表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Re^2 (Rescuer); of the Frankenstein's Monster  作者: 刹多楡希
第1部 Rebirth × Revenge(復活×復讐)
14/48

12. Remnants of French Revolution [L]

12. Remnants of French Revolution [L]

(フランス革命の面影)


 La Republique n'a pas besoin de savants ni de chimistes ;

 le cours de la justice ne peut etre suspendu.


 共和国には、自然哲学者も化学者も要らない。

 裁判を遅らせる事はできない。


 アントワーヌ・ラヴォアジェ処刑の裁判長 コフィナルの言葉



 夜のパリの寂れた酒場に怪物はいた。俺は外套で顔を隠していたが、怪物以外にも顔を隠した人がちらほらいるため、誰も気にはしなかった。俺は情報を手に入れるためにここに来たのだった。早速、客の一人に尋ねた。

「ランフォード伯を知っているか? パリに住んでいる自然哲学者なのだが…」

客は考えこんだ。

「うーん。ランフォードか。どこかで聞いた気がするが、思い出せないな。パリの自然哲学者というと、あの極悪なラボアジェぐらいしか、心当たりが無いな」

俺は、極悪な自然哲学者ラボアジェに興味を持ち、彼に酒をおごり詳細を聞くことにした。

「ラボアジェは高価な実験器具を使って、実験と研究をしていた自然哲学者だ。実験器具の費用はどこから出ていたと思う?」

俺はヴィクターの事を思い出しながら答えた。

「親や親戚の援助や遺産じゃないのか?」

男は、その答えに首を振った。

「違う。人民の金だ。あいつは俺たち貧しい人間の金を搾り取って研究してたんだ!」

「どうやって、金を搾り取っていたんだ?」

男は忌々しげに言った。

「徴税請負人さ! 国の税金を取り立てながら、その一部を自分の懐に入れるやつらさ!」

男は更にラボアジェについて不満を語った。

「アイツの罪はそれだけじゃない。俺たち人民の友マラーさんは、昔、自然哲学の道を志しアカデミーに入会しようと論文を持ち込んだ。その時、論文を見たのがアカデミー会員のラボアジェだった。論文は拒絶され、マラーさんはアカデミー会員になる事が出来なかった! ラボアジェは論文の出来が悪かったとか言っていたが嘘に決まっている! 人民の友であるマラーさんがアカデミーに入れば、アカデミーの特権が廃止されると思ったからに違いない」

俺はそれを聞いて、ヴィクターが俺を拒絶したのとは違う種類の拒絶だと感じた。男は話し続けた。

「そんないい身分のラボアジェだったが、彼にも年貢の納め時が来た。フランス革命が起きて、徴税請負人は全員捕まり、裁判にかけられる事になったんだ」

そんな事が起きていたとは俺は知らなかった。

「ラボアジェも自らを弁護したが、裁判長コフィナル(Coffinhal)は判決を下した。『共和国に化学者は要らない』と。そして、ラボアジェは他の徴税請負人と一緒にギロチンにかけられた」

俺は感情が高ぶり、大声で叫んでいた。

「共和国に化学者は要らない! その通りだ! 私と志を共にする人間がいたのだ! それからどうなったんだ? 自然哲学者どもを滅ぼしたのか!」

その男は、苛立たしくグラスを叩きつけて叫んだ。

「そうなればよかったのによ! テルミドールの反動でロベスピエール等が処刑されて何もかもだめになった。確かコフィナルも処刑されたぜ」

俺は落胆しながらも、情報を得るため話を聞き続けた。

「テルミドール反動で台頭した奴等もすぐに主導権を失い、代わりにナポレオンが実権を握り、ついには皇帝にまでなっちまった」

その後、男は色々とナポレオンについて語りだした。最初は有益な情報が多かったが、段々と無駄話が多くなったため、ナポレオンについて考え始めた。


 ナポレオン・ボナパルト

自然哲学という悪魔の術で殺戮を行う砲兵士官から、皇帝に上り詰めた男。

 そんな奴が、今のフランス、いや世界すら支配しようとしていた。ハイチの独立の邪魔をし、トゥサンを騙して捉えたのもコイツだった。俺とゲーテの会話を邪魔した兵士もナポレオン軍だった! 更に俺の敵である自然哲学を彼は庇護していた。なんという悪魔だ。


