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忘れじの紡ぎ声  作者: ange
第1章
4/9

出会い桜の木の下で 3

意識が浮上する・・・

目醒めた咲弥の目に映ったのは、見知らぬ場所。襖と畳に囲まれた和の部屋だった。

(ここはどこだ?確か、俺は浅葱と一緒に・・・)

「浅葱・・・?」

見回しても浅葱は隣にいない。咲弥は立ち上がり探そうとするが、頭がズキズキしてまた座り込んでしまった。

「何だこの痛みは」

咲弥が痛みに耐えていると、背後ですっと襖が開く音がした。

「咲弥大丈夫?頭まだ痛い?」

開いた襖の向こうには浅葱が立っていた。

「浅葱か・・・。まだ少し痛むが大丈夫だ。ここは、浅葱の言っていた家なのか?」

「そうだよ。あの後、大変だったんだからな!ボクがここまで咲弥を運んだんだよ。兄さんなんて放ったらかしにして帰るんだから!」

「迷惑をかけたみたいで・・・」

「それは終わったことだからもういいよ。ね、ご飯食べよう。居間においでよ」

待ってるねと言ってさっさと出ていってしまった。

(先程の頭痛が治まった?)

遅れるとうるさいような気がして咲弥は腰をあげる。



円卓には12の椅子が用意されている。その椅子は殆どが埋まっているが、チラホラと空いている席が見受けられる。席に座る者の後ろには1人ずつ従う者がいる。皆一様にして無言なため、場には静寂がたちこめている。

「あの子はまた迷子なん?」

一人の女性がその静寂を切った。

「葉月さんが間違えることなく、ここに来たことがありました?皐月さん」

その問いに対面に座る女性が声をかける。彼女はこの場の誰よりも若いようだ。

「それもそやなぁ」

その一言で会話は終わってしまったようだ。


「文月さん、卯月さんは?」

「さぁ?俺に聞かれても困りますよ水無月さん」

問われた男性は苦笑いを浮かべると、後ろを振り返る。

「海玖」

「何も聞いてません、文月様」

控えていた従者はそれだけ言うと、少し外しますと退出して行った。

「ほんとにあいつは迷惑ばかりかけるな・・・」

「主に海玖に、だろ?」

「それが迷惑なんです」

「文月様」

先程出ていった従者が戻ってきた。

「どうだった?」

「卯月様はもうつくそうです。葉月様は行仁くんと連絡が取れました。今、葉月様を捕獲したと言ってましたのでそろそろかと」

「そっか、ありがとう」

海玖と呼ばれた女性は、一礼して一歩下がった。


程なくして、この部屋唯一の扉が勢いよく開かれた。慌てて入ってくる者、ゆっくりとした足取りの者、バラバラだった。

「卯月、遅い」

「まだ開始時刻じゃないだろ?」

「はいはい!いいから座ってください卯月様」

卯月と呼ばれた男を従者らしき女性が窘めた。

「静夏!」

「口答えですか?」

「何でもないです」

その後ろでは、

「葉月様、着きましたよ!席まで行けないとか言わないでくださいよ!」

「流石にそれは分かるもんなぁ?葉月さん」

「もちろんですよ、皐月さん。行仁もお疲れ様です、控えててください」

「控えるも何も、今日は俺も参加ですよ」

「・・・!」

「なんではっとした顔してるんですか・・・」

これでこの場に23家の当主と参加権を持つものが全員揃った。


「それでは今回も始めよう」


誰からとも無く、開催の声がかかり、24家会が始まる。


滞りなく会議は進み、近況報告も終わった。今回の会議はこれで終了かと思われた時────

「お邪魔するよ」

扉を開けて入ってきたのは一人の青年。基本的に、この会議の開催は当人達以外には、告知されない。ただ1人例外を除いては・・・。

「昌葵さま・・・また、ですか?」

その例外は、安倍家。陰陽院創設に尽力し、24家を束ねる長、その当主安倍昌葵。

「今回は違うよ。花詠、少しいいかな?」

皐月家当主、皐月花詠の席まで行きにこっと笑う。花詠は着物の袖で口元を隠しており表情が伺い見れない。

「ええ、構いませんよ。では皆さん、お先に失礼しますね」

そう言うと2人は連れたって部屋から出ていった。いきなりの安倍当主の訪問と、皐月当主の退出を残りのメンバーは見送るしなかった。気づけば、皐月家に連なる東井家当主菊千代もいなくなっている。

「何だったのかしらね?」

皆の疑問を口に出したのは、睦月家当主の睦月すずだった。

「さぁな。でも、退出したってことはこれで今回の会議は終わりなんだろ?なぁ、時雨さん」

時雨にそう聞くのは先ほど遅刻してきた男。卯月家当主、卯月忠昭。

「そうなるな、解散にしよう」

水無月家当主、水無月時雨は己の従者である葵月鏡子を連れて出ていってしまった。忠昭はそんな時雨を物珍しげに眺めていた。

「珍しいな」

「何が?」

「時雨さん何か急いでる風じゃなかった?」

「忠昭みたいに暇じゃないのよ」

「静夏も似たようなもんじゃん。学校に行く必要もなくなってさーぶっちゃけ暇じゃない?」

「ババァだっていいたいの?殺すぞ」

ドスの効いた声をだすのは、忠昭の従者、鳥待静夏。忠昭の姉のような存在なため、仕える当主ではあるが少し遠慮がない。そんな2人だが、戦闘の時はまた変わった関係が見られる。

