4. Resurrection from Franklin's stone of New World
4. Resurrection from Franklin's stone of New World
(新世界のフランクリンの墓からの復活)
It has pleased God in his Goodness to Mankind, at length to discover to them the Means of securing their Habitations and other Buildings from Mischief by Thunder and Lightning.
これ(避雷針)は、神が人類に対してもたらした喜びです。私は、雷鳴と稲光による悪戯から、あなたの家や他の建物を守る方法を見つけました。
Benjamin Franklin “Poor Richard's Almanac 1753” Introduction of lightning rod that he invented
ベンジャミン・フランクリン 『貧者リチャードの年鑑 1753年版』 彼が発明した避雷針の紹介文
怪物は、インゴルシュタットのクレンペの研究施設から去りながら、この旅の始まりを振り返っていた。
辺り一面が氷に包まれた北極点で、復活した俺は、すぐにインゴルシュタットに向かった訳ではなかった 。
自然哲学者を殺す事を誓い、北極点で目覚めた俺は、なまった体をほぐしながら具体的な方針を検討した。
まず、誰を狙おうか?
そうだ。ヴィクターを教えたヴァルトマンとクレンペをまず狙おう。
アイツ等はヴィクターの師だから、ヴィクターの研究に気付き、俺の様な奴をまた創りだす可能性がある。 目的地はヴィクターが二人から指導を受けた大学があるインゴルシュタットに決めた。
怪物はまず大陸に向かうため、流氷に乗って北極海を移動し始めた。
しばらく順調に進んでいたが、いきなり船が現れ流氷と激突した。
その衝撃で、怪物は海に落ちた。
だがすぐに、船にしがみついて、甲板に上がった。船の乗組員からの攻撃を恐れ、すぐに防御体制に入ったが誰も攻撃してこなかった。そもそも甲板には誰もいなかった。
怪物は甲板を一回りして、誰もいない事を確認した後、人間が待ち伏せている可能性に備えて、慎重に船内へと入っていった。
中に入って少し進むと人影が見えたため、怪物は身を隠した。しばらく経ってもその人影は微動だにしなかった。
怪物は訝しげに思い、人影の正面に立った。そこにいたのは死人だった。更に船内を探索すると幾つもの死体が見つかった。どうやら船員達は皆、死んでしまった様だ。その時、微かに近くの部屋から物音が聞こえ、怪物は、部屋の扉を開けた。犬達が鎖を引きちぎろうと努力していた。船員は死んだが犬は生きていたのだった。
怪物に気付いた犬達は警戒して吼え始めたが、その声は弱々しかった。怪物は吼える犬達の鎖を解いてやり、近くにあった餌を取り出し、彼等に与えた。犬達は餌を食べ終わると、怪物になついていた。
この船は、おそらくウォルトン達と同じく、北極調査という”冒涜”の為に造られた船だろう。犬達はその犠牲になったのだった。そう考えると、怪物は彼らの事を他人とは思えなかった。
怪物は、犬達を陸地に帰す事にした。怪物は今まで、船を操縦した事は無かったが、船員の残した手記などを元にどうにか動かした。
ついに、船は岸に着いた。怪物は食料を外に運び出し、犬達にそれを与えると別れを告げて、旅立った。近くの茂みから何かが動く気配がしたが、怪物は気付かなかった。
その後、俺は、大陸を南に歩き続けた。
次第に暖かくなってくると、見た事もない牛に似た茶色い動物が走り回っている光景に何度も出くわした。
時々、始めてみる衣装を着た褐色の肌をした人々も見かけた。
ある時は、銃を持った西洋人の集団に、彼らが虐げられている場面に出くわした。
俺は、見ていられなくて、西洋人を力で追い払っていた。俺は、「ワカン・タンカ」などと呼ばれて、助けた彼らに、人間ではない存在として敬われた。
ヴィクターを引き連れて、ロシアを経由して、北極まで向かった時は、こんな事はなかった。
最初は、少しもと来た道から外れてしまい、ロシアの外れに着いただけだと思っていたが、違和感は募るばかりだった。
歩き続けて、大きな都市に辿り着いた時、ようやく間違いだと知った。
そこは、ボストンだった。
時勢に疎い俺だが、数十年ほど前に、アメリカという国が出来た事ぐらいは知っていた。
そして、ここがアメリカの始まりの地だった。
俺は、ロシアに戻ったのではなく、新世界に辿り着いてしまったのだ。
