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Re^2 (Rescuer); of the Frankenstein's Monster  作者: 刹多楡希
第2部 Regain × Resolution(回復×決心)
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4. Research for Discoverer of Modern Prometheus and Creature

4. Research for Discoverer of Modern Prometheus and Creature

(現代のプロメテウスと創造物の発見者についての研究)


My greatest discovery was Michael Faraday.

私の最高の発見はマイケル・ファラデーである。


Humphry Davy's words

ハンフリー・デービーの言葉



ゲンファータは、イギリス・ロンドンの王立研究所を訪れていた。

「デービー卿、怪物に襲われた事はありませんか?」

王立研究所の講師ハンフリー・デービーは首をかしげた。

「…何の事だ? 怪物に襲われた事はないが」

「あなたの王立研究所での講演は有名です。その噂を聞きつけて、悪い輩があなたを襲うかもしれません」

デービーは、その発言に少しムッとした。

「私の講演に来るのは紳士淑女の皆さんだ。例え醜いからと言って、怪物と呼ぶのはあんまりだな」

ゲンファータは、その返答に拍子抜けした。この様子だと本当に心辺りがないのだろう。心配して損した気分だった。

「気をつけて下さい。怪物があなたを襲いに来るかもしれない。もし身の危険を感じたら、俺を頼ってください」

デービーは適当に返事を返した。

「ああ、その時は頼りにするよ。すまないが仕事に戻っていいかい」


怪物に関する情報は何も得られないまま、王立研究所を後にしたゲンファータは、有力な噂を耳にした。

ラダイトの指導者が怪物だったというものだ。途中まで上手くいっていたラダイト運動が失敗に終わったのは、指導者の正体が怪物だという事が分かり内部分裂を起こしたかららしいのだ。

その噂は、労働者や軍人達の間で広がっていた。しかしそれだけでなく変わった事に、一部の貴族たちの間でも、まことしやかにささやかれていた。多分、貴族議員のバイロンがラダイト運動を擁護した事を周りの貴族たちが揶揄しているのだろう。

その噂を聞けば聞くほど、俺が知っている怪物に似ていると感じ始めた。

俺は、ラダイト運動が盛んだったウェスト・ヨークシャーへと向かった。怪物の手がかりを求めて。



***


デービーがはおかしな軍人を見送り終わった時、背後からファラデーが呼びかけた。

「デービーさん、どうかしたんですか?」

「ああ、少し変わった客人の相手をしていただけだよ」

その隣には巨人がいた。外套を目深にかぶっていて顔は見えない。もしかして、さっきの軍人が言っていた怪物なのか!

デービーは警戒しつつファラデーに尋ねた。

「と…所で、君の隣にいるのは誰かね?」

ファラデーは隣にいる巨人を親しげに見つめながら答えた。

「私の知り合いです。力持ちなので、ここの荷物運びを手伝ってもらおうと思って」

「そうか。手伝いをよろしく頼む」

デービーは二人の前を通り過ぎながら考えていた。

あのファラデーの友達なら、安心だろう。それにしてもとても強靭そうな肉体だ。一瞬、怪物だと思ってしまった私は、さっきの軍人の発言で少しおかしくなっていたのかもしれない。まだまだ準男爵には相応しくない心だな。



