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Re^2 (Rescuer); of the Frankenstein's Monster  作者: 刹多楡希
第1部 Rebirth × Revenge(復活×復讐)
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15. Reminder of Blind Mind

15. Reminder of Blind Mind

(盲目の魂を思い出させるもの)


 When I consider how my light is spent

 Ere half my days in this dark world and wide,

 And that one talent which is death to hide

 Lodg'd with me useless, though my soul more bent

 To serve therewith my Maker, and present

 My true account, lest he returning chide,

 "Doth God exact day-labour, light denied?"

 I fondly ask. But Patience, to prevent

 That murmur, soon replies: "God doth not need

 Either man's work or his own gifts: who best

 Bear his mild yoke, they serve him best. His state

 Is kingly; thousands at his bidding speed

 And post o'er land and ocean without rest:

 They also serve who only stand and wait."


 人生のなかばも終わらないのに、この暗い世の中で

 わが眼光は失せ、隠しおけば、死に値する

 一タラントはこの手中にあって増えようとはしない。

 預かったものを活かし、造り主に仕え、

 帰ります日に責められる事のないように、

 心からの計算書を差し出そうと思ってはいるものの。

 ときに、私は愚かにも尋ねる、神は盲人にも

 労働を強いたもうのか。忍耐はそのつぶやきを

 察して、すぐに答える、神は人の仕事をも

 神みずからの贈り物をも、求めたまわない。

 軽いくびきを負う事こそ、神に良く仕える道だ。

 神は王者の威風をそなえたもう。万の天使たちは

 その命令をうけて、海と陸との区別なく、疾走する。

 ただ立って待つ事しかできなくとも、神に仕えているのだ。


John Milton “On His Blindness”

ジョン・ミルトン 『失明について』



 怪物がラプラスの元に現れてから数ヵ月後、ライン川沿いの洞窟で、ド・ラセー老人はミルトンの詩を悲しげに口ずさんでいた。そこに怒声が飛んだ。

「ジジイ! いつまで陰気な詩をつぶやいている。とっとと仕事に戻れ!」

老人はいそいそと、マリアとアガサが働いている場所に戻った。


 老人とマリアがいた家の戸を叩いたのは、人の皮を被った『怪物』だった。『怪物』は二人を、この薄暗い洞窟に連行した。アガサも既に捕まり、彼女の夫は、怪物に抵抗したため殺されていた。彼等は『怪物』の指示で、過酷な労働を強いられていた。


 洞窟の中心に作られた大きな部屋に男はいた。部屋の内部には色々な財宝と共に、本と書き散らした紙とが散乱していた。一人の盗賊が報告に来た。

「イゴ……アイゴール様。今回の実験も失敗です」

 アイゴールと呼ばれた盗賊の首領は、ディッペルの助手イゴールだった。彼はエーイーリーから追い出された際に、密かにディッペルが実験していた薬品とその実験書を持ち出していた。その薬を飲んだイゴールは、薬の作用で強靭な肉体となった。その強靭な肉体で、彼は盗賊の首領の座についていた。

彼は、ディッペルが最高の頭脳として造ったエーイーリーに裏切られた経験から、最高の頭脳ではなく最強の肉体を得る野望を抱いていた。

 その目的を果たすため、彼はこの洞窟に実験施設を作り、更に配下の盗賊達を使って付近の人々をさらわせて、奴隷と実験台として扱っていたのだった。

 アイゴールは実験が失敗した原因について考えた。今まで男性で肉体強化の実験を行っていたが、ことごとく失敗していた。男性では何か足りない部分があるかもしれない。アイゴールは若い女性で実験する事を決め、報告に来た盗賊に実験台を用意する様に命じた。


 盗賊が実験台に選んだのはマリアだった。実験台になったら死よりも辛い目に会うと聞いていたので彼女は逃げたかったが、どこにも逃げる場所はなく諦めて盗賊の後に従った。ド・ラセー老人は彼女を心配し、一緒についてきたが盗賊は老人を軽視して気にもしなかった。

盗賊はマリアと老人を連れて洞窟を歩いた。三人が実験室と洞窟の出口に向かう道の分岐点に来たとき、老人は盗賊の足にいきなりしがみついて叫んだ。

「マリア、逃げるのじゃ。逃げて助けを呼ぶんじゃ!」

マリアは洞窟の出口に向かって全速力で逃げ出した。

 盗賊は足にまとわりついた老人を振りほどこうと、何度も老人を殴ったがなかなか離れなかった。ド・ラセーは痛みに耐え足を掴み続けながら、昔の事を思い出していた。

「わしの足にしがみついた怪物は、こんなに辛い思いをしていたんじゃ」

ついに骨が折れる音がして老人は手を離してしまった。盗賊は怒りのあまり、手を離した老人を蹴飛ばしてから、マリアを追いかけた。


 同時刻、ゲンファータも同じ洞窟の入口にいた見張りを気絶させ、内部を歩いていた。

 久しぶりにド・ラセー家を訪れたが、無人だった。近くを探したが誰もおらず、近くの町に行き、最近、怪物の様な盗賊が人々をさらっていると言う噂を聞いた。その盗賊の住居がここにあると聞き、潜入したのだった。

