第8話 洗脳ではない。認識変換だ。
前回の話し。青い瓶は大量の容量が入るタンク瓶だった。それを満杯させた二人は地上に帰る準備を始めるが、最後にやり残した仕事をするため動き出す。
話しは過去に戻り、フェリカと彼と与吉が初めにアラクニードに入る前のこと・・・。
「あのね・・。ちょっとお願いがあるんだけどいいかしら・・・?」
「お願い?」
チ?
フェリカは彼に若干ため息を交えながら話しをした。
「ギルドとの約束は覚えているわよね?アラクニードからうちの妹、フーを連れて帰るの」
「妹を拉致って来いとかいうそれ?」
「ええ。アラクニードに入る前に伝えておきたいことがあるの。フーはね。記号式が凄く多芸なの」
「記号式?」
そう言えばそんなの時々聞くな。
「ギルドで使われる記号式もほぼフーのが使われているわ。それだけ記号式を組むのだけは上手いのよ。そんな実力があるフーがアラクニードでどう立て篭もっていると思う?」
「その記号式云々は知らんが、それを使った罠を張り巡らせてるとか?」
その彼の答えにフェリカは大きくため息を吐く。
「はあ~~~・・。アラクニード全体に監視と心を読める記号式をいくつも配置しまくっているのよ」
「なにその自分よりチート使用・・。え?凄く羨ま」
過去に何度もフーを地上に戻す為にギルドは捕獲隊送っているが、アラクニードに入っただけで気づかれ、目の前にいても捕まえることは出来ずにいた。アラクニードの中では逃げることに特化しているのだ。
「あと『瞬間移動』のスキルを持っているのよ。本当にどこで覚えたんだか・・・」
さらに『瞬間移動』を模倣して作った記号式がアラクニードに全体に展開もされているのこと。つまりスキルが無くても記号式を通じてどこでも行けてしまう。
それを聞いた彼は、『スキル開発』が無くても記号式とやらで色々できるとか・・。あれ?自分のアイデンティティーがなくない?と自分の個性が心配にもなる。
「あんたのスキルとか悪知恵とかでなんとかならない?会っても警戒されるだけだし、アラクニードに入る前にそこをどうにか考えておきたいのよ」
「そういう事は最初に言っておいて欲しかったんだが・・・」
フーの欠点があるとすると魔力は低いのこと。なので連続でスキルや記号式の使用は難しいらしい。しかしそれに彼は・・・。
「まあ。とりあえず作戦はある」
数秒で作戦を思いつく。
「本当にそれ、いい作戦なんでしょうね?」
あっさり作戦を考えた彼にジト目でフェリカは見る。
「だけど、まずフェリカ妹の心が読める記号式?だっけ?あれが少しネックなのと『瞬間移動』。それがどれだけ移動できるか知っておきたいな」
それにフェリカはバックから何十枚ある札を出しだ。
「それなら前に捕獲隊で使っていた記号札があるわ。対フー用に一時的なスキル不能と心を読ませない記号式よ」
表と裏には違う記号式が書かれているのを興味そうに彼は手に取って見る。
「なんだ。そんな便利なやつあるなら捕まえられそうなのに」
「消費魔力が高いのよ。一人一枚が限度ね。あんただと魔力ありそうだから問題はなさそうだけど」
「なるほど。近づいて貼れればあとは簡単か~」
「近づけて貼れればね」
心が読める、瞬間移動もできる。接近自体が困難だからこそ今まで捕まらなかった。
「よし。この作戦の重要な要は、与吉になりそうだな」
それを彼は与吉が要とした作戦を考えたのだった。
「え?その蜘蛛も作戦に入れてるの?」
先ほど捕まえたばかりの蜘蛛が作戦の要と言われ、これ大丈夫なのか不安になるが彼は淡々と説明する。
「まずは自分が持つ『認識変換』というスキルを使う」
「不安がある中でまた危なそうなスキルを・・・」
それは認識の捉え方を変えるスキルで、簡単に言えば左手は右手であると違う認識に変えることができる。
ん?なぜそんなスキルを作ったって?まあ洗脳対策だよ。やっぱ異世界だからそんなのありそうだし、自分に対して命令口調な言葉は無視するとか元からそんなのを自分に掛けていれば、ある程度は洗脳はされてもただで動いたりしないようにとかさ。まあ洗脳解除とか作れなかったら、こんなのができたんだけどね・・。
「そのスキル、幾らでも悪用できるじゃない・・。なんでそんなスキルがこの世にあるのよ」
「安心したまえ。無垢で純粋な子どもがイケないことに使うはずがない。第一頻繁に使う必要もないし」
全く信用出来なくなった彼に「うちの妹よりも厄介な奴が」と嘆く。
それで彼は『認識変換』で何をしようかと言うと。
自分達はバンパリアの生き血集めが馬鹿みたく大変で過酷(まあ実際そうなのだが)。妹を連れ出す余裕が無いと変えるのだ。そうすれば心を読まれても怪しまれないと思っての考えだった。
「私達自身に洗脳して心を誤魔化せるとしてどうやってフーを捕まえるのかしら?」
「洗脳ではない。認識変換だ。あと捕まえるのは自分達じゃない。与吉だ」
チ?