怪物は、ファラデーの荷物運びを手伝いながら、デービーの行動をつぶさに見ていた。

コイツがハンフリー・デービーか。

王立研究所の講師を務め、去年は、準男爵(baronet) の称号を貰った自然哲学者。

電気の力で、自然を引き裂いた存在。

時々、変なガスを吸ってへらへら笑っている姿も目にした。まさに悪魔に毒されてしまった哀れな姿だった。

 デービーは気取った感じの人物で、素朴なファラデーと違った。どこか、俺以外に対してのヴィクターを連想させて、俺にとっては憎い自然哲学者の典型の様に見えた。


助手であるファラデーから、デービーの性格や日々の行動も前から聞いていたのでほとんど把握している。

そして、今回の荷物運びで、王立研究所の内部構造も完全に頭の中に入った。

俺の計画に必要な準備はほぼ終わり、ついに実行に移せる段階になった。

だが、その前にファラデーにどうしても聞きたい事が一つあった。

 荷物運びの手伝いも終わり、日も暮れかけた頃、俺はファラデーに今までずっと聞きたかった事を尋ねた。

「君も自然哲学者の一人だが、あのデービー卿とは違う様に俺には見える」

「そうだね。私はまだデービーさんみたいに立派じゃない。ただの見習いだから…」

「いや…そういう意味ではなくて…君は何故、自然哲学者になったんだ?」

ファラデーは、自然哲学者を志した経緯を話し始めた。

「君も、もう感づいていると思うけど、私の家は昔から貧乏だったんだ。だから、小学校までは行って、簡単な読み書きと計算は教わったけれど、それ以上は学べなかった。

 すぐに製本屋のリボーさんに本の配達人として雇われる事になった。本を配達する仕事の中で、皆が楽しみにしている本自体に興味を抱いたんだ。

数年後、リボーさんは私を製本見習いとして雇ってくれた。そこで『化学対話』を始めとした色々な本と出会って、自然哲学に関心を持ったんだ。

 それからは本を読みながら、自分で実験をするのが日課になったんだ」

俺は、ファラデーの話に引き込まれていた。彼の不遇な境遇と本好きという点が俺に近いと感じていた。それだけに、悪魔の自然哲学にはまってしまったのが残念だった。


「そんな慎ましやかな生活を送っていたけれど、当時は自然哲学者になれるなんてまだ思っていなかった。自然哲学者になる転機が訪れたのは、去年の四月に、お客のウィリアム・ダンスさんがデービーの講演チケットを私にくれた事だよ。

 デービーさんの講演は本当に凄かった。私はデービーの講演を忘れない様にノートを取ったんだ。君も読んだあのノートだよ。

 それから、私は自然哲学者になる思いを押さえ切れなくて、王立学会会長に手紙を出したんだ。

 当然、私の手紙は無視された。

 当たり前だよね。こんな貧乏で無学な若造の出した手紙なんて読むわけないよね。

 その時ほど、貧乏と学校で勉強できなかった事が嫌だった事はないかな。

 へこんじゃってさ。

 リボ―さんの元から離れて新たに働き始めた本屋の主人もあまりいい人じゃなくてさ。多くは望んでいないのに、なんでこんな目に遭うんだろうって少し嫌な気分だったなあ」

 俺は、ファラデーの貧乏な様子を聞く内に、ネッド・ラッドと重ね合わせていた。一体、何人のファラデーの卵が、ネッドの様な悲惨な人生を歩んでいるのだろう?

俺は、悲惨な過去に同情し、つい口を滑らせた。

「そんなクソみたいな主人には逆らえば良かったんだ!」

それを聞いたファラデーは、少し驚いていた。

「君はキャプテン・ラッドみたいな事を言うんだね」

俺は自らがラダイトの首領ネッド・ラッドだったとは言えず、口をつむんだ。

「…弱い奴らが苦しめられている様子を見ていられないだけだ」

「君は優しいんだね。ただ暴力は良くないと思うけど…」

俺の言葉を誰も聞いてくれなくて拒絶されるなら暴力で訴えるしかない事など、この天使の様な人物は知らないのだろう。

ファラデーは笑顔を取り戻して再び話を続けた。

「でもさ、真面目に生きていれば、助けてくれる人がきっと現れてくれるんだ。『求めよさらば与えられん』だよ」

きっと君の創造主は善良だったのだろう。俺の創造主は、愛を求めても罵倒と憎悪しかくれない酷い奴だった。

こんな俺でも、誰かが助けてくれるのだろうか、受け入れてくれるのだろうか。

彼の穏やかな顔を見ていると少しだけその言葉を信じてしまいそうになった。だが、彼の瞳の中に映る俺の醜い姿を見て、俺は現実に返った。

「だから私は諦めずに、今度は王立研究所のデービーさんに手紙を出したんだ。君が拾ってくれたノートも一緒に。

今度も無視されるかと思ったけれど、12月24日クリスマス・イヴの日に、デービーさんから返信が来たんだ。デービーさんと面会して、実験助手に空きが出来たから、今年の3月に王立研究所に雇われたんだ。それからこの自然哲学の楽園で働いているんだよ」

俺は驚いていた。俺がノートを拾った事で彼の運命を自然哲学という悪の方向へ捻じ曲げてしまったのだ。

「あの時、ノートを水溜りに落としていたらきっとここにはいなかったと思う。改めて言うけど、ありがとう。君は私にとっての天使だったのかもしれない」

俺は君の言う様な天に羽ばたく天使ではない。地の底を這いずり回る堕天使だ。俺はお前を騙して利用しているのだ。「ありがとう」などと感謝を去れる資格なんてない。


俺は複雑な気持ちで、ファラデーを見送り、住処に戻った。

マイケル・ファラデーは善良だ。悪魔の俺が騙している事が心苦しくなるほどに。

偽りの関係とはいえ、こんな俺を友達として扱ってくれた彼に、感謝を示したいと思った。

天使マイケル・ファラデーよ。お前はその罪に気付いていないのだ。

君は、ファウスト博士の様に、デービーと言うメフィストフェレスに言葉巧みに騙されているのだ。

せめてもの手向けに、俺が自然哲学の魔の手から天使を救ってやろう。


王立研究所の襲撃準備は整った。

ついに自然哲学の伏魔殿を攻め落とす時が、自然哲学に反旗を翻す時が来たのだ。


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