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忘れじの紡ぎ声  作者: ange
第1章
8/9

出会いは桜の木の下で 7

客間へと入ったまでは良かった。また浅葱ちゃんのことで何かあったんだろう、そう思い込もうとして少し明るい感じで「最近、浅葱ちゃんとはどうなん?」なんて話かけた。────それが間違いだった。浅葱という言葉を聞いた時雨くんは、さらに顔を険しくさせた。あぁ、これは鬼門やったんかと思ってももう遅い。時間が経つ事に冷え込んでいく空気に押しつぶされそうだ。間に置かれた湯のみだけが、呑気に湯気を揺らしている。


「花詠、俺に隠してることあるんだろ?」


突然発せられた“声”に悔しくも肩が跳ねた。感情が込められていないそれは、重くのしかかる。少しでも気を抜けば、濁流に飲まれる気がした。

「な・・・んの・・・こと、やろか?」

張り付くような喉を無理に開き声を発すれば、あたりに満ちる水気によって、すぐに潤う。

「俺を前にして、まだ誤魔化すつもりなんだな」

「そんなことあらへんよ・・・うちに、隠してることなん「花詠」

「・・・っ」

先程より冷たい声で遮られる。・・・きっと、もう殆どのことを時雨くんは分かっている。それでも敢えて聞くのは、うちの言葉で言わせたいから。このままシラを切り続けたら・・・。その時はきっと、見限られる。それでも・・・・・・

「言えない?それとも言いたくない?」

じわじわと周りから埋められていく感覚が襲う。

逃がしてはもらえない。

時雨くんはうちの答えを待っている。何でもいいんだろう。“花詠が返した答え”が欲しいのだ。それによって時雨くんはこれからの行動を決める。

「別に俺は、いつまでも待つし、どんな答えでも聞く。ただ、花詠の口から、花詠の言葉で聞きたい」

傍から聞けばなんと優しい人なんだろうか、と思われるその言葉も、今は静かな脅しにしか聞こえない。

「それとも、質問形式にした方がいい?」

「やめ・・・」

「やめない。それとも、答える気になったのかな?そういうことならやめるよ」

「・・・・・・・・・」

「でも違うよな?だって答えてしまったら」

「もう、もうやめよぉや時雨くん・・・。こんなんいつまで経っても終わらんよ・・・」

「花詠が答えたら終わるって」

時雨くんは、呆れを含んだ声で呟く。

そこからまた沈黙がつづいた。時雨くんが聞きたがっている“こと”は、初めの質問で既にわかっている。だけどそれは答えられない。あたりにカチカチと時計の音が木霊し始めた。

2人の間の湯気がゆらりと揺れたとき


───────ドォォンッ


と辺り一面に響いたであろう爆音が聞こえた。

「なんだ?」

「・・・あかん」

「おい、花詠!?何処に行く!」

うちを引き止める時雨くんの声を振り切り、ひたすら走った。このままでは・・・───────が!!


出ていった花詠が帰ってくる気配は無い。先程の音は一体なんだ。

「鏡子」

俺の声に応じて、“天井”から1人の女が降り立った。彼女は忍びの家系、葵月家当主、葵月鏡子。

「花詠はどこに向かった?」

「安倍家本邸の方角へ」

やはり、“あのこと”に関係することだったか。さて、何が出てくる?蛇か鬼か、はたまたそれ以外か・・・。しかし何にせよ


「波乱の幕開けだな」


浅葱のところに帰らなくてはならない。そろそろ心配しているだろう。それに、これからの準備も必要だ。

これで出会い編が終わります

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