 確かに、ただの盗賊の住処にしては厳重に警備されていた。怪物かどうかは分らないが何か秘密がある事は間違いなかった。

 こちらに向かう足音が奥から響き、ゲンファータは銃を構えた。マリアがこちらに向かって駆け、その後ろから『怪物』らしき人影が追っているのが見えた。少女は懸命に走っていたが、怪物はどんどん距離を縮めていった。ついに少女はつまづいて倒れてしまい、怪物が彼女を捕まえようとした。ゲンファータは咄嗟に怪物に向けて銃を放った。怪物に弾が命中し、そのまま倒れ動かなくなった。

 ゲンファータは、マリアの無事を確認すると、怪物の方を見た。怪物ではなく人間が絶命していた。マリアは少しして落ち着きを取り戻し、ここから人々を救ってくれる様に、ゲンファータに頼んだ。

 救済者ゲンファータはマリアに連れられて、捕らえられた人々が暮らす部屋に向かった。彼は見張りを倒し、捕まった人々を解放した。解放された人々は武器を取り、盗賊達と戦い始めた。

 ゲンファータはマリアの案内で、首領がいる洞窟の中央にたどり着いた。首領は逃げようとしていた。彼は、その姿を見て落胆した。異常なほどに筋肉があったが、顔は普通の人間で、彼が探している怪物ではなかった。

「ただの人間か…」

そうつぶやくと彼はアイゴールの肩に狙いを定めて弾丸を放った。アイゴールは肩を撃たれても痛そうな素振りも見せず、彼に近づきその片手を掴んでいた。ゲンファータは掴まれた片手を振り解けず、アイゴールの脛を蹴ったがびくともしなかった。

 アイゴールは掴んだ片手を握り潰しそうなほどに力を入れ、もう片手も掴もうと手を伸ばした。ゲンファータは伸ばされたアイゴールの片腕の一部分がへこんでいる事に気付き、とっさに取り出した短刀を、へこんだ部分に突き刺した。その瞬間、アイゴールは初めて痛みを感じ、ゲンファータの片手を離して逃げ出した。彼は追いかけようとしたが、マリアに引き止められた。

「おじいさんが見つからないんです」


 ド・ラセーは苦痛に耐えながら、周囲の状況を把握しようと必死に耳を済ませていた。

しばらくは何も聞こえなかったが、銃声や剣戟の音が至る所で聞こえ始めた。どうやら盗賊と誰かが戦っている様だ。音は大きくなった後、段々と静まり再び静寂が訪れた。少しして二つの足音が聞こえ、近くまで来て止まった。

「おじいさん。大丈夫?」

マリアはド・ラセーの手を握った。老人は血を大量に流して虫の息だった。

「マリアか? 大丈夫だったのか?」

「ええ、大丈夫よ。ゲンファータさんが助けてくれたの」

マリアはゲンファータの手を取ると、老人の手の上に置いた。老人は彼の手を力強く握って懇願した。

「ああ、ゲンファータさん、わしはもう無理そうじゃ。…マリアをよろしく頼みますぞ」

「まだ死ぬと決まった訳ではありません。すぐに助けを呼びに行きます!」

ゲンファータは、助けを呼びに、急いで外へと出て行った。

老人はマリアの手を握り、最後の言葉を述べた。

「マリアや、今はただ立って待つ事しかできなくても、いつかは一タラントを増やす機会がやってくるんじゃ。もし、あのひと(怪物)に会ったら、伝えてくれないかのう。あの時に、手を握ってあげられなくてすまなかったと。そして、せめてもの手向けに、わしが使っていたギターも渡してくれんかのう」

マリアは、ド・ラセーの手をしっかり握り返した。

「ええ。必ず、優しい怪物さんにおじいさんのギターを渡すわ」

ド・ラセーは、遠くを見つめた。

「怪物さんに、言葉だけでなくて、音楽も教えてあげたかったのう。わしと怪物さんがギターを弾いて、マリアも歌って、皆で、ハーモニーを奏でるんじゃ。きっと、美しいじゃろう…」

笑顔を浮かべたド・ラセーは、預けられた一タラントを何倍にも増やして、天国へと旅立った。

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