14. Reductionism; Laplace's Demon VS the Demon [L^3]
14. Reductionism; Laplace's Demon VS the Demon [L^3]
(還元主義; ラプラスの悪魔 対 悪魔)
Une intelligence qui, pour un instant donne, connaitrait toutes les forces dont la nature est animee, et la situation respective des etres qui la composent, si d’ailleurs elle etait assez vaste pour soumettre ces donnees a l’analyse, embrasserait dans la meme formule les mouvemens des plus grands corps de l’univers et ceux du plus leger atome : rien ne serait incertain pour elle, et l’avenir comme le passe, serait present a ses yeux.
ある知性体が、ある時点において、自然を動かす全ての力と全ての存在の状態を知り、これらの情報を分析する能力を持っているならば、この知性体は、一つの方程式の下に、宇宙の最も巨大な物体の運動も、最も軽い原子の運動も包括するだろう。
この知性体に、不確定なものは何一つ無く、その眼には未来も過去と同様に映るだろう。
ピエール=シモン・ラプラス『確率の哲学的試論』 序章 確率について 第三段落抜粋
怪物はパリから南にあるアルクイユのラプラス邸に忍び込んだ。内部の床は妙に冷たく、上の方は生暖かかった。しばらく進むと、俺を見下ろせる高い位置に座り、机で書き物をしている人影があった。きっとラプラスに違いない。もっと近づこうにも壁が邪魔して通れなかったため、俺は呼びかけた。
「お前がラプラスだな。お前を裁きにきた!」
人影は振り向いてこちらを向いた。しかし、彼の顔は今まで見てきた人々の様に恐怖に満ちたものではなかった。ラプラスは笑っていた。
「君がラグランジュ、モンジュを襲った怪物か。ここに来ることは予想していたよ。それにしてもずいぶん醜いな。陳腐だが、”怪物”という例えは確かに的を射ている」
自らの行動を見透かされ、俺の方が驚いた。その驚愕を嘲るようにラプラスは尋ねた。
「所で、私を何の罪で裁くのかね?」
「お前は、自然哲学という悪魔の技を発展させた。それが罪だ!」
ラプラスは高笑いを始めた。
「ハハハ、自然哲学が悪魔の技だって? 自然哲学は神も悪魔も扱わないのだよ。自然哲学が悪だというのなら力ずくで裁いてみるがいい!」
俺はその答えを聞くやいなや、近くにあった槍を取り、斜め上のラプラス目がけて投擲した。ラプラスはこの高さからなら俺が攻撃できないと高をくくっているのだろう。
槍はまっすぐ飛び、ラプラスの脳天を貫通した。だが、彼は無傷で笑い続けていた。ラプラスは車輪が回転する様な音を立て、徐々に下がり続けながら解説した。
「やはり愚かだな。それはMirage(蜃気楼)だ。床は冷たく、上の空気が暖かい事にお前も気付いたはずだ。暖かい空気は密度が小さく、冷たい空気は密度が大きい。だから、光が通ると屈折して、本当の像よりも高い所にある様に錯覚するんだよ」
今度はラプラスが見えなくなり、今まで壁だと思っていた所が二つに割れて内側に開いた。その奥にラプラスがいた。
「君はモンジュを襲ったのに、彼が原理を説明した蜃気楼も知らないのか? フハハハ、愚かな怪物に、原理を説明した所で理解出来るわけもないか…」
今起きた現象が理解できず動揺しながらも俺は叫んだ。
「どんな悪魔の技を使おうと俺はお前を殺してやる!」
ラプラスは怪物の無知さに辟易した。
「その無知と無謀は大罪だ。私が代わりに(a la place ア・ラ・プラス)君を裁いてやろう。いや、むしろ君はいい実験台になりそうだ。裁くのは後にして、実験を始めようか!」
ラプラスが指を鳴らすと、俺はいつの間にか、武装した兵士達に囲まれていた。全ての銃が俺に狙いをつけていた。
***
怪物を捕らえたラプラスは、先ほどとは打って変わって、少し怯えながら地下室の奥深くにある秘密の部屋に入った。暗い部屋の中から声が聞こえた。
「どうしたのだ、ラプラス? 何かあったのか?」
ラプラスは恭しく答えた。
「はい。良い実験材料を手に入れましたので、御報告に来ました」
声は満足げに言った。
「そうか。よくやった。その存在が私の目的に耐え切れるか実験しろ」
「仰せのままに。ディッペル様」
扉を開けて部屋を出るラプラスの背後に、何者かの頭部のみが見えた。