17. Rebirthday of the Monster
17. Rebirthday of the Monster
(怪物の再誕日)
Hateful day when I received life!
俺が命を受けた日よ、呪いあれ!
Mary Shelley ”Frankenstein; or The Modern Prometheus”
Chapter 15 Monster's words
メアリー・シェリー 『フランケンシュタイン あるいは現代のプロメテウス』
第15章 怪物の台詞
「誕生日おめでとう!」
11月中旬、ファラデーに呼ばれた俺は、いきなり心に覚えのない誕生日を祝われて混乱していた。固まったままの俺に、ファラデーはプレゼントと言って、本を俺に渡した。
俺は冷静になるために、お礼を言いながら、渡された本のタイトルを読んだ。
「…ありがとう。…ガリレオ・ガリレイ著『二大世界体系についての対話』? これは、どういう本なんだ?」
ファラデーは答えた。
「普通はガリレオの『天文対話』って呼ばれてる。この前、地動説や慣性の法則について話したよね。詳しい説明はニュートンの『プリンキピア』の方がいいんだけど、数学と図形だらけで難しいから、まずはこの『天文対話』を読んだらいいと思う。
天動説を支持するシンプリシオと、地動説を支持するサルビアチが議論する形だから分かりやすいよ」
地動説を支持して異端裁判にかけられたあのガリレオが書いた本。それは、とても興味深かった。
だが今はそれよりも、ファラデーがこんな俺にプレゼントをくれた事の喜びの方が大きかった。
プレゼントなんてほとんど貰った事がない俺は、天に昇りそうなほどうれしかった。
舞い上がっていた俺は最初の疑問を忘れそうになったが、少し時間が経ち落ち着きを取り戻してファラデーに尋ねた。
「こんな俺の誕生日を祝ってくれて本当にありがとう。でもどうやって、今日が俺の誕生日だと分かったんだ? 俺自身でさえ、ヴィクターの日記に書かれてないから、日付までは分からなかったのに…」
ヴィクターは、インスピレーションを受けてから、2年ほどかけて俺を創った。日記にはその詳細が書かれているから、俺が何年の何月に創られたまでは知っていた。だが、日記の終盤は、走り書きや支離滅裂な文章が多く、日付すら書いていなかった。もはや日にちの概念もなくなるほど没頭していたのだろう。
なのに、何故、ファラデーは俺の誕生日がわかるのだろう? それとも、今日を俺の誕生日だとファラデーが決めてくれたのだろうか? それでも構わなかった。
ファラデーは、半分以上欠けた月を指さしながら、誇らしげに説明した。
「君が1793年の11月に生まれた事はヴィクターの日記から私も知ったよ。
そして、日付は、君が初めて見た月の形から決定できた。君が生まれた次の日に見たのは満月だったよね。
月の満ち欠けは天文台に記録されていて、自然哲学の力を借りれば、過去と未来のどの日に月がどんな形か分かるんだ。
だからパリ天文台のアラゴさんに頼んで、1793年11月の満月の日を調べてもらったんだ。
君は1793年11月16日の満月の前日(※)に生まれたんだよ」
俺は、自分の誕生日をわざわざ自然哲学の力を借りて解明してくれたファラデーの行為が、ただただ嬉しかった。
20年生きていた中で、俺の誕生日を祝ってくれる人なんて誰もいなかった。
創造主ですら俺の誕生を呪いこそすれ、祝ってなどくれなかった。
親友と呼べるエーイーリーとは、その創られた生の意味を知るが故に、祝う事はしなかった。
Hateful day when I received life!
俺が命を受けた日よ、呪いあれ!
それが俺たちの、創造者に生命を否定された二人の合言葉だった。
なのに、ファラデー、君は俺の誕生日を祝ってくれた。
俺の友達の君は、あの忌むべきヴィクターの日記から、新たな俺の望まれない子孫を造るのではなく、俺の誕生日を解明して祝ってくれた。
今この瞬間、俺は伴侶が居なくても誕生日を祝ってくれる友達(Friend)がいれば幸福だった。
歓喜に震えている俺に、ファラデーはふと思い出した事を呟いていた。
「そういえば今更気づいたんだけど、君の方が、1791年生まれの私よりも2才年下だったんだね。身長も体格も大きいし、喋り方も堅苦しいから、てっきり君の方が大分、年上だと思ってたよ。これからは君の兄代わりとしても頑張らないと」
ファラデーは兄の威厳を見せようと背筋をピンと伸ばした。その姿は、「神に似た者」と詠われた大天使ミカエルの様に神々しかった。
「俺にとっては、君は兄よりも父よりも、いや神よりも偉大な存在だ」
俺はfriendish laugh(友好的な笑み)を浮かべてそういったが、ファラデーは大げさだと謙遜していた。
今日は、俺にとっては決して忘れられない日だ。
呪われた日でしかなかった俺の生まれた日を、君は祝福すべき日に変えてくれた。
俺が、怪物が再び生まれた日。(Rebirthday of the Monster)
思わず感動の言葉が零れ落ちていた。
Loveful day when I received life!
俺が命を受けた日よ、祝福あれ!
※怪物の誕生日について
怪物の誕生月については原作中でも11月だと言及されています。
しかしながら、具体的な生年と日付については原作中で明記されていません。
この作品では、『フランケンシュタイン』の原作を元に、私自身の解釈を一部入れて、生年月日を算出しています。
詳細が気になる方は、
Appendix: Revelation of Birthday of the Frankenstein's Monster(付録: フランケンシュタインの怪物の誕生日の真実)をご覧ください。