1. Rebirth; Everyone hate me. Not friend. So......
1. Rebirth; Everyone hate me. Not friend. So......
(再誕; ミンナ オレノコト キライ。トモダチ ジャナイ。ダカラ…)
Nor I on my part single, in mee all
Posteritie stands curst: Fair Patrimonie
That I must leave ye, Sons; O were I able
To waste it all my self, and leave ye none!
So disinherited how would ye bless
Me now your curse!
俺一人が呪われていると考えるな。俺を通じて子孫の
全てが呪われている。ああ後に来るわが子らよ
俺は何という見事な財産をお前達に残す事か!できれば
残したくない! そうやって遺産が貰えなければ、それだけ
お前達はこの俺を呪うどころか祝福してくれよう
John Milton ”Paradise Lost” Book X 817-822 line Adam's words
ジョン・ミルトン 『失楽園』第十巻 817‐822行 アダムの台詞
自らが受けた理不尽な仕打ちを思い出す度に、俺を受け容れなかった全人類への復讐が心によぎる。それと同時に、眼前には、ウィリアム、ジュスティーヌ、クラーヴァル、エリザベスの死の光景が広がる。それを見ると自らの業に気付き、俺に危害を加えていない人間を殺す気がなくなる。
だが、しばらくするとまた人類への復讐が蘇る。何度も何度もそれを繰り返した。
何回繰り返した後だろう? 気付くと俺の周りを死人達が囲み、俺を睨んでいた。
「何故、俺を睨むのだ? 友よ。君等も俺と同じ存在ではないか?」
誰もその問いに答えず、ただじっと俺を睨みつける。憎しみすらこもった虚ろな眼で。再び問い返したが、沈黙を続けるままだ。俺も睨み返したが、その視線は微動だにしない。
しばらくして気がついた。彼等の視線の先にあるのは、俺の目や顔ではない。彼等は俺の胸に置かれた手を見ている。胸で組んだ手には何かが置いてある。何だ? 久しぶりにその物体を手に取り持ち上げる。と同時に今まで動かなかった彼等の視線が上へと移動した。どうやらこれを見つめているようだ。これは何だ? 感触とぼんやりとした輪郭から本だとわかり、俺はその表紙を見た。
ヴィクター・フランケンシュタインの日記。俺が造られた忌まわしい記録。
「なぜこれを睨む?」
怪物は再び死人の群れの方を見たが、何もいなかった。
どうやら夢だったようだ。そもそも俺にはイヴすらいないのだから、仲間などいない……。本当にいないのか? ……違う。俺は死から作られた存在だ。確かにヴィクターは死んだ。だがヴィクターと同じ考えを持ち、仲間を造る事ができる人物がいるかもしれない。
そうか、子等よ。血こそ繋がっていないが、俺は君等より先に生まれた。つまり俺は君達のアダムだ。『失楽園』のアダムは、自らが犯した罪が子孫にまで続いてしまう事に対して責任を感じていた。
だから、俺はイヴの様に、死で死を殺す(Destruction with destruction to destroy)気だった。だがそれは間違いだったのだ。俺は子孫の事を考えた心算で、本当は己の事しか考えていなかった。俺が死んでも、ヴィクターの様な奴等がいる限り俺の子孫は生まれ続ける。
俺はヴィクターの様なクズ共を殺さなければならない。そうすれば、俺の生まれていない子孫は俺を祝福してくれるだろう。
ヴィクターの様な奴とは一体誰なのだ? とりあえず人類を皆殺しにすれば俺の子孫は生まれないだろう。だが、もう、ウィリアムやエリザベスの様な無関係な奴等を殺したくはない。例え、俺を受け容れなくてもだ。
ヴィクターは何をしていた? あいつは、俺を創りだすという忌むべき研究をしていた。幼少期のアイツは、占星術や錬金術に没頭していたが、俺を創りだすきっかけとなったのは、新しい学問だったはずだ。
名前は確か、自然哲学(Natural Philosophy)※(脚注)だ。そう、自然哲学だ。ヴィクターが何度も自然哲学の新しい分野を切り開くとか、自然哲学のプロメテウスになると日記に書いていたのを思い出した。
自然哲学(Natural Philosophy)!
自然哲学こそが俺に望みもしない生をよこし、俺の子孫を安らかな無の眠りから揺り起こそうとするのだ!
Cursed, Cursed Natural Philosophy! Why it makes my life?
呪われた、呪われた自然哲学よ! 何故俺を造った?
自然哲学を学ぶ者。つまり自然哲学者(Natural Philosopher)。
コイツ等が俺の敵だ。だから、全ての自然哲学者を殺しつくす。
そうすれば、俺のような奴は二度と生まれない。その時こそ、俺は本当の眠りに、無の中で苦しまない永遠の眠りにつく事が出来る。
俺は再び目覚めた。どれだけ時間が過ぎたのか分からない。少なくとも数ヶ月は過ぎていた。
前より、少しだけ大地が近くなった様に感じた。眠っている間に地獄に近づいたからだろうか? いや、地に足がついた目的を見出したからだと思いたかった。
***
「忌まわしい怪物め!(Abhorred Monster!) 」
ある船の中で、青年は、叫びと共に目覚めた。彼はとてつもなくやつれ、悪夢にうなされていたようだった。
「ようやく目覚めましたか」
もう一人の青年がベットに横たわる彼に呼びかけた。こちらの青年は健康的だった。おそらく、この船で重要な地位にあるのだろう。
「ここは一体?」
叫び過ぎていたのか、かすれた声で青年はたずねた。
「ここは、私の船の中です。これから元来た場所へ帰る所です」
青年は、室内を見回して危険がない事を確認すると、少し落ち着いた様だった。
「そうですか。俺は確か、病気にかかって、そのまま意識を無くしてしまったようですね」
船長の青年は頷いた。
「ええ。本当に重症で、一度は死んでしまったかとさえ思いました。ですが無事に回復したようで、まずは一安心です」
「まだ、本調子ではありませんが、大分体調は良くなりました。ありがとうございます」
二人の間に穏やかな空気が流れ始めた頃、強風が吹き荒れ始めた。嵐が近づいていた。
しばらくして、船はようやく、嵐を切り抜けた。
嵐が収まった海面を窓から眺めながら、船長の青年の方が問いかけた。
「フランケン...ではなくて、ゲンファータ(Genfather)さん、これからどうするつもりですか」
ゲンファータと呼ばれた、やつれた青年は、「フランケン」という言葉に少し身体をこわばらせたが、答えた。
「一度、故郷のジュネーヴに戻るつもりです」
「そうですか。では、最寄りの港で、あなたを降ろしましょう」
「ウォルトンさん、色々とありがとうございます」
ゲンファータは、船長であるウォルトンに改めてお礼を言いながら考えていた。
怪物を探そうにも年月が経ちすぎていた。一度、手がかりを見つけなければならないだろう。そもそもまだ生きているのだろうか?
ゲンファータの瞳の奥には憎しみが宿っていた。
※脚注
現代では聞きなれない自然哲学(Natural Philosophy)という語についての補足です。これは、現代の自然科学(Natural Science)の前段階に当たる学問です。
1833年に、ウィリアム・ヒューウェルが科学者(Scientist)という語を作るまでは、自然哲学という名称であり、科学者も自然哲学者(Natural Philosopher)と呼ばれていました。
この物語の舞台は1833年以前なので、以降、自然哲学、自然哲学者と表記しますが、実質的には科学、科学者と同じ意味と考えて構いません。