表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Re^2 (Rescuer); of the Frankenstein's Monster  作者: 刹多楡希
第2部 Regain × Resolution(回復×決心)
40/48

16.Revolutions of the Heavenly Moon-Star(Monster)

16.Revolutions of the Heavenly Moon-Star(Monster)

(天上の月と星の回転について/素晴らしい怪物の転回)


To ask or search I blame thee not, for Heav'n

Is as the Book of God before thee set,

Wherein to read his wondrous Works, and learne

His Seasons, Hours, or Days, or Months, or Yeares:

This to attain, whether Heav'n move or Earth,

Imports not,


お前が尋ね、探求する事を私は咎めはしない。大空は

いわば神の書として、お前の前に置かれているからだ。

お前はそこに神の驚くべき御業を読み、更に学ぶ事が出来る。

季節、時、あるいは日、月、年の流れについて。

この様な知識に達する為ならば、天が動くか地球が動くかは、

重要ではない。


John Milton ”Paradise Lost” Book VIII 66-71 line

Angel Raphael's words for Adam's question

ジョン・ミルトン 『失楽園』 第8巻 66-71行 

アダムの質問に対する天使ラファエルの台詞



 11月のある日の夕方、仲の良い天使と悪魔は、天井の星々を見通すパリ天文台の近くを歩いていた。

 日は沈みかけ、二人の背後に長い影が伸びていた。沈む夕日を見ながら、ファラデーは俺に尋ねた。

「毎日、太陽は西に沈んで東から昇るけれど、君はなぜか知ってるかい?」

俺はいきなりの質問に驚いたが、ファラデーは良く対話形式で自然哲学を教えてくれるので、俺もその礼儀として自分の頭で考えて答えを出してみた。

「大空に殻みたいなのがあって、そこに太陽や月や星が張り付いて、回転してるんじゃないのか?」

ファラデーは優しく否定した。

「確かに、物事の表面だけを見てたら、点が沢山あるだけみたいに見えるよね。でも、太陽も月も星も、本当はこの地球みたいに丸くて大きいんだよ」

俺にとっては、点の様に見える月や星がとてつもなく大きい事は驚くべき発見だった。

「そうなのか。じゃあ、この地球が中心にあって、太陽や月や星たちが周りを周っているんだな」

俺は確信をもってそう言ったが、ファラデーはまたしても否定した。

「それは天動説だね。プトレマイオスが造った説が有名で暦も創られて、ある程度上手く機能してたけど、根本的な間違いがあったんだ。何だと思う?」

俺は沈む夕日を見ながら考えていた。何故か、俺の頭からは、突拍子もない発想が出てきた。

「もしかして、俺たちのいる地球の方が太陽の周りを周ってるのか…いや、流石にそんな事はないか…」

俺が別の答えを考えようとした時、ファラデーが嬉しそうに言った。

「その通り! 地球が太陽の周りを周っているんだ。コペルニクスが亡くなる間際に、『天球の回転について』でその地動説を提唱した。その後、ガリレオとかも地動説を指示したんだけど、天動説を支持する教会と裁判になったりして揉めたんだけど…」

そう言って、ファラデーは地動説やガリレオの事を詳しく説明してくれた。

それは、怪物の中でコペルニクス的転回が起きた瞬間だった。


俺は、地動説の裁判で有罪になりながらも、「それでも地球は動く」といったガリレオ・ガリレイに思いを馳せていた。

自然哲学を憎んでいた時の俺だったら、ラボアジェ処刑の時の様に、ガリレオの有罪判決に喜んでいただろう。

だが今は、俺が冤罪で処刑させたジュスティーヌを思い出さずにはいられなかった。ガリレオの強い信念に感じたのは、苦難の中にあっても貫き通したド・ラセー老人やジョン・ミルトンと同じ偉大さだった。

ミルトン…俺の愛読書『失楽園』の著者。ふと思い出したが、『失楽園』にも天体の運行について語っている所があった。


「そういえば、『失楽園』で、天が動いてるのではなくて、地球の方が動いているかもしれないと言っていた。でも、どちらが正しいかは言っていなかったし、俺にとっては今までどっちでもいい事だった。今わかったが、天動説と地動説の論争の事を言っていたんだな。やはり、ミルトンは偉大だ。彼は目が見えなくなっても、未来を見るヴィジョンは失っていなかった」

ファラデーもその言葉にうなずいていた。


「そうそう。ガリレオといえば、慣性の法則も有名だよ。軽い木の球と重い鉄の球を同じ高さから一緒に落としたら、どっちが先に地面に着くと思う?」

ファラデーの問いに、俺は当然のごとく答えた。

「重い鉄球に決まってる」

ファラデーは言った。

「多くの人はそう思うよね。でも、実際はどっちも同じタイミングで地面に着くんだ。これが慣性の法則だよ」

「そんなはずがない! 同時に着く所を、この目で見ないと信じられない!」

二人で坂道を登りながら、そう答えようとした時、坂の上から、「危ない!」と叫ぶ声が聞こえた。

声のした方を見あげると坂から幾つかのリンゴと、巨大な砲弾がこちらに向かって転がってくるのが見えた。

俺は、周りに被害が及ばないために、強靭な肉体で砲弾を受け止めた。同じ瞬間、ファラデーは俺の横で、リンゴを受け止めていた。

軽いリンゴと重い砲弾が坂を下る速度はほぼ一緒だった。


俺とファラデーが食い止めたおかげで、誰にも被害はなかった。すぐに坂の上から人が来て謝りながら、事情を説明した。坂の上で砲弾を運んでいる途中に、リンゴを買った人とぶつかってしまい、砲弾とリンゴが坂道を転がり落ちてしまったのだった。


