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10.ラクルムは15才の女の子

 別の日。宿舎を追い出されても行くところがなく、モンは街のどこかで寝泊まりをしています。哀れに思って声をかける人でさえ、追い払ってしまいます。体は泥だらけで汗臭いです。痩せこけて腹を空かしても意地を張っているので、意地悪な者に見つかれば苛めらますが、モンは気にせず悪態をつきます。

 この日も、蹴飛ばさ泥沼に埋もれていたモンの前に、一人の少女が現れます。

 モンは久しぶりに優しい言葉で話しかけられました。

「あなた、そんな風になってはダメよ。私、花が好き。あなたもそうでしょう。忘れてしまってはダメ。しっかりしなさい!」

 温かい色の瞳をした、モンよりも年下の15才でした。モンもこの少女は15才くらいだろうと思いました。

「あなた何も食べていないんでしょう!隣街まで噂が聞こえてくるほどですもの」

 久しぶりにまともに話をする者が現れて、モンは空腹を忘れて目を見開きました。

 少女はラクルムという名前でしたが、モンはこの少女の名前を聞こうともしませんので、モンは名前を知らないままです。

「僕の噂?それは良い噂かい?」

「まあ、呆れた!悪い評判に決まっているでしょう!あなたはこんなにまで酷いことになって、自分の良いところを他人がわかってくれると思っているの?いい加減に目を冷ましなさいな」

 モンは口があんぐり。

「そうか…悪い評判か…」

 ラクルムは同情でパンを差し出した。

「さ、このパンをたべなさいな」

 ろくに食べておらず痩せ細ったモンは、がむしゃらにパンを食べます。モンは心身共に疲弊していたので、ラクルムは魔法でモンに力を分け与えました。ラクルムは力を分け与える魔法を使えるのです。モンはみるみる力を取り戻します。まるで枯れ木が蘇るようで、目もキラキラとしはじめました。

「この街に、花を咲かすことができる魔法使いがいると聞いて会ってみたくて…隣町からわざわざ探しに来ましたよ。悪い噂を聞いて、すぐに行かなくちゃって」

「僕に会いに?わざわざ探してくれた?」

「うふふ。…本当は、嘘。嘘でした。今言ったのは嘘!」

「ええ?」

「あなたの噂は聞いていて心配はしたけれど本気で探そうとは思ってませんでしたよ。偶然、あなたを見つけたのよ」

「なぜ嘘を挟んだの?」

「うーん…いたずらかな。この街に立ち寄って、あなたを思い出しはしていた。蹴飛ばされて泥だらけになって、罵声を浴びせられていたでしょう。罵声の中に、『泥沼で花でも咲かせていろ』と言われているのを聞いて、あ、あなただってわかったの。あなたが花を咲かすことができる魔法使いでしょう?…こんな酷いことになっているのに“僕を探しに来た?”…なんて自惚れられるなんて、うふふ。あなた可笑しいわね!かからってみたくなったのよ」

「僕が…自惚れている?」

 モンはあ然としていた。

 ラクルムは手を差し伸べてモンを泥沼から引っ張り出した。

「さ、こっちよ。いつまでも泥の中で喋っているつもり?」

 モンは手を引かれて水場へ連れて来られるとバケツの水をぶっかけられた。

「うわあ!」

 ラクルムはモンの泥を洗い流してやった。

「あなた泥だらけよ。だらしないわねえ。私、あなたはもっとマジメな人かと想像していたの。そういう噂もあった。でもぜんぜん違ったわ。会ったことがない人の事を考えすぎると、想像していたのと違う結果になるものね…さあ。全部脱ぎなさい!」

