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Re^2 (Rescuer); of the Frankenstein's Monster  作者: 刹多楡希
第1部 Rebirth × Revenge(復活×復讐)
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22. Reveal of Captain Ludd

22. Reveal of Captain Ludd

(ラッド船長の暴露)


What though the field be lost?

All is not lost; th’ unconquerable will,

And study of revenge, immortal hate,

And courage never to submit or yield.


 一敗地に塗れたからといって、それがどうだというのだ?

 すべて失ったわけではない。まだ、不屈不撓の意志

 復讐への飽くなき心、永久の憎悪

 降伏も帰順も知らぬ勇気があるのだ


John Milton ”Paradise Lost” Book I 105-108 line Satan's words

ジョン・ミルトン 『失楽園』第1巻 105-108行 サタンの台詞



 ロンドンからヨークシャーに戻った怪物が聞いたのはカートライトの工場における敗戦の知らせだった。

俺が戻るまで襲撃するなと釘を刺したのに、べリアルと俺が密かに呼んでいるリーダー格の男の小賢しい口車に乗せられて襲撃してしまい、工場を襲撃し案の定返り討ちにあったのだった。

 べリアルは、容姿端麗で頭もよいのだが、口先だけが上手く、あまり実行が伴わない人物だった。その為、俺は『失楽園』の悪魔べリアルの名で呼んでいたのだ。

 この敗戦は大打撃だったが、俺はこの敗戦の原因であるべリアルを殺したり殴ったりはせず、降格だけにおさめた。誰にでも間違いはあるからだ。


 カートライトの敗戦以来、政府の反撃が本格化した。

それでもしばらくは襲撃を行う事が出来たが、段々と防戦にまわざるを得なくなってきた。次第にラダイト運動は追いつめられていった。


 ついに年明けの1月2日には、リーダー格のメラー、トロープ、スミスを始め、多くの仲間が捕まってしまった。

その知らせを聞いた俺はラダイト達に命令した。

「彼らを死なせてはならない。ラダイト達を集めろ。ロンドンに進軍し彼らを救出する」

しかし、ラダイト達はなかなか集まらなかった。メラーを始め主要な人物が捕まってしまったため、厭戦の雰囲気が漂っていた。

待ちきれなかった俺は、僅かな人数でロンドンへ向かおうとした。しかし、ヨークシャーを出る前に政府の軍とぶつかった。

 その時、ラダイトの一人が俺の元に駆けつけて息も絶え絶えに言った。

「キャプテン・ラッド! メラー達が処刑されました!」

仲間が処刑された! 

俺は悲痛な叫び声をあげると暴れまわった。その姿は、敵である政府軍だけでなく、仲間であるラダイト達にさえ恐怖を与えた。

 しばらく暴れまわった後、俺の兜に流れ弾が当たり真っ二つに割れた。

敵、味方も皆、怪物の本当の姿を見て、呆然と立ち尽くしていた。

俺はそれに気付くと、その場を即座に立ち去った。政府軍もラダイト達も、誰も恐怖で動かなかった。


 その夜、ラダイトの隠れ家に戻っていた俺は、政府軍が周りを取り囲んでいる事に気づいた。

 ついにここの居場所まで分ってしまったのか。

 いや、それだけではなかった。見知ったラダイト達の顔があった。指揮しているのはカートライトの工場で俺の命令を無視して負けたベリアルだ。だが、そんな奴でも助けにきてくれたのはありがたかった。


 俺を助けに来たのだと思い、彼らに合図をした。

 次の瞬間、俺の肩を銃弾が貫いていた。そして、ラダイト達から無数の銃弾が飛んできた。

 俺は訳が分らず、近くの風車小屋に逃げ込んだ。周りを先ほどまで敵同士だったラダイトと政府軍が取り囲み、風車小屋に火を放った。ラダイト達から罵声が聞こえてきた。


 俺たちは、怪物に騙されていたんだ!

 怪物を殺せ!

 本物のネッドを殺したのもあの怪物だ!