騒動が終わった後、俺たちは歩きながら会話を再開した。

「そういえば、軽いリンゴと重い砲弾はほぼ同じ速度で転がったよね。これも慣性の法則からだよ」

「ああ、実験で実証された以上、俺もそれを信じよう」


そして、歩き疲れた二人はリュクサンブール公園の人気の無い野原に仰向けになって夜空を見上げていた。二人の目に映るのは、一面に輝く星と大きな月だった。

ファラデーはさっきお詫びにもらったリンゴの一つを、俺に向かって投げた。リンゴは放物線を描き、俺の手に落下した。

 ファラデーは寝転んだまま軽くリンゴを真上に投げた。リンゴは上に向かった後、また彼の手に落ちた。俺はそれをまねて、自分のリンゴを真上に投げた。それはさっきファラデーが投げた時よりも高い所まで上がった。それを見たファラデーは少し力を入れて、その高さよりも高く投げ上げた。俺も負けずに更に高く投げ上げた。

 いつの間にか、どちらが寝ころんだまま、より高くリンゴを上げられるかで戦っていた。

 以前、どちらが石を遠くまで投げられるかを競った サーペンタイン池の戦いで、俺は敗北していたから、今度こそは勝ちたかった。


長きにわたる死闘の末、今回は俺が勝利した。

「やっぱり、純粋な腕力では君に勝てないか…」

「ああ。これで戦いは一勝一敗だな」

俺たちはしばらくリンゴを齧った後、ファラデーは、次の話をしていた。

「所で、君は、リンゴが投げても地面に落ちて来る様に、どうして月が落ちてこないのか疑問に思ったことはあるかい?」

俺はその問いに驚き、リンゴと月を見比べながら言った。

「リンゴと月が同じ様に落ちる事なんて考えた事がないな」

「でも、ニュートンは疑問に思ったんだ。それでこう結論した。『リンゴも月も地球に引かれて落下している』」

ファラデーはリンゴを持った片腕を挙げ、リンゴを落としもう片方の手で掴んだ。

「そんな馬鹿な。じゃあ、どうして月は毎日昇るんだ? 朝になったら月がどこかに落ちて、夜になると誰かが大きな大砲でも使って、打ち上げてでもいるのか?」

「じゃあ、それを説明していくよ。まずは…」

ファラデーはリンゴの芯を軽く投げた。芯は放物線を描いて少し遠くの地面に落ちた。

「物を横に投げると元の位置より遠くの位置に落ちるよね。じゃあ、強く投げるとどうなる?」

ファラデーは別の芯を先ほどより強い力で投げた。芯はさっきより遠くに落ちた。

怪物は答えた。

「もっと遠くに落ちる」

ファラデーは、今度は芯を俺に渡して尋ねた。

「更に強い力で投げたらどうなると思う?」

俺は、芯を精一杯の力で投げた。芯はまっすぐ飛んでいき、遠くの木に当たると砕けた。

俺は真面目に答えた。

「…芯が砕ける」

ファラデーは笑った。

「…確かに、今回はそうなったけど、もし凄い速さで投げると芯が地球をぐるぐる回るようになるんだ。月も同じ仕組みで地球の引力に引かれて落ちながらも凄いスピードで移動しているから、本当に落ちてこないんだ」

ファラデーは続けた。

「それに、物が下に落ちるのは、地球の万有引力が強いからで、凄い高い所にいけば、引力が弱くなって、物も下に落ちなくなるらしい。だから、もしリンゴを凄い速さで投げたら、月や星の様に落ちてこなくなると思うよ」

俺はそれを試したくて、立ち上がり全力でリンゴを真上へと投げた。リンゴは上へ上へと向かい見えなくなった。

 しばらくして、投げたリンゴは俺の頭に落ちた所を見て、ファラデーは言った。

「どうやら勝者の君でも無理だったね。けれど、技術が進歩して強力な大砲とかが創られたら頑張ればいつかリンゴを地球から放り出せるかもしれない。それどころか、いつか私たち自身も地球を出られるかもね」

俺は星々を眺めてから月に目を向けていた。明るい月、いつでも俺を照らしてくれる月。地球を出たら、月はどんな姿をしてるのだろう?

俺は、自分の願いを口にしていた。

「もし地球を出れる様になったら、俺は月に行ってみたい」

ファラデーも月を見つめていた。

「月に行くどころか、月に住めるようになるかもね。…君は月が好きなの?」

俺はファラデーが言った月移住の理想に胸を躍らせた。

「生まれた日からずっと好きだ。生まれて、まだ何も分らない中で、眠りから覚めた次の日、俺は暗闇のなかで目覚めて怖かった。そんな時に、あの黄色い光は俺を優しく照らしてくれた事を覚えている。暗闇の中でも、こんな俺にさえ、月はやさしく照らしてくれる。眩しい太陽みたいに、俺の醜い姿が分かるほど明るくもない。穏やかな光だ」

ファラデーは、ふと何か思いついたらしく尋ねた。

「その時の月はどんな形だった?」

「丸かった。確か、満月のはずだ。その後、何日か見ていく内に、月が欠けて無くなり、また月が出て満月に戻る様子を見て、俺は月の満ち欠けを知ったんだ」

「君が初めて見た月は満月か…これが分かれば君の大切な…」

ファラデーは独り言で何か言いかけてうなずくと、天文台の方を見ながら、何故かうれしそうにしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