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Re^2 (Rescuer); of the Frankenstein's Monster  作者: 刹多楡希
第1部 Rebirth × Revenge(復活×復讐)
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0. Reverse; or the Modern Prometheus's Creature

0. Reverse; or the Modern Prometheus's Creature

(逆転; あるいは現代のプロメテウスの創造物)


The ice was here, the ice was there,

The ice was all around.


Alone, alone, all, all alone,

Alone on a wide wide sea!

And never human took pity on

My soul in agony.


ここも氷、あそこも氷

あたり一面氷ばかり


独り、独り、たった独り

広い、広い海にただ独り

人間は誰も決して憐れまなかった

苦悩する私の魂を


Samuel Taylor Coleridge “The Rime of the Ancient Mariner” modified

サミュエル・テイラー・コールリッジ『老水夫の歌』改



 俺は何だ? 俺は『人間』じゃない。『人間』に造られた存在だから。

俺は何だ? 創造主ヴィクターは、人間の死体から俺を造り、名前すらくれなかった。


 現代のプロメテウス、ヴィクター・フランケンシュタインが創造した『怪物』は北極点の氷上に仰向けになっていた。誰もいなかった。全てに意味がなかった。自ら死を選ぶ事も、生きる事も何もかもが虚しかった。

 怪物の意識は段々とまどろみ、冬眠に近い状態になっていった。怪物の思考は、世界の時間よりゆっくりと流れ始めた。


 生まれたばかりの俺は、生来の醜さ故に誰にも受け容れられなかった。俺は訳が分らず人々に追われ、無人の小屋に逃げ込んだ。

 小屋の隣には盲目の老人ド・ラセー、彼の娘アガサと息子フェリックスの三人が住んでいた。彼等は貧しいながらも幸せに暮らしていた。俺は彼等の穏やかな生活に憧れながら小屋の中で密かに暮らしていた。しばらくして、フェリックスの元にサフィーというトルコから逃げてきた女性がやってきて、彼の妻となった。

 サフィーが言葉を教わる様子を見ながら、俺も言葉と文字を覚えた。そんなある日、俺は偶然、『プルターク英雄伝』第一巻、『若きウェルテルの悩み』、『失楽園』を拾った。その三冊は、俺に新たな知識を与えてくれた。特に、『失楽園』のサタンに俺は非常に共感した。


 俺は、ド・ラセー家にいつか受け容れられる事を夢見て、彼等の為に薪を集めたりした。

彼等がそれを見て喜ぶ姿を見るのは俺にとっての幸せだった。

 そして、ついにその日がやってきた。フェリックス達三人は出かけ、ド・ラセー老人が一人で留守番をしていたのだ。俺は旅人の振りをして、盲目の老人の家を訪ねた。彼は、こんな醜い俺に優しい言葉をかけてくれた。あと少しで、彼の心を掴めると思ったその時、フェリックス達が帰ってきた。俺は、拒絶されない様に必死で老人の足にしがみついた。フェリックスに罵声を浴びせられ、殴ったり蹴ったりされた挙句、ついに俺は手を離し、そのまま追い出された。

 俺はしばらく悲嘆にくれていたが、俺が彼等の為に薪を集めたりした事を老人に話せば受け容れられると思い、ド・ラセー家の元へ戻った。しかし彼等は既に引っ越していた。俺は絶望して、無人になった家に火を放ち、灰になるまで眺め続けていた。


 俺が着ていたヴィクターの外套のポケットの中に、ヴィクターの日記が入っていた。そこには、俺のおぞましい創造過程が書かれていた。また、そこからヴィクターの出生地がスイス・ジュネーヴである事が分った。俺はヴィクターに責任を果たしてもらうために、ジュネーヴに向かった。

 その途中、川に落ち溺れていた少女を俺は助けてやった。少女の父がお礼にくれたのは感謝の言葉ではなく、悪意のこもった銃弾だった! 俺は撃たれた肩の痛みに苦しみながら、人類に復讐する事を誓った。


 ついにたどり着いたジュネーヴで最初に出会ったのは子供だった。偏見を持っていない子供なら、俺を受け容れると思った。

 だが違った。子供は俺に絶望するような言葉を浴びせ続けた。父がフランケンシュタインと聞いた時には我を忘れ、気付くと子供を絞め殺していた。子供は、ヴィクターの末弟ウィリアム・フランケンシュタインだった。

 俺がウィリアムを絞め殺した光景を見たら、凶暴な怪物がか弱い子供を虐めていると思うだろう。確かに腕力では俺の方が強いが、他の面では俺の方が弱かった! ウィリアムは俺にとってアベルだった。ウィリアムだけが創造主から愛され、俺は創造主にもウィリアムにも否定された!