 違う! 俺はお前たちを騙していない!…ネッドは俺の友達だった…

 …俺は友達を殺していない…オレハ トモダチ コロシテナイ。

 燃え盛る風車小屋の中で、俺は暴れながら叫んだ。火が怖かったのではない。ラダイト達に裏切られた事が憎く悲しかったからだ。

「俺はアイツ等のために戦った。その仕打ちがこれなのか。俺をキャプテン・ネッドと称え、ひれ伏していた奴等が手の平を返して襲ってきた。俺はアイツらに友情すら感じていたのに」

「怪物を殺せ!」と叫ぶ声が響き続ける。周りにいるのは見知った顔ばかりだった。

「炎よ。更に燃えろ! 天まで焦がすほどにな! だがどんなに天を焦がしても俺の憎悪の炎に比べれば涼しいものだ」


 風車小屋は灰になり、群集は去っていった。焼け跡の下にあった水溜りに潜んでいた怪物は、そこから出ると独り叫んだ。

「一敗地に塗れたからといって、それがどうだというのだ? すべて失ったわけではない。まだ、不屈不撓の意志、復讐への飽くなき心、永久の憎悪、降伏も帰順も知らぬ勇気があるのだ!」


 そこに俺の死体を探しに、裏切り者のベリアルが現れた。俺は彼を捕まえて問い質した。

「何故俺を裏切った? 俺はお前達のために戦ったのに?」

ベリアルは怯えながらも答えた。

「お…お前だって、正体を隠して、だ…騙していただろう。私達はお前に騙されていた。だから、そのお前を討てば、今までの罪は問わずネッド・ラッドの賞金すらくれると政府は約束してくれた。だから政府軍と協力してお前を風車小屋に追いつめた。…まさか生きていたとはな。やはり怪物だ」

俺は怒り、ベリアルの首を掴んだ。

「俺は確かにお前達に正体を隠していた。だが、俺はお前達に害をなすような事は何もしていない。お前達が裏切らなければ、いつかネッドの理想が実現できたんだ!」

べリアルは鼻で笑った。

「…お前はまだ、死人の理想など信じているのか? 現実を見てみろ! 抵抗したって政府の奴等に殺されるか、工場主から解雇されるかしかないんだ。私達だって生きなくちゃいけないんだ。お前は誰からも受け容れられない。だから、私達のために死んでくれ。いや死ななくてもいいから、せめて、ここから消えてくれ」

俺は憎しみと絶望にとらわれた。

「結局、どいつもこいつも俺を認めてくれないのか?」

首を掴んでいる手に力が入る。このまま首を絞めて殺してやる。いや、それでは生ぬるい。もっと甚振り苦しめてからだ。サムとウィルを殺した狩人達の死さえも安らぎと思えるほどに。それでも憎しみの炎は消えそうになかった。

 そこに子供が現れ、俺の姿を見て恐怖を抱きつつ、勇敢にもこちらに向かって来て叫んだ。

「と、父さんを返せ! この怪物め!」

俺の足に痛くも痒くもないパンチを連打してきた。どうやらこの裏切り者の子供らしい。子供に気付いた裏切りの父は懇願した。

「お…お願いだ。その子にだけは手を出さないでくれ。憎いのなら、私を代わりに殺してくれ!」

仲間の俺を裏切ったくせに、コイツを庇うのか?

コイツがお前を助けた事があるのか? 

俺は何度もお前を助けてやったんだぞ。

嫉妬した。

ルシファーのアダムへの嫉妬も、カインのアベルへの嫉妬も、比べ物にならないほどにこの子供に嫉妬した。

 俺は裏切り者を投げ飛ばし、子供の方に向かった。わめく子供を捕まえて持ち上げ、首を絞めていく。

 俺には不幸ばかり訪れるのに、何でお前だけ幸せになれる? ナンデ オマエダケ シアワセ? オマエダケ…オマエダケ…オマエダケ!

