6.マキの告白
川縁。
呆然と座るモンの横にマキが座った。しばらく会話はなかった。
兄キアヌのことを心配しているとマキは切り出すと、モンはうわべだけの言葉のように聞こえて機嫌が悪くなる。兄が出発して辛い思いをしているのは一緒でもその度合いの違いに、モンは納得がいかなかった。
「マキは、兄さんがいなくても何ともない。僕はそんなの、キライだよ」
マキは嫌われても良い覚悟ができた。
「モン、あなたは勘違いしている…私…、白状する」
「…私、自分がすごく強くなっているのを感じるの。もしも、どんなに恐ろしい者が現れても負けない気がするの。私が戦場へ行けば兄さんを失わせはしない!だから早く私も戦場へ行きたい気持ちなの。私が強くなったから、戦場へ行けば兄さんは大丈夫なの!そう思うと安心できるのよ!」
「そんな…キミはバカだよ!」
マキは瞳を潤すことなく、視線を落とした。
「あのときの黒頭巾の魔法使い、スピクゥーってやつを覚えているかい?子供の頃に出会った奴らが強く見えたのは、僕らが子供だったからだね。今ならあいつらを倒せるって、キミは思ったのかい?…賢くならなくちゃいけない。自分以外の者だって、成長するんだぞ!」
マキは、下唇を噛み、自分の膝を強く抱きかかえ、威勢を張らずにいた。
「そうだね…私、帰って来られないと思う…何をも恐れない強い自信があるの。ムルペリだって私がきっと倒してしまうと思う…」
「ムルペリ…」
ムルペルとは3回の命を得て君臨した敵国の魔法王のことで、この戦争の大元凶と言うべき存在のことだ。
マキの揺るぎない自信に面食らったモンは、悲観的な未来の心象が一度に押し寄せ、ぼろぼろと涙が出てきてしまう。マキが優しい顔になってモンの手を取り、頭をなで、言葉をはき出す。
「わたし、死ぬと思う…だって戦うとなると自分に歯止めが効かないの」
「死ぬもんか、あのときだって生きただろう!」
「あれから…もう10年も経ったんだ。あのときモンがひっぱってくれたから生き延びられた。でも…私、戦争へ行く。誰かが私のことを焔の子供って言った。消せることのない炎だって。そうなのよ、私は焔の子。…私、戦争へ行く」
モンと、マキの握っていた手が離れる。
「だめだ…だめだよ、行ったら…僕が戦争を止める!必ず止める。だから僕が行くから、君は行かなくてイイよ!そうだよ、行かなくてイイよ!そうしよう!」
「ううん…。モンは戦わなくていいよ。私が戦う。だってあなたは花を咲かすことしかできないのよ」
モンは悔し涙が重なって、スーッと流れた。マキは強く抱擁をした。
マキはそこから、花を咲かすことしかできないモンのことを「あなたには行かせない」と説き伏せた。マキの意思は強かった。花を咲かすことしかできないモンはどうすることもできず、ましてやマキを引き留めることもでず、自分の非力さに言葉が出なかった。