「しずかさーん!」

そんな2人の元に少女がやってきた。彼女は、桐秋海玖。文月に仕える従者だ。陰陽院に通う学生でもある。父親のボイコットにより早めに家を継いだ。

「あら、どうしたの海玖」

「玲様が用事があるらしくて・・・卯月様に」

そう言ってちらっと忠昭を見上げた後、すぐに逸らした。それを見た忠昭は、

「なんだよー、昔みたいに忠昭さまぁってきらきらした目で抱きついてきてくれてもいいんだぜ?」

「なっ、もうそんなことしませんよ!あれは若気の至りなんです!」

こうして海玖を揶揄うことが恒例となってきた。そしてもう1つ恒例なのが─────


「忠昭、うちのに手ぇ出すんやめてもらってもいい?」


「ちっ。なんだいたのかよ、玲」

「当たり前だ。二十四家集まってるんだから俺がいないわけがないだろ、考えろ馬鹿が。それとも何か?ついに脳が腐ってしまったのか?」


───────忠昭と玲の喧嘩だ。


「あ゛?わざとに決まってんだろ」

「そうか、ならば安心だな。───もし本物の馬鹿ならばすぐに先代様に、跡取りを変えるように進言するところだった」

玲は、ハッと忠昭を挑発するように笑う。案の定、忠昭はそれに挑発された。

「おう上等だ、表出ろや。埋めてやるよ」

そう言って親指を立て下へ向けた。

「はっはっは、相変わらず忠昭は単純だな?いいだろう、緊縛がお望みかな?」

上等だ、と言いながら2人も部屋を出ていく。

「お二人共、毎回喧嘩するのどうにかならないんですか!?」

その2人の背を海玖が追いかけて行った。

「はぁ・・・」

静夏も溜息をつきながら部屋から出ていこうとした。

「静夏さん」

その背に、すずが声をかけた。静夏が振り向くと、すずとその従者の姿がみえた。

「どうかされました?」

「特にはないんだけど、卯月さんが遅れるの珍しいなと思いまして。ね、りっくん」

くるっと後ろの従者を振り返る。その仕草はいかにも女の子とした風だった。それもそうだろう、すずはまだ15歳なのだから。彼女は海玖とはまた別の理由で若くして当主を継いでいる。その理由は、睦月家の術に関わること。

「なんで僕に同意を求めてくるかな・・・。でも、確かに不思議に思いました。多分皆さんも思われてるんじゃないでしょうか・・・」

何か理由があるんでしょう?と言わんばかりの顔で答えるのは、早緑璃織。名前だけ見ると小綺麗な女性のようだが、りっくんと呼ばれるようにれっきとした男性だ。

「忠昭が寝坊しただけですよ。遅くまで時雨様と飲んでいたので・・・」

これは事実。昨日、突然やって来た時雨様は何故か一升瓶をふたつも抱えていた。何があったのかと静夏が問うと、彼の妹の浅葱ちゃんがいきなり、素性が知れない男を相棒にすると言い出したらしい。

静夏からするととても迷惑なことだ。二人ともお酒に飲まれる方でもなく、次の日に酔いを引きずることもないため後始末は楽なのだが・・・忠昭は起こすまで起きない。少しでも放ったらかしにすると、いつまでも寝続けるため静夏が起こさなければならない。

昨日はこちらに来たばかりだったため、静夏は2人に付き合うことなく早々と就寝した。よほど疲労が溜まっていたのだろうか、朝起きたときには、忠昭のことなど頭にはなかった。こちらに来る前、忠昭が溜めた書類を片付けていたのだから仕方ないのかもしれない。朝食を済ませ、ぼぅっとあまり興味のないテレビを見ていた。

いつの間にか寝ていたらしく、気づけば家を出る時間になっていた。慌てて化粧を直し、家を出ようとしたとこで、ふと、忠昭がいないことに気づいた。もしかしてと思い、静夏が寝室を覗くと───気持ちよさそうな顔ですやすやと寝ている主人の姿があったのだ。

「(ぶん殴ってやろうかと思ったわよ・・・)本当にそれだけなんです。なのであまり気にしないでください」

「そんな一面もあるんですね・・・!」

キラキラした顔でそう言われると怒りも薄れる。すずが会議に出始めたのはつい最近なので、小さい頃から親しかった者を除き、性格などが深く分かっていないため、そういった話を聞くのが好きなようだ。

(特に忠昭は年下の前だと頼れる兄貴って感じを出すから・・・)

そのギャップに驚かれることがしばしばある。

静夏は一礼してその場を離れた。忠昭と玲を止めるためだ。

(きっと海玖ちゃんがおろおろしてるわ)

あの二人は1度喧嘩するとなかなか収まらないのだから。その間に海玖はよく挟まれる。

(やれやれ、まだ手がかかる“弟”だこと)


「すず、気づかぬ内に僕達だけになってる」

「うわ・・・ほんとね。帰りましょうか」

ポケットから取り出したキャラメルを、口に放りこみながら扉を閉める。

───カチャ

不思議なことに、扉は鍵がかかった音がした後、スッと壁に溶けて消えていった。

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