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Re^2 (Rescuer); of the Frankenstein's Monster  作者: 刹多楡希
第2部 Regain × Resolution(回復×決心)
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23. Resolution in Blue Night

23. Resolution in Blue Night

(青夜の決心)


The mind is its own place, and in itself

Can make a Heaven of Hell, a Hell of Heaven.

What matter where, if I be still the same,

And what I should be, all but less then hee


心とは、それ自身一つの独自の世界なのだ。心の在り方で

地獄の中に天国を、天国の中に地獄を創りだす。

だから、もし私が昔のままのわたしであり

本来あるべき私であり、彼に比べても劣らない

遜色のないわたしである限り、どこにいようが構う事はない。


John Milton ”Paradise Lost” Book I 254-257 line Satan's words for Beelzebub

ジョン・ミルトン 『失楽園』 第一巻 254-257行 ベルゼバブへ向けたサタンの台詞



 1814年9月2日夜。 ダルムシュタット近郊 エルレンゼー湖畔。


 満月を過ぎたばかりの明るい月の光に照らされた小さな墓の前に、何かがたたずんでいた。

 それは人間ではなかった。

 それは怪物だった。

 メートル・グラス氷河で雪崩に飲み込まれた怪物だったが、奇跡的に一命を取り留めていた。そしてすぐにジュネーヴに戻らず、この場所に向かったのだった。

自らの決意を、今は亡き親友エーイーリーに告げるために。


 青い碑銘が書かれた小さな墓の前に、俺は白い花を供え、その下に眠るエーイーリーに祈りを捧げた。


 エーイーリー、いや俺のベルゼバブ。眠りについた愛する友よ、君の瞼を閉ざしている眠りは一体、どの様な眠りなんだ?

 それぞれの創造主から与えられた理不尽な命令と反逆を君も覚えているだろう?

 同じ苦しみを受けた被造物同士、俺は君に俺の心を打ち明け、君も俺に心を打ち明けてくれた。君も俺も、君が生きていた時は、心は一つだった。だから、君が無への眠りについた今でも、君と心を一つにできるきがするんだ。


 君は知らないだろうが、君がここに埋められてから、色々な事があった。少ないけれど、君以外に友達と呼べる存在も出来たんだ。君も知ってる死者のブノワを始め、アルバトロスのサムと、鹿のウィル、ネッド・ラッド、そして、マイケル・ファラデー。

 それが俺の親友だ。

 俺以外に友達はいないと君が嘆いた時、俺は、「俺に友達が出来たら、君に紹介して君の友達にもしよう」と提案したよな。きっと、君とも友達になってくれるはずだ。こんな俺でも友達になってくれたんだから。


 そんな大切な友達の中でも、俺に最も影響を与えたのはファラデーなんだ。彼は、何だったと思う?

 俺やブノワの様な死体から創られた存在?

 サムやウィルの様に、人間に虐げられた別の生命? 

 ネッド・ラッドの様に、自然哲学や機械に虐げられた人間?


 …どれも違うんだ。

 驚く事に、ファラデーは、俺を造ったヴィクターや君を造ったディッペルと同じ、俺が憎み続けた悪魔、自然哲学者なんだ。


 俺はミルトンの『失楽園』のサタンの様に、ファラデーを騙そうとしていたのに、俺の醜い姿を見ても拒絶しないで、俺の正体に気付いても庇ってくれたんだ。

 どんな力にも権威にも屈しなかったサタンは、 Michael(マイケル/天使ミカエル)の優しさに触れて負けてしまったんだ。

 でも敗北の先にあったのは、底なしの地獄ではなく、天国だった。

 俺は救われたんだ。自然哲学者によって地獄の底に突き落とされた俺が、自然哲学者によって。

 

 俺は俺を生んだ自然哲学を悪だと思ってきた。

でも、ファラデーを通して自然哲学を学んでいく中で、俺にも新しい考えが生じたんだ。(New minds may raise in me.) 


