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Re^2 (Rescuer); of the Frankenstein's Monster  作者: 刹多楡希
第1部 Rebirth × Revenge(復活×復讐)
19/48

17. Rebound of the Ancient Mariner

18. Rebound of the Ancient Mariner

(老水夫の反響/報い)


His!

His pleasure!_ what was his high pleasure in

The fumes of scorching flesh and smoking blood,

To the pain of the bleating fellows, which

Still yearn for their dead friends? or the pangs

Of the sad ignorant victims underneath

Thy pious bullets and arrows? Give way! this bloody record

Shall not stand in the sun, to shame creation!


 彼の!

 彼の喜びだと! 彼の高い喜びとは

 肉が焼け、煙る血の匂いに 包まれた喜びとは何の事だ?

 泣き惑う仲間の苦しみを考えてみろ

 お前の敬虔な銃弾と矢に殺された、悲しい何も知らない生贄の

 飛び上がるような痛みを思え。 どけ! この血塗られた記念物が

 天日のもと、生命を辱めるのを俺は許さない


George Gordon Byron ”Cain ” Book III 297-304 line Cain's words modified

ジョージ・ゴードン・バイロン 『カイン』 第3巻 297-304行 カインの台詞 改 



 フランス・ヴァンセンヌの森で、少女マリアはいつもの様に、動物達に食事を与えて戯れていた。特に懐いている動物の中にアルバトロスと鹿がいた。この二人は種が違うのに非常に仲がよく、いつも森の奥にいる彼等の友達に餌を持って帰るのだった。

 マリアが動物たちの様子を見守っている所に、修道女が現れて彼女を呼んだ。

「マリア。ゲンファータさんが修道院に来ていますよ」

マリアは意外な来客に驚き、手早く残りの食事を与えると動物達に呼びかけた。

「友達によろしくね。さようなら(Farewell)」

マリアは、ゲンファータに会いに修道院へと戻った。アルバトロスのサムと鹿のウィルも、餌を持って友達の怪物の所へ戻って行った。


 マリアが修道院に戻ると、既にゲンファータとアガサが話している所だった。

 盗賊の元から、ゲンファータがマリアとアガサを救った後、彼はこの修道院に二人を預けたのだった。フランス・パリにも近く、ゲンファータとしても安心できたのだろう。ただ、二人を預けた後は、彼は忙しい様で、ほとんどここを訪れなかった。

 そんな彼が珍しくここにやってきたので、マリアは喜んだ。アガサと三人で楽しく話している間に、いつの間にか日が暮れていた。

マリアは寂しさの余り、つい本音を出してしまった。

「本当は毎日でも来てほしいんですが、今度はいつ来れますか?」

ゲンファータは微笑んだ。

「とりあえず、しばらくはここに滞在しているかな。以前から続けてきた個人的な用事が最近になって片付いてね。少し時間に余裕ができたんだ」

どこか、苦悩から解放されたような、それでいて、まだ燻っている様な表情をゲンファータはしていた。何か大きな変化が起きたとは思うが、彼がそれを話さない限り、自分から聞くつもりはマリアにはなかった。


それからほぼ毎日の様に、ゲンファータはマリアの元に現れた。

ゲンファータからは今まで感じていた妙な刺々しさもなくなり、マリアももう少女と呼べるような年ではなくなりつつあった。次第に、マリアとゲンファータは互いに惹かれあっていった。


そして、数ヶ月経ったある日、ゲンファータはついにマリアにプロポーズした。

二度も命を救ってもらった王子様の求婚をマリアは二つ返事で了承した。それに、今の彼は少しだけ頼りなく見えて、自分が妻として支えなくてはとも思った。

ゲンファータは、身寄りのないアガサにもライン川沿いの故郷に戻ろうと誘ったが、彼女は断った。

彼女は、この修道院が肌に合ったらしく、ここで余生を過ごす事にしたのだった。


 ゲンファータとマリアの結婚式は、この小さな修道院でひっそりと行われた。その日のうちに二人はライン川沿いの新居へと旅立っていった。



***


 怪物は、一緒にラプラスの元から逃げたサムとウィルと共に時間をかけて傷を癒していった。それは怪物が得た安寧の時だった。怪物の傷も徐々に回復し、数ヵ月後には普通に行動できるまでになった。


 だが、平穏な日々はいきなり壊れた。

 ある日、俺が森のいつもの場所に帰ると、サムに矢が刺さり、ウィルも体から点状に血を出して死んでいた。友達が死んでいた。友達が……トモダチ シンダ…

 誰が殺した?

