プロローグ1
これは約50年後、2064年から始まる物語――
俺は柊ヤスヒロ。日本マジックアカデミーに所属する魔導士だ。アカデミーといっても学校のようなものではなく、魔導士の才能を持つ者を育成する、という名目で俺たちを観察・記録する、いわば研究所のような施設である。ともあれ、今日は休日。平和な1日になることを望もう。
「ふぁぁあ…、おはよう蓮」
「ん?あぁ。やっと起きたのか、もう10時だぞ」
こいつは桐原蓮。俺の同居人であり、親友である。
「休日くらいゆっくり寝たっていいだろ?疲れてるんだから」
コンコン…
「お邪魔しま~す。あ、お兄ちゃん!やっと起きたんだ!」
俺の起きるタイミングを見計らったかのように部屋に入ってきたのは俺の妹、柊こなつ。
「もう~、休日だからって寝過ぎだよ!」
「あぁ、すまん。気をつけるよ」
コンコン…
「柊!やっと起きたのか!」
「なんで教官まで俺の部屋に入ってくるんだよ!?」
この変なオッサンは遠山航。俺たちアカデミーのメンバーに魔導士の訓練をする教官である。
「ん?いきなりこんな感じで始まったら読者の皆さんが困惑するだろ?だから説明役としてこの遠山教官が来てやったという訳だ」
「何を説明するんだよ!ていうか、読者ってなんだよ!?」
遠山は分かってない、とでもいうように首を振る。
「あのな、柊。こんな、科学的だとしても魔導が存在する、現実離れした世界が現実な訳ないだろ。現実を見ろよ、現実を」
「言っちゃったよ!この人、理解してても一番言っちゃいけないこと言っちゃったよ!あと、非現実で現実を見ろって、元も子もないだろうが!」
「お兄ちゃんも教官もうるさいです、黙って下さい!」
「「は、はい。スミマセン…」」
さっきから何もしゃべらないと思い、蓮の方を向くと、
「ク、ククッ…、あぁ、ごめんごめん…クククッ…」
……あとで覚えておけよ…
「教官、説明するならさっさと説明してとっとと出て行って下さい」
俺は苛立ちながら言った。
「む、そうだな。まずは現代の魔導についてだな。我々は分かっているだろうが、読者の皆さんは知らないからな」
「いちいち読者とかいうな、バカ教官」
「やれやれ…、説明するぞ。現代の魔導は、歴史に少なからず残っていた魔導に関する記述や、錬金術時代の功績を発達した科学で解析、システム化したものだ。魔導士は、腕章や杖などを媒介として詠唱したスペルに応じた魔法を使用することができる。システム化されていると言っても、魔導士は自らの体力や精神力を削って魔法を使用するため、相当の訓練が必要だ」
「説明どーも。じゃあ、出て行ってくれ、教官」
「ま、待て!本編は出番が少なくなるんだ!もう少しだけ…」
「必要なし!じゃあな」
バタン!
「ふぅ、うるさいのがいなくなって良かったよ」
「それはそうと、ヤスヒロ、もう昼食の時間だぞ」
「あぁ、もうそんな時間か。じゃあ今日は蓮のおごりでファミレスでも行くか!」
「おい待て、なんでそうな…」
「本当?お兄ちゃん!ありがとうございます、桐原先輩!」
「あ、あぁ…、任せておけ」
一瞬蓮がこっちをにらんだ気がしたが、気にしない。おごってくれるなんて、蓮はなんて優しいやつなんだろう。あとでジュースでもおごってやろう。
「よし、じゃあ行くか!」
「あぁ」
「うん!」
――こうして、
「おい、俺も一緒に…」
「「教官は1人で食ってろ!」」
珍しく俺と蓮の声が重なる。
あー、コホンッ…
――こうして、俺たちの休日の時間は過ぎていく…