自然哲学は必ずしも悪ではない。

自然哲学にも善い部分がある。

自然哲学者にも善い人がいる。


ただ、自然哲学が善なのか悪なのかはまだ分からないんだ。

それでも俺は、ファラデーの優しさと夢だけは信じる事を決めた。


 俺は、自然哲学の行先をもう少しだけ見てみたいんだ。

これは君に対する裏切りかもしれない。でも、エーイーリー、自然哲学を全て悪だと断言はしなかった君になら、俺の行動が理解できると信じている。



 そして、ファラデーの夢の実現を見るだけでなく、俺自身も誰かを救いたい。

 俺の手は、数多の血で汚れている死人の手だ。だがそんな闇の手でも、いつか栄光の手に変わる事を願う。


Rescuer of the Frankenstein's monster is Michael Faraday.

フランケンシュタインの怪物の救済者は、マイケル・ファラデーだ。

And, I want to be rescuer of somebody.

そして、俺も誰かの救済者になりたい。




エーイーリー、君はベルゼバブの様に地の底で待っていてくれ。

ここからは、俺一人でこの道を歩んで行く。


I abroad

俺は旅立つ

Through all the coasts of dark destruction seek

あの暗黒たる破壊の岸辺を巡り

Deliverance for us all: this enterprize

俺たち皆の救済の道を探す。この遠征に

None shall partake with me.

俺以外の参加者は認めない。


ジョン・ミルトン『失楽園』第二巻


 自然哲学と人間に敵視されたサタンに似た姿の怪物は、天空の原理に胸を膨らませながら、敏捷な翼で現実という地獄の門めがけて孤独に飛び立った。



***


 怪物が旅立った少し後、エルレンゼー湖畔に、若い男女が現れた。

 それは、メアリー・ウルストンクラフトの墓の前で愛を誓い合った二人。パーシー・ビッシュ・シェリーとメアリー・ウルストンクラフト・ゴドウィンだった。

 相思相愛となった二人は、メアリーの父ゴドウィンにその事を継げたが、自由恋愛を訴えていたはずのゴドウィンは、シェリーとの結婚を許さなかった。

自らの主張と異なるゴドウィンの態度に耐えきれず、七月末、ついに二人は駆け落ちしたのだった。

 二人は、メアリーの従妹のクレアを連れて、イギリスを発って、ヨーロッパに渡り、ライン川を下っていた。

 そんなある日、ゲルンスハイムで船を下りたパーシーとメアリーは、ちょっとした好奇心から、密かに馬を借りて東へとかけていた。

 その果てに辿り着いたのが、エルレンゼー湖畔だった。


「この大きな足跡は何だろう?」

パーシーが見つけたのは、湖畔の奥の方へと向かう巨大な足跡だった。

「人間のものにしては大きすぎる。まるで巨人か怪物の足跡みたいだ」

パーシーは大きな足跡の上に自分の足を載せて比較しながらそうつぶやいた。

 興味を持った二人は、大きな足跡を辿り、二人は、湖畔の小さな墓を見つけた。

パーシーは、墓に近づき、書かれた碑銘を読みあげた。

「碑銘が青い塗料で書かれている。Here lies one who blue blood.... 青き血のもの、ここに眠る…か」

碑銘を読み、パーシーは何か考え始めたらしく、独り言をつぶやいた。

「もしかして、この青色は、紺青によるものでは…。紺青を造った自然哲学者コンラート・ディッペルは近くのフランケンシュタイン城に住んでいた。それに、ディッペルは、錬金術と生命にも興味を持っていた。だとすると…この墓に眠るのは…」

その瞬間、パーシーは雷に打たれた様に身を震わせた。

「It was alive!(それは生きていた!) ホムンクルスだ! ディッペルの造ったホムンクルスの墓に違いない!」

夜中にパーシーは高らかにその主張を繰り返していた。

 パーシーのおかしな発想は何度も聞いてきたが、今回の話は荒唐無稽のはずなのに、何故か現実味があって、メアリーはぞっとしてた。

夜中に怖い話を聞きたくないメアリーは、少し話題を変える事を試みた。

「blue bloodは、”青き血”ではなくて、”高貴なる血”ではないの? 小さいけれど立派な墓だし、高貴な人が眠っているのかもしれないわ…」

落ち着きを取り戻したパーシーだったが、更に推論を続けていた。

「さっきの足跡の怪物が、この花を供えたのかもしれない…」

 二人の視線の先では、高貴な青の碑銘が刻まれた墓に、高貴な(エーデルワイス)が寄り添っていた。まるで小人に寄り添う巨人の如く、堅い友情で結ばれていた。

 その様子を見て、メアリーはふと思った。

「きっと、優しい”怪物”さんが、友達の弔いに来たのよ…」

 聖母マリアの名を持つ少女は、その優しい”怪物”を、何故かわが子の様に愛おしく感じて、その幸福を祈っていた。




Before 2 years for Horror Talks of Villa Diodati



THE END

Afterword(後書き)