 俺が気付くとナポレオンの話題が終わり、男は別の話を続けていた。

「そういえば、ラボアジェの妻マリー・アンヌも夫に似て、最悪な奴だ。夫の手伝いとして、自然哲学を学んでいた。更に、夫の処刑には巻き込まれずに生き延び、テルミドール反動の後、徴税請負人は無実だと主張し、裁判を担当した訴追官デュパン達を訴えたのもアイツだ! デュポンも裏で手を引いて、批判を行ったりしていて、かなり不利な状況だったな。結局デュパンは裁判で負けてしまった」

デュポンと言う名には、聞き覚えがあった。

「デュポン? アメリカで、火薬工場を始めた奴か?」

「ああ、それは子供の方で、こっちは父親の方。子供は、ラヴォアジェに化学を教わっていたし、父親の方は、マリー・アンヌにぞっこんだったようだ」

何という事だ。あの火薬工場は、ラヴォアジェの意志を引き継いだ者が創業していたのだ。俺が創業を防ぐ事が出来なかったばかりに、自然哲学が広まってしまった。

「そういえば、マリー・アンヌは、今でもこのパリに住んでるな! そんなに気になるなら、ちょっと冷やかしにでもいったらどうだ」

それを聞くと、俺は風の様に酒場を去った。

男はふと思い出し、怪物に向かって喋った。

「ああ…思い出した!ランフォードはマリー・アンヌの今の夫だ…」

男は怪物の姿が既にない事に気づいた。


 ラボアジェ処刑の興奮も冷め止まぬまま、俺はマリー・アンヌの家に忍び込んだ。怯えるマリーに、俺は不敵な笑みを浮かべて宣言した。

「俺はお前に危害を加えに来た訳じゃない。ある事を、お前に認めて貰いたいだけだ。ラボアジェが悪人だった事を」

マリーは怪物に恐怖を抱きながらも、勇気を出して否定した。

「あの人が悪人だったなんて認められません。あの人は良い人でした」

俺は嘲笑した。

「徴税請負人をして、貧しい民衆から金を奪い、贅沢に暮らしていた奴がか?」

マリーは事実を認めつつも反論した。

「確かにラボアジェは徴税請負人でした。でも、そのお金の多くを、自然哲学の発展に費やしたわ」

俺は怒りをあらわにし、マリーに自らの顔を近づけた。

「その自然哲学こそが悪なのだ! 呪わしい自然哲学がこの俺を造り出した! お前はこの醜い俺を直視して、自然哲学が善だといえるのか?」

彼女は怪物から顔を背け、苦し紛れに言った。

「あの人は、私に優しかった…」

その言葉は、俺を更に苛立たせた。ヴィクターが俺以外の存在に優しかった事を思い出させたからだ。ヴィクターも、ラボアジェも目先の人物にだけ優しくて、俺や一般民衆には過酷なのだ。

「お前は、自分に優しい人は皆善人だというのか? だったら俺に優しくしてみせろ。そうしたらラボアジェは善人だったと認めてやってもいい」

もはやマリーは何も言い返す事が出来なかった。勝利に満足して、俺はマリーの家から出た。

入口で男とぶつかり、俺を見て驚いて家の中に入っていった。マリー・アンヌの従者か何かだろう。

 怪物はマリー・アンヌとの会話中、正義を行っている気分に浸りながらも、心のどこかで彼女の悲しい表情と冤罪を着せられたジュスティーヌの表情を重ね合わせていた。それを振り払おうと自分に言い聞かせた。

 感傷に浸るな。自然哲学者は悪なのだ。俺は、自然哲学の殲滅という正義の為、ロベスピエールの様に血塗られた手になるのだ!


***

 怪物を見て驚いた男は、家に入るなりマリー・アンヌに言った。

「あの怪物を見たか。きっと私を襲いにきたんだ」

その男は現在のマリー・アンヌの夫、ランフォード伯だった。彼は、召使達に警備を厳重にする様に指示し始めた。マリー・アンヌは自分と怪物の事ばかり考え、妻の悲しみには気付かないランフォードに失望を覚えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