「は?」
「いやだって流石にモンスターの心まで読めないだろし分からないだろ。だから与吉に捕まえてもらうんだよ」
「・・・・・」
とのこと。この作戦で与吉を捕まえたのが目的なら納得できなくもないが、捕まえる前にフーの話しなんかしていない。つまり偶然と打算で立てた作戦にフェリカは乗っていいのか頭を悩ませた。
「はあ~~・・・その蜘蛛でフーを捕まえられるのか色々不安なんだけど」
悩んだ末、乗った。
「バンパリア狩りながら与吉を鍛えればいいんだよ。しばらくアラクニードで活動しながらバンパリア狩ってさ」
「あのね~。それだと私達が自分で催眠掛かっているのにそんなことが出来る訳ないでしょ」
「う~ん、なら、アラクニードから出たら『認識変換』が解除できるようしよう。与吉、なんかポーズ取って」
チ~?チ。チ。チッ!
とりあえず与吉に何かポーズさせる。
「よし。そのポーズをアラクニードの外で見ると作戦を思い出せるようにしよう。これでちょくちょく修正は出来はず」
「・・・はぁ。こいつに任せて本当に良かったのかしら」
フェリカは項垂れる。
「よし!作戦名『最後の荷物』って名づけよう。与吉、この作戦の命運はお前に掛かっているんだ。頼んだぞ」
チィ?
本当にこれで大丈夫かしら。だけどそれ以上に・・・。
一瞬だけ鋭い目つきを彼に向けていた。
そしてアラクニードを拠点にしながら、密かにフーの捕獲の為に与吉の強化を彼は行ってもいたのだ。
「何とか7体倒したな~」
「ささっと私達の認識変えて戻るわよ」
「あんたが言うモスラって何よ?」
「ん~守護神?」
「その守護神、さっき与吉が捕食してたわよ」
「与吉ィィィーーーーッ!!」
「バンパリアの血を集める間にあんたがテイマーとして与吉を強くしないと、うちのフーが捕まえられないわよ。分かってる?」
「大丈夫。いつも餌にプロテイン混ぜてるから」
「ああ、だから大きく・・って!そういうことじゃないわよっ!っていうか何で持ってるのよ!?」
「名探偵コナソ?」(フー)
「恐ろしいのは自分の周りに殺人事件を頻発させるスキルを持っていると言うこと」
「恐ろしい奴がいるものね~」(フェリカ)
「与吉もそれなりに強くなったわよね」
「うん。糸の強度も柔軟性も上がってきたし」
「これならフーも捕まえられそうね」
「次、与吉近づけたら殴るからね」
「いやさ、作戦を思い出せるようにするのを与吉のドアップで思い出せるようにしたいな~っと」
「却下」
「クラリオン君と与吉君の仲がいいのは分かるけど、最近地味に凝った糸の罠が多いわよね?」
「あいつが悪知恵を教え込んでるのよ」
「あの子達・・・」
「・・よし。これで自分のステータスを与吉に見せれると思うんだけど、どう?」
チチ。
「おお~見えたか。じゃあこのステータス改造画面で映画見よう。ネット繋がっているから」
チ?
