舞踏会
静かな湖畔の傍に一軒の洋館がただずんでいる。いつもは物音一つしないというのに今日はなぜか賑わっていた。洋館には華やかな音楽が響き、賑やかな声があふれかえっていた。ホールに置かれたテーブルには湯気がたった料理が並べられている。
どうやら舞踏会を開くようだ。
この洋館の主らしい幼い少女が一人不気味に微笑んでいる。
「今日はとても素敵な夜になりそうね。」
何も知らない哀れな人間どもが次々と屋敷の中に入ってゆく。
「ようこそ……最期の舞踏会へ」
そんな少女の呟きなど誰にも聞こえていなかった。
「さぁ、今宵は存分に楽しんでください」
少女の開会の言葉をかわきりに、綺麗に着飾った客達は談笑し始める。それからすぐにオーケストラが音を再び奏で始める。
あちらこちらから男性の誘いの声が飛び交い、女性達は頬を赤らめつつ上品に手を取り中央に進んでゆく。
「あら?そろそろ料理が無くなってきたみたいね」
少女は呟く。
そこに丁度青年が少女をダンスに誘った。
「麗しいお嬢さん私と一曲踊っていただけませんか?」
少女は微笑んで応えた。
「ええ、もちろん」
「では行きましょう」
この時、この青年は知る由もなかった。少女の微笑みの本当の訳を…。
少しホールが広くなったようだ。
テーブルには新たな料理が並べられている。
さすがに人々は踊り疲れたのか談笑する人のほうが多く見られるようになってきた。
ワインに口を付け、料理をつまみながら談笑する人々。
「あら?ワインが少ないみたいね」
また少女は呟いた。そして少女は暗闇に消えてゆく。
「さぁ、どうぞ」
新しいワインを人々に振る舞う。
心なしかホール内が少し寒く感じる。
「少し…このワイン、濃く感じますな」
歳のいったガタイのよい男が少女に話し掛ける。
「そんなことありませんわ」
「しかし…」
再度男は口を開いたのだが少女の笑みをみて言葉をつぐんだ。
少女の笑みが怖かったのだ。
自分より何回りも幼い少女であるにも関わらず、身体が警戒した。
「さぁ、踊りましょう」
ホールには少女と少年と屍しかない。
「あら〜どうしたのかしら?」
「僕はもう…踊れないよ」
「どうして?」
何故もう踊れないのだろう?
少女は本当に不思議に思った。
少年の服は赤ワインが大きな染みを作り、少年の吐いたものでよごれていた。 少年の全身は小刻みに震え、顔は恐怖に引きつっている。
「ぼぼぼ僕は…もう疲れたんだ。」
「そうなの?」
「だからもう踊れない…僕は休みたいんだ!」
「あら、そうなの…」
この言葉と共にニコニコしていた少女はがっかりとした表情をみせた。
「もう、一緒におどってくれないの?」
「うん。」
「休みたいの?」
「うん…」
「なら休ませてあげるわ……棺の中でね!」
少女は笑った。今までにないほど冷たく、恐ろしく、蠱惑的に。
少年は息を詰める。体は何かに縛られたかのように動かない。
“そんなの嫌だ”
少年は叫ぼうとするのだが、ただ口が金魚のようにぱくぱくするだけ。
「さぁ〜行きましょう…ひ・つ・ぎ・へ」
“嫌だぁあああー”
少年は涙を流す。言葉は出せず、体も動かぬ今…涙を流すしかない。
「フフ…棺に行けるのがそんなにうれしいの?」
少女は異常だった。少年はやっとここで気を失った。
目が覚めたとき、狭いものの中に少年はいた。
おそらくこれが棺。
「目が覚めたかしら?」
「お願いします…殺さないで」
「いやぁよ〜お休みなさい」
少年が手を伸ばしているのにもかかわらず少年は蓋をしめた。
薄暗い部屋に腕が折られる音と内側についた大きな針が少年に突き刺さる音、そして少年の断末魔が響いた。
「ッギャァアア……」
「今度は誰がアソんでくれるのかしら?」
少女は一人月を見ながら笑った。
「そこのあなたは邪魔よ!」
少女は“私”にナイフを投げつけた。
ついに少女は次元さえもこえたのだ。
「ふふっ…ゥフフフ………アハハハハハハハハハハハハハ…」
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