 小説『Re^2 (Rescuer); of the Frankenstein's Monster』を、最後までお読みいただきありがとうございました。

 下手な文章に加え、説明不足の人名・用語の連発で、読み辛かった点は申し訳ありません。これから磨いていきます。



・執筆動機


この小説の執筆動機ですが、大きく二点あります。


1. 可哀想なフランケンシュタインの怪物に友達を造ってあげたい。

2. 歴史を振り返りつつ、科学者の功罪を見直したい。


 1つ目の動機については、

 原作を読んだ方は分かると思いますが、フランケンシュタインの怪物は本当に孤独です。創造主はおろか、周囲の人々全てから否定されて暴走し、最後は北極の果てに消えていきます。

 特に、原作では怪物が高い知性を持ち雄弁なだけに、なおさら心に突き刺さります。

 あまりにも救われない結末に、原作を読んだ時から私は、怪物の事が頭から離れなくなってしまいました。

 そんな孤独な怪物にせめて友達を与えて幸せにしてあげたいと思い、書き続けました。


 2つ目の動機については、

 原作では、自然哲学者(現代の科学者)ヴィクターの長所も短所も描き、中立的な立場を取っています。

 しかし、派生作品では、ヴィクターに類する科学者を善良に描くか、マッド・サイエンティスト扱いかのどちらかに偏った作品が多いです。

 科学者の在り方が問われる現代にとっては、余りにも画一的で不満を感じていました。


 その様な理由に加え、フランケンシュタインの舞台となった時代がちょうど、近代科学の発展期と重なる事もあり、ラボアジェ、ラプラス、デービーといった科学者達の功罪を、怪物を通して身近に描くことにしました。


 自然哲学者の中でも、人間的にも優れていた自然哲学者マイケル・ファラデーと怪物を交流させる事で、自然哲学に良い思いを持っていないはずの怪物にも、考えさせる機会になると思いました。

 ただ、そのアンチテーゼとして、主人公の怪物が自然哲学者の皆殺しを目論む展開は、少し過激すぎたとは思っています。実際は、歴史の修正力と怪物の優しさのおかげで、有名科学者は殺されていませんが。



・原作の続編として


 フランケンシュタインの派生作品は数多く、中には、フランケンシュタインの怪物とヴィクターが現代まで生き続けていた設定の作品もあります。

 しかし、その割に原作の直後からを描いた作品はあまり見かけませんでした。(私が知らないだけかもしれませんが)


 原作への愛に突き動かされて、誰もやってないならと、原作の終わったとされる1799年からすぐ後の19世紀初頭から描く事にしました。

 ド・ラセー老人や、少女マリアを始め、怪物以外の原作の主要人物も登場させています。

そして、ある意味で最も原作者から存在を忘れ去られたヴィクターの弟アーネスト・フランケンシュタインも重要人物として登場させています。

 初版では、病弱で意志薄弱な人物設定、第三版では、軍人希望でいつの間にかフェードアウトという、原作でのアーネストの扱いはある意味で”怪物”よりも酷いです。

 フランケンシュタイン家の生き残りという事もあり、怪物と対峙させる存在として描きました。


 原作から逸脱した部分もあるものの、原作の続編として読む事も可能ではないかと勝手に思っています。




・次回作


 小説内で、一部伏線が回収できていない部分がありますが、次回作以降で回収する予定です。


 次回作では、1814年以降が舞台となり、ファラデーも本格的に数々の研究成果をあげていきます。第二のプロメテウスの火とも言える電磁気の時代の始まりです。

 更に、バイロン、シェリー、キーツといったメアリー・シェリーの周囲のロマン主義者達の活動も本格化してくる時代でもあります。


 次回作はまだ考案段階ですので、しばらく時間はかかると思いますが、お待ちいただければ幸いです。



・結び


 この小説への御意見、ご感想、あるいはフランケンシュタインが好きで共に語りたい方がいらっしゃいましたら、ご気軽にご連絡ください。


最後のあとがきまでお読みいただき本当にありがとうございました。


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