ。
「メルンさんの率いる5人パーティーと実力は申し分なしのクラリオンさん・・とえ~と与吉?さん?のパーティーかを」
2つのパーティーにはそれぞれメリット・デメリットがある。
メルダー率いるパーティーは5人と人数的に臨機応変に対応できるが、実力が未知数。
彼は実力ある話や噂(ギルドで確認済み)で信用できるが、彼一人に問題が起きれば護衛として不安があるということだ。
「ん゛ん゛~!ぷっはーー!つまり私達は実力があること示せばいいんだよねっ!」
口を塞がれていた手をメルンは外して、オガに聞いた。
「そ、そうなりますね」
それにメルン側にいるエントリアが一つ質問した。
「私達とクラリオン君の両方雇うのは無理なのかい?」
「え~そうなると支払いの報酬の方が厳しくて・・ですね。両方ですと・・こっちの予算オーバーです。これでも結構切り詰めて出せる金額があれでして」
雇側の現状だと雇うのは1組が限界らしい。しかしそれに彼は・・・。
「それで一つ提案していい?護衛の報酬の金銭は今回自分は無くていい。代わりに副報酬として書かれていた『発掘された魔導石の1割報酬とします』を発掘できた魔導石の全てを報酬するなら、ただ働きになってもいい」
これが彼が発掘クエストを受けた大きな理由だ。
この発掘クエストは迷宮の地層にある魔石の鉱脈を見つける調査隊の手伝いと護衛を求むという内容だった。期間は30日。報酬枠には発掘された魔石、魔導石の1割を報酬とします。と記入されていたのだ。彼は魔石と魔導石は発掘できるのという言葉に目に付いた訳である。
「自慢だが自分は強いと思うし結構有能だよ。ボードと言う輸送運搬にも強い。ついで与吉という癒しキャラもいる。これまさに無敵パーティー」
そう自信満々に言う彼。
「あの、それはありがたいことですが・・」
オガの口がどもる。と言うのも依頼の紙には注意書きにこうも書かいている。魔石の鉱脈自体発掘が難しく発掘できない場合もありますと。なので魔石や魔導石は副報酬扱いにされている。
「分かってるって。発掘できないのが多いんでしょう?それは充分承知で言っているから」
「だとしても本当にただ働きになってしまうかもしれませんよ?」
「別にいいよ。お金に困ってないし。魔石が発掘できるの知って興味本位で受けただけだしね。あ。でも依頼内容はちゃんとこなすつもりだからそこは安心するがよい」
また彼が記号式に関しての依頼の際に『記号式の指導求む』と人物紹介の依頼扱いとなり、金回りが良くても数ヶ月は人は来ないと受付の人から予想を頂いた。だからしばらく請け負ってくれる人はこないだろうとこの発掘クエストは丁度いい穴埋めにもなると思って受けた理由の一つでもある。
そして彼の発言に・・・。
「こ、これが!お金持ちの・・・余裕っっ!!」
メルンが凄い羨ましい目で見ていた。
そしてオガは。
「でも流石に魔導石全ては・・」
「じゃあ9割」
「それでお願いします」
彼がどうあれ安く済むなら細かいことは気にしないようである。
これを後はクエスト依頼所に報告と契約魔法紙にサインを済ませれば、正式にクエスト受理完了である。
これでまた再び彼は迷宮に潜ることになった。
パレス工房で・・・。
「いや~オーガス君。可愛い弟子が出来てからどうだい?生活が賑やかになって見ていて嬉しいよ。おかげで君からのお小言が減って、この日常が続いてくれればと願う程だ」
「はあ。工房に問題児が2人いるからな。もう少し真面目に取り組んでほしいものだと懇願するよ」
「ん~、はて?彼以外に問題児がいるとは・・。それは厳重注意ものだ。私の工房にそんな不届き者がいたなんて」
オーガスはわざとらしい嘆き始めるマエストロを「どの口が」と睨む。
「まあ。お互い軽い冗談はこれまでとして」
「俺は本心だったんだがな」
「ん゛ん゛っ。で、だ。オーガスから見て彼、クラリオン君はどうだったかな?」
「あいつか・・・」
今、彼が工房に来るようになってから日々隣にいさせたオーガスから、普段の彼について何を思ったのかをお兄さんは聞いた。
「確かにマエストロの予想通り異常だな」
「ほお」
「質量や材質とか無視して操るのに一切負担を感じていなかった。熟練者やマエストロならともかくな。しかも苦もなく長時間の魔力作業もできるときた。いや、前に屋根に穴開けてきた時も馬鹿みたいな魔力使ってたか」
魔力の高さはここでも彼は折り紙付きであった。しかしそれ以上に目が引いたのは・・・。
「だが魔力が高いかどうかは問題じゃない。あくまで俺の予想だが、あいつは・・魔力抵抗を受けていないんじゃないかと思う。そう思えば全て納得できる」
「ほお。鍛冶師としては驚きの出来事だな」
鍛冶師には一つ一つの物質ごとに操作できるスキルがある。しかしそれはどれも簡単に操れる分けではない。どの物質も魔力が流れると操りにくくなる性質があるのだ。それが鍛冶師では魔力抵抗なんて呼ばれている。物質を操作できるスキルもまた同様にその影響を受ける。
だからスキルでも簡単に操れない。いくら魔力を大量に使おうと逆に抵抗は大きくなり、スキルのレベルを上げても操作が飛躍的に向上する分けでもない。経験と実践で技量を磨いて、やっとまともに身に付けられるのだ。
「だから俺は思ったんだ。もしそうならあいつは、うちらが使うスキルとは別のスキルで物を操っているんじゃないか。抵抗を受けない何かしらのスキル。と俺は睨んでいる」
「ふむ・・。流石がオーガス。隣にいただけでよく見抜いている。まあ私も出会った時から予想していたがね」
「はあ~~。そんなこと分かっていたなら聞かなければいいものを」
「あっはっはっ。実際それが確かなのかオーガスに確かめさせただけなんだがね。因みにどんなスキルかは分かったかい?」
そしたらまたオーガスはため息を吐いてからダルそう言った。
「『何でも操れるスキル』だとさ」
「ふっ。それは羨ましい。彼のことだからポロっと言いそうな感じもありそうだが・・まあそう口にはしないか」
2人は適当に誤魔化したと思っているが、彼からすれば色々と説明が面倒だから適当に納得してもらえればとしか思っていない。
「それでマエストロ。あいつをどうするつもりだ?実力が分かっていて、色々やらせて・・。まさか工房に取り入れるつもりか?」
「それこそまさかだよ。あれは工房に収まる器じゃないね。第一彼がここの鍛冶師になれば屋根に穴が空くだけじゃ済まないさ。だけど実力は一級品。希少で用意するのは大変な素材はまた彼に頼もう。彼が一般常識に疎いうちにね」
「自分がさっき言った言葉忘れたか?本当に屋根に穴が空くだけじゃ済まなくなるぞ」
「あと可能なら彼が保有するスキルを知り、こちらでも取得できるか試したいかな?」
「マエストロ言っておくが、お前が欲張るとたまに要らん皆の墓穴まで掘るからやめろ」
こうしてパレス工房は時々彼を利用するも、それがバレる度に屋根に穴が空くか吹き飛ぶことが多々あったり、とんでもない墓穴を掘りかけることもあったと言う。
いや~12月になって寒くなってきましたね。おかげで風邪にかかりました。
あれかな~?寒いから熱燗飲んで、布団掛けないで寝たせいかな?
文の内容一部追加。2019.12.16
一部誤字修正 2020.1.01
一部誤字と文の修正 2020.07.27




