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人が通るために作られた道ではなく、ぎりぎり人の通れる道を捜し歩く。
毒草なんて危険なものは大っぴらには栽培しないに決まってる。村から少し離れた――例えば子どもなんかが行かないような深い茂みや入り組んだ木々の合間、崖のような斜面の上。先人たちは”木の葉を隠すなら森の中へ”とはよく言ったものだ。うっそうと茂った緑の中に似て非なるものを植えたところで遠目から見ればあんなにも目立たないのだから。
結論から言ってしまえば、見つける事が出来た。
崖のような斜面の上、木々の間の茂みに、これでもかというほど毒のもとになるものは植えつけられていた。もう少し自然な感じに栽培は出来なっかったものか……。あきれてしまうほど予想通りの結果に、僕は眩暈を起こしそうだ。
それにしてもなんて量だ、毒を持った草だけで小さな草原になってやがる。どうりで仕入れ値が破格だった訳だ。こんなに沢山金のかからない原材料が育ってんだから、多少安くてもたくさん売ればかなりの儲けだろうな。取りあえず少し分けてもらおう。見つけた宝箱の中身を取っていかない人間はいないだろう?
それにしてもいいものを手に入れた。
前の村に戻りながら僕はご機嫌に鼻歌を歌っていた。やっと食事にありつけるのだ、嬉しくないはずがないだろう。宿屋を探して風呂に浸かってレストランに行く。シミュレーションは完璧、後は実行にうつすだけだ。早く来い、村よ!
そんな願いが通じたのか、僕の目の前に現れたのは見慣れた村の景色だった。数日前と変わらないその様子に安堵する。でも、数日の間で大幅に姿が変わっていたというのならそれはそれで大問題だけどな。
そんなことを考えていると、数日前にお世話になっていた宿屋が見えてきた。またお世話になります。胸中でそんなことを思いながら扉を開くと、見知らぬ顔、顔、顔。
宿屋なのだから当たり前と言えば当たり前なのだが、筋肉質で強面な人間が建物の中にぎっしり詰まっていたら気持ちが悪い。暑苦しいうえ、視界に入れただけで気分が悪くなる。
それにしてもこの人数は何事だ?
言っちゃ悪いが、この村には名所なんてものはない。だからと言って特産物がある訳でもなく、旅人の間で評判がいいというわけでもない。ここらを通りかかったら食材の調達をしに行ってもいいかと思える程度の村だ。正直、魅力なんてものは最近売り始めたばかりだという毒くらい。格安で手に入る猛毒は、その手の人間には高く売れる。……もしやそれで一儲け?
いや、まだそうだと決まったわけではない。
もしかしたら体力仕事の出稼ぎにきた人間かもしれないからな。この村の奥には未開拓の森があんなにも広がっていたのだ、木を伐採し人の住める土地を増やす計画が起きていてもおかしくはない。むしろ廃れたこの村の観光地化計画であるほうが自然ですらある。