 その答えはすぐに分った。背後にニ人の人間がやってきて、俺に銃を向けたからだ。俺は悲嘆と憎悪の叫びをあげた。驚いた狩人達が鉄砲を放ったが、弾丸をかわして一人に近づき、銃を握る腕ごと引きちぎった。

「何故殺した? 俺の友達を! お前等を殺す! 殺す…コロス ミンナコロス」

俺は引きちぎった片腕で、狩人のこめかみを殴りつけて殺した。残った一人は恐怖のあまり、逃げ出した。

 銃声が鳴り、逃げた狩人は呻いてよろめいた。俺が銃を撃ったのだ。俺はそいつをつかまえて言った。

「俺の友達もこうやって苦しんだんだ。お前もその苦しみを味わえ」

俺は更に銃を撃ち、新たな穴を開けた。ウィルにはもっと沢山穴が開いていた!

 最後の一人は、身体中に穴を開けられ、血を流しながら這いずり回っていたが、少しして事切れてしまった。だが、それでも俺の憎しみと悲しみは止まらなかった。気付いた時には一面血の海で、死体は人の形をとどめていなかった。


 俺はサムとウィルの前に戻り、サムに刺さった矢を抜いた。俺の友達が死んだ。何なんだ。この悲しみは、こんなに悲しんだ事はなかった。

 たとえ、いつか死すべき定めとしても、エーイーリーの様な安らかな最期にして欲しかった。

 彼らの生涯は一体なんだったのだ? 実験台として生まれ、周りの家族や仲間は殺されて、こんな無残な最期を遂げる。苦痛でなかった瞬間は、俺みたいなクズと過ごした数ヶ月だけだ。

 彼らに生き返って欲しかった。だが、その瞬間にヴィクターを思い出した。友達に望みもしない生をまた与えてはいけない。彼らの墓を作らなくては。

 俺はサムとウィルの遺体を抱き上げた。その瞬間、声が聞こえた。

「おーい。銃声が聞こえたけど、もう仕留めちまったのか? 俺が射抜いた獲物だぞ。 横取りするなよ!」

 弓を手にかけた男が現れた。こいつがサムを殺した奴だ。俺は二人の亡骸をそっと地面に下ろすと、即座にその男の元へ向かった。


 男が見たのは、血だらけの泉と人の形をとどめていない仲間の姿、そして視界の中心にいる血に塗れたおぞましい怪物だった。怪物はすごい速さで近づき、あまりの出来事に彼は動くことが出来なかった。

「お前が俺の友達を……」

怪物は男の手の平を無理矢理合わせるとその上から矢を突き刺した。そして、しばらく持ち上げて苦しませた後、投げ飛ばした。

「まだだ。同じ苦しみを味あわせてやる!」

これがあいつの受けた苦しみだ。まだこんなものでは終わらせない。そしてゆっくりと近づいていった。次は足だ。

 その時、怪物は気づいた。俺が今、憎み悲しんでいるのは友達についてだ。俺はヴィクターの友達ヘンリーを殺した。俺は目の前にいるコイツと同じだ。そして周りに広がる肉片とも。俺は動けなくなった。



***


 怪物の迷いの隙を突き、男は逃げた。


Like one who, on a lonely road,

Doth walk in fear and dread,

And, having once turned round, walks on,

And turns no more his head;

Because he knows a frightful fiend

Doth close behind him tread.


 さながら人の寂しき道を

 恐れ戦き 歩みては

 一度首を回して、歩き続ける

 そして二度と首を回さない

 何故なら、彼は知っている。怖い悪鬼が

 背後より近づく事を


コールリッジ『老水夫の歌』第六部


 男は息を切らして何度も転びながら、必死に悪鬼から逃げつづけた。未だに、仲間の死体の中心にいる血しぶきを浴びた姿がまぶたに焼き付いていた。本当に訳が分からなかった。俺の友達を…とアイツは叫んでいた。言葉は喋ったが、その姿と力は人間ではなかった。

 少し落ち着き始め、その言葉の意味を考える。『友達』と言っていた。一体、何の事だ? 友達を殺されたのは俺の方だ。


 一人で怒りと恐怖に対峙していると、十年ほど前の悪夢を思い出してしまった。


 俺が十年ほど前、船員として北極探検に出かけた時の事だ。

 船は順調に進んでいったが、ある日、強い衝撃と共に俺は意識を失った。目が覚めると、俺は船内を探したが、周りには死体が転がっていた。どうやらどこかにぶつかったようだ。けれども外を見ると、船が動き続けていた。残った船員で船を操縦しているみたいだ。