「因みにB級モンスター映画」
「しかしあと20体ぐらいか~。最近遭遇率少なくってきたし、狩りすぎたかな?」
「そもそもバンパリアの血を100体分用意しないといけないとかバカじゃないの?」
「騙されたんだよ・・」
「あんたさ、ぶっとい魔力飛ばすのやめなさい」
「魔力レーザーのことかい?」
「毎度あんたの攻撃は落盤起こしているの知ってるかしら?」
「脆いのがいけないんだよ」
「まあ、あれだよ。人間漏らす時もあるさ。だけどボードには何か敷いて座ってね」
「・・・」
「おっと、殺意の波動が・・・」
パンバリアを狩りながらこんな日々も送っていたのだ。そして現在に戻り・・・。
「挨拶回りはこれで終わりかしらね?」
「多分全部回ったと思うよ。あ~これでやっと帰れる」
チ。
「殆どあんたせいでね」
「だから自分は悪くないって。あんな瓶を渡すクソお兄さんが悪い」
「2人とも挨拶は終わったの?」
挨拶回りを終えた2人にフーは声を掛けた。
「ええ。これでもう終わりよ」
「だけどバンパリアの血を100体分を本当に集め終わるとは。世の中凄い子はいる者ね~」
「おかげで予想以上に長いこと潜ることになって、こっちは困ったものよ。あとあんたはいい加減に健康診断受けなさいよ。毎度捕獲チームを送ることになる地上ギルドの身になってくれる?」
「ふんっ。赤紙来るまで私は受けるつもりはないっ!何で年一で死にかけないといけないのよ」
「この妹はっ・・・」
その間彼は忘れ物はないかボードに乗せた荷物をチェック用紙を見ながら確認を取っていた。ただその紙の最後には・・・。
「アレよし。コレよし。うん、与吉。糸でこの固定しちゃって」
チ~。
「ん~だけど最後の荷物は与吉でチェックってなんだ?こんなの書いたっけ?」
あ~でもそう言えば与吉も迷宮で何か色々拾っていたよな。つまようじとか・・。まあ少し与吉のおスペースは開けておくか。
「フェリカ~積込み終わった~。与吉の最後の荷物載せて終わり~」
「はいはい。てか与吉に荷物なんてあるの?」
「さあ?与吉にもプライベートな物だってあるでしょ。ね?与吉」
チ?チ~~~~・・・。
与吉本人に聞いてみたが何とも微妙な表情で見つめ返す。
・・・チッ!
「おっ。何か思い出したようだ」
そして何か思い返したのかトテトテと歩き出す与吉。何を取って来るんだろうと皆思っていたが、その脚が向かった先は・・・。
「私?」
チ。
フーの前である。
「どうしたの与吉君んんんンンッッッ!!?」
そして顔面に向かって糸球を吐きつけた。
「ンンンッッッ!!??」
もがくフーに全身に糸を巻き付ける与吉。そして全身グルグル巻きになり芋虫になったところでキメポーズを2人に見せる。
「ハッ!全部思い・・出した!」
「あ~なにバカしてるんだろうと見ていたけど、私も思い出したわ」
「ふっ。しかしやはり与吉の心まで読めてないようだな」
2人は思い出した。正確には『認識変換』が解除されただけだが、アラクニードを出る度に思い出す本当の記憶を思い出した。そしてこの日の為の捕獲作戦、彼が持っていた紙に『最後の荷物』をキーワードとして与吉に動いてもらう手筈になっていたのだ。
だけど与吉よお前、あれ?なんだっけ?って迷っただろ。それなりに打ち合わせしたのにちょっと焦るぞ。
「プッハ!2人共!?これは一体っ!?」
「これは一体って・・。分かるでしょ。地上に戻るのよ」
その言葉を聞いてフーはハッとした。
そんな!?でもなんでっ!?さっきまでもちゃんと心を・・・あれ?
