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チートじゃねーか


「さあ終わりね」


薄暗い森の中に冷たい声が静かに響いた。


「グ、グルルウゥ……」


俺の横に立つ小鬼ゴブリンが絶望とあきらめの声を上げる。さっきまでの獲物をなぶるときの下卑た笑みは、完全に消えていた。

目なんか泣きそうでプルプルしている。


「な、なあ。もういいんじゃね?もう決着ついたし、なんかかわいそうだし……?」


あまりのかわいそうさに思わずかばってしまう。


「なんで?たかが小鬼ゴブリン一匹に掛ける慈悲なんてあるわけないでしょ?」

「ひ、ひどい。完全に獲物を仕留めた捕食者の目だ……」

「グ、グロロオォ……」


小鬼ゴブリンと一緒になって三歩ほど少女から離れる。


「さあて、わたし達エルフの森に土足で踏み込んできた馬鹿二匹、どう料理してあげようかしら?」

「いつの間にか俺まで補食対象にされてるうぅ!?」

「冗談よ」

「冗談かよ!質悪りぃな!?」


いつの間にかコントみたいになっていた……。


「まあ、ヒト族のあなたは別に良いけど、小鬼ゴブリンは無理ね。ただでさえ数が増えてきているのに逃がすというのは、無理な相談ね」

「ギルルウゥ……」


小鬼ゴブリンの顔に再び暗い影が射す。


「ヒトやエルフを襲わないって保障が出来ない以上、生かしておく訳には行かないわ」


少女は冷徹に言い放ち、弓に矢をつがえる。


「よし!分かった!分かったからちょっと待て!」


俺は、慌てて少女を制して小鬼ゴブリンの前に立つ。


「なにする気?」

「説得する」

「本気で言ってる?」

「超本気!」

「……五分だけ待って上げる。それ以上は、他の小鬼ゴブリンが集まってくるから無理よ」


ため息をつきながら少女は、弓を下ろした。


「よし!ゴブ太郎!お前は、これ以上人を襲わないって誓えるな?そーかそーか誓えるか!それは、良かった。これで安心だな!」


一方的に言いきり満面の笑みを浮かべる。


「なんの茶番?ていうか、なによゴブ太郎って?」

「こいつの名前。今、俺が命名した!」

「…………そろそろ、相手するのに疲れてきたんだけど?」


そう言って再び矢を構える少女。


「ちょっ!待て待て!」


再度、死が迫ってきた小鬼ゴブリンをかばおうと右手をかざす。すると、突然、


「えっ!?」


エルフの少女が虚を突かれたような声を上げた。

それもそうだろう。なんたって、突然俺の右手が光を発したのだ。

鮮やかな紫色の光だ。その光は、やがて一つの複雑な魔方陣を描いた。


「テイミングの呪文!?」


少女が戦慄を感じながら叫んだ。

それから、数秒後魔方陣と光は静かに消えていった。

そして、残ったのはゴブ太郎の左胸、ちょうど心臓のある部分に紫色のタトゥーのようなものだ?

一度に色んな事が起きて脳が理解の限界を超えようとした時、


「ちょっと、あんた奴隷遣いなの!?」

「ど、奴隷遣い……?」

「テイミングの呪文が使えるヒト族のことよ!今、あんた使ったじゃない!」


凄い詰め寄ってきた。


「い、いや、知らない。こんなの今、初めて見た」

「……てことは、今のが初めてのテイミングのだったの?」


少女も冷静さを取り戻したようだ。


「……一体なんなんだ、テイミングって?」

「テイミングの呪文は、ヒト族だけが使える魔法の一つよ。自分以外のヒト族や亜人種にこの魔法を掛けると、掛けられた方は術者に絶対的な忠誠を誓うようになる精神支配系の魔術……。ヒト族が奴隷を手なずけるときによく使う手よ」


さすが異世界、魔法という概念は普通にあるようだ。


「って、そんな凄い魔法なの!?」


チートじゃねーか、と心の中で付け加える。


「一応言っとくけど、テイミングはそんなに万能じゃないわよ。この呪文、相手の同意がなければ契約は成立しないのよ」

「同意?」

「そうよ。相手が自分の下僕になることに同意しなければならないの。まあ、大抵の奴は、そんなのに同意しないからヒト族は基本的に相手が自分に屈服するまで痛めつけるか、長い時間をかけて信頼を得たりするわね」

「なるほど」


つまり、テイミングの主従契約は一方的に結ぶことは出来ないのだ。

やり方としては、二通り。


1、戦って相手に勝ち、自分が相手より強いと分からせる暴力的支配。

2、時間をかけて相手の信頼を得る。要するに優しさで自分に依存させる精神的支配。


「ーーじゃあ、なんでゴブ太郎はこの契約に同意したんだ?」

「……多分、あんたがそいつの事をかばって、そいつはあんたを信用したんじゃない?」

「ふーん。ちなみに同意しない相手に使ったら?」


少女に右手を向けながら言う。


「なにも起こらないわよ。相手の同意がない以上、契約は成立しないから。わたしとかに使ってもただ光るだけ」


肩をすくめて少女は言う。

ためしにテイミングを使ってみた。

紫色の光がボウッと光って彼女を包んだ。

数秒後、光は消えたが特に変化した様子はない。


「ほらね。なにもないでしょ?」

「……いや、それ……」

「へっ?」


間の抜けた声を出して俺の指差した部分、左胸を彼女は見た。


鮮やかな紫色に輝くタトゥーがあった。


「な、な、なんでえぇ!!」


数分前まで余裕の笑みを浮かべていたエルフの少女の可愛い悲鳴が響きわたった。




進藤カリヤ

見習い調教師

習得魔法:主従契約テイミング


所有奴隷

ゴブ太郎:小鬼ゴブリンLV17

???:長命種エルフLV48



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