7. 命を三回得た魔法王、ムルペリ
ベアリーツという国は、モンたちの故郷であるヴェルサを含めた周辺の国へ侵略と破壊を行う脅威の存在です。その支配者ムルペリは魔法王と呼ばれ、命を三回得ているという噂があった。いずれも自分の国のために尽力をするために生まれた彼だが…
その『三回の命』の内容はこうだ――
一回目の命の時、ムルペリは人のために尽くそうと生きた。しかし彼はやがて良いように使われ無念としか言いようがない状態で命を落とした。
二回目の命の時には、良い国を作るため、それを上手くやろうとして、バランスを取るために方々へ尽くした。しかし欲深き者たちに恨まれて再び無念にも命を落とした。
三度目の命の時に彼は豹変した。…彼はすべてを支配すると決めた。強権による支配があって平和はあると悟ったのだ。そして三度目の時、彼はその希有な再生の奇跡を利用してベアリーツの支配者となった。
二度の命を失っても命を再び得た方法についても言い伝えられている。
何かを成し遂げようとする執念が強すぎたムルペリは、その執念の強さから死体が腐ることがなかった。心臓が停止しても細胞だけが生き続けた。もしくはそうなるように誰かが強力な魔法をかけたのだとも噂されている。火で焼こうとしても焼けず、土をかければ土の生気を肉体が吸収し土がたちまち朽ちた。そのような状態のまま、ムルペリの生きた死体は何年も放置された。
時が経ち、偶然にも新しい命と魂の目覚めの場所に彼のその肉体が選ばれた。彼は新しい命を得て新しい意識つまりは魂を持ったが、彼の強い過去の記憶は新しい命の意識を陵駕し破壊してしまった。その結果かつての記憶を持った以前のままのムルペリとして蘇った。さらに、三度目の命を得たムルペリは恐ろしい魔法を習得したのだという。ムルペリは10人の魔法使いを訪れ「二度蘇った選ばれし魔法使い」であることを語ると自分をさらに強くするよう頼んだ。人知を越えた魔法を使うことができるというムルペリの噂は人々を恐れさせていたので10人の魔法使いはムルペリに逆らわず、彼を強くするため魔法をかけ力を与えた。
さらにムルペリは「二度目の命をあたえる」ことを約束として、九人の生け贄を自分へ向けて捧げさせた。人生をやり直したかった九人の命と身体をムルペリは吸収し10個の心臓を得た。10個なのは心臓だけでなく手足を含む身体のすべてで、一つがこわれたら次を動かすようにして実質的に10人分の命を得た。使っていない手足は背中に生えたようについており容姿は奇怪だ。10人の魔法使いによって強化された力と、10人の生け贄によって得た10の命は、3度目のムルペリを魔物の容姿にした。
かつてムルペリを強化した10人の魔法使いの何人かは寿命を終え、4人が残っていた。彼らの元を訪れて力を得ようという者もいたが、ムルペリと同じようにできる者はいない。
ムルペリはさらに何もかもを焼いてしまう魔物を作っていた。その魔物は溶けた液体の鉄のように流動的で、生命に類似する意識っている希有な生き物だ。炎の魔法使いを集めて炎の塊を作り、何年も何年も炎を与え続け『炎を固め』た。ムルペリがそれに話しかけると意識が芽生え、生きたドロドロした炎を作った。そのドロドロの実体を見た者はその様子を「溶岩溜まり」とか「燃える満腹のブタ」と例えた。
燃える満腹のブタには『鼻先』のような1つの穴があってそこから炎を吹いた。身体の中心は太陽のようにうごめいている。ムルペリ曰く『まだまだ未成熟』ではあるものの、それは巨大で10メートルほどの高さがあり四つ足で歩いた。それが侵略のために各地を移動しているのだという。炎の魔法使いが常に付き添っており燃える満腹のブタを成熟させるために炎を送り続けている。
ムルペリが世界をどう変えようとしているのかは誰も知らず、ベアリーツは魔法の力によって侵略を続けている。