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縁切り祈願

作者: 芥屋 葵


京都 東山 ここは縁切り神社で昔から有名。


昔は敷地内に入ることさえも怖く、境内の方にある縁切り石がミエナイ方の私でもモヤが掛かったように見える程、念の籠ったスポットだったが、最近になりSNS映えを狙ったり、縁結びでやってくる若者が急増し、昔の怖い雰囲気もまるで無くなった。


レンタル着物で縁切り石を潜っている始末だ。神様も目も当てられないだろう。


そんなことはさておき、この神社にくる人は先も述べたように話題の一部になろうとしている人達と、本気の人たちというカテゴライズがされると思う。


まさか本気の人になろうとは数年前の私は思いもしなかった。


そう、私は数年前の自分でも予期できなかった方の恋愛に転んでそれが思わぬ形でヒットし、思わぬ形で終わった。縁を切ろうとしている本気の人の一部になっていたのだ。


「別れた方がいいと思う」

「どうした? どうして……? 」

「今の関係だと先は無いし、君も若いうちに幸せになって欲しいから」

「嘘つき……」

「嘘じゃないよ」

「そう……」


嘘を付くと無意識に右の親指で右の口角を触る癖……私には誤魔化せないよ。


別れは突然だった、びっくりしたけど私の恋愛は人に言えるような恋愛じゃなく後ろ指さされるような恋だった。

当然先は見えないし、見えなくても幸せをそれなりに感じていたし、貴方の為に綺麗でいようと思っていた程に私を変えた毎日だった。


「もう潮時か……」そう思って祇園にあるカフェで一人小説を読んでいた。ハッピーエンドの小説は今の私には苦く切なかった。


この恋を始めた時に覚悟はした。実際にどんな結末になるのか、ネットを調べたりもした。

この恋の終わりは別れを告げられる、告げるの離別

若しくは離婚し再婚相手になること

若しくは関係を終わらないこと


7割が離別になることが多い。結ばれるて幸せになれるのは実際には2割にも満たないらしい。


そう思って、最初からある種覚悟していた私も“選ぶ”時がきたのだ。

それも縁切りさんに頼む、いわゆる他力本願

100%を自分のせいにするには心が苦しかった、何かに縋りたかった


抹茶ラテを飲み干し一息してから立ち上がった。

徒歩5分程の場所へ移動する


鳥居の前で一礼し、セルフィーで楽しむ子達を華麗に避け手水舎へ行き一呼吸

縁切り紙に念を込めて一呼吸

長蛇の列に並び、今から切って頂くこの消えそうな糸、赤くも無い、薄い赤みがかった糸を切ることに不安と緊張と期待の中これまでを振り返った。

出会い、誕生日、クリスマス、飲み会の帰りに歩いていたら心配になって迎えにきてくれたこともあったっけ。

思い出だけで、並ぶのを止めようと思い始めてしまいそうだから、他人様の絵馬が見える範囲で拝見することとした。

縁切りらしい。生々しく悍ましいことが書き連ねてある。旦那の不倫相手を妬む妻の絵馬や、夫婦の離婚を願う絵馬や、とにかく色々あった。

そう思っていたら順番が回ってきた。

「思い出達、ありがとう。さようなら。」

そう心の中で言って縁切り石を一潜り、さらに向こう側から新たな縁を祈願し一潜りで戻ってくる


気持ちが軽くなった気がした。

気付いたけど、涙が頬を伝っていた。

自分が決めたことなのに、脳は正直なようだ きっと涙の分が軽さの自覚に至ったのだろう。


最後に一呼吸し感謝を込めて縁切り石を振り返った

そこには今まで見えていたモヤのようなものが薄い赤みがかった色を纏っていた。


写真を楽しむ子達の目に触れないよう急ぎ足でその場を離れる。

顔見られないように……私の右手は私の口角に触れていた。


切った縁は……

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