##04:先立つ物を求めて
####−−:ST3799年:アウスラス王国・首都アウスラス・食事処『銀月亭』
「――なんて言った?」
「い、いえ、僕に凄まれてもですね」
あ、すまん、フィル。お前は悪くないな。
「順を追って説明してくれ。何で旅立つに当っての資金が――50エトルなんだ?」
お使いか。50エトルなんて、薬草数束で終わりだぞ?
「その――財務局長と、儀典局長が、渋りまして」
――話を要約すると、こうだ。
財務局長側の弁としては、
「国内での宿泊等の便宜は図るように通達している。また、現時点では既に、他国の勇者が戦果を着々と上げている。今更、我が国の出る幕では無い感も否めない以上、不要な程の準備金は出せない」
「それに、勇者殿の御実家は、ジェンドール家だ。家名に相応しいだけの貯えはある筈だ。いかに先代が早くに亡くなられたとは言え、騎士長を務められたほどのお家なのだからな」
――ふざけてんのか、こいつは。てめえで出せと?
儀典局長の話はこうだ。
「50エトルとは、古式ゆかしい、勇者の最初の旅立ち資金。不必要に多い金銭に飽かして、最初から武装を固めて進むなど、伝承の類に照らしても宜しくありますまい」
じゃあてめぇが苦労しろや。薬草数束買うより、切れ味のいい武器買ったほうが楽なんだぞクルァ。
「――頭痛くなってきた。マジでこんなんで旅に出なきゃならんのか?」
「その、お二人共、勇者様に、あまり良い感情をお持ちで無い様でして――」
「違うだろ、多分。俺にじゃなく、ジェンドールの家に過剰反応してんだろ」
宮廷内の腐敗を非難した男の家柄が、娘に移って没落傾向なとこに、勇者だもんなあ。
俺って、一周目のアルの時といい、前の人間の因縁に足引っ張られてるな――
「――その、勇者様? 何で要求金額が、あんなだったんですか?」
「んん? なんで?」
「いえ、その――50万エトルって」
――多少吹っかけたが、理由は説明したんだけどなぁ。
「馬車、船、先々での宿泊費に野宿を考慮した場合の食料、諸々だよ」
「魔獣なんかからの資金調達は――」
「毛皮だ牙だの剥ぎ取り云々で調達できる金が、幾らだと思ってるんだよ……旅が停滞するわ」
持って歩くの意外と重いしな、あれ。
「――そっちはまあいいや。で、だ。フィル君や?」
「う"。なんですか?」
「例の一件、調べたか?」
「――調べましたよ。あのですね、まず先に言いますけど、僕は諜報員じゃないんですよ?」
大丈夫だって、お前が出来る子なのは分かってるから(にこやか)。
「結論から言うと――『勇者基金』は、空ですね」
「やっぱりか。何処に流れてる?」
『勇者基金』というのは、その名の通り、勇者の冒険を支援するのを目的とした基金だ。かつては勇者税とか魔王税とか言われていた奴があったが、国に一旦入ってだとどうしてもワンクッションが置かれるので、直ぐにはこちらに反映されなかった。それを、出来るだけ早く反映できるように、税ではなく『投資』の形にした――これは実は、今代の俺、ソーマ=ジェンドールの祖父クルガ=ジェンドールの発案だという――どうも、クルガ爺さんは、有能すぎて嫌われた様な感じを受ける。
「先代ジェンドール卿、クルガさんが亡くなった辺りで、一旦ホルハイム卿が代行してた形跡が有ったとこまでは調べがつきました。数ヶ月だけですけど――」
「――ホルハイムって、儀典局のボスじゃん」
「――本当に、何で知ってるんですか、勇者様」
そりゃあ君、あれだよ。付け込めるとこにはとことん浸透する為だよ。
「勇者基金の運用に携わった奴が、今は俺に金を出し渋ってる――その心は?」
「――運用に失敗したか、着服したか――あれ? じゃあ、財務局長は?」
「当時の帳簿――」
「――そこに秘密が!!」
おわぁびっくりした!! ゆ、ユニ姉じゃんか、ってあ、ここユニ姉の働いてるトコの近くだった。
この人は、今や我が家で一番頭が切れる――ただ、性格もアレな方にキレッキレだ。
「面白そうな話してるねぇ。丁度私休憩入ったから、混ぜ――たまえよ」
「――――」
「ん? ああ、フィル、こちら俺の姉。ユニ姉。こちら王宮祐筆のフィル」
