9.零落したモン
1つの中隊が進んでいる。60人が5台の牛車に分かれて乗っている。1つの牛車を牛5頭が引っ張っている。牛車の他に馬が20騎、ホウキで空を行く者10人いる。さらにホウキを手にして牛車の上で休む者が10人ほど。それぞれの牛車には人の他に物資も乗せられていて、さらに別に2台、物資ばかりを乗せた牛車がある。気分転換や牛の機嫌取りをするために歩く者は数名いた。
マキを隊長とする部隊は5台目の牛車に乗っている。抜群の魔力と統率力を持ってマキは新兵でありながら12人の精鋭隊員を任された。故郷を離れることを実感したマキはモンとの別れもあってさすがに気落ちしていた。隊の者がそれに気づくと、忖度しつつも上手に冗談を繰り出してマキを励ました。マキは気落ちしているのを表情に出したわけではないが、優秀なチームはそれに気づいた。
「うふふ、わかったわよ」
チームの励ましはまんざら効果がないわけでもなくマキは笑顔をこぼした。心地の良いチームだった。
マキの乗る牛車の後部にホウキに乗った男が飛び乗って来た。中隊の総隊長であり統括者であるマガミは準備と根回しが上手い。とくに気配りが好きで、まさに気配りのために乗り込んできたのだ。牛車の荷台に彼が乗ってくれば、皆「何事だろう?」と勘ぐる。しかしマガミはウンウンと笑顔で首を縦に振りながら、残念そうな顔になった。理由は、
「マキさんの隊だけ平然としているのね。他の牛車は皆様ソワソワとしているのに。私の出番はないわね」
と言うことだ。マガミは得意の気遣い力を発揮しに来たのだが残念ながらできなかったのだ。
「優秀で居心地の良いチームだと、すぐわかるわね」
マガミは尻尾を巻いて出ていった。
牛車の中隊は半日以上も移動を続けた。
残ったモンは、魔法の力が弱い者たちと共に畑仕事をするはずだった。毎朝、街から牛車に乗り、東の方の畑に行き夕方に戻る。マジメに努めていたモンだったが、マキが出発した日の翌日から、仕事を放棄するようになってしまった。
『父さんは、兄妹が助け合うって言ったのに、僕は誰も助けられないし、誰も僕を助けてくれない…』
マキがいなくなり兄も帰って来ないのでモンは苛ついていた。そんなモンの様子をモンの住む宿舎の管理人が見に来た。
「花を咲かすとか、ろくでもない魔法しか使えないんだろう?そうなるのも同情するよ。かわいそうになあ」
気遣いで言ったのが火に油で、モンは自暴自棄になり悪態をつくようになってしまった。愚痴を吐く相手でもあるディッキリードゥックルーは長く街に戻っていない。モンは何日も仕事を放棄し、あたり構わず悪口と暴言を言うようになった。同情して近寄ってくる厄介者にも刃向かうので、厄介者からも苛められるようになった。
マキが出発してから二週間。モンの評判は最悪になった。
「困ったことになった。あいつは最悪だ」
「宿舎から出て行ってもらおう」
「あいつには食事をくれてやるな!」
そんな声が聞こえてきます。
とある配給担当はとうとうモンに配給をあげないと言い出し、宿舎の管理人はモンを追い出そうとしています。ヴェルサの街では誰でも食事は配給で食べることができますが、食事配給の列に並んだモンは、今日はとうとう男共に囲まれ袋叩きに合いました。空腹のモンはがむしゃらで食事を奪いました。
よれよれと宿舎に帰ろうとすると、部屋にあったモンの荷物は袋にまとめられていて、宿舎の外に放り出されていました。
「もうここへは来ないでくれ」
宿舎から追い出されました。
「こんなところ、もう来るものか!」
モンは悪態をつき、荷物を抱え、近くの広場で野宿をしました。
二週間ほどのあっという間で、モンはここまで最悪な男になってしまったのです。
モンは街中の厄介者になってしまいました。