このまま、ボストンの港に向かい、ヨーロッパ行きの船に忍び込み、インゴルシュタットに向かうのも一つの手だ。
ただ、ヴィクターの師であるヴァルトマンやクレンペがインゴルシュタットにまだいるか分からない。
この前できたばかりの首都ワシントンに立ち寄れば、自然哲学者に関して、何か情報が得られるかもしれない。
この地で、自然哲学者を見つけ、その芽を摘み取ってから向かっても無駄ではないだろう。
それに、気になる噂を聞いた。
この都市で生まれたというベンジャミン・フランクリンという存在だ。
ベンジャミン・フランクリン
アメリカ独立の英雄でありながら、自然から雷を奪った男。
ヴィクターと同じ、自然哲学者でもあった忌まわしき存在。
俺は、こいつの名前を前から知っていた。
何故なら、ヴィクターの日記に詳しく彼の研究が書かれていたからだ。
詳しい内容は知りたくもないが、ヴィクターは、フランクリンから、電気について色々インスピレーションを受けてたらしい。彼が行ったと言う、凧を使って、雷を自然から盗む実験も、ヴィクターなりのアレンジを加えてやっていたようだ。
基本的に、彼の事を讃える事ばかり書いてあったが、電気の流れる向きが、ヴィクターの考えた変な粒と逆向きになってるから直すべきだとか批判もしてた気がする。
だが、それにもまして俺は、フランクリンと言う名字が忌まわしきフランケンシュタインと似ている事が一番印象深かったのかもしれない。
彼は既に亡くなっていたが、墓はここから南西のフィラデルフィアにあった。
俺は墓に呪詛でも、呟いてやろうと思い、フィラデルフィアへと向かった。
俺が、フィラデルフィアに辿り着いた時、雨が激しく降り始め、雷が落ちそうな天気だった。
フランクリンの墓に、呪いを呟いた帰り道、小さな子供が一人、空を見上げて立っていた。
俺は、こんな雨の中で何をしているか気になり、顔を外套で隠しながら、尋ねた。
「こんな雨の中で、何をしているんだ?」
子供は、手元の糸を手繰りよせた。糸の先には、空高く昇る凧があった。
「フランクリンがやってたみたいに、このタコで、雷を捕まえるんだ!」
俺は、衝撃を受けた。
こんな子供が、悪(自然哲学)の道に、引きずり込まれているとは!
更生させなければならない!
「やめろ! お前は、今、命にも関わる危険な冒涜を行っているんだ!」
俺は、「返せ!」と叫ぶ子供から、無理矢理タコを奪い取った。
子供が泣き出し、少し心が痛んだが、この辺りで一番高い塔によじ登り、避雷針に凧をくくりつけるとその場を後にした。
しばらくして、凧の上に雷が落ちて、燃え尽きた。
雷を盗もうとする自然哲学に、天罰が下ったのだ。
これで、あの子供も自然哲学という悪の道に進む事もないだろう。
***
「こんな所にいたのか! 何をしてたんだ!」
泣きじゃくる
「…怖い怪物が、タコを取ったんだ! フランクリンがやってたみたいに、このタコで、雷を捕まえようとしてたのに…」
父親は、フランクリンの凧の実験を真似して、雷に打たれて死んだ人がいるという話を思い出した。
「そんな危ない事を! お前が、そのまま凧を持っていたら、雷に打たれて死んでいたのかもしれないんだぞ!」
呆然として泣き止んだ子供に、父親は、その実験の危険性を説明した。
説明を終えると、父親は落ち着きを取り戻して言った。
「凧を取った人は、多分、お前の事を心配して、つい乱暴になってしまったのだろう。今度、その人に会ったら、きちんとお礼を言うんだよ」
子供は頷いた。
怪物が、フィラデルフィアを後にしようとして、港近くを歩いている時、一瞬、港に、巨大な鉄の塊が見えた気がした。
だが、瞬きをすると、消えていた。目の錯覚にしても、俺は、今まであんなものは見た事がなかった。
一体、何だったのだろう?
首都ワシントンへと向かう途中、俺は、ウィルミントンで、デュポンとかいう若造が、自然哲学の魔術を利用して、火薬工場を創ろうとしている事を知った。
だが、ブランディワイン川上流にあるダムによって、水がせき止められている為、まだ操業は始まっていなかった。
俺は、火薬工場の操業を防ぐべく、ダムに向かった。既にダムを爆破する為の爆薬が仕掛けてあった。
俺は、ダムに忍び込み、仕掛けられた爆薬を見つけようとした。
しかし、物音と臭いに気付いた、狼たちが、俺を取り囲んでいた。どうやら、ここの警備も兼ねて、放し飼いにしていたようだ。
俺は、爆薬を見つけようとしたが、狼の相手をするだけで精一杯だった。
そうこうしている内に、ダムの縁まで追い詰められていた。
その時、ダムが揺れた。ダムが爆破され、決壊したのだった。俺が足場にしていた場所も崩れ、俺はそのまま落ちて、激流に巻き込まれ、気を失った。