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筋肉の塊が店の奥へと姿を消して、汗臭さが残ったホールで僕は受付を済ます。
運がいいのか悪いのか、受付のお兄さんは数日前と同じ人だった。
僕が何者なのか何を所持しているのか、すでに知られてしまっているので今更隠すこともないので手っ取り早く受付を後にする。宿泊料金が前回と同じという所に納得がいかないけれど、向こうもこれが商売なのだから値切るなんてことはしない。本音を言うとしたいけれど。
さて。
推理を披露する名探偵のように切り出したけど、まともな意見すら浮かんでいない現状。その打開策もない今、やることは1つ。
「取りあえずご飯に行こう」
腹が減っては戦は出来ぬ。という事で、いい考えも浮かばないはず。裏を返せばお腹がいっぱいになれば戦もできるし、いい考えも浮かんでくるってことだ。そうと決まれば話は早い。早速腹ごしらえに向かおうじゃないか。特別かさばるような荷物を持っていなかった僕は、荷物を部屋においていく理由もなかったので部屋の鍵を開けるよりも先にレストランへと足を運んだ。
レストランは活気にあふれていた。
いや、むしろ活気であふれかえっていた。右も左も筋肉、筋肉。先ほど宿屋で見かけたような連中が店内のいたるところで食材にかぶりついているのだった。
正直、彼らの食べ方は目も逸らしたくなるようなひどいもので、料理を口の中に無理やり詰め込んではその大半をこぼしているのだ。さっきまでグーグーとうるさかった僕のお腹の虫もこれにはまいってしまったようで、いつのまにか鳴き声の1つもこぼさなくなっていた。
こんな様子だが、ここはレストラン。酒場では決してない。
ナイフとフォークをつかって食事をするような場所である。テーブルクロスとシャンデリア。そして1つの芸術品として完成されている料理を、よくもここまで冒涜できたものだ。格安で入手した毒をここで生かさずしていつ生かそうか。
怒りの感情に任せてカバンに手を添えた時、タイミングよくタキシードの男が登場した。




