11.魚釣りをしている男
(川へ行けば魚が取れるだろう。)
腹を空かせたモンが川へ向かう。夕暮れに、パチパチと薪の焼ける音が聞こえてきて、丁度獲った魚を焼いている人がいた。薪から出る煙を掻き分けて、近寄っていった。
「魚ですか?」
「薪が湿っていてね。煙がでるよ」
串に刺さった魚を焼いていることは見ればわかるので答えるまでもない。
「あなたは漁師?」
「魚が好きだから、漁師と言われるのは嬉しいね」
「じゃあ、あなたは漁師だ」
白々しく持ち上げて、これ見よがしに一緒に薪を囲んだ。混ざり方が下手なモンであったが、来訪は受け入れられ、モンはおこぼれをもらう事ができ、魚の頭から尻尾まで食べ尽くし、漁師が残した魚の頭まで頂戴した。
「ここで、寝ても良いですかね?」
男は当然問題ないと頭を縦に振って、気遣いの言葉まで発した。
野宿するのに許可は要らないが、許容された心地良さが欲しかったのだ。
「なんだ?帰れないのか?」
「なんとなく、今日は…」
「晴れていて野宿したくなる日だよ。自分もここで寝ようと思うんだ。なんといっても気持ちが良い夜だからね。星を眺めている時に魚が川面を跳ねたりすると、なかなか良い夜だったなって思うよ」
(自然が好きそうな男だな)
モンは仰向けになり両手を枕にし空を眺めた。
ラクルムに言われた言葉をいくつか思い出して、目は冴える。
『花を咲かすところを見せていたら、あの子はビックリしたかもしれない』
モンはそう思うとその辺りの花を咲かせようとしたが…
「あれ、咲かない?おかしいぞ」
モンは何度やっても花が咲かなかった。
「どうしたんだい?」
モンのその挙動は、知らぬ人が見ればとっても怪しい。漁師も声をかけずにはいられない。
モンは花を咲かすことができなくなっていることを説明した。
「花を咲かすことができる魔法使いなんて聞いたことがないよ。しかし、花を咲かすことができたら、たいして役には立たないだろうけれど…そんな、小さな事は大事さ」
「その…小さな事は役に立ちますか?」
「大きなものの隙間は小さなもので固めるものだし、小さなものが集まれば大きなものになる。大事なことだよ」
「そうですか…」
漁師の言葉がなにかの理解のきっかけになったようで、何かの考えが頭の中で結実していく表れか、モンは畏まった返事になった。
モンはいつの間にか眠りについた。
朝日で目覚めると、漁師は居なかった。朝ご飯のつもりか、棒に刺さった焼き魚が1串残されている。空腹の朝に透き通る川の水を含み、食べる魚の塩気がまた美味だった。