2話 模擬戦、そして覚醒
「始めっ!」
模擬戦開始の合図とともにヤスヒロは駆け出した。
「うおおお!スペル!《火炎》!!」
スマホの画面が光り、炎を纏った拳で殴りかかる。
入った――!
「まだまだだな、柊。スペル、《防壁》」
ヤスヒロと教官の間に黒い壁が出現し拳は弾かれてしまう。
「遠山教官、やっぱり強いね~」
試合を見ていた奏が隣に座る蓮に話しかける。
「そりゃ、教官だからな」
「ヤスヒロ勝てるかな?」
「いや、無理だろ…」
蓮は呆れたように試合を見ている。
「くっ…」
やっぱりダメか…。なら手数で!
「ハアアアア!」
ドガガガガガガ…!!
「何発殴ったところでこの壁は破れんぞ!」
「これならどうだ!スペル!《落雷》!!」
教官の頭上に何発もの雷が落とされる。
「やるな、だが!」
「な、何だよ!それぇー!!」
教官を守るように巨大な石の巨人が出現し、落雷を打ち消してしまった。
「驚いたか?応用スペル《守護兵》だ」
「そんなの卑怯だろぉ!」
「お望み通り『本気で』勝負してやってるだけだが?」
「確かに言いましたけど…」
「そんなものでは黒皇教団には勝てんぞ!」
「…っ!」
そうだ…。俺はアイツを倒したい…、倒さなきゃいけないんだ…。
「こんな所で負けてたまるかァァァ!!」
「ぐぅっ…!」
「うおおお!!」
負けたくない!負けたくない!負けたくない!
「うおおお!スペル!《灼炎》!!」
「くっ、上位魔法か…」
ヤスヒロを中心に炎が燃え上がり、教官のゴーレムを消滅させた。
「どうだ!」
「そろそろ攻めに入るか。スペル、《地震》!」
ゴゴゴゴ…
「うぉっ!」
「さらに、スペル!《溶岩》!!」
震える大地から真っ赤な溶岩が溢れ出す。
「ぐああああ!!」
「そろそろ諦めたらどうだ?訓練生のお前では俺には勝てんよ」
「だ…まれ…!」
「何…?」
「黙れ!黙れ!黙れ!」
手にしたスマホの画面が赤く光り出す…。
「ね、ねぇ蓮?ヤスヒロの様子、何か変だよ?」
「あのバカ、何をする気だ…?」
「ウォォォオオオ!!」
ヤスヒロの身体から赤黒い炎が吹き出した。
「ウアアアア!!」
ヤスヒロの拳が教官に届くと思ったその瞬間――!
「やめ!試合を中断します!」
突如、試合中断の合図が鳴り響いた。
「ハッ!俺は何を…?」
ヤスヒロは正気に戻ったように驚く。
そこに教官が近づいて…
「模擬戦は中止だ。柊、全訓練終了後、理事長室に来い、大事な話がある」
「は、はい…。分かりました」
そして、この模擬戦を妙に落ち着いて眺めている少年がいた…。
「へぇ、アカデミーにも『使える者』があらわれたか~」
黒髪に赤い目の少年は誰かに電話をかける。
「ああ、もしもし『ハイド』さん?こちらシャドウです。アカデミーにも生まれましたよ。ええ…、はい、ではまた後で詳しく」
赤目の少年はスマホを手に独り言を呟く。
「あ~あ。報告、面倒くさいな。僕の魔法と彼の魔法、どっちが強いのかな?まぁ、いいや。とりあえず報告しないとね。スペル、《転移》」
少年は光に包まれて消えた。
そして訓練終了後…
「失礼します」
「来たか。君が柊ヤスヒロ君だね?」
「は、はい、そうですけど。えっと…、あなたが理事長ですか?」
「いかにも。私が理事長の相馬剣三だ」
「あの、俺に話があるって聞いたので来たんですけど?」
「うむ、それなんだが、君はあの模擬戦で最後に自分が何をしたか理解してるかね?」
ヤスヒロは模擬戦を思い出す。
「いえ、俺にも何が何だか…」
「だろうね。では説明しよう。心の準備はいいね?」
「は、はい。お願いします。」
「君が模擬戦の最後に使ったのは《終焉》というスペルだ」
「終焉ですか、聞いたことないスペルなんですけど何なんですか?」
「知らないのは当然だ。現代の科学で解析された、いわば科学魔法では使えるはずのない魔法なのだからな」
「え…?それはどういう…?」
「スペル《終焉》は現代の科学魔法ではない。『禁忌』指定された古代魔法だ」
「禁忌って、黒皇教団が研究してるっていうアレですか?」
「その通り。そして、君は使ってはならない禁忌の魔法を使ってしまった」
「えっと…?処分とかあるんでしょうか?」
「ふむ。本来なら魔導士資格を剥奪されてもおかしくないのだが…」
「そう…ですよね…」
「だが!黒皇教団が動き出した今、禁忌の力を扱うヤツらに対抗できるのは禁忌を使える者だけだと判断した!」
「えっと…、つまりどういうことですか?」
理解できない様子でヤスヒロが尋ねる。
「これからキミに処分を言い渡す!」
「は、はい!」
「柊ヤスヒロ!君には遠山教官に訓練を受けてもらい、スペル《終焉》を制御してもらう!」
……えっと…、何て…?
禁忌を制御って……?
とりあえず深呼吸、深呼吸。
スーハー、スーハー。
よし!
俺は呼吸を整えてから叫んだ。
「えぇぇぇえええ!!」
「そういう訳だ。明日からの訓練はお前だけ特別訓練だから覚悟しとけ。俺を殺しかけた力、制御できるよう稽古つけてやるよ」
「って、教官いたのかよ!」
「ん?あぁ、最初からな」
「…まあいいか。よろしくお願いします!教官!!」
「うむ、よろしくな」
――そして翌日。
「集会って、何があるんだ?」
俺は奏に話しかける。
「えっと、転校生が来るらしいよ?確か、こなつちゃんのクラスだったかな?」
「へえ、こなつのクラスか…、じゃあ、1つ年下ってことか」
「お前ら、うるさいぞ、もう集会が始まる」
「あ、ああ。悪い、蓮」
「あー、あー、これからお前たちに転校生を紹介する!転校生、自己紹介を」
「はい。」
ザワザワ…
「珍しいな、赤い目なんて」
「うん。ちょっと怖いね~」
「えーと、今日から転入する桐生幽夜です。よろしくお願いします。それと…」
転校生、桐生幽夜はこちらを向いて、
「柊ヤスヒロ先輩?是非、あなたとお手合わせしてみたいものです」
ザワザワッ…
「…っ!」
(何だ?アイツは…)
「では皆さん。改めて、今日からよろしくお願いします」
集会が終わり、俺達は教室に戻る…
「気にすることはないよ、ヤスヒロ!」
「この前の模擬戦、見てたのかもな。お前が最後に使った変な魔法が気になったのかもしれない」
「あ、ああ。そうだな」
俺が禁忌の魔法、《終焉》を使ったことはまだ教官や理事長以外には教えていない。今までの関係を保つためと、教官たちに言われたからだ。
「それはそうと、ヤスヒロ、今日から遠山教官から個別で訓練を受けるんだよね?」
「ああ、そうだけど?」
「がんばってね!応援してるから!」
「ああ、ありがとう奏」
(転校生より、訓練に集中しないとな…)
キーンコーンカーンコーン…
チャイムが鳴り響き、訓練の開始を告げる。
魔導士訓練生達の1日が始まる…。
To be continue…