 俺は操縦桿へと向かった。だが、そこにいたのは船員ではなかった。いや人間ですらなく怪物だった。俺はとっさに隠れ、数日を過ごした。どうやら俺以外全員死んでしまったようだ。相変わらず怪物がどこかに向かって、船を操縦し続けていた。

 船がどこかの岸に到着した。遠くに町が見えた。俺はこの船から脱出し、町を目指す事に決めた。岸に降り立った所で、物音がしてとっさに物陰に隠れた。

 あの怪物が、船にいた犬達を連れて船から出てくる所だった。手には荷物を抱えていた。

 そして、森が始まる所まで来ると、犬たちが周りを囲む中、荷物を広げ始めた。荷物の中身は食料だった。食料も持たずに、出てきた俺はそれを見て唾を飲み込んだ。

 怪物の声が聞こえた。どうやら喋れるようだ。

「友よ。俺が君達に与えられるのはこの食料だけだ。食料もすぐ底を尽きるだろうから、後は自分達で頑張って生きて欲しい。俺にはやらなければならない事がある」

 犬達は怪物の後を付いて行ったが、怪物が「さらば(farewell)」というとついていくのをやめた。

 俺は怪物が完全に視界から消えるのを待ってから、犬たちが取り囲んでいる食料の方へ向かった。犬達は、最初俺をさっきの怪物だと思い振り向いたが、違うと分ったとたん、うなり声を上げて警戒し始めた。

 俺は食料を取り上げると、町に向かって逃げ始めた。一匹の犬が追いかけてきたが、蹴ったら逃げていった。


 それからの事は、はっきり覚えていない。どうやら誰かが町外れで倒れていた俺を助けてくれて、俺は高熱でうなされていたのだ。だから、あまりにも現実味はあったが、俺はこの怪物の存在を夢だと思っていたのだ。


 大きな木の根につまずき男は転んだ。手を着こうとしたので、矢の端が折れ、顔の近くに手があった。その時、気付いた。これは、俺がアルバトロスをしとめた矢だ。同じ苦しみを味あわせてやる…アイツの友達はあのアルバトロスだったのだ!

 アイツは十年前の怪物と同じだった! 俺はその時も怪物の友達から食料を奪ったのだ!


The spirit who bideth by himself

In the land of mist and snow,

He loved the dogs that loved the man

Who rob him of his foods.


The spirit who bideth by himself

In the land of gust and sorrow

He loved the bird that loved the man

Who shot him with his bow.


 孤独に生きてきた

 霧と雪の精霊は

 犬達を愛していた

 お前が食料を奪った、その存在を


 孤独に生きてきた

 悲嘆と感情の突風の精霊は

 アルバトロスを愛していた

 お前がその弓で撃った、その存在を


コールリッジ『老水夫の歌』第五部 改


 真実に気付いてから、男は走る事を止め、放心してふらふらと歩き始めた。友達を亡くした悪鬼(Fiend who lost friends)は追いかけてこなかった。矢の端が折れたものの両手はくっついたままだった。

 ふと気がつくと、人里はなれた教会の扉を叩いていた。男を出迎えたのはマリアとゲンファータの婚礼の客人アガサだった。彼女は驚いてすぐに医者を呼ぼうとしたが、男はその袖にしがみついて引き止めた。

「私は罪を犯しました。懺悔を聞いてください」

彼は矢の刺さった両手を組み、今までの罪業を神に懺悔した。

「私は、天使の友達を些細な動機で殺しました。その結果、私の友人は無残な死を迎えました。その天使の怒った姿は、まるで悪魔のようでした」


 彼はこの教会で懺悔を送る日々を過ごした。その内に、彼の手の傷は回復し、後にこのフランチェスコ派の教会の神父となった。彼は生涯、諸国を放浪して教えを説き続け、教祖であるアッシジのフランチェスコの再来と呼ばれた。両手の丸い傷は聖痕だと噂された。そして、アガサもフランチェスコの弟子クララの再来といわれた。彼が説く教えは、こうだった。


 

He prayeth well, who loveth well

Both man and bird and beast.

 He prayeth best, who loveth best

All things both great and small;

For the dear God who loveth us

He made and loveth all.


 よく祈るものは、良く愛する

 人も小鳥も獣も等しく

 最も良く祈るものは最も良く愛する

 全てのものを。大きなものから小さなものまで

 我等を愛したもう懐かしい神は

 全てを造って愛したもうのだから


コールリッジ『老水夫の歌』第七部

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