 モンはラクルムに全部脱がされた。

 モンの服を脱がすときに、ラクルムの手がモンの体に触れたので、ラクルムの手が温かいのを感じた。か細くて温かい手だった。

「あなたはとてもラッキーよ。落ちぶれたのに私みたいな者を働かせてしまうのだもの」

 ラクルムはモンの上着を水で濡らして、それを雑巾のようにしてモンの体の泥を落とした。

「でも、ねえ、あなた本当に花を咲かすことができるの!?」

 ラクルムは、モンが待ちに待った憧れの人だと思いたかった。

 モンは、ラクルムの問いにも天邪鬼で返してやろうと思ったが、何かの勘で『最後のチャンス』かもしれないと思い、ぎりぎりのところで天の邪鬼を排除して、素直に答えた。

「あ、ああ…咲かすことができるよ」

 ラクルムは目を輝かせた。

 その様子を見ていた外野がヤジを飛ばしてくる。

「おいおい、モンなんかにそんなことしてやる必要はないよ!」

「モン?あなたの名前ね。…ああいうのは、気にしなくていいのよ。覚えておいてね」

 と、知ったようにアドバイスをして、15才のちびっ子が、大人も混じる外野を追い返した。まだ外野はいたが、離れたところで様子を見ているだけのようだ。

「ほら、背中は洗ったわ。後は自分でやるのよ。私は休憩をするわ」

 ラクルムは小さなバッグから棒状の菓子を取り出して小さな口でパクパクと食べながらモンが自分で体を洗っているのを監督した。その菓子が美味そうでモンはよだれがあふれ出た。

「あなた、もっと自信を持つのよ。だってよく考えて。花を咲かすことができる魔法使いなんて聞いたことがないわ」

「そうなのかい?」

「そうよ。それに、あなたみたいな落ちこぼれを放っておくと、荒む人が増えてしまうの。お節介が必要よ」

「僕が落ちこぼれだって!?」

「あなたは今落ちこぼれているのよ。周りと自分をよく見なさい!あ、そう言えば…あなた背丈はそこそこあるのね。もっとチビだと想像していたのよ」

「え?僕の身長のこと?」

 ラクルムよりモンのほうが20cm身長が高かった。

 ラクルムの忌憚ない言葉は、今のモンにとって心地がよかった。

「あなたは自分が役立たずだと思っているんでしょうけれど。あなたは自分を放棄してしまったのよ。背筋伸ばして、お腹に力入れて!向き合うの。ほら!」

 ラクルムは、お菓子を咥えたままやってきて、モンの背中を手でなぞり背筋を伸ばしてやり、腹をげんこつで叩いて力を入れさせて、両手でほっぺを2度、挟みビンタをした。

「僕は花を咲かすことしかできないんだ。戦うこともできないし、役立たずさ」

「できない理由なんていらないわ。できないって思い込んでいるのよ。あなたはいちいち全部説得しなくちゃ何もできなくなっているの。そんなんじゃダメ。花を咲かすことで、戦う方法を見つけたら良いじゃない」

「花を咲かすことで、戦う方法?そんなのはないよ!」

 ラクルムは面食らった。

「まあ、考えもせず!呆れた!」

 モンは、ラクルムが咥えたお菓子が食べたくて、涎がこぼれる。

 ラクルムは菓子をバッグへ戻して、手荷物を整え、プイッと顔を反らして、帰ってしまった。

 ラクルムという女の子は、突如現れて、モンに出会えば、モンに呆れて、そして帰って行ってしまった。


「あぁ、やってしまった…」


 ラクルムが帰って姿が見えなくなり、自分がなにかやらかしたことに気づくことができた。悪態をついてきたことや、今の会話の些細な返事、いろいろな事をやらかしたのだ。モンは、自分が相当な厄介者になっていることに、気づくことができた。

「ああ、あの子に、花を咲かすところを見せてあげればよかった」

 モンはしゃがみ込んで、一人反省会をしていたので、気がつくとずいぶん時間が経過していて、ラクルムの姿はなかった。

 理由のわからないため息をつくと、腹が減った。配給の列に並んでも、追い出されるので、モンは魚でも捕って食べようと川へ向かった。

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