 その瞬間、目の前の子供がウィリアムと重なり、憎しみの炎が後悔と悲しみの洪水で消えた。俺は手を離し、子供は一目散に父の元へ駆けていった。俺は怯えた父子を睨んだ。

「もう、お前等には協力しない。お前等がどれだけ苦しもうが、全員縛り首になろうが決して助けない!」


俺は、今は亡き親友エーイーリーに呼びかけた。

「エーイーリー、俺の親友は今も昔もお前だけだ。

 怪物の俺に人間の仲間などできるはずがなかったんだよ。

アイツらは所詮、『似て非なる友』に過ぎなかったんだ。所詮は利用しあう関係しか築けない。

お前が亡くなった今、俺の友は、もう虚無だけだ。

「友達」なんて言う幻想にとらわれて寄り道をしていた。所詮、この道を進むのは俺一人、たった一人だ。

本来の目的に戻り、自然哲学の伏魔殿(Pandemonium of Natural Philosophy) ロンドンの王立研究所を壊滅させてやる。

…なあ、エーイーリー、無事、王立研究所を破壊したら、お前の元に行ってもいいかな?

自然哲学者を皆殺しにする。

そんな目標を抱いて、俺は今まで行動してきた。

だが、実際は失敗ばかりだ。

フーリエ、ラグランジュ、モンジュ、ラプラスなどを暗殺しようとしたがしくじったし、それどころかラプラスには逆に監禁されて苦しめれられる始末だ。

それに加えて、倒しても倒しても、自然哲学者は無数に湧いてきて、もう俺の手には負えそうにもないんだ。


だから、俺にせいぜいできるのは、王立研究所の破壊ぐらいだろう。

王立研究所が壊滅したら、俺もこの下らない生命を自らの手で終わらせる。

君がいない世界に何の未練もない。俺が地獄に行ったら、また一緒に『失楽園』でも読んでくれないか」


怪物は自らの死を覚悟して、裏切り者の父子を一瞥すると自然哲学の伏魔殿のあるロンドンへと向かった。


***


 それから数ヶ月前、ロシア


 ボロボロになった軍服をまとったゲンファータは、川を流されていた。

 ナポレオンは、ロシアに敗北した。惨めな撤退戦の中で、仲間のスイス傭兵たちは壊滅し、俺も橋を渡っている途中に襲撃を受けて川へと落ちてしまった。

 川を流されている事は分かっていたが、もう身体が動かなかった。 

 朦朧とした意識の中、残されるマリアとウィリアムが不憫だったが、もしもの時はウォルトンに面倒を頼んでいたから生活には困らないだろう。


 再び意識が飛びそうになったが左腕に激痛が走り、意識がはっきりした。左腕の一部が銃創で変色し、へこんでいたのだった。

 そういえば、マリア達を助ける為に戦った、アイゴールと名乗る盗賊の腕もこんな感じだった。あの時、ここが弱点だと分からなければ、盗賊の怪物みたいな力に押し切られて殺されていただろう。

 似た様な傷を見るのは、これで三度目だ。

…三度目…?…待った。何で三度目だと思ったんだ?…俺がこの傷を見たのは今と、盗賊と戦った時の二回のはずだ。

 確かに仲間が何度も負傷する様は見てきたが、それとは違う。…もっと腕だけを見た気がする。俺は頭の中の記録を振り返っていた。あるは走馬燈だったのかもしれない。そして気づいた。

 ラプラスの元で見た、砲撃後の怪物の死体の記録だ!

 バラバラになった怪物の左腕の一部分が異様にへこんでいた。そこだけ皮膚が死んでいる様に。その時は、どこかで見た気がしたが、思い出せず、そのまま忘れてしまった。

 腕の皮膚が変色していたし、破片が多く突き刺さっていた事から、すぐに分らなかった。だがこれは、アイゴールの腕に間違いない!

 それに、アイゴールは顔は普通の人間のものだったが、体つきは巨人の様に異常なほど大きかった。結局、怪物の頭は発見できなかったし、俺は体つきだけで怪物だと思い込んでいた。だがそれは間違いだった。


つまり、砲撃で死んだのは怪物ではなく、盗賊アイゴールだ!

俺は意識を取り戻し叫んだ。

「アイツは死んでいない! 生きている! アイツを殺さなければ!」

そして、死に物狂いで岸辺まで泳ぎ、立ち上がった。


 こんな所で死んでなどいられない! いや俺が既に死んでいたとしても、屍になってでも怪物を殺さなければならない!



Part 1 END

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