腕輪
……レッドなんだ?
聞き取れたのはそこだけで、それ以外のやり取りが早すぎて全く聞き取れなかった。
使ってる言語が別のもんだと分かって、俺は軽くパニックに陥った。
小島の野郎、俺を一体どこに連れてきやがった……
「コジマアアアアアアッ」
怒りが頂点に達する。
俺は、まるで闘牛みたく、フウー、フウーと鼻息を荒くさせた。
舐めんじゃねえ!
向かってくる奴、全員ぶっ殺してやる。
だが、黒人のでかい男が前から歩いてきて、俺は思わず道の端に逃げた。
「黒人かよ……」
冗談じゃねえよ。
俺は泣きたくなった。
今なら、電車の中のガキみてーに、わめきちらしながら号泣できそうだ。
まあ、ダセーからそんなことしねーが。
とにかく、ここから脱出しねーとダメだ。
せめて、日本語の通じる所に行かねーと……
俺は、早足でその場から歩いた。
もしかしたら、この一帯がそういう場所ってだけかも知れねー。
コリアンタウンなんてもんもある。
それだったら、少し歩きゃいいだけだ。
完全に日が落ちた。
キラキラした電光掲示板のある一帯を抜けて、今はただの真っ暗な通りを歩いている。
脇を見ると、ガラスの向こうでピザ? らしきもんを食ってる奴を見かけた。
すげえ、うまそうだ。
「ああ、腹へった」
もし、歩いても歩いても、言葉が通じねえ場所だったら、どうする?
最悪の事態は、ここが完全な外国ってことだ。
そしたら、俺はどうすりゃいい?
飛行機代なんてもってねーし、そもそも、どうやってチケットを買ったらいい?
券売機の言語だって読めねえ、分かんねーから質問したって、そもそも言葉がわかんねー。
これ以上、わかんねえことを考えたって、マジで時間の無駄だ。
「あー、メシだっ」
イライラする時は、飯を食えばいい。
少しはイラつきも収まんだろ。
そう思って、俺は一旦引き返すことにした。
そして、道の脇に並ぶ店を注意深く観察する。
コンビニか、スーパーみてーな所を狙って、食うもんをくすねりゃいい。
さっきは全く店なんか気にしてなかったから分からなかったが、結構、あんな。
俺は、試しにスーパーらしき店に入ることにした。
日本のスーパーとは品揃えが全く違う。
食うもんもあるにはあるが、わけわかんねー果物とか、ビスケットみてーな魅力のねえもんばっかだ。
飲みもんも、コーラとスプライトしかねえ。
「食いてえもんがねえ」
店を後にする。
マジかよ……
ここに住んでる奴ら、こんな品揃えで満足なのか?
他の店を当たるも、並んでる商品に大差はねえ。
でけえ袋に入ったビスケットとか、そんなもんばっかだ。
俺は、思った。
もしかしたら、万引き防止のために、わざわざあんなでかいもんを置いてんのか?
そしたら、今度はこの街の治安が不安になって来る。
最悪、あの公園で寝ることになるかもと思ったが、さっきすれ違った黒人みてーなのに襲われたら、やべえ。
安全な寝床も確保しなきゃいけねーとなると、頭が痛くなってきた。
いや、今は逆に妙に頭がさえてやがるが……
とにかく、盗んでも分からねーくらいの、こぶし大のパンとか、そういうもんを盗むんだ。
俺は、3店目でめぼしい店を発見した。
ここは、駅の中にでもありそうなちっせー店だが、店番のじじいが新聞を読んでいる。
それに、バレてもダッシュで逃げれそうだ。
「……」
棚に置かれているパンを掴む。
そして、それを服の下に隠して、さりげなく店から出ようとした時だった。
「い、いでえっ!?」
突然、左腕に激痛が走って、俺はその場にかがみこんだ。
「……ダイジョ、ブデス?」
「……!」
店員に気付かれ、俺はパンを掴んだまま、ドアを開けてダッシュした。