「「――可憐だ」」
いや、台詞が同じとか、ユニ姉、あんたやっぱり何かずれてるよ。フィル確かにショタっぽいけど、男に可憐はないだろ可憐はwww
「――これですね、ユニさん」
「――うん、多分だけど、ここの関わりだね――はあ、なんと言うか――やな物見た気分」
「ん? 分かったか?」
フィルが頷く。
「おーい、ユニちゃん、そろそろ変わってー」
「あ、はーい、今行きますよー。んじゃ、フィル君、解説は任せた」
「はい、ありがとう御座いました」
フィル、あからさまに赤いよ、顔。
「――惚れた?」
「――そ、それよりも先ずこっちを」
そう言って、帳簿を見せる。赤丸がされた場所には『トゥアラモン商会』と書かれている。
「ここのトゥアラモン商会、結構な出資をしてるんですよ――それが、ある時を境に――」
「一遍に比率落としたな」
まあ、いきなりゼロだ半分だになった訳ではない。だが、あからさまにブレが出ている。
「同時に、これが増えだしてます――エデルニュート地区開発公団への出資」
「――迂回だな」
「明らかに。他の出資者は気がつかなかったと思いますが――」
「気付いてたら、財務長官は財務長官やってないだろ――こんだけジャブジャブと資金ブッ込めば、そらあ簡単に開発も進むわな――」
ユニ姉の字で、「タウンバス財務長官→エデルニュート開発公団の元トップ」と書かれている。
「とは言え、この程度はスキャンダルでもなんでもない。ユニ姉があんな言い方するってのは――」
「エデルニュートは現在、武器の街です。しかも、タウンバス卿が治めてます」
「ですよねー。あれか? 王の縁戚である事を使ってクーデター目論んでるのかな?」
あー、やだやだ――でも、まあ、可哀想に。
「ま、ユニ姉に任せとこう」
「え? なんでユニさんが――」
――相手の格好は見ようぜ、フィル。
「ユニ姉の胸元見なかったか?」
「む、胸なんて、み、見てませんよ!?」
「いや、胸元だって。ワッペン張り付いてたろ?」
互い湾刀と天秤のマーク。ユニ姉は可愛くないからと嫌がってたが。
「――え? え? ま、まさか――」
「ユニ姉は 刑部騎士隊の特別査問部の調査部門だ――てか、タウンバスの過去がシュッと出てきた段階で、変だとは思わなかったのかね、フィル君」
「え、え? あの、なんでユニさんが『断頭機関』――?」
「元々は冒険者ギルドで受付やってたんだけどなー。ある時、引き抜かれたんだよ」
「給料上がるよ!! やったねユニちゃん!!」とか言いながら引き受けてたんだよな、あの人。
刑部騎士隊・特別査問部・調査部門。通称『断頭機関』。
歴史の流れの中で、貴族の特権に関わらず、裁く必要性が出てきた故に整備された機関。一時は全貴族の半分が吊るされたとかなんとか。
――言っておくが、俺は設立に関わってないぞ。散々な目に合わされたからって、組織整備してまで抑えるほど暇じゃないし。
「――どうしましょ?」
「どうも出来まてん。ほっといて待つのが一番だろ」
三日後。
「泳がす事になった」
とユニ姉。
「……正気かよ?」
「アプサリス部長はあれだからなぁ……追い込みかけて骨までしゃぶり尽くす気かも」
――アプサリスって、あれかな、何時だか騎士に推薦したやつの子孫かな。子孫までがめつい騎士を生み出すとは、いつぞやの俺も罪作りだな。
「一応、資金はこっちから出す事になったから」
「勇者基金からじゃなくてですか?」
とフィルが問う。まあ、権威的には補填させて出させる事は可能だろうが……
「それ突付くと、芋蔓式に全部叩かなきゃいけないからねぇ……内乱誘爆しかねないリスクは今の段階ではねぇ」
「ああ――」
めんどくっせぇな、また――ともあれ。
「で、幾ら出るの?」
「一応こっちのプールから3本は出せる。ただねぇ、本当に『棒』だよ?」
ゴトン、という音とともにテーブルが軋む。
「――インゴットでですか?」
落ち着けフィル、声震えとる。
「捌く当てある?」
「……下手なとこで捌くと不味いよな……よし、フィル、遠出するか?」
「一人で行ってください」
つれねぇな。
だが――さきだつものを・てにいれたぞ!!