 何故、お前だけが創造主や人類から愛され、俺は彼等から爪弾きにされるのだ? 何で、お前だけが幸せなんだ? ナンデ オマエダケ シアワセ? オマエダケ…

 俺が感じたのはカインがアベルに感じたよりももっと強いウィリアムへの嫉妬だ。「ウィリアム!」と彼を探すヴィクターの弟アーネストの声が遠くから聞こえ、俺はその場を逃げた。アベルを探す創造主に、アベルを殺したカインが怯えた様に。

 逃げた先で、ある納屋に隠れようとすると、中で女性が眠っていた。後で分かった事だが、彼女はフランケンシュタイン家の召使ジュスティーヌだった。

 アベルを殺したカインにも、共に地をさまよう妻がいたのだ。だがウィリアムを殺した俺には、伴侶も友達もいない。この女性も目覚めたら俺を否定するのだ! 俺は独りだ。

 俺は絶望に駆られ、ジュスティーヌにウィリアムが持っていた女性の肖像画(ヴィクターの母を描いたものだ)を挟み、罪をなすりつけた。それが証拠となり、ジュスティーヌは人間達の愚かな裁判にかけられて処刑された。

 ジュスティーヌに罪をなすりつけたのは、確かに俺だ。だが、彼女を冤罪にし、死刑になっても何も言わなかったのはヴィクターの責任だ。


 アルプスを登り、悲しみを癒そうとしているヴィクターにようやく俺は接触した。そして俺の今までの悲惨な過去を話し、花嫁を造れと要求した。ヴィクターは、俺の要求を聞き入れた。

 ヴィクターは、俺の伴侶を造るため、友人ヘンリーとだらだらとイギリスを移動した。ようやくヴィクターは、ヘンリーと別れ、孤島で伴侶の創造を始めた。俺は、伴侶の完成を、いまかいまかと待ち続けた。

 だが完成間近になって、ヴィクターは俺の伴侶を破壊した。あの時から俺には復讐しか残されていなかった。

 俺は怒り狂い、ヴィクターの様子を見に来た友人、ヘンリー・クラーヴァルを殺した。


 その後、あろう事かヴィクターはエリザベスと結婚した。

 ヴィクターは俺の伴侶を奪っておきながら、自分は伴侶を手にした。だから、俺はヴィクターの妻エリザベスを殺してやった。彼女に罪は無い事は分っていたが、俺に限りない不幸を与えていながら、アイツだけが幸せになるのは許せなかった!


 俺は、ヴィクターの末弟ウィリアム、友人ヘンリー、妻エリザベスをこの手で殺した。召使ジュスティーヌに冤罪を着せ死刑に追いやり、ヴィクターの父アルフォンスは、度重なる身内の不幸に衝撃を受け死んだ。


 俺と同じく孤独になったヴィクターは狂気に陥ったが俺への復讐だけで生きのびた。俺は、フランケンシュタイン家の墓前で復讐を誓うヴィクターの前に現れ、彼を挑発した。俺は北へと逃げ続け、ヴィクターも追いかけ続けた。

 北極まで来たとき、ヴィクターの乗っていた氷が砕け、彼は漂流の果てにロバート・ウォルトン率いる北極探検の船に引き上げられた。ヴィクターは今までの無理がたたって病気になり、ウォルトンに、俺と自分自身の関係を語ると力尽きた。

 俺はヴィクターの死を見届けると、たった一人で、北極点へと向かった。この忌まわしき肉体をこの手で焼いて、無へと帰る為に。

 ヴィクターも死に、忌むべき繋がりすら俺にはもう残されていない。俺は独りだ。


Alone, alone, all, all alone! (独り、独り、たった独り!)

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