4話 影と虚無
新たな仲間、シャドウこと桐生幽夜が加わってから約5ヶ月、都市には雪が降っている。幽夜の事件の後から黒皇教団は鳴りを潜め、全くと言っていいほど進展していなかった。
そして約2週間前、俺達にはまた新たな仲間が加わった。
「ゆーや、食べ物は残しちゃダメだよ!ボクがいない間、ちゃんと食べてなかったでしょ。どうだった、ヤスヒロくん?」
「あーそうですね…、確かにサラダとかは残してたような…」
このしっかり者のボクっ娘は、虚野咲。黒皇教団に所属していた幽夜の姉だ。姉弟でも名字が違うのは、咲さんの方が教団の前の引き取り先の名字を名乗るのを拒んだからだとか。さん付けしてるのはもちろん年上だからだ。
「柊先輩!余計なこと言わないで下さい!」
「あー、スマンスマン」
「やっぱり!これからはボクが見張ってるからね!」
「うへぇ、勘弁してよ、姉さん…」
「文句言わないの!」
今回は回想から始めようか…
2週間前、俺と幽夜は模擬戦をしたフィールドで幽夜の《隔絶》でもう一度教団のアジトに転移できないか確かめに行ったんだ。
「スペル《隔絶》!」
……………
「ダメ…みたいだな」
「そうですね。まぁ、最初から予想はついてましたし」
「だな。さて、戻るか。奏達が待ってる」
「はい」
俺達が帰ろうと振り向いたとき、その先に彼女は立っていた。
「嘘…」
「…?幽夜、知ってるのか?」
「はい…。彼女は、黒皇教団幹部、コードネームはヴァニタス。僕の姉です」
「何?」
俺と幽夜が話していると、彼女は話しかけてきた。
「やぁ…久しぶりだね、ゆーや。それに、君は柊ヤスヒロ君だね」
「あぁ、幽夜のお姉さんが何しにきた?コイツを教団に連れ戻しにでも来たのか?」
「姉さん、僕はもう教団には戻らない。僕を教団に連れ戻そうってなら、相手が姉さんでも容赦しない…」
「アハハッ!ゆーやがボクに勝てたことが一度でもあった?」
「ぐっ…」
「それに…、ボクはゆーやを連れ戻しに来た訳じゃないよ」
「じゃあ、何で…?」
俺は訝しげに問いかけた。
「君達と…、戦いに来たんだ。君達と一緒に黒皇教団と戦いにね」
「「は…?」」
「姉さん、今なんて?」
「何て言った、アンタ?」
「だーかーら!ボクも君達の仲間になりたいって、そう言ったんだよ!」
「「…何で?」」
「ゆーやが心を開いた、柊ヤスヒロ君ってのがどんなのか気になってあの時からずっと見てたんだ。そしたら、君のこと気に入っちゃってね!」
「あー、光栄です…」
「ってことで、ボクも仲間になってもいいかな?」
こういう時の返答の仕方は誰でも知ってるだろう。そう…
「いいとも~!」
である。
いや、振りだと思うじゃん!条件反射じゃん!もはや本能じゃん!
「ありがとう!ボクは虚野咲。教団ではヴァニタスって呼ばれてたよ!よろしく!」
聞いた話によれば、咲さんは17歳。つまり、俺や奏、蓮の1つ年上ということになる。
そして次の日、咲さんはアカデミーに転入してきた。その時の自己紹介を聞いて、驚かなかったのは事情を知っていた俺と幽夜ぐらいだろう。
「おはよーございます、虚野咲です!黒皇教団から来ました!これからよろしく!!」
いやだって、自分で教団出身であることをバラすなんて思わないよ…。
集会の後は言うまでもなく咲さんは注目の的だった。
あの人だかりから助けるのは苦労しました…。
俺はいつもの仲間たちに咲さんを紹介した。
「えー、こちら虚野咲さん。幽夜のお姉さんで、集会で言ってたとおり教団出身だ。」
一番最初に食いついたのはこなつだった。
「幽夜くんのお姉さん?よろしくお願いします!」
そんなこんなで咲さんを仲間に迎え、現在に至るわけだが…
「教団の元幹部が2人もいるのに、全くつかめないな、黒皇教団ってのは」
「そうですね…。姉さんは何か知らない?」
「ボクもそんなに詳しくはないよ。ハイドなら何か知ってるかもだけど…」
「アイツはこの前、倒しちゃったからな~」
「うん」
「もうすぐ開催されるマジックフロンティアで、教団が動いてくれれば、何か手を打てるかもなんだけどね~」
「そういえば、そんな時期ですね。去年も『優勝は俺だ!』って意気込んでたのにベスト16止まりでしたし」
「ベスト16なら結構すごいんじゃない?」
「まぁ、そうですけど、優勝を目標にしてますし、中途半端では終われないっていうか…」
「うん、いい意気だね!さすがボクのお気に入りだよ!」
「そりゃどーも」
「そうだ!ゆーや、ヤスヒロ君、2人共今年のフロンティアに向けて一緒に特訓とかどうかな?」
「俺は構わないですよ」
「僕も久しぶり姉さんと練習したいし」
「決定だね!じゃあ…そうだね…、特訓は明後日からってことで!」
「りょーかいです。じゃあまた明日、アカデミーで」
「うん、じゃあね、ヤスヒロ君。ほら、ゆーや、帰るよ!」
「あぁ、うん。じゃあ、また明日、柊先輩」
「あぁ、明日な」
その時、俺達は気付いていなかった。教団の計画が動き出していたことに…。
「教皇、いかがなされますか?」
「『マジックフロンティア』か、我ら黒皇教団の目的には不要な祭りだな。『ハイド』よ、計画は進んでいるか?」
「はい、もちろんでございます。教皇から再び救われたこの命、無駄にはいたしません」
「ふむ、期待しておるぞ」
「教皇に私が教育した新たな教団の使徒を紹介致します。来い、リベリア」
「はい、ハイド様」
「教皇、彼は私がアカデミーを襲撃した際、拉致し、教育を施した優秀な禁忌使いでございます」
「次はない。期待しておるぞ、ハイドよ」
「ははっ!」
マジックフロンティア開催まであと1週間…
To be continue…