「言ったでしょ。いちよ有能株って。洗脳染みたことを私達自身に掛けて心を読んでも読ませないようにする奇策で今までやっていたのよ」
「クッ!卑怯なっ!謀ったわねフェリ姉!!」
悔しい顔でフェリカを見返すも。
「不安しかなかったんだけどね。上手くいって良かったわ~」
涼しい顔ながらもどこか不敵な笑みが見える顔で見返した。
「だけど私には『瞬間移動』が・・って、え?あれ・・?まさか!」
「あんたを巻くついでにスキル封じの記号式も一緒に巻いてもらったのよ」
「いつの間にっ!?」
ばっちりスキルも対策済み。
「まさかそこまでして私を連れて行くなんて・・。嫌ったらイヤーー!いーやーだ~~!」
イモムシ状態でありながら凄くジタバタしている。
「ほら、さっさと積むわよ」
「へ~い」
暴れ回るフーを無視して運ぶように彼に言うが。
「そんな簡単に・・捕まってたまるかーーーーっ!!」
凄い勢いで転がってい逃げていくフーに彼は「あらま」と呆然と見送り、フェリカはあんな状態でも逃げようとするのか呆れ半分で追いかけ始めた。それで・・・。
「うべっ・・・」
一本の木に当たり、くの字に曲がった。
「フー、あんたホントに懲りないわね・・」
「わ、分かるでしょフェリ姉・・。あんなの年一で飲むなんて」
「気持ちは分かるけど、それも仕事よ」
そこに彼と与吉ものんびり歩きながら駆けつけた。
「お~い。フェリカ妹生きてる?イモムシから蝶にでもなった?」
「なってないわよ。蛹に失敗して口から何か吐きそうだけど」
木にぶつかった衝撃と嫌な思い出を思い出したのか本当に吐きそうである。
「ふ、ふふ。フ、フェリ姉・・・あまく見ないでちょうだい。私がただ転げ回ったと思う?」
「ええ」
即答で答えられたフーは「クッ!」と悔しいそうな声をあげるも落ち着いて言い返した。
「フェリ姉。私はただ逃げ回った訳じゃないのよ。私がそうしゔゥ・・・」
言葉途中のフーに突然彼は腹目掛けて魔弾を数発入れた。おかげで再度倒れるフー。
「ちょっと!何撃っているのよ!?」
「いやだって逃げセリフぽっい事言っているのでフラグを折ろうかと」
「くの字に折れているのにさらにクの字に折ってどうするのよ!?あれでもうちの妹なん・・」
しかし彼の判断は正しかったが既に遅し。フェリカと話した一瞬の隙になんとフーは消えていたのだ。
「なっ!?あの子いつの間にっ!?」
やられたと思った矢先にフーの声が響いて聞こえた。
『ふっ。まだ甘いわね二人共』
「フー!!」
しかしその声は如何にも苦しそうであった。
『おかげ様で吐くのを抑えているわよっウップ・・・。だ、だけどこれで捕まることはないわ。さっさと地上に帰りなさいよね!』
そして声は聞こえなくなった。どうやら前にフェリカが話した『瞬間移動』を模倣して作った記号式の札が木のどこかに隠してあったらしい。ただ転がった訳じゃなかったようだ。
「くっ!逃げられた」
「・・・んじゃ帰るか与吉」
チ~。
こうなったらお手上げと言わんばかりに帰り始める彼。そもそも懸命にフーを捕まえないといけない理由が彼にはない。本来ならすぐバンパリアの血が集まると思っていたが、予想を超えて長期になり早く地上に帰りたいのである。そしてあの自称美男子のお兄さんには一発殴らないと気が済まないでいたりしている。しかし・・・。
「あんた・・。タンク瓶・・割るわよ」
「割る場所はパレス工房で勘弁願えないでしょうか」
で・・・。
「ここまで来て諦めるわけないでしょっ!今のフーは記号式は使えてもスキルは使えないし、身動きもあまりままならない。捕まえられるチャンスは今しかないのっ。だから、どうにかしなさい」
「便利な猫型ロボットじゃないんだけどな~」
そんな訳でフーの捕獲作戦は続行されることになった。しかしだからと言ってどうにかしろと言われても難題である。特に気になるのが・・・。
「もし瞬間移動の札がアラクニードの外まであったらどうする?流石にそうだったら自分でも無理よ」
「それはないわ。記号式でそんな遠くまでは移動は無理だと思うし、フーの魔力と体力じゃあアラクニードから出るのは自殺ね。モンスターと出会ったら逃げれる余裕もないと思うから」
「なるほどね~」
だけどさ・・・。
しかしアラクニードは地上の街よりも広い。瞬間移動され続けたら捕まえるのは容易ではない。
確かに捕まらん話しになるよな。しかも通常であれば心さえ読めていたとか。そりゃ捕まえるのも無理な話しにもなるか。
「だからあんたが頼りよ。フーもずっと糸に巻かれている訳じゃないし、とにかくあんたは足は速いのは確かなんだから頑張りなさい」
「そんな期待されてもね~・・」
う~んと悩む。しかし捕まえるのは無理な話と思ってる彼だが、それでもどうにかできなくはない方法はあることはあるのだ。だから最終確認しとしてフェリカに問いた。
「かなりの力技ならぬ魔力技になるけどいいですかね?」
「この際仕方ないわ。やって捕獲しなさい」
とフェリカのお許しが出た。
許可は得たとそこからは彼の本骨頂。いまだ加減が分かっていない魔力バカが盛大にやらかす。
「よし!この際ちゃんと最後までやりますか。許可も出たし」
そして彼は「『ソノブイ』」と言う探知系スキルが広範囲に無数の光の球をアラクニード全域に飛ばした。
確認できるスキルだけでも28個目の不明なスキル・・・。魔術師並みにスキル持っているけど、一体幾つ隠し持っているのよ。
「『測量視点』」
「言うけど加減しなさいよ」
「善処はする」
決して分かったとは言わない。
「・・ん!『ソノブイ』に反応あり。方位3-1-2・・・」
早速彼はフーの居場所を突き止めた。
「はぁはぁ。やってやったわ・・・。まさか心を読む対策に自分達自身に洗脳じみたことをするなんて。ギルドも刺客のレベル上げて来たわね」
それでも逃げ切ったとフーは不敵に笑う。
「それよりこの糸取らないとね。こうもグルグル巻きでスキルも使えないし」
しかしここは共同塔から離れた植林区域。糸を切れる道具や人もいない。
「誰かに切ってもらわないと・・・」
人気がある場所に向かおうとするが、上を見上げると謎の光が拡散していくのが見えた。
「何かしらあれ・・・?」
ずっと見ていても仕方ないので歩き出だすが。
「へ?」
突然、眩い光がフーの周りを包み込んで・・・。
ドーーーーン!!!!!!
「よし」
「よしじゃないわよっ!!」
バシッ!
「何も頭をぶたなくても・・・」
「あんたが今撃った衝撃で地面がえぐれてるんですけどっ!?物凄く吹き飛ばしているんですけど!?ねえ!?フー大丈夫なの!?」
特大魔弾でフーの反応がある周辺を盛大に吹き飛ばす。
「大丈夫大丈夫。榴弾じゃないから被害は少ない。それにまだ『ソノブイ』に反応が・・消えた・・だとっ?っ!与吉行くぞ!」
さっきまで反応があった『ソノブイ』からフーの反応が感じられなくなった。なので彼はボードで確認しに行こうとする。
「待ちなさい!」
フェリカも無理矢理掴まってボードに乗ってきた。
「あっぶな!荷物が崩れたらどうすんの!?」
「あんたが余計なことしないようによっ!」
2人と一匹は『ソノブイ』の反応があったところに向かったのだが。
「これは・・・」
「さすが我が妹ね・・」
チ?
そこにいたのは人の形をした半透明な何かがあって、フーはいなかった。しかも動いたり人肌ぐらいの熱まで発しており、その身体の中心には記号式らしき札も見えた。
「オトリ人形の記号式ね。フーと同じ魔力が通ってるから魔力探知に引っ掛かるはずだわ」
彼が撃って当てたのはフーではなくオトリ人形のデゴイの方であった。
「やってくれるなあの妹」
一方。
「何あの子!?凄いのは分かっていたけど常識ないんじゃないの!!」
オトリ人形の分かる位置で彼らの動きを観察しようとしていたフーなのだが、派手にオトリ人形がある周辺ごと吹き飛ばした光景に声を荒らげる。
「だけど見事に引っ掛かったわ。こんな事の為にオトリ人形の記号式をばら撒いてあるのよ!」
※オトリ人形は本来アラクニードに侵入したモンスターの足止めや誘導に使う物である。故にこんな事の為に使うものではない。
「反応が増えた・・・」
『ソノブイ』から複数のフー反応が確認される。
「こんなことにオトリ人形まで・・頭が痛いわ」
ここまでやるかとフェリカは頭を抱える。そして彼は。
「なら、全部狙い撃つまで」
「え?」
嫌な予感を感じたフェリカは「待ちなさい」と言おうとするも時すでに遅し。
ドドーーーーーーン!!!
「あんたーーーー!!?毎度毎度何やっているのよーーーーっ!!?」
アラクニード全体に響き渡る轟音。例外なく『ソノブイ』にあった反応全てに特大魔弾を撃った。
「大丈夫。『休息所』の場所には加減して撃っているから」
「そう言うことじゃないわよっ!!」
「しかもどこも誤差100m以内」
「知るかーーー!!」
「グハッ!?」
一発彼に腹パンが入った。
ぼ、暴力反対・・・。
しかし『ソノブイ』にあった反応は一か所を残して消失した。
で。
「・・あの子、頭イカれてるんじゃない・・・?」
その一か所がと言うとフー本人である。見事にオトリ人形と一緒に補足されて攻撃を食らって倒れていた。
そして彼らは反応が残ってる場所にボードで急いで向かう。ただ急ぎすぎて・・・。
「姉御、首がっ・・。首がしまってます!しまっ・・・しまってるって言っているだろクソフェリカーーーーーー!!」
「速度出し過ぎって言ってるだろこのクソガキがあああーーーーーーーーーっ!!!」
元気に叫んでいた。その様子は起き上がろうとしていたフーにも聞こえ、それでもって剛速球でボードがフーの元に突っ込んで行くようにも見える。さらにそんな中でフーを目視した彼は与吉がお尻から出てる糸を掴み、与吉が!?思う前に投げ縄のようにブンブン回して与吉ごと投げ飛ばした。
「行ってこい与吉いいいいーーーーっっ!!」
チチーーーーッ!!??
これを不条理と思うがなかれ。割とバンパリア狩りでこのような事は多々あった。ただ事前に何も言わずにやるものだから最初は驚くが、事態を飲み込めば与吉はすぐ対応してくれる。お互いどこか通じるところがあるんであろう。
チーーー!!
そして投げ出された与吉はまっすぐフーに向かい、さらに粘液性がある網目状の糸にフーに吹きかける。
「な」
この間僅か数秒の出来事。そんな目の当たりにしたフーが言葉にできたのは「な」の一言だけであった。しかもその後衝突をぎりぎり回避しようと彼のボードと軽く?接触。
今日は良く吹き飛ばされるな~とフーは意識は途絶えながら、そう思ったり思わなかったりしていたとか。
「ふう。結構苦労するかと思ったが迅速な対応が出来ればこんなものか。よくやった与吉。あとで褒美を与えよう」
チ。
「ふう。じゃないわよ!この後処理どうしてくれるのよ!?」
若干轢いた感あったような気もしたが、これでフーの再度捕獲に成功。しかしアラクニードはどこも爆破騒ぎ。始末書だけで済むのかフェリカは胃と胸が痛む。
それから・・・。
「すませーーん。これ!おかわりっ!」
「少しは遠慮するぐらいしなさいよ」
少し前、フーを再度捕獲して彼らはすぐにアラクニードを出て、地上に帰ろうとするなか途中フーが暴れるなどして、迷宮の中で西部劇さながらの引き回しにもなったが無事に地上まで戻ることができた。
久しぶりの日に当たり彼は日の暖かさを肌で体感し、与吉は初めて外に色々珍しそうに周りを見渡す。
「あんた。本当に与吉を連れてきたのね」
「そりゃね。今回の捕獲は何と言っても与吉がいてこその成功っ!あ~本当に頼もしい仲間ができて良かったよ~。なあ与吉~」
彼の気分はきっとポケ・・いや、モンスタートレーナーであろう。そんな気分を堪能をしているとフーは観念したかのように彼らに最後のお願いとしてこう言ってきたのだ。
「・・・最後に美味しいご飯食べたいです」
「だって。どうする?時間的に自分も与吉も何か食べたいし、行ってもいいと思うんだけど」
「まあ時間的にはお昼よね・・」
なので・・・。
「ここ、一度でいいから食べてみたかったお店なのよ~~。はああ~~感激だわ~。だけどこれが最後の晩餐になるとは思ってもいなかったけど」
ホロリと涙を流すフー。
「あのねここ。この町屈指の高級料理店テッペリンなんだけど?ご飯食べるよりギルドが先じゃないかしら?」
「だって高くて行けないんだよ。しかもクラリオン君が奢ってくれるって言うし。絶対食べるっ!」
「子どもに奢ってもらうって・・もう少し恥じらいもったらどうなの?」
それに彼は。
「別にいいよ。自分は食の安全を選んでよく食べに行く店だし。新しい仲間が出来た記念に与吉にいいの食べさせたいし」
「あんたは余計なこと言わなくていい」
「じゃあ思い残すことないように食べに行くわよ!」
「あ。店長にも迷宮のお土産あげよう」
「だからギルドが先って言って・・ああ!もう!」
しかし内心フェリカも最後に美味しい物は食べておきたいと思っているのだ。何故ならばアラクニードでの惨状を考えるとギルドは忙しくなりそうだし、どういう責任が負わされるのか考えると最後に豪華な食事ができるなら、食べておきたいとは思うだろう。
それで前に戻り・・・。
「すませーーん。これ!おかわりっ!」
「少しは遠慮するぐらいしなさいよ」
遠慮なく食べるフーに「この子は」とフェリカは思う。まあ仕方ないとは少しは思うものそれ以上に目に付く光景があった。与吉である。というのも・・・。
ムシャシャシャシャァァァアアアアーーー。
「わ~。こんな与吉初めて。めっちゃ無心にアグレッシブに食べてるー」
与吉が凄い勢いで肉に噛みついているのだから。与吉からすれば今までに無い衝撃的な味であったらしい。
「えらい喰いっぷりね。」
フェリカは与吉の食いっぷりを見て、自分の妹と見比べる。
「こ、これは肉なの!?舌の動きだけで溶けるなんて!もはやこれは・・飲み物!!A5ランクより遥か高みっ!これが幻のS10っ!!!」
さほど与吉と変わらない勢いで食べていた。終始こんな感じである。
ムシャァァァァアアアアアーーー。
「すいません!このお肉もう一品追加でっ!」
しかし会計が終わればフーはギルドに連れて行かれる現実にテンションが下がる。そんなフェリカもため息を吐く。
「結構食べたな~。与吉美味かった?」
チチ!チィ~~チ。チィ~、チッチ!!
「でしょうね。お会計3ハクとか私達の何カ月分の給料なのよ。充分食べたわよ本当に」
「はあ~~。ギルド行きたくないな~~」
「よし、じゃあギルドまで行くぞ。これが終わったら向かいたい場所があるからな」
そして彼らはフーをギルドまで連行してようやくお互いに色々と犠牲と被害を出しながら彼とギルドの目的が終わったのだ。
これで彼はパレス工房にバンパリアに血が大量にある青い小瓶のタンク瓶を渡せば、鍛冶師について学べる約束になってる訳だが・・。
あ~~。こんな時間が掛かるとは思ってもいなかったな~。あの自称美男子、どうしてくれようか・・・。
やはり一発殴らないと気が済まないらしい。
色々修正もあったりしてかなり時間